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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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やらかしと帰還に向けて

 自分の指先すら見えない無明の闇。

 一呼吸する毎に肺が冷やされ、血管も凍ってしまいそうな寒気。

 周囲には誰も居らず、何もなく、孤独。

 踏みしめる地すらあやふやで、立っていられずに膝から崩れ落ちる。

 自己が保てずに、輪郭が闇に溶け出していく。

 身を守るように抱き締めてみても、隙間からどんどんと零れていく。

 なくなっていく。


 ――わたしは……だれだっけ……?


 唯一残されていた意識が消え去ろうとしたその時。

 コツリと、小さな音がして。

 のろのろと手を伸ばしてみれば。


「……着火石?」


 呟きながら無意識のうちにMPまりょくを流すと、小さな小さな明かりが灯り。

 その暖かさに、ホゥと、吐息を漏らし――



 目が覚めた。


「…………………………あれ?」


 自分の声なのにやけに遠く感じる。


 えぇと……何だっけ?

 確かあの後はひたすらモノ作りしてて……眠気が限界になったので寝たんだっけか。

 変な夢を見た気がするけど内容が思い出せない。まぁ思い出せないってことは大したことがないんだろう。

 今朝(太陽がないから朝とかないんだけど)はめっちゃ寝ぼけてるなぁと思いつつ、体を起こそうと身じろぎすると。


「……起きたか」

「ふぇ……?」


 間近で、囁くような声がした。

 どうやら本格的に寝ぼけているらしい。その声に聞き覚えがなくてしばし混乱したけれど、そう言えば先日に光神アイティと合流したんだっけ、とゆるゆる記憶がよみがえる。

 おはよう、と手を挙げようとして……その手が何かを掴んでいることに気付いた。柔らかくて暖かい、でも寝袋とは違う感触。

 何だろうと首を傾げてから視線で辿り、それが何なのか判明した瞬間、一瞬にして脳が覚醒した。


「ご、ごめんなさいっ!?」


 わたしは掴んでいたモノ――すぐ傍に座っていたアイティの体から飛び跳ねるように離れた。

 掴まれていたアイティはハァと溜息を吐いてから体をほぐしている。え、ど、どんだけ掴んでたの……?


「あの、その、寝ぼけてたみたいで……」

「そのようだな」

「ペイって引き剥がしてくれてもよかったんだよ……?」


 気恥ずかしさのあまり誤魔化すようにそんなことを言ったら、アイティはどこか困ったように眉根を寄せて。


「……泣いて縋りつく子どもを跳ねのけるほど、私は鬼ではないつもりだ」

「……はい……?」


 泣いて……? え?

 そろりと自分の頬に手を伸ばしてみれば、ヒヤリとした感触。……涙の跡。

 ……うええええええええっ!?


 つまりなにか?

 わたしは寝ながら泣いてた挙句に、無意識にアイティに縋りついたと!?

 恥ずかしすぎるわそんなもん!! 穴があったら入りたい! いやこの場がすでに穴だ!


 ハッと脳裏にフリッカの顔が過る。

 ……これって一種の浮気になるのだろうか……? な、ならないと思いたい……。何故かウルが相手ならフリッカもどうぞどうぞってなるのだけど……いやそんなことしないけど!

 わたしはアイティに恋愛感情なんてもちろん抱いてないし、そもそも相手は神様だ。


 羞恥心と罪悪感で人目もはばからず身悶えしたくなる衝動を必死に抑えつつ、絞り出すように言う。


「……わたしは言うほど子どもではないので、次からは跳ねのけてもらってもイイデスヨ」

「……子どもではない、ねぇ?」


 ジロジロとアイティに全身を眺められ、鼻で笑われてしまった。むきー!?


「あ、アイティこそ見た目子どもじゃない! わたしは神子で不老だからこれでも二十一だし!」

「……神に向かって見た目と年齢の話をするとはまだ寝ぼけているのか? それを言い出したら私は数百歳だし、私からすれば十分に子どもだよ」

「そうだった!」



 などと言うアホみたいなことを朝(?)からやらかしつつ、精神を落ち着けてから朝食へと移る。


「しかし……二十一か。思ったより若いな」

「よく言われます……」

「いや、言動が幼いので意外でもないのか? 神子としての能力は高いのに、随分とアンバランスだな、リオンは」


 ……なんですかねぇ。わたしの中身も見た目に引きずられて子どものままなんですかねぇ……? 風神ひとのこと何も言えませんね……?

