神子の存在
「ところでウェルシュ、きみは一体どうやってわたしたちを手伝うつもりだったの?」
『俺はこの翼……今は機動力が落ちているが、冥界を自在に飛べるからな。欲っする物を探してきてやろうかと』
まぁそれが妥当なところよね。わたしもそうしてもらおうと思っていたので丁度いい。あと傷に関してはお互い様だし謝らないぞ。
「わたしが探して欲しいと思っている物は大きくわけて三つかな。一つ、質の良い素材。モンスター素材でも鉱石系でも特に種類は問わないけど、属性値が高いほどありがたい。二つ、ディメンションストーン。近日中に鉱石探知機が作れるようになるから、ちょっと遠い位置で反応している分の捜索を頼むと思う。三つ、……トランスポーターそのもの。これは稼働中はもちろん停止中でも壊れていても構わない」
「……リオンのことだから、ウェルシュの素材を寄越せとでも言うのかと思っていたのだが」
「ん゛ん゛っ」
アイティから無情なツッコミが入る。いやまぁ……その……後で戦闘中に落ちたヤツを拾う気ではあったけどね。と心の中で思いながら目をそっと逸らすと「ブレないな……」と呆れが八、笑いが二くらいの呟きが聞こえた。
『……俺は敗者だからな。寄越せと言うならばくれてやろう』
……本竜がこう言ってることだし、無理のない範囲でもらっておこうかな。
咳払いをして話を元に戻し、わたしは所持しているディメンションストーンを取り出してウェルシュに見えるように手のひらに乗せる。黒い石で見た目は黒曜石に似ているけど、違いとしてはやや透けていて中で渦がグルグルしている謎物質だ。
「ちなみにディメンションストーンはこれ」
『ふむ、何度か見覚えはあるな。どこにあったのかまではいちいち覚えていないが』
たまーに地表に露出してるからそれを見たのかな……と思えば、落雷で抉れてすり鉢状になった地面の底にあったらしい。な、なるほど。
砕けて小さくなっても合成でくっつけられるからその方法で発掘しても問題はない。でもあんまり細かくなるとウェルシュの手やら嘴で掴むのはしんどいだろう。……そう言えば、モンスターにアイテムボックスはあるのかな?
『それは創造神の加護の賜物だ。俺のような破壊神側に属する者にはまずない』
「へぇ……初めて知ったよ」
あ、でも、住人に比べて神子はやたらボックス容量があるのだから、腑に落ちる話ではあるか。
けど……その言い方だと、まるで例外があるような感じだね?
『破壊神の神子は持っていたはずだ。たとえ破壊神の加護を授かってはいても、アステリアの住人であることに変わりはないからな』
「…………破壊神の神子って居るんだ……」
『俺はずっと冥界に居るから、今は何人居るとか、誰がとかは全く知らないがな』
そもそも破壊神の神子が存在していたことにビックリだ。ゲーム時代にそんなキャラは居なかったし、これまで誰も話題にしていなかったし。
破壊神の神子が冥界で生活してるならともかく、現世で生活しているのであればウェルシュは知りようがないか。
うーん……どんなヒトなんだろう。アステリアの住人ってことはモンスターとは違うってことだよね。破壊神の神子らしく『壊すの大好き!』ってヒトなのだろうか。……気にはなるけどもしそんな感じだとしたら、わたしが作った物を片っ端から壊されそうだしあんまり会いたくないなぁ。
……はっ、まさかこの前の謎の男性が破壊神の神子では…………違うかな。破壊神の神子ならいくら醜悪とは言えあんな化け物を『作る』とは思えない。根拠のないただの勘だけどさ。
「ねぇアイティ。創造神様に聞けばわかるかな?」
「……プロメーティアが知覚出来る範囲で生活しているなら。地下などの知覚能力はポンコツだからあまり期待しない方が……」
「……そ、そう……」
……真面目系女神であるアイティにすらポンコツと言わしめる主神……。わたし、神子としてなんだか悲しくなってきたよ……。
え? わたしもある意味ポンコツだって? ま、まぁ普通に考えると破壊神の気配が強いだろうし、その影響で創造神には知覚出来ない、なんて可能性もあるか。うん、期待するものじゃないな。
