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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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女神の加護

「それはそれとして。リオン、あの力は何なのだ」

「あの力、と言うと……?」

「……雷の魔法を使っていただろう。一体何処でそのようなものを覚えたのだ……?」


 あぁ、アイティがアレを見るのは初めてだっけ。と言うかそもそもの使用回数が少ないのだけれども。触媒の問題もあるし、自分でも何かこう、特定条件じゃなきゃ発動しない感がしている。実際普段の練習でもあまり発動しない難儀なモノなのだ。


「どこ、と言うのは……切っ掛けはアルタイルの雷に打たれたことかな?」

「……よく生きていたな」

「当時も身代わり人形(スケープドール)なら持っていたし?」


 以前も同じセリフを聞いた気がする。なんだかんだでわたしは色々と危険な目に遭遇しているな……? どれも不可抗力であってわたし自身が引き寄せているとは思いたくな……ウェルシュ戦はわたしも悪いですね。


『む。アルタイルだと? 会ったのか?』


 大人しくしていたウェルシュが反応した。やはり似たような見た目だけあって何かしら関連がある二匹なのだろうか。


「正確には会ってないねぇ。わたしは出会い頭で雷に打たれて気絶しちゃったし。その時の相手の特徴をウル……えぇと、わたしの親友に聞いてアルタイルと判断しただけだよ」

『……俺の雷に耐えた貴様がアルタイルの雷には負けた、だと……?』

「いやいや、不意打ちだったのとアイテムが足りなかったからだよ。あの時はアルタイルのことなんて頭になかったし、避雷針なんて持ってなかったし。今戦えば勝てるんじゃないかな?」

『……そうか』


 このウェルシュ、さっきから妙なプライドがあるな。似たようなドラゴン同士で実は兄弟であるとか親近感が湧くとかではなく、ライバル的な関係になっているのかな。と、疑問に思ったのが顔に出たらしい。『俺と奴はライバルだ』と回答があった。

 あー……アルタイルと言えば。


「これもウルから聞いた話だけど、さっきのウェルシュと同じように翼をぶち抜いて追い返した、とか言ってたっけ」

『……………………そうか』


 ものすごい複雑な顔をしている(気がする)。二匹とも最強種であるドラゴンにして、二匹とも同じような結果で撃退されてしまえばそんな気分にもなるか。

 ……ウルは復讐に燃えているので再会した時はアルタイルの命が危ないかもね、とまでは言わなくていいだろう。


「話を戻すけど、地神様曰くわたしって魔法の才能がないらしいので、魔法を『使っている』と言うよりは『作っている』が正しいらしいよ。作るのは触媒さえあれば出来るしね」

「……………………」

『……………………』


 あれ、アイティだけじゃなくウェルシュまで黙りこくった。なお、さっきから話についていけてないアルバはきょとんとしている。


「……神子だから『作る』であればアリなのか……?」

『いや待て、あれを『作る』と表現するのか? 俺の目には『使っている』ように見えたぞ?』

「わからん。だが貴様も『混じっている』ことには気付いているのだろう?」

『……それは、そうだが……創造神の神子だぞ? 対極の存在なのに――』


 何事かをボソボソと話し合っている。もしもーし? 君たちいつの間にそんな仲良くなったの? 仲が良いわけではない? わたしのせい? なんでじゃ。

 しばらくアイティは考え込んだ後、難しい顔をして切り出す。


「……リオンは気付いていないようだし、誰も指摘していないようなので私も詳細は述べないが」

「そんな意味深な言い方をされたら全部言ってくれないとめっちゃ気になるんだけど?」

「……創造神プロメーティアに確認してからな」


 うーん、ただの神子であるわたしに神様事情は話せない、と言うことなのだろうか。

 ジトーっとアイティを見ても意志を曲げる気はなさそうなのでひとまず追及は諦めることにする。現世に戻ったら創造神に聞こう。


「リオンは地神レーア水神ネフティー風神メルキュリスの三柱から加護を授かったと言ったな。この数に間違いはないな?」

「そうだね」

「……私も確信を得たのは先ほどだが……リオンにはもう一柱の女神の加護がある」

「え? 創造神様のこと?」

「違う」

「えっ? 誰?? と言うか、アイティ以外に他に女神様居たっけ……?」


 男神であれば火神と闇神が居るけれど、女神となるとわたしは知らない。そりゃまぁゲームと違うのだし、実はまだ他に神様が居たとしてもおかしくはないのかもだけど……今まで誰もそんなこと言ってなかったよ……? 『聞かれなかったから』とかそう言うオチ?


