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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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二人から二人と一匹に

 わたしの宣言の後、アイティはしばらくの間考え込むように腕を組み……ポツリと呟く。


「……モンスターであっても、か?」

「モンスターであっても、だよ。冥界生まれならヒトに害を与えたこともないだろうし、むしろヒトであっても自分の子を殺して素材にするような人でなしよりはよっぽど助けたいと思える相手かな」

「……」


 極端すぎる例を挙げたことでアイティが口元を歪めたけれど、偽らざる感想なのだから仕方ない。

 とは言え、わたしがいくら助けたいと思っても、アイティが是としなければ成立しない話ではある。わたしと彼女は一蓮托生なのだから、わたしの一存で決めてはいけない。……そう、頭でわかってはいても。


「事はわたしだけの責任に収まらないどころか、むしろアイティの方により負担が掛かってしまうと思う。それでも……」

「リオンの意志はわかった。……貴女はしばらく口を挟まないでくれ」


 え? と疑問の声を上げる間もなく、アイティは今度はドラゴンに鋭い視線を向ける。それを受けたドラゴンは大きな図体なのにビクリとしていた。……わたしもハラハラしてきた。


「決して、ただ施しを受けるだけの存在に成り下がるな。たとえ幼生体であろうと、この冥界においては弱者のままで甘んじることは許されないし、生き残ることは出来ない。……それくらいはわかるだろう?」

「……グァ」


 警告のような、啓蒙のような、アイティの言葉におずおずと頷くドラゴン。

 ……アイティが言ってた通り、このドラゴンは現状では足手まといであるし、冥界は戦えない者を守りながら切り抜けられるような生温い場所ではない。ずっとヨタヨタとくっ付いてくるだけであれば、遠からず誰かが傷を負うことになるし……最悪、死んでしまうのだ。


「強くなる努力をしろ。せめて自分で自分を守れるくらいになれ。可能であればリオンを守る盾になれ」


 前半二つは頷ける。でもわたしは盾になってほしいわけじゃないんだけど……と突っ込もうとした直前、アイティに睨まれて口を噤む。


「このバカ者――もといリオンはお人好しすぎる。これが当然だと思うな。善意に胡坐をかくような愚か者であれは……私が貴様を叩き斬る」


 ヒエッ。

 アイティは至って本気だ。最後のセリフに、傍で聞いてただけなのに寒気がしてしまった。バカ者と言われたことに反論も出来やしない。

 ドラゴンもさぞ恐ろしい思いをして……ないな。ものすごく真面目に頷いているな。さては弱いだけでこの子も真面目系か……? 不真面目だとそれこそ斬られるだけだから、その方がいいんだけども。

 しかしアイティは厳しいなぁ。真面目系女神様ゆえに自分に厳しくしている面は多々目撃している。けれども、わたしには割と……いやかなり甘い気がするのに。神子とモンスターの違いだろうか。


「……何か妙なことを考えていないか? あぁ、もうしゃべってもいいぞ」

「いや、妙と言うか……」


 つい先ほど思ったことを口に出すと、アイティは何故か驚いたような顔をしていた。


「……私は甘い対応をしているのか?」

「え? 自覚してないの?」


 わたし自身、自分がどれだけモノ作りバカか自覚はしている。なお、自覚していても直すことは出来ない。

 アイティにもそれは伝わっていることだろう。それなのに厳しく矯正されるでもなく注意を受けるだけ(たまにこめかみグリグリ付き)であるし。この辺りはどの神様にも言えることだから、共通の性質なのかしらん……?

 そして駄目押しの、ついさっきの『リオン(わたし)を守る盾になれ』とか、甘いとしか言いようがないのでは?


「ま、まぁ……その点は情が移っているのもあるだろう。ところで、一応聞くが……矯正される気はあるのか?」

「…………ないかもね?」


 後半はジト目で尋ねられ、そっと目を逸らしながら答えるわたし。『ハッ』と鼻で笑われる音が聞こえた。

 ……うん、何もかもわたしが悪いのかもしれない。



「えぇと、このドラゴンを連れて行ってもいいってことなのかな?」

「そうだな。そのドラゴンが真面目に努力する範囲において、であるが」


 逸れた話を戻す。

 強くなると言う結果ではなく努力すると言う過程を求める辺りは温情だろうか。出来ない(かもしれない)ことを出来るようになれと言わないのはこのヒトの美点だな。……わたしの矯正に関しては諦められただけだろうけど。


