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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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先行きやや不安

 ご飯も食べ終わって今日はもう寝るかーとなった時、少々トラブルが発生した。


「アルバ? 大丈夫?」

「グァ……」


 溜まった疲労が噴き出したのか、ひょっとしてわたしの作ったご飯に中りでもしたのか、アルバがぐったりし始めたのだ。ポーションや万能薬が欲しいかどうか聞いても要らないと首を振る。何か他にアイテムは……ちゃんとした意思疎通が出来ないのはこういう時に困る。

 如何ともしがたい事態にオロオロしていたところ、アイティが溜息を吐きながら「落ち着け」とわたしの肩に手を添えてきた。


「まさかリオン、気付いていないのか?」

「気付いて、って……何に?」

「……さっき聖水を撒いただろう。ドラゴンゆえ一般のモンスターほどではないのだとしても、調子が悪くなるのは当然のことだ」

「あっ」


 聖水を始めとする聖域作成アイテムを撒いて聖域化することでモンスターを寄せ付けなくするのは、この世界(アステリア)における一般常識であり最大の防衛策だ。それなのに、アルバに効果があることは無意識に頭から外れてしまっていた。……と言うのも。


「……うちのゼファーは平気そうにしていたけど……」


 幼生体であってなお神様たちの像を祭っている祭壇に居てすら平気なのだ。だからドラゴンなら大丈夫なのだと思ってしまっていたようだ。

 あ、いやでも待てよ? ゼファーは祭壇に常に居るわけじゃないし、拠点の自動聖水散布装置は基本的に夜に稼働する。しかし夜はゼファーの寝床が離れているのであまり関わっていない。わたしが目撃していないだけで、実は寝床で同じようにぐったりしていた可能性もあるのか……?


「そのゼファーとやらについては知らないので何も言えないが、このアルバの場合は三つほど私なりの仮説はある。一つ、単純に弱い。二つ、冥界育ちで日の光を浴びておらず聖属性耐性がほとんどない。三つ、アルバの種族が聖域に対して特別に弱い」

「……あー……なるほど」


 アイティが指を立てながら挙げていく仮説がどれもそれっぽい感じがして納得してしまった。ゼファーとアルバでは状況が違いすぎて、ゼファーが大丈夫でもアルバが大丈夫とは限らないと言うことだ。当然のことか。

 強者に代表されるドラゴンであっても、よわよわドラゴンのアルバは一般モンスターのように影響を受けてしまうことだって大いにある。冥界育ちなら聖属性とはほぼ無縁だろう。あ、最後の仮説に関してはアルバは首を横に振ってる。どうやら元々の体質ではないらしい。

 何にせよ困ったな……。寝る時に聖域化しないのはありえないし、ただでさえ弱いアルバを聖域の外に出させるのもな……と頭を悩ませるわたしをよそに、アイティは厳しくアルバに告げる。


「神子であるリオンと共に居ることを選んだ時点でこの程度の覚悟はあっただろう。耐えろ」

「……ガァ……」


 早速アイティのスパルタ教育が始まったようですよ……? いや今回はわたしのせいか。


「どのみちこれに耐えられぬようなら現世に戻った時が冥界以上の地獄になる。リオンもあまり甘やかすな。むしろ耐性を付けさせるくらいの気概でいろ」

「…………そう、だね……」


 冥界から脱出する時にお別れするなら別だけど、一緒に現世まで来る気があるのなら耐性は必須だ。夜以外ずっと地下に居させるわけにもいくまいし、夜は夜で聖水が撒かれて同じ状況になるのだ。

 辛いだろうけど、頑張ってもらうしかない。


「……グル」

「――」


 アルバは寒いのか、遠慮がちではあったけど、震えながらわたしに体をこすりつけてきた。

 ……そのザラリとした感触で……ふとウルの尻尾を思い出してしまい。

 わたしはこみ上げてきそうになる涙を誤魔化すように、アルバに毛布をたくさん掛けてやるのだった。


 ……ウルはわたしが居なくてもちゃんと寝れているのだろうか?

