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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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ドラゴンゾンビの正体

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『待テェ! 逃ゲルナァ!!』


 ドラゴンゾンビが狂ったように暴れだす。アンデッドゆえ元より理性など全く期待出来ないが、多少なりとも通じそうだった会話が不可能になった。私はリオンのような馬鹿おひとよしではないので、会話が通じる程度でモンスターなど見逃す気はサラサラない。アンデッドであればなおさらだ。……とは言え、奴には引っ掛かる部分もある。

 長い蛇に似た巨体から血毒を撒き散らしながらくねらせ、腕だけでなく全身で私を轢き潰すように――いや、奴としては私などただの障害物でしかないのだろう。視界にすら入れようとせず、ひたすらリオンを追うために前に進もうとする。重量差だけならまだしも全身から生えた骨により体の至るところが引っ掻かれてしまった。

 しかしこれで、それもアンデッド相手に引いてしまっては光神の名折れだ。腕に力を籠め骨を折り、腐肉を斬り裂いた。


『グアアアアッ!? 何故()ノ邪魔ヲスル!?』

「邪魔するに……決まっているだろう!」


 もう一度斬り付けてドラゴンゾンビを引かせる。飛び散る血が私に降りかかったが自然浄化した。……大丈夫、リオンのおかげで力はそれなりに回復している。


『オノレ……木ッ端神ノクセニ……! イイダロウ、マズハ貴様カラダ……!』


 よし、あっさりと標的を変更した。きっちりと引き止めつつ、さっさと倒してリオンの加勢に行かなければ。弱体化しているのは事実ではあるが……その木っ端神が貴様など討ち滅ぼしてくれよう……!

 ドラゴンゾンビが上半身を大きく持ち上げ、鞭のようにしならせて私の圧殺を試みる。そのような大きすぎる動作、避けるなど造作もない。

 ドォン! と地が鳴り、砂埃と共に散らばっていたものが巻き上げられる。それらが私の視界を塞ぎ――地を這うように横に体が振り回されるのに、一瞬反応が遅れた。


「しまっ――」


『――フン、神がその程度とはな』


 バヂィ!


 呆れたような声と雷音が同時に聞こえた。

 雷に打たれたドラゴンゾンビは僅かに体を硬直させる。そのおかげで防御が間に合った。自ら後方に跳びながら衝撃を受け流す。翼で姿勢を制御し、ノーダメージで済んだ。


「……助かった」

『貴様に余計な怪我などされてはアレ(・・)がうるさくなるのが容易に想像出来るのでな』


 ウェルシュはリオンに降ってから、行動は素直な癖に口だけは素直ではない。リオンが事あるごとに『ツンデレか……?』などと言っていたが、おそらくそのような状態を指す言葉なのだろう。

 いくら光神わたしとて、斯様に協力的な態度を取られては敵対姿勢を続けるわけにも行かず、役立つところを大いに見せつけられては受け入れざるを得ず。……以前の頭の固い私であればここまで早く心変わりはしなかったし、すんなりとお礼も言えなかったことだろう。良くも悪くもリオンに影響どくされているようだ。このような状況でありながら口元に笑みが浮かんできてしまう。

 私は油断なくドラゴンゾンビを睨みつけながら、ウェルシュに問いかける。冥界に棲むウェルシュが知っているかどうかは不明だが、先ほどから気になって仕方がなかったのだ。


「……ウェルシュよ。奴の正体に心当たりはあるか?」

『……さて、半分・・ならあるが……』

「ほぅ、奇遇だな。私も半分なら心当たりがある」


 半分。

 このドラゴンゾンビ、数多くのモンスターの骨を纏っているが、それを除くとおそらく二種類のモンスターになる。まぁ腐肉や内部に他のモンスターが混じっていないとも言い切れないが。

 一つは細長い蛇のような体。一つはその体から生えた足と翼だ。私は前者に見覚えがあるが、後者が生えていた記憶がない。さて、ウェルシュの知る半分はどちらのことだろうか。


『ゴアアアアアッ!!』


 今は悠長に答え合わせをしている場合ではなさそうだ。

 ドラゴンゾンビが口腔から毒のブレスを吐き出してきたので私は横に跳んで、ウェルシュは上空に飛んで避ける。その後前進しようと思ったが、ブレスを吐いたまま首を横に振るので上に跳び――更に毒ブレスが追いかけてくる。

