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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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決着?

 聖剣はグリムリーパーの肩口からお腹の辺りまで深く食い込んでいた。

 しかし……それ以上進めることが出来ない。引き抜くことも出来ない。

 闇の衣の内側――虚無から溢れるコールタールのような闇がドロリと聖剣に纏わりつき、聖剣の光に散らされながらもそれを上回る濃度で刃を捕らえ、離そうとしないからだ。やがて剣身を伝い、柄を握るわたしの腕までも絡めとった。

 全身がゾワリと総毛立つ。煮えたぎるような憤怒の熱に、命を渇望する慟哭の冷気に、世界の全てを呪い滅びを望む暗い意志に、わたしは思わず顔を歪めた。グリムリーパーは闇の衣をボロボロと零しながらも、蜘蛛の巣に囚われた哀れな獲物を見るようにカカと嗤う。

 でも……勝利を確信するには早すぎる。


「誰が、これで終わりと言った……!」

『――ッ』


 わたしは神子だぞ。ここからでも使えるアイテムがあるに決まってるじゃないか。むしろ、ここまで近付ける状況を狙っていたくらいだ。

 聖剣を、手をグリムリーパーに埋め込んだまま、その場(・・・)に直接金属棒――避雷針を出現させた。もちろん、内部の魔石はウェルシュの雷がたっぷりと宿ったままだ。端から見せていたら警戒されて近付けなかっただろうから、逆にお互い動けないくらいに捕まえてくれて助かる。

 それを二本、三本、グリムリーパーを串刺しにするように増やしていく。出しただけではただの金属棒なのでダメージはないに等しい。しかし嫌な予感がしたのかグリムリーパーは藻掻く。聖剣が体内?に埋め込まれたままなのでその動きは鈍く、弱々しい。

 絶対に逃がすものか、と刺した避雷針の内の一本をわたしの血を垂らして(と言うか勝手に付いていた)から起動し、聖属性を帯びた放電をさせることで更に動きを縛っていく。わたしもちょっと痛いけどポーションを使用しながら耐える。


「聖雷よ――」


 バチリと、全ての避雷針ませきを起動させる。淡い光が闇の中でもしっかりと主張している。


「この暗く澱んだ不浄なる地にて、彷徨える死者を導く星となれ――――ぐっ」


 何やら言葉を紡ぐたびに、腕が燃えるように熱くなる。ドクドクと激しく脈動する。ひょっとしたらグリムリーパーの闇の浸食よりも痛いのではなかろうか。ウェルシュの雷は身代わり腕輪(スケープブレスレット)が壊れるほどなのだから仕方のないことか。

 その痛みを聖剣に宿るアイティの加護ひかりが包み和らいだかと思えば。


 ――クカカッ。もっとやれ!


 内側からナニカが囁き、暴れ出す。

 思考が焼かれて、塗りつぶされる。


「――無意味な命の刈り手に、無価値な魂の冒涜者に」


 ――破壊こわしてしまえ。


「愚者の走狗に、神の領域を侵せし道化に。今ここに、神に代わりて罰を与えん――」


 力が、宿る。

 ――の力が。


 グリムリーパーが焦りと共に何とか大鎌を振るおうとするも、待つわけがない。


 避雷針ませきが形を変え、雷で出来た一つの大きな武器になる。

 わたしの腕は捕らわれたままだけど、それはわたし(だれか)の意志に沿い、動き出す。

 重さは感じられず、さりとて超重量級のそれが。

 グリムリーパーへと、放たれる。


「――地に還れ! 破砕の雷槌(トールハンマー)ああああっ!!」


 バッゴオオオオオオオオオンッ!!!


 オ゛オ゛オオオオオッ――!?


