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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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光神の力宿りし剣

「これは……アイティに貸していたなんちゃって聖剣……?」


 なんでウェルシュがこれを……いや、アイティがわたしのために手放した他に考えようがない。現にアイティは今もドラゴンゾンビと戦っているし、よく見れば握っている剣が光剣クラウ・ソラスに変わっている。まだ本調子ではないのにわたしの方を優先してくれたのだ。

 感謝の念と共に聖剣の柄を握ると。


「――っ」


 ズオッ! と、聖剣から力が流れ込んできた。一体何の力なのか言うまでもないだろう。

 もう長いこと浴びていない日の光を思わせるような優しい暖かさがわたしの全身を覆う。細胞が活性化したような感覚がし、痛みが消え、体の芯まで熱くなってきた。熱と同時に力が湧き、漲ってくる。ほんのりと、体が燐光を帯びる。

 これぞまさしく、光神の加護ちからが宿る神器。

 アイティがずっとこの聖剣を使用していたことでかなり力が馴染んでいたのは知っていたけれども、まさかここまで昇華していたなんて。もしやこのような状況を考えて、あえて力を籠めていたのだろうか。

 ……これはもう、アイティたちの戦いが終わるまで何とか生き延びる……と言う小さな目標でなく、グリムリーパーを倒して加勢しに行くくらいの勢いで頑張らないと。神様にここまでさせて応えないのは、神子として失格以外の何者でもない……!


 ゆっくりと剣を引き抜く。

 剣が軽く感じる。体が軽く感じる。軽すぎてライトブーツとの相乗効果で飛べそうな錯覚すらしてきた。

 グリムリーパーは……またもウェルシュを気にして余所見をしていた。絶好のチャンス!

 力一杯踏み込み、駆け出す。踏み込んだ足元で盛大に骨が砕け散る音を耳に入れながら、これまで体験したことのない、それこそ風のような速度でグリムリーパーに肉薄する。


『カッ!』


 音を立ててしまったせいだろう。グリムリーパーはわたしの接近に気付き、先ほどのウェルシュの不意打ちで縮小させながらも展開させていた闇をわたしへと向けてくる。

 でも今なら出来る気がする!


「せいっ!」


 聖剣で切り上げる。聖属性と光属性に満ちたその剣閃は、光を振り撒きながら闇を斬り裂き、霧散させた。

 そのまま返す刃で袈裟懸けに、グリムリーパーに斬り付ける!


『ガアアアッ!』


 斬った感触はない。けれども、確実にグリムリーパーにダメージを与えた。

 闇の衣は斜めに大きく裂け、内側から血のように闇が零れだす。

 しかしその闇すらも、わたしを害せんと蠢き出す。


「や、っば……!」


 調子に乗りすぎた!

 一瞬で頭が冷え、バックステップをするも迫りくる闇の方が早い。あっと言う間にわたしの体は闇に纏わりつかれてしまう。

 痛みに備え身を固くする。……けれども、痛みはあれども思ったほどではない。闇の中でありながら光が見え、少しずつ光に押されて闇が薄まっていく。

 これはもしや……この体を覆う光がわたしを護ってくれている? ……なるほど。闇神の加護がなくても何とかなるのか。これは朗報だ。勝率が更に上がった。

 それと同時に、アイティに一体どれほどの力を使わせてしまっていたのか申し訳ない気持ちも沸き上がる。これがなければ光剣クラウ・ソラスもとっくに問題なく使えていたかもしれないのに。現世に戻った暁にはたっぷり恩返しをしなければ。


『カアッ!』

「――ッ!」


 グリムリーパーが怒りを乗せて大鎌を振るう。速度が落ちた――いや、わたしの能力が上がって視認出来るようになったのだろう、刃の通り道がはっきりとわかり聖剣でガードする。力は拮抗まではせずやや押されたけれど前回のように吹っ飛びはしなかった。

 ギリギリと刃を噛ませ合い、このまま睨み合いになるかと思いきや、グリムリーパーはこの状態でも自由になる闇を伸ばしてくる。その髑髏面がニヤリと嗤った気がした。

 けど、攻撃手段ならわたしにだってあることを忘れたか!