 フリッカがフォロー出来る範囲ならいいんだけど……。



 xxxxx



「ウルさん、大丈夫ですか?」

「……うむ……」


 じとりとした湿気を孕む夜であるのに、ウルさんは寒そうに体を震わせています。縋りつくリオン様は未だ戻らず、私には声と毛布を掛けてあげることしか出来ません。……私も寒さを覚えることがありますがそれは精神的なもの、ウルさんの寒さとは性質が異なるのでしょう。それゆえ、リオン様不在の今でも同じベッドで就寝していますが、手を重ねるくらいでそれ以上はお互いくっ付くことはしていません。

 ウルさんの額に手のひらで触れる。熱さはなく、どちらかと言えば冷たい。でもウルさんの不調はただ寒い――体温が足りないのではなく、その証拠に何をしてもぐたりとするばかり。リオン様も常々不思議に思っていましたが、一体何が原因なのでしょうか。


「寒くてリオン様にくっ付いていたわけではないのですね……」

「……いや、寒さもあるには、ある、が……」


 頭が回らないのか、舌が回らないのか、もごもごと口元を動かすウルさん。不調なので急かすようなことはせず、ジッと待ちます。


「……リオンが近くに居ると、安心するのだ」

「それは……私もそうですね」

「……これに関して言えば、ぬしのとは、違う……と思う」


 違う、ですか。

 私はリオン様を愛しています。ウルさんも、私とはいささか方向性を異にしていても同様でしょう。

 それでも、一緒に居ると安心である、幸せである――その感じ方は同じだと思っていたのですが……。


「リオンの……纏う気配が、な」

「……それであれば私も同じだと思うのですが」

「気配……言い換えると、力……であろうか」

「えぇと、神子としての……創造神様の力の話ですか?」


 もしや人柄でなく……神子、ひいては神様の力に惹かれていた、と?

 ……いえ、ウルさんに限ってそれはないでしょう。普段から創造神様を始めとする神様方をある程度敬っていても、畏れてはいませんので。神様方も気にしていないので問題は発生していないものの、よくもまぁ対等のように接することが出来るものです。……私も私で良くも悪くも慣れてきてしまっているので、あまり人のことは言えないのですが。


「つまり、ウルさんの種族が創造神様に関係していると言うことでしょうか……」

「……」


 ウルさん曰く過去の記憶がないとのことで、ご自身の種族すら未だ判明していません。しかし、昼は平気でも夜だと体調を崩す、それこそ創造神様ひのひかりに関係していそうな特徴です。

 ですが……自分で言っておきながら何処かしっくりときません。ウルさんも肯定しないので外れなのかもしれません。


「……まぁ、そのうちに慣れるであろう。……それまで、手間を掛けさせてすまぬ……」

「それは構わないのですが……これまでずっと慣れなかったのに、急に変わるものでしょうか?」

「我が思うに……今までがリオンに甘えすぎていたのかもしれぬ」


 ウルさん曰く、少しずつ前進してきたかと思えば、いつしかリオン様の持つ力が大きくなって無意識にそれを享受して後退していたのかも、とのことで。リオン様も日々精進して神子としての力を磨いて成長しているから、でしょうか。少しばかり皮肉を感じないでもありません。


「非常に辛そうですし、慣れる方が断然良いと思います。……けれども」

「……けれども?」

「ウルさんがリオン様に甘えなくなると、きっとリオン様は残念がるでしょう」

「――。……ははっ……」


 私は至極真面目に言ったつもりでしたが、ウルさんには笑われてしまいました。いえ、バカにしているわけではないのはわかりますが。


「主も主で、心が広いものよな。我にはよくわからぬが……つがいは、独占したくなるものでは、ないのか?」

「あぁ……。ウルさんに独り占めされるようなら困りますが、そのようなことはしないでしょう? リオン様とウルさんのやり取りが私にとっても微笑ましいと言うのもあります。それに――」


 私は出かかった言葉を一度呑み込み、別の理由を口にする。


「リオン様が、それでも私を愛してくださっているとわかっていますので」

「……なるほど……そう言うものか……」


 それから間もなくして、ウルさんは寝息を立て始めました。私は改めて毛布を肩まで掛けて冷えないようにします。

 昼間は無双の力を発揮するのに、こうして寝てしまえば随分とあどけなく幼い。リオン様が庇護欲に駆られるのもわかる気がします。その点を妬んでいるわけではありません。ただ……胸の内に羨望の気持ちは、あります。

 私が呑み込んだ言葉……それは。


『私にはむしろ、リオン様とウルさんの方が番に見えます』

フリッカはアルネス村がアレの影響もあって一夫一妻にこだわりないですしね。さすがにハーレム作られると困りそうですが、リオンにそこまでの甲斐性があるかというと……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「寒くてリオン様にくっ付いていたわけではないのですね……」 >「……いや、寒さもあるには、ある、が……」 >「リオンの……纏う気配が、な」  (((゜_゜)))………………むぐむぐむぐむ…
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