 雷の大槌が炸裂し、耳をつんざく大音量と目を焼く閃光が発生した。

 空気が震え、大地すら揺れる。凝縮された雷がほどけ、炸裂地点を中心に縦横無尽に走り回る。

 嵐雷は標的であるグリムリーパーだけでなく、超至近距離で魔法を放ったわたし自身にも降り掛かる。が、これもアイティの加護の賜物か、かなり痛い、と言う程度で済んでいた。……決してわざとではないのだけれど、自爆系魔法ばかり使っているのでまた叱られてしまいそうである。

 更に荒れ狂う雷は、周辺に溢れていたアンデッドモンスターたちにも襲い掛かった。アルバに当たっていたらどうしようと思いつつも、嵐が過ぎ去るまでは動けそうもない。なお、わたしを捕らえていた闇は弾け飛んでいる。


 ほどなくして音が収まっていく。肝心のグリムリーパーはどうなっただろうか。絶叫が聞こえたので当たっているはずだけれども……。閃光でチカチカする目を何とか開き、確認をする。

 ……グリムリーパーの姿はない。爆心地に残るのは闇の衣の一部と、砕けてバラバラになった大鎌。しだいに闇の衣も大鎌もサラサラと砂のように崩れ、風に乗って吹き散らされる。後には何もない。

 魔石が見当たらないのは、魔法が強力すぎて壊してしまったのか。……それとも、いつかの月蝕の時のように大地に溶けるように逃げたのか。判別が付かないので、ひょっとしたらまた不意打ちをしてくるかも、と警戒を続ける方がいいだろう。


「しかし……いてててて。我ながらヒドいことをしたものだ……」


 体を包んでいた光も、聖剣の力も、わたしを保護したせいか大半が失われていた。むしろよく無事だったものだ。

 聖剣を一旦しまいながらポーションを振りかけ、辺りを見回す。アンデッドモンスターたち(ついでにスライムなど非アンデッドも含む)は薙ぎ払われ、エグい感じに散らばり、体のパーツ(ドロップアイテム)はもちろん魔石すら壊れてしまっている。……もったいないから非常時以外には使わない方がいいな。このせいで上質な素材がパァになったらと思うと泣いてしまいそうだ。


「アルバ、生きてるー……?」

「…………ギュゥ……」


 呼びかけてみると、小さいけれど応えがあった。瀕死と言う感じもせず、安堵でホッと息を吐く。必死だったとは言え、仲間を巻き込んでしまうのはよろしくないな。もうちょっと運用を何とかしたいところであるけれど……練習すらままならないのが雷魔法だ。

 声を頼りに探し、モンスターたちの死骸に半ば埋もれていたアルバを掘り起こす。その体には傷がたくさんついており、血の赤やらモンスターの肉片やらでかなり汚れていた。もしや、とサーッと血の気が引いていく。


「えっと、これ……わたしのせい……?」


 首を横に振るアルバ。どうやら違ったらしい。良かったぁ……。

 まぁ、モンスターの集団に一匹だけで放り込ませてしまったのだ。まだまだ未熟なアルバからすれば激戦だったのだろう。水でザッと洗い流しポーションで癒してやりながら「ありがとう、よく頑張ったね」と褒めちぎる。

 しかしまだ全てが終わったわけではないので気を緩めることは出来ない。アイティとウェルシュはまだドラゴンゾンビと戦っている。二人がかりで決着していないなんて、グリムリーパーより強いのだろうか。

 そんな相手に、アイティの加護ちからをほとんど使い果たしたわたしが加勢したところで足手まといになるだけかもしれない。でも厳しい状況でわたしに助力してくれたのだし、与えてもらった力は少し残っている。何とかしてその分を返すくらいはしなければ。


「アルバ、わたしは向こうに行ってくるよ。後ちょっと残ってるモンスターの方をお願い出来る?」

「……ガァ」


 アルバは不服そうだったけど頷いてくれた。自分の力不足に嘆きたくなる気持ちはわかるので、今後頑張っておくれ。

 わたしはアルバを見送ってから深呼吸をし、ドラゴンゾンビへと向かって行くのだった。



 xxxxx



 黒く染まった花が、ほろほろと崩れていく。

 その様は黒い雪のようで儚く、一種の美しさすら伴って。


「――ハッ。知らずにやったのであろうが、儂に花を供えるなど阿呆の極みよのぅ」


 馬鹿にしきった口調でありながら、散りゆく花の残骸に向ける目は、柔らかく。


「全く……本当に貴様の行動は、よくよくあやつと重なる。性格は似ておらぬのになぁ。……ま、このくらいであればあの屑にもバレんであろう。精々働くのだな」


 クツクツと微かな笑い声が、虚空へと響いて消えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >――破壊(こわ)してしまえ。 >力が、宿る。 >――の力が。  この部分だけで、宿ったの(雷)は誰の力か丸分かりだと思うの(濁りきったつぶらな瞳)
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