「と言うことで、改めてよろしくね」

「グァ」

「けど、ずっとドラゴンって呼ぶのも何だな。……名前……は聞いても答えられないよね。実はしゃべれたりする?」


 わたしの問いに案の定首を横に振るドラゴン。残念だ。

 呼ばれたい名前はあったりするか、それともわたしが適当に決めるかと聞くと後者に頷いた。うーん、ゼファーみたいに種類から文字って決めるにも……。


「アイティ、このドラゴンの種類はわかる?」

「……ここまで見すぼらしい姿になられるとな」


 ですよねぇ。わたしもサッパリわからない。ゲームに存在していた種族とも限らないし。

 特に大きな特徴があるわけでもないし、シワシワの灰色のドラゴンってこと以外は何もわからない。

 灰色……地かもしれないけど、健康的になったら元は白だったりするのだろうか。白い……ドラゴン……。


「――アルバ」

「何か由来でもあるのか?」

「えっと……白い竜、アルビオンをもじった名前だよ」


 まぁ、こんな名前を付けると赤い竜(ウェルシュ)と戦うフラグが立ちそうな気がしないでもないけれど。さすがにそんなことは……ないよね?

 ウェルシュを見かけたのは最初のうちだけだったから、もう遭遇しない……と思いたい。……考えれば考えるほどフラグになりかねないな。やめよう。


「ってことで、アルバ。それでいい?」

「グア゛ァ」


 嬉しそうに頷くアルバにわたしは満足し、その傍らで複雑な顔をしているアイティに気付くことはなかった。



「さて。話が終わったところでいい加減ご飯を食べようか」


 ダンジョンでの戦闘後にちょっとお茶を飲んだくらいなのでお腹が空いてしょうがない。それにアルバが強くなるには第一に、ゲッソリしたいかにも軟弱な体を何とかしなければいけないだろう。

 そういう体質であればどうしようもないのだけど、まずは栄養を与えてみることにした。ゼファーやヘリオスの件でモンスター(ドラゴン)でも普通の食事をすることはわかっている。

 モリモリ……とはいかないのは胃腸も弱っているのかもしれない。でも、美味しそうに食べているのでひとまずそれで良しとした。


「……何とも妙な空間だな」

「? 何が?」

神子ヒトと神とモンスターが同じ食事をしていることが、だ」


 それは地神も言ってたなぁ。モンスターと一緒に居ること自体が普通ではないので、珍しくもなるでしょう。


「えっと……落ち着かない?」


 アイティの了承を得られたとは言え、わたしのワガママを通した形なのだ。もしこれでアイティのコンディションに影響が出るようならわたしがちゃんとケアしなければいけない。

 そう心配しての発言だったのだけれども、幸いにしてそうではなく。


「いや……昔を思い出した」

「え?」

「リオンはヘリオスの件で知っていると思うが、ずっとずっと昔には、そう言うこともあったのだ」


 あー……ヘリオスは火神の友達なんだっけ。光神アイティもヘリオスと友達、もしくは似たような誰かが居てもおかしくはない、か。


「もちろん全てのモンスターが友好的と言うことはまずないのだが、極一部はな」

「……」


 ポツリと語るアイティの横顔は懐かしむようであり。……悼むようであり。

 ひょっとしたら……アイティの友達だったモンスター(だれか)は、死んでしまったのかも、なんて思い。

 ……ふと、こんな言葉けついが、零れた。


「ねぇアイティ」

「何だ」

「……わたし、頑張ってアステリアを平和な世界にするよ」

「――」


 アイティは息を呑み。しばらく時を止めたかのように動かなくなった。

 あまりの反応のなさに『大言壮語だっただろうか』と恥ずかしさがこみ上げてきたのだが。やがて。


「……ありがとう」


 出会ってから一番の、柔らかな笑顔を見せるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 返事の返事失礼しますね  そそ。 まだゲームだと思ってたリオン時代で、最初の方の。 >そして「現実」を知る  で、拠点に神像を建てた直後に降臨して、救ってくれと直接言いに来てましたよ?…
[一言] >「……わたし、頑張ってアステリアを平和な世界にするよ」 そーぞーしん「………………っ!!?」  それ(救って欲しいの)を最初にお願いして了承してくれたはずなのに、ここで改めて宣言され…
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