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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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一人から二人に

 地上に出て、いつものように地下シェルター風の安全地帯を作成して二人で籠もる。わたしがあれこれアイテムを使用したことで光神――アイティに「そんなに使って大丈夫なのか?」と眉を顰められたけど、「軽く一年分は在庫があるから大丈夫だよ」と返したら眉間を揉む仕草をされた。さすがに自覚してきたけど、わたしのアイテム貯蔵量は神子であることを差っ引いても非常に多いらしい。わたしからすれば『歴代神子はもっと頑張ろう?』って感想なのだけども。


「さて、ご飯作るよ。何かリクエストはある?」

「またあっさりと……リオンの相手をしているとここが冥界であることを失念してしまいそうだ。しかし、リオンは随分とわたしをヒトのように扱うのだな?」

「え? 対等の相棒とでも思ってくれ、と言ったのはアイティだよね? ……いきなり馴れ馴れしすぎた? 処す?」

「ショ……? ……私から申し出たのに処分などするわけないだろう。そういう話ではなく――」


 アイティの見た目が若いこともあって、ついウルを相手にするようなノリで接してしまったけれど、それが悪いわけでもなかった。

 どうやらアイティも神として供物を捧げられたことはあっても、一緒にご飯を食べようと言われたことはないらしい。……何だか神様って随分寂しい神生じんせいを送ってるんだぁ、と思うのはわたしの中身がただの人間ヒューマンだからだろうか。フリッカ辺りには『神様相手にそのようなことが出来るリオン様が変わっているのです』とか言われそうだけども。


「でもご飯を食べないわけじゃないんでしょ? 地神様たちも美味しそうに食べてくれたよ」

「あぁ。食べるには食べる……って、レーアも無事なのか」


 特に嫌いな食べ物もないとのことで適当にメニューを決めて作成する。アイティが口を付けるまでやや緊張したけれど、美味しいと言ってくれたのでホッとしてわたしも食事を開始。食べながら、わたしはわたしの知っている話をザックリと話していく。

 最終的に六神全員が封印されてしまったこと。昨年、創造神によりわたしが作られた(よばれた)こと。話すかどうか迷ったけれど、わたしの肉体が神造人間ドールで精神が異世界出身の魂であることまで。突拍子もない話を聞かされたアイティは想像通りに目を丸くするが、ホラではないかと一笑に付すことはなかった。

 神子として活動をしながら、地神、水神、風神を解放していったこと。拠点の皆の話や、ゼファーやヘリオスの話もしておいた。光神はどれも茶化すことはなく、真面目に聞いてくれた。


「……自分で説明しておいて何だけど、疑ったりしないの?」

「ん? 疑わないさ。リオンが真実を話していることくらい、今の弱体化した私でもわかる。……まぁ、ずっと停滞――じわじわと悪化し続けた世界を、こうも短期間で持ち直させていることには驚きを禁じ得ないがな。リオンの出自を聞いた時はプロメーティアは何てことをしてくれたのだと思ったものだが、実際には慧眼を褒めるところでもあったか」


 ……まぁ、魂を二つにして元の世界には何ら影響がないとは言っても、一種の人さらいのような……って言うのは失礼か。わたしが深く考えずに乗ったのも原因の一つだ。それに、元の世界に全く未練がないとまでは言わないけれど、今の人生にも結構満足しているので問題ではない。


「それで、神たち(みんな)の様子はどうなんだ? 元気にやっているか?」

「うん、そうだね。……元気すぎて奔放すぎるのが風神様なんだけど」


 偶に会う創造神と、神様ズの拠点での言動も色々と話していく。アイティは最初は嬉しそうに聞いていたのだが、水神と風神の姉兄発言の辺りで頭を抱えるのだった。


「……すまない。リオンには迷惑を掛けているようだな……」

「あはは……アイティが謝ることでもないよ」


 ありがたい(?)ことに、真面目系女神様だけあってアイティは常識(じん)枠のようだ。いやまぁ地神も同じように頭が痛そうだったけれども、あのヒトもお酒が絡むと途端にダメ神になるからなぁ……。


「重ね重ね、本当にすまない……。まさかここまで規律が乱れていようとは……! 私が帰還した暁にはビシっと言ってやらねば――」

「……」


アイティはよっぽどダメージを受けたのか、目を据えてブツブツと何事かを呟き始めた。

 とは言え、神様たちがアレなのも、わたしの影響を受けていそうな気がするのが申し訳ないところである。同じ神子であるカミルさん相手にはキチっとしているのだから。わたしが気安いせいで神様たちもざっくばらんになってる気がするんだよねぇ……。もっと敬意を持てと怒られたことはないんだけど。いやでも『お姉ちゃんと呼んで』だの『メルお兄さんと呼んでくれても』だの、何故かわたしを妹扱いしてこようとするあっちも悪いよね……?