『アアアアアッ!』

「いっつうぅっ!」


 わたしは闇で、グリムリーパーは聖水で、お互いに苦悶の声を上げながら押し合いを続ける。わたしもグリムリーパーも回復手段があり致命的なダメージにもならないので、このままでは埒が明かない。

 どうしたものか思考を巡らせながらわたしはわざとバランスを崩し、均衡が崩れたことで姿勢が泳いだグリムリーパーの体に蹴りをいれる。闇の衣の中に骨はなく、ぐちゅりと粘性の高い水の中に突っ込んだような感触がした。わたしの光のオーラの分ほんの少しダメージは入っているけどこれも大きな効果はないようだ。浸食される前に足を引き抜きつつ大鎌の柄を蹴って距離を取る。


「うわわわっ!?」


 グリムリーパーは大鎌を構え、また突っ込んでくるかと思えばその場で横なぎにし風の刃を放つ。……そりゃそうよね、空高く飛べないだけでその遠距離攻撃は出来ますよねぇ……! いつものように反射的に石ブロックを設置して盾にする。

 しかしそれは悪手だった。石ブロックの陰になり、グリムリーパーを見失い――

 耳元に鋭い音。

 生存本能に従い位置をズラそうとするが半歩遅く。


「ぐ、あああああっ!」


 右肩がザックリと斬られた。首よりは断然マシだけど痛いものは痛い!

 けれど痛みで転げ回っているだけじゃただのカモになるだけ。血と涙を撒き散らしながらグリムリーパーから離れる。もちろんグリムリーパーは追撃をかけてくるが、ブラストボールを使用して吹き飛ばし、わたしも自爆ダメージを喰らいながらも無理矢理離れた。バチバチとウェルシュからの援護も入り、その間に急いで治療に入る。


「はあっ、はあっ…………っ!」


 ポーションを使用するも完全には塞がらない。鎮痛剤も併用して動ける体勢を最低限整える。

 剣は……振れそうだけど、力押しされたらヤバいな。わたしの血にべっとりと濡れてしまった聖剣を落とさないよう握りしめながら心の中で毒吐く。


「……ん?」


 聖剣の光がわずかに強くなった気がする。なんで?

 ……って、まさか、聖属性わたしのちに反応している……? 防御力は落ちたけど攻撃力は上がった、ってところか。

 こうなったらこれも利用してやろう。なぁに、血を使うなんていつものこと……怒ってくる相手も居ないのでノーカン! いやそれはそれで寂しい。早く帰りたい。そのためにも早くグリムリーパーを倒して、ドラゴンゾンビも何とかしなければ。

 時間を掛ければ掛けるだけわたしの方が不利になりそうだし、次の接近の時に一気に仕掛ける……!


『シャアッ!』


 味を占めたのかグリムリーパーは立て続けに風の刃を放ってくる。

 わたしとて同じ愚は犯さない。石ブロックで防ぎそうになる衝動を抑えつつ走って避ける。身体能力が上がってる今だから出来る芸当だ。時折避けきれずに切り裂かれたとしても足は止めず、走りながらポーションを使用する。とにかく狙いを定めさせない。

 そしてわたしは少しずつグリムリーパーとの距離を詰めて行った。グリムリーパーもわたしが接近戦を狙っていることは気付いているだろう。迎撃のための闇を広げ始めた。しかしそれは予想出来たこと、フラッシュボールを投げつけることで打ち払う。


『ジャアアアアッ!』


 闇が払われたとしても本体は健在だ。グリムリーパーは構わず、空に振り上げた大鎌を振り下ろそうとし――


 バッヂイイイインッ!!


『ア――』


 ウェルシュの一際大きな雷が、大鎌をターゲットに落ちる。グリムリーパーはわずか、意識を失ったように動きを止めた。ホントありがとう!

 わたしは勢いよくグリムリーパーの懐に飛び込み。


「でやあああああああっ!!」


 ザシュッ!!


 聖剣は、今度は確かな感触と共に。

 グリムリーパーの体へと、深く深く埋まっていった。

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