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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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合流と作戦

 わたしがトランスポーター前の戦場に戻った時、まだ戦いは続いていた。

 アイティが光剣クラウ・ソラスで、ウェルシュが雷で焼きながら削っているものの、ドラゴンゾンビの再生スピードが非常に速い。僅かずつ押してはいるようだけど撃破にまでは至っていない。……うわ、地面から素材・・を補充して再生してるぅ……そりゃ終わらないわけですわぁ……。

 自分の判断ミスにとことん後悔が押し寄せてくるけど、そんなのは後回しだ。二人掛かりで押して居るのであれば、三人目わたしが加わればこちらが優勢になる。ただし、足を引っ張らなければ、と言うのが大前提だけども……!


「これでも喰らえ!」

『ガアアアアッ!?』


 アイティの光の攻撃で硬直した隙に聖水を大量に投げつける。ジュワッと大きな音を立てて浄化して傷跡を広げていった。

 しかしすぐさま補充されて焼け石に水状態だ。こんな表面的な物ではなく、もっと大きな、もしくは芯まで届くような強烈な攻撃でなければアイテムを浪費するだけで終わってしまいそうだ。……それこそこのダンジョン全体の素材を使い尽くすまで続ければ終わるけど、先に物資が尽きるに決まっている。


「リオン。随分と大きな音は聞こえていたが……終わったのか」

「うん。まだアルバに雑魚掃討をお願いしてるけど、おかげさまでグリムリーパーはなんとか。剣を送ってくれてありがとうね」


 アイティは疲労が濃く見えるけど大きな外傷も見当たらずひとまず元気そうだ。良かった。頭上を飛ぶウェルシュにも手を振ってお礼を述べる。

 先に倒してわたしに加勢するつもりだったのに、と溜息を吐かれてしまった。な、何かごめん?


『アアアアアアッ! 憎キ神ノ下僕メ! ヤット現レタカ! 卑怯ニモ隠レヤガッテ!』

「卑怯って何がさ!? って、うわわわわっ」


 ドラゴンゾンビはわたしを視界に入れた途端、憤怒の炎の如きブレスを吐き出してくる。あ、危ない、聖剣から受け取った力が残ってなければ避けられなかっただろう。最初はボケっと突っ立っていただけのわたしが危なげながらも攻撃を避けたことで、アイティも再びわたしを追い返すようなことはしなかった。辛うじて戦力にはなれそうだ。

 それにしても……確かにわたしは卑怯なことでも必要とあらばやるけれど、ドラゴンゾンビには言われたくないなぁ!


「……まともに取り合うだけ無駄だから無視するんだ。奴は自分勝手な妄想しか言わないし、考えてもいない」

「ですよねー……」

「だが気を付けろ。奴の半分はレヴァイアサンなので水を操る」

「はあっ? レヴァイアサン!?」


 周辺が水浸しだなぁとは思ってたけど、水攻撃があったからってこと? って言うか何で終末の獣であるレヴァイアサンがこんな冥界ところに居るのさ!? どこかの海底に居るんじゃなかったの!? 推定火神の封印地である水神の領域に居るかもね?って予想を立てていたのに……冥界に光神アイティが居たのと同じくらいにビックリだ。

 わたしは必死に、アイティは華麗にドラゴンゾンビの攻撃を避けながら、これまでのことをザックリと説明してくれる。理由も方法もわからないけど、冥界に落とされちゃったかぁ……そっか……。

 残りの半分はウェルシュ曰くニーズヘッグらしい。確か冥界で現れるフィールドボスモンスターだったか。凶暴でその巨体を活かした体当たり攻撃と毒ブレスが強力で、毒蛇を取り巻きとするのだけど……毒蛇は居ないみたいだね?

 まさか蛇繋がりで海蛇型モンスターであるレヴァイアサンと相性が良かったとか? と思ったけど、レヴァイアサンの意識はほとんどニーズヘッグに呑まれているらしい。海のない冥界で弱体化して取り込まれたのだろうか。冥界に落とされた挙句に力も意識も奪われるなんて……ますまずレヴァイアサンに同情心が湧いてきてしまう。

 ジズーは友好的で、ベヒーモスは風神を助けてくれて、終末の獣たちには畏れもあるけど妙な愛着のような物が芽生えているようだ。ベヒーモスに続きこんなヒドイ形で遭遇してしまったことに悲しくなってくる。


 ……ベヒーモスの時のように、分離の力を使って分けることは出来るだろうか?