「――っ」


 刹那、脳裏を痛みと共に『闇』が過った。

 何だろう……大事なことを忘れている、ような。

 痛みに頭を押さえながら思い出そうとするわたしをアイティが止める。


「待て、無理をするな」

「で、でも……思い出さないと……」

「その女神は、たとえリオンが覚えていなかったところで鼻で笑うだけだ。気にしなくていいし、気にするだけ無駄だ」


 アイティの言葉に引っ掛かりを覚える。けれど、それを手繰り寄せる前にスルリと逃げていくのだった。

 思い出そうとしても痛みが遮ってくるので、わたしは考えるのを諦めた。途端、痛みが引いていく。……わたしはその神様に何をされたのだろうか。いや、アイティの言葉が正しいなら加護をもらったのだけど、何故こんなことに……?


「……出来るだけ早急にリオンの強化が必要だな」

「え? 何を急に?」

「…………ウェルシュとの戦いでそんなボロボロになられて、見過ごせと言うのは無理な話だと思わないか? この先、ウェルシュ以上の強敵が居ないとでも?」

「うぐ」


 今回は作戦がハマって――いや、言っては悪いけどウェルシュの戦い方が微妙なおかげで何とかなったのだ。今後も強敵と遭遇するたびに上手く事が運ぶとは思わないし、思ってはいけない。増長してはそれこそ油断しまくったウェルシュのように格下に返り討ちされる可能性もある。

 アイティが参戦すればウェルシュ戦の結果は大きく変わっただろうけど、それもウェルシュ級のモンスターが複数出てきただけで危機に陥る。冥界は多くのモンスターがはびこっているし、同士討ち?を続けてゲームの時より遥かに強くなっているモンスターだって居るだろう。わたしが弱いままで安心出来る要素は何一つないのだ。

 ――そう納得してしまったわたしは、アイティが微妙に話を逸らしたことに気付かなかった。


「まずは手始めにこれだな」


 アイティが手を伸ばし、正座したままのわたしの頭に添える。また撫でられるの?と思ったけど、そうではなく。

 ゆるりと、暖かいモノがアイティの手を通じて注がれるのだった。


「これ……光神アイティの加護?」

「そうだ。まだ私が回復していないので、知識面は後回しで身体面だけだが」

「……」


 出来れば先に知識が欲しかった、などとはこのような状況下では言えない。言ったらケガで免除されたこめかみグリグリ刑が発生してしまう。

 アイティの知識面での加護は主に光属性アイテムの作成にプラス補正が掛かるのと、地理せかいについての知識だ。世界地図を手に入れるようなものとでも言えばいいだろうか。村の位置とかはわからないけれど、例えば大陸の端っこに意味ありげな穴が開いていて隠しダンジョンの入口だったりするのだ。まぁゲーム的要素なので、現実アステリアでどう反映されるのかはわからないけど。

 身体面での加護はLPライフポイントの上限が増える。つまり単純に死ににくくなる。……ある意味ピッタリな内容か?


「どうだ。体におかしなところはないか?」

「んー……特にないかな。でもなんだか体がポカポカする」

「ネフティーの加護と合わさって体が活性化しているのだろう。傷の治りも早くなるはずだ」


 上限値が増えたことで自然回復量も増えたようなものだろうか? 相乗効果が出るのはありがたいな。

 最後にアイティはわたしの頭を一撫でしてから手を離す。……やっぱり撫でるのか。別にいいんだけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] >刹那、脳裏を痛みと共に『闇』が過った。 フリッカ「そんなものより、私の姿をよぎらせてください」(闇を抱えた瞳) >何だろう……大事なことを忘れている、ような。 フリッカ「っ!! っ…
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