 これで私がただの人間ヒューマンであれば避けられなかっただろうが、光神わたしには翼がある。小さくなってしまったため常時飛ぶのは不可能だが、一時的に進路を変える程度なら可能だ。

 追い続ける毒ブレスを避け、頭を斬り付けることで毒ブレスを強制的に中断させた。


『ガッ、ア゛ア゛アアァ!! コノ、程度デ……ッ』


 しかし奴は再生能力が高いようだ。周囲の腐肉が蠢いてすぐに傷を塞ぎにかかる。

 ならば塞がれる前に倒す、と追撃をする前にいくつもの骨が槍のごとく射出されたので仕方なく距離を取った。

 ウェルシュが雷撃を放つ。今は上空を赤雷雲が覆っているおかげで雷を撃ち放題になっているようだ。敵として立ち塞がられると厄介なことこの上ないが、味方であれば非常に頼もしい。リオンの慧眼に感謝をしよう。


『……クソッ』


 が、ウェルシュの雷をもってしてもトドメは刺しきれない。自前の再生能力だけでなく地を埋め尽くす骨や肉でどんどんと欠損部分を補充していくからだ。……最悪なことに、本当にこの地(ダンジョン)全てが奴のパーツなのだろうか。

 以前の十全な状態の私ならともかく、今の弱体化した私にここら一帯を浄化する力は残念ながらない。何とかして奴の核を探し出して破壊せねば。しかしあの体であれば中で核を移動させることも出来そうだ。ピンポイント、もしくは広範囲の攻撃が必要か。


「ウェルシュ、奴の核を探し出すぞ」

『言われずともわかっている……っ』


 ……ウェルシュが苛立っている。自慢の雷が効果を発揮していないからだろうか。

 いや、それよりは何か別の理由がありそうだが……リオンであれば気の利いたことを言って宥めるのだろうが、私にそのようなことは出来ない。リオンとの戦いの時のように直情的になりすぎてやられなければよいのだが。



『ア、アアア、ア、アアアア……』


 何度目かの攻防の後、ドラゴンゾンビが震えだす。再生能力が尽きて苦しんでいる……わけではないだろうな。しかし様子がおかしい。内側から肉が沸騰するようにボコボコと膨張している。……暴走だろうか?

 挙句に頭を地に打ち付け始めた。腐肉が弾け、骨が砕けてもお構いなしだ。

 異様な行動に手を出せないでいると、唐突に天を見上げ、叫びだす。


『何故ダ! 神ヨ、何故アナタハノ邪魔ヲスルノダ!』


 その声は怒りではなく悲しみに満ちて。同じモンスターのものとは思えない声だった。

 ……やはりこのドラゴンゾンビはモンスターが混じって、それも多重人格のようになっている。一つの体に複数の思考、それは一体どのような理屈なのか。どのような気持ちになるのか。

 私の脳裏をある男の姿が過る。確証はない。ないが……どうにも、関係している気がしてならない。

 この、唾棄すべき趣味の悪さは、アレ以外に居るわけがない、と。


『私ハタダ帰リタイダケナノダ! アノ海ヘト!』

「……っ」


 ドラゴンゾンビの慟哭と共に、周囲の血の海から数多の血水の柱が立ち上る。それは意志を持ってうねり、束ねられ、私の頭上から水の竜となって降り注ぐ。ただでさえ危険な水であるのに、それ自体が武器となって襲い掛かってくるとは。


「くっ……!」


 幸い水竜は避ける私を追いかけることなく、地を深く深く穿っていった。あれが私を貫いた時のことを想像するとゾッとする。不浄関係なく、単純な威力のみで大きな脅威となる。私の心当たりの半分をこのような形で確信することになるとは……。

 さすが、腐っても海の王(・・・)――


「何故あなたがこの冥界に、それもそのような無残な姿に成り果てているのだ……レヴァイアサン(・・・・・・・)!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] >ウェルシュはリオンに降ってから、行動は素直な癖に口だけは素直ではない。リオンが事あるごとに『ツンデレか……?』などと言っていたが  いるねー。  威嚇っぽく強く吠えるくせに、尻尾は嬉しそ…
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