 カミルさんも年齢的には初老に近いのに、普通の若者っぽい言葉……ではあるけれど、落ち着きはあったよな。やっぱ人生経験の違いか……いやつまりわたしはこれからと言うことだ。今後落ち着きを持てばいいんだ。


「それで、今後の話なのだが」

「うぇっ? ……あ、は、ハイ、なんでしょう」

「? 先日は聞きそびれたが、冥界ここでリオンはどのような状況だったのだ? 私はどうすればよい?」


 そう尋ねられても、基本的に最終到達点は一つだけだ。

 すなわち、トランスポーターを使用出来る状態にすること。

 その過程には大きく二つあって、一つはすでに作成されているものを探す。もう一つは素材を集めて作る。


「でも完成品にしろ作成素材にしろ、探索していくしかないね」

「なるほど」

「後はアイティに回復してもらって、光属性触媒を生み出すなり昇華させるなりする、かな。冥界で地道に探すよりは早い……と思うけども」


 わたしが目で問うと、アイティは自分の手を見つめて握ったり開いたりし始めた。難しい顔をしている。


「……何か問題とか、ある?」

「……体を変化させた弊害で力の発揮に支障があるかもしれない。が、実際にどうなるかは不明だな」

「あー……。まぁ、ムリだったら地道に探すだけだから必須ってわけじゃないし。気楽にね」


 神様だからって期待しすぎて心理的負担を増やすのはよろしくない。相性最悪の場所なのだし。

 元々わたし一人でも時間さえかければ解決出来る問題だったのだ。戦闘の手が増えるのはもちろん、わたしの心理的圧迫感が減るのもかなり助かる。……さっきのアレはさておき。

 ……と、戦闘と言えば気になるところがあったな。


「ちょっと武器を見せてもらってもいいかな……?」

「ん? ……まぁリオンならいいだろう。ほら」


 アイティはわたしの要望にすんなりと頷いてくれて、オルトロスゾンビ戦でも使用していた大剣を取り出し手渡してくる。

 ズシリと重みがあることもだが、剣そのものが纏う神気に気圧されてごくりと唾を呑み込んだ。


火神ヘファイストが鍛え、私が力を籠めた光剣クラウ・ソラスだ」

「おぉ……」


 火神と光神が共同で作成した、アステリアにおける最高峰の品物にして文字通りの神器。神子が目指すべき極地。

 それを目の当たりにして、わたしは体に震えが走る。力強さに、美しさに魅せられて目が離せない。

 しかし、まじまじと見つめたことで気付くこともある。


「微妙に、曇りがある?」

「……気付いたか。私が弱体化したせいだな」


 つまりアイティは肉体的なモノだけでなく神力?的にも今はこれを十全に扱えない状況にあるわけか。

 バフをかければマシになるようだけれども、逆に言えばバフがないと危なっかしい。常時バフをかけるのは可能だけれども……消費は抑えたい。


「えっと……強敵が相手の時はともかく、それ以外は代わりにこれとか使えないかな?」


 取り出したのはわたしが作成したなんちゃって聖剣。光剣クラウ・ソラスと言う最上を見た後だとへっぽこすぎるけど、聖属性だし長さも今のアイティの体格には合う、はず。


「ふむ。よく出来てはいるが……荒いな」

「……ですよねぇ」


 ウェルグスさんに鍛冶のいろはを教わっているけれど、こればかりは一朝一夕にはいかない。鍛冶だけ練習しているわけにもいかないし。

 うぬぅ、火神の加護がほしい……いやいや、加護に頼らずとも珠玉の逸品が作れるように精進せねば……。

 やっぱやめ、と返してもらおうとする前に。


「だがリオンの意志はしっかりと籠められている。ありがたく使わせてもらおう」

「え? そ、そう?」


 表情を見るにわたしに気を使ってるわけでもなさそうだ。本(にん)がそう言うなら使ってもらうか……ダメだったら自分の武器を使うだろうし。


「後は各種アイテムを渡しておくから好きに使ってね。ご飯系、聖水、各種ポーション、バフアイテムデバフアイテム――」

「……」


 次々にアイテムを積んでいくわたしに、アイティが妙に遠い目をしたとかしないとか。

 多い? わたしには物足りないって感じるんだけどなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「あ、アイティこそ見た目子どもじゃない! わたしは神子で不老だからこれでも二十一だし!」 >「……神に向かって見た目と年齢の話をするとはまだ寝ぼけているのか? それを言い出したら私は数百歳…
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