「……そもそもの切っ掛けはリオンだと思うぞ」

「えっ」

「リオンの肉体が一般の神子とは異なりプロメーティア謹製であることも大きいだろうが……このように私たちをヒトと同じように扱うから、私たちを上に置かず同じ位置に居るから、皆もつい同じ目線で見てしまうのだと思う」


 アイティが自分に差し出された食事(した後の空の皿)を指して言う。同じ釜の飯を食うみたいな感覚なのかしらん……? でもなぁ、その程度でなぁ?

 と首を傾げていたら、アイティは静かに首を横に振り、複雑な表情をする。


「『その程度』のことを、他の誰もしなかったのだよ。……まぁこれは私たちの方にも壁があったのだろうな」


 ……この世界(アステリア)の神様は元の世界の神様と違って目の前に実在しているからねぇ。へっぽこ神子なわたしと違って、弱体化中のアイティですら神様オーラが漂っているし、『超常の存在』であると住人は嫌でも実感してしまい、畏れ、敬ってしまうのだろう。

 わたしは元々無神論者のせいか、根本から感性が異なっている。それなりに敬意はあるし、上位存在とも理解しているけれど……ひょっとしたら、未だにわたしはこの世界(アステリア)に馴染めていないのだろうか……?


「そうではないと思うが……まぁこの話は置いておこう。ただ一つ言えることがあるとすれば、貴女はそのままでいい」

「………ほんとにぃ? 助けられたひいき目とか入ってない?」

「ないとは言い切れないが、神たちが誰も矯正しないのだから、それは問題ないと言うことだ」


 馴染むも何も、わたしがこの世界に来てから一年ちょっとだしなぁ。特に目くじらを立てられるようなことでもないなら、ゆっくり時間に解決を任せればいいか。



「アイティ。今日はもう休んでいいよ。これまでずっと独りで行動していたのだから、ろくに休んでないでしょ?」

「え。いや、私は特には……リオンこそ休んでないのでは?」

「毎回この状態にしてるから、割とグッスリだよ?」

「……そうか」


 あ、なんか『図太いな……』って顔してる。合ってるけどね!

 事実わたしはしっかりと休んでいるし、光属性触媒のためにもアイティには回復してもらわないと困る。そうキッパリ主張すると、渋々と言ったていでわたしの用意した寝袋に触れ……何やらはしゃぎだした。


「何だこれは? 触り心地がとても良いぞ……!」

「あぁ、スライムマットレスだね」

「……スライム……だと?」


 アイティもフリッカと同じくスライムが苦手なのかな? 集られる前に吹っ飛ばしそうな絵面しか浮かばないのだけども。……逆にスライムが好きな女性と言うのもとても響きが悪い気がするな。げふんげふん。

 素材の正体に逡巡していたが、諦めて寝袋の中に潜り込むアイティ。少しもぞもぞとしてから大した間もなく眠りについた。特には、と言ってたけどやっぱり疲れていたんだなぁ。


「……」


 会話がなくなったことで静寂が訪れる。

 ……けれども、わたしは……久々に独りではなくなった。たとえその相手が神様だとしても、孤独でささくれた精神を癒してくれて。この先の光明すら見えて。光属性の神様だけに? ……ごほん。


「わたしがモノ作りすればするほど回復も早いって地神様が言ってたな」


 理由などなくともモノ作りはするんだけれどもね。もはや魂に刻み込まれたかのような習性だから。

 わたしは少しでも早く、多く、アイティの力が回復するように祈りを籠めて。起こさないよう静かにモノ作りを開始するのだった。

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[一言] >まぁこの話は置いておこう。ただ一つ言えることがあるとすれば、貴女はそのままでいい 電波を受信したフリッカ「いいえ、変わってもらわなければ困ります! リオン様にはもっと私へ積極的になって頂…
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