表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

329/515

ドラゴンゾンビの執念と醜さ

『ガッ――』


 数多の雷は三本の避雷針に向けて収束する。元々避雷針に籠められていた雷の力により威力が大幅プラスされたこと、避雷針がしっかりと刺されていたことで、超高威力の雷がドラゴンゾンビの体内で暴れ、目論見通りに避雷針を起点に巨大な蛇型の体が四つに分断された。なお避雷針は溶けて二度と使えそうにない。同じ攻撃はもう出来ないと言うことだ。

 そして、頭から数えて三番目と四番目の体が黒こげになり、炭化してサラサラと崩れていく。動力源である核から分断された部分が再生能力を失ったようだ。これで核が埋まっている候補は二つにまで絞られた。

 と言うか、二つ? ダンジョン核と、元々持っていた魔石かくの二つ、と言うことなのか? 優先すべきはより多くのエネルギーを秘めているダンジョン核の方だけれども、もう片方がニーズヘッグの物だとしたらそれはそれで放置しておけない。

 ……レヴァイアサンの魔石は残っているのだろうか? 体がほぼ乗っ取られているとは言え意識がわずかながらも残っているのであれば、魔石も残っていそうだけれども……まぁやってみなければわからないか。


「ウェルシュ! 近い方を! アイティはもう片方をお願い!」

『フン、これで死に損ないに止めが刺せると言うものだな』

「あぁ!」


 ウェルシュが向かったのは頭から数えて二番目の部分だ。頭がなく、足もない。焼け焦げて一時的に再生能力を失っている今が絶好の機会だ。アイティの向かった先が頭部だけど……あちらは大丈夫だろうか。強力な体当たりはまず出来ないだろうけど、毒ブレスくらいは吐いてきそうである。そこは百戦錬磨の戦いの女神様を信じて任せるしかないか。

 飛行の勢いのまま、ウェルシュがドラゴンゾンビの体に鋭い爪を立て、大きく抉る。わたしもウェルシュの背から降りて剣で……と思ったその瞬間。


「うげっ」

『……くそ、まだ動くか!』


 周辺の肉と骨が蠢き、足がなかったはずの体に不格好な足が形作られる。丸太にニョキっと生えた感じのとてもシュールな光景であるけれど笑ってはいられない。機動力を得たことで動き回り始めたからだ。


「ウェイトが減って攻撃力が激減したのは幸いだけど……」

『……軽くなったことで早くはなっているな』


 しかもどんどん足が増えてムカデのようになっている。ヤケになっているのか再生能力が暴走でもしているのか……どちらにせよ何と言うか……非常に気持ち悪い。

 更には。


「ちょ、頭まで生えるの!?」


 分断された胴体の断面から腐肉が盛り上がって頭、のような物が形成されていく。おまえはプラナリアかっつーの!

 出来上がった頭はわたしが知るレヴァイアサンの物ではない。つまり、こちら側にニーズヘッグの魔石もしくはダンジョン核があると言うことなのだろうか?

 ……レヴァイアサンの魔石がないのであれば遠慮なくブチ壊せると言うものだが……果たして。


『ヨクモ、ヨクモヤッテクレタナァ……!』

『……どれだけ生き汚いのだ……』


 ウェルシュがものすごく嫌そうな顔で呟く。背中からでは顔は見えないけれど、人間だったらギュッと中心にパーツが寄っていたことだろう。


『クソ……俺ニ力ヲ寄越セぇ!!』

「――アイティ、避けて!」


 推定ニーズヘッグは、倒れて動かないままの頭部パーツに走り寄る。脅威度は減ったはずなのに嫌な予感がして、核を探していたアイティに声を掛けた。アイティはわたしの警告を聞いて即座に翼をはばたかせ飛ぶ。

 その直後に。


 グバアッ! と推定ニーズヘッグの口が大きく裂け、広がり、頭部パーツへとかぶりついた。

 ……これは捕食とでも言うべきだろうか。ごりごりミチミチと気持ち悪い音を立ててドンドンと呑み込まれていく。


「……っ!? させるか!」


 アイティがそれを止めるべく剣を振る。剣は容易く腐肉を斬り裂いたが、過剰な再生能力で腐肉が触手のように噴き出し、アイティを絡め取ろうとするように傷を塞ごうとする。幸いにも危険を察知したアイティが素早く剣を引くことで難を逃れた。追撃の触手はウェルシュの雷に焼かれる。……アイティの側で弾けたことで少々喰らってしまったようだけど、捕まるよりはいいでしょう。