「とりあえず、ウェルシュには収納用カバンを渡しておくよ。見た目は小さいけど結構容量あるから、どんどん入れてね」
『……受け取っておこう』
ウェルシュが大きな爪の生えた手で不器用にカバンのフタを開けて、ちまちま素材を詰め込んでいる姿を想像したら微笑ましくなってしまった。しかし、ヘリオスにも渡しておけばよかったな。なんだかんだで素材集めてきてくれそうだし。今度会ったら頼んでみよう。
その時、妙な視線を感じた。「ん?」と振り向いてみると……アルバが何かを訴えるような目でわたしを見ていた。……これはもしや。
「……アルバも欲しい?」
「……ガァ」
遠慮がちではあったけど確かに頷くその姿が可愛くて、わたしは一も二もなくカバンをあげるのだった。「おやつでも入れておく?」と聞いたら『子どもか……』とウェルシュが呆れていたけど、アルバは子どもでしょうに。なお、おやつは要らないと首を横に振られたのでポーション類だけ入れておいた。念のためウェルシュのカバンにも少し入れておくか。
そのうちアルバ用に装飾品を作っておくかな。身体能力に補正が掛かるなら生存確率も上がるしね。後にアイティに「なんだ、私にはくれないのか?」などと言われて追加で作ることになるけどそれはさておき。
「さて、最後のトランスポーターについてだけど、大体こんな形をしている……はず。ひょっとしたら違う形でも作れるかもしれないけど、ベースは変わらないと思う」
わたしはガリガリと地面にトランスポーターの絵を描いていく。ディメンションストーンで作られた大きな両開きの扉と枠。枠には魔力供給用の大きな魔石が嵌められ、それぞれを連結するように各属性で作られたラインが引かれている。魔力をきっちり補充し起動状態で扉を開くと薄い虹色の膜が張られており、それを通り抜けるとどこでも繋がるあのドアみたいに向こう側が現世もしくは冥界になっていると言う物だ。
ゲームではセーフティとして、冥界側のモンスターが自由に現世に出てこないように神子しか門を開けなかった。まぁうっかり開きっぱなしでも昼間だったら日の光ですぐに死ぬんだけど、夜だといくらか動けるし、逆に現世の住人が何かのはずみで冥界に迷い込んでしまったら目も当てられない。
「見ての通り大量のディメンションストーンが必要だから、既存の物を流用するのが一番手っ取り早いのよね。過去に神子が冥界に来てた節があるし、存在してる可能性はある。……んだけど、これはあまり期待してないので、見つけたら超ラッキーくらいの緩さでいいよ」
地面に描かれたトランスポーターの絵をジッと見詰めるウェルシュ。……このドラゴンも案外真面目なのかしらん。だとしたら協力を得られたのは大きなプラスになるだろう。アイティには怒られたけど痛い目を見た甲斐があったものだ。
「あ、これもあげる。わたしの位置を知らせる端末。あまり遠くまで行かれると反応しなくなるけど、帰って来る時の目印にして」
受信機と発信機は地味に改良を続けて当初よりかなり反応範囲が広くなっているので、それなりに使い物になるはずだ。
……なのだけど、断られた。
『魔力を発する物はやめておけ。感知するモンスターも居る。弱い奴は逃げるだろうが、強さに自信がある奴や頭の悪い奴は寄って来るぞ』
「……そ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」
あ、あっぶな。今後もやむを得ない場合以外は冥界では使わないことにしよう……。
でもだとしたら合流に不便だよなぁと思ったけど、神様のおかげで何となく位置はわかるらしい。そう言えばそれが理由でウェルシュが来たんだっけか。……ウェルシュ以外にも寄ってくるモンスターが居そうだな。どうしようもないけど。
そんなこんなで説明を終えて、食事の後にウェルシュは早速捜索に旅立つのだった。ウェルシュもわたしのご飯が気に入ったのか、妙に後ろ髪を引かれるオマケ付きで。
……帰ってきたらまたあげるから頑張っておくれ。