 この状態が誰かの手でムリヤリ(・・・・・・・・・)くっ付けられた状態であれば、可能なのでは……?

 いや、駄目だ。あの時は――意識がぼーっとしてたのであまりしっかりと覚えてはいないけど――ベヒーモスの助けがあったから出来たことだ。ノーヒントの状態で出来るとは思えないし……レヴァイアサンの肉を食べる気にもならない。心情的なものに加えて、どの部分がレヴァイアサンか不明だし、腐っているから絶対お腹壊すだろうし、肉を食べて正気を保つにはレベルだって足りないだろう。

 とは言えあまりにも哀れすぎるので、もし魔石を確保することが出来たらしっかりと供養してあげたいところだ。


「リオン、ダンジョン核の位置はわかるか? それを狙わねば終わりそうにない」

「あー、そうだね…………ごめん、はっきりとはわからない。もぞもぞしてるから内部を移動はしてるだろうね」

『……ぬぅ、そうだろうとは思っていたが……面倒な真似をするものだ』


 二人掛かりでいくら斬っても焼いてもなかなか見つからず辟易していたらしい。どこぞを狙えば慌てるとか必死に再生しようとするとか、核を重点的に守っている様子も見られなかったとか。体はどこも腐っているし、生えている骨は乱雑で、特に防御が厚そうな所もない。文字通り腐っていてもボスなので悪知恵が働くのか、逆に何も考えてなさすぎで読めずにわからないのか……。


「位置を絞り込むためにも、まずは体を分断してみるか……?」

「……そのようなことが出来るのか?」

「まだ避雷針が残ってるからブッ刺して、そこにウェルシュの雷を落とせば魔石に籠められた力と合わさって、それも内部から焼くことで結構な威力になる……んじゃないかな」


 避雷針はグリムリーパー戦で六本も使ってしまったので残りは三本。大盤振る舞いしてしまった感もあるけど、きっとあれくらい使わなければ足りなかっただろう。あぁー、ウェルシュに頼んで道中で量産しておけば良かったなぁ……こんな風に大量に使う想定を全くしてなかったからなぁ。後の祭りだ。

 困ったことに、ある意味好都合なことに、ドラゴンゾンビはアイティよりもわたしの方に怒りを向けている。わたしが一体何をした!?って叫びたいけど、神と神子の手で現世侵攻の野望が潰えたとなれば怒りもするか。完全に逆ギレだけども、指摘したところで自己中の傲慢野郎には通じるわけがない。アイティも神なのに温度差があるのは弱体化してるからだろうな、って。わたしだってニーズヘッグと戦える神子に比べればよわよわなんですけどねぇ……。

 愚痴はさておき。わたしが囮になって、アイティに避雷針を刺してもらって、ウェルシュにドーン!とやってもらおう。


「……危険な役割だが……大丈夫なのか?」

「正直めちゃくちゃ怖いけど、わたしよりアイティの方が機動力あるし、力も強いので深く刺せそうだし? 今ならまだアイティが渡してくれた聖剣の力が残っているので何とかなる、ように頑張るよ」


 手足は震えている。何せドラゴンゾンビの毒ブレスを喰らえば大やけど必至だし、体当たりも一発でわたしの体がバラバラになりそうな威力があるのだ。そんな凶器がわたしに向けて振るわれ続けて、怖くないわけがない。

 でもここで踏ん張らないと、きっとこの先により良い未来は訪れない。だからわたしは、震えを隠して……いや全然隠せてないけど、それでも立つしかないのだ。

 アイティはそんな情けないわたしの様子に眉根を寄せていたが……フッと和らげる。


「……そうか。任せたぞリオン。そしてこちらも任せろ。しっかりと役割を果たしてやろう」


 おや? アイティの返事に微妙な違和感があるような……?

 ……悪そうな感じでもないので、まぁいいか……?


 自分を鼓舞するように。よりわたしにドラゴンゾンビの意識を向けさせて、アイティから逸らさせるように。

 わたしは、精一杯の勇気と大音声で啖呵を切る。


「さぁさぁ! そんなにわたしが憎いなら掛かってこいよ! この腐れドラゴン!!」

『言ワレズトモブッ殺シテヤルゥアアアア!!』

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― 新着の感想 ―
[一言] >地面から素材を補充して再生してるぅ……そりゃ終わらないわけですわぁ……。  それらを加工して聖か光か、その辺の属性を混ぜて取り込ませれば、内側からじわじわ効く毒になったりせんものか。
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