 大きくアイティが距離を取ったことでもう一度ウェルシュが雷を落とし、わたしも矢を放つが、焼けても構わず捕食を続けられたことで行為は完了し、二つの体は一つの体へと成ってしまった。


「……随分と不格好なドラゴン?だねぇ……」

『……反吐が出る』


 細長い東洋のドラゴンのようだった形が、縦に短くなり横に大きく広がった……キングコブラの頭部部分、もしくはツチノコみたいな見た目へと変化している。そしてやたら足が多い。蛇足にもほどがある。


『オオオオオオオオッ!!』


 そしてやはり捕食したことでレヴァイアサンの魔石も取り込み直したのか、また水を操り始めた。くそ、さっきの状態でトドメを刺せなかったのが悔やまれる。


「……それでもかなり力は削ったはずだ。そう遠くないうちに奴とて滅ぶだろう」

「……うん、そうだね」


 操る水の量が先ほどまでに比べてかなり減っていることからも、アイティの言う通りドラゴンゾンビが大きく力を減らしているのは確実だ。さっきみたいに強力な攻撃は出来ないけれど、このまま押していけば勝てる……!



 わたしが矢やアイテム、ウェルシュが雷や爪、アイティが光剣でちくちくと削っていく。三歩進んで二歩下がるような遅々とした歩みではあったけれども、確実にドラゴンゾンビは勢いを失い、弱くなっていった。本にんは決して認めたがらないが一応理解はしているようで、傲慢さよりも焦りが見え隠れし始めた。


『何故ダ……最強デアルコノ俺ガ、力アルドラゴンデアルコノ俺ガ負ケルダト……!?』

『ハッ、一度負けたくせに最強を名乗るとはどれだけ現実が見えていないのだ! 力だって半分はレヴァイアサンの物であって貴様の物ではない! 面の皮が厚すぎるぞ!!』

『アアアアアアアッ!』


 肉体もだけれども、先に精神が限界に近付いたのかドラゴンゾンビは頭を掻きむしるように転げ回り始めた。腐肉が抉れ、骨が折れようとお構いなしだ。

 しかし、唐突にピタリとその奇怪な動きを止め……ゆらりと起き上がる。一体何をするのか、警戒心マックスで睨みつけていたら――

 ボコリと、頭部からコブが出来――もう一つの、頭となった。……見た目は干からびたミイラのようであるけれども……間違いない。

 あれは……レヴァイアサンの頭だ。

 弱々しく、掠れた声が、紡がれる。


『ア……アァ……コロ、シ……違ウソウジャナイ……助ケテ、クレ――』

『俺……ジャナイ、私ハ、海ニ戻リタイダケ……見逃シテ……見逃スナ――』


 矛盾する言葉が、一つの口から紡がれる。

 ……これは違う。

 レヴァイアサンが話しているようで、ニーズヘッグが無理矢理しゃべらせているのだ。

 それを証拠付けるように、ニーズヘッグは簡単に馬脚を露す。


『貴様ハ余計ナコトヲシャベルナ! タダ俺ノ指示スル通リニ――』


『――オワラセテ、クレ――』


 その、最期の、魂を削るような願いに。

 わたしの頭は一瞬で真っ白になった。

 ニーズヘッグがやかましくがなり立てているがもう耳に入らない。

 如何にして『苦しまずに速攻で終わらせるか』、それだけを考え続けた。

 そして、思いついたのが。


「……アイティ。今からデカい一撃を放つから、アイティはそれに合わせて目一杯の力で攻撃してほしい」

「? それは構わないが……一体何を――」

「ウェルシュはわたしに雷を落として」

「『はっ?』」


 驚愕の声が重なる。困惑は当然のことだけど、まぁ最後まで聞いてほしい。

 わたしは聖剣を握る手に力を籠めて、掲げる。ずっとウェルシュの近くに居た影響か、バチリバチリと帯電していた。聖剣が元々の属性だけでなく雷属性も合わさって光を、熱を帯び始める。

 怒りが、意志が、混じり合う。


「聖と、光と、雷と。三重の属性で、ブッ放す」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「聖と、光と、雷と。三重の属性で、ブッ放す」 そーぞーしん「私の力も忘れないで下さい!!」(大慌て)  雷=破○の属性だろうし、取り敢えず。  …………ん? いやそーぞーの力=聖属性…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