色々抱えつつも、また次へ
ひょっとしたら後から修正するかもです…。
「久しいですね、神子リオン」
「お、お久しぶりです、創造神様」
創造神は祈りの姿勢のままで居たわたしと、隣に立っていたウルを順繰りに見つめて、ふわりと微笑んだ。
「ウル。リオンが大変お世話になっているようですね。御礼を申し上げます」
「いやいや、我もリオンには世話になっているのでな。持ちつ持たれつというやつか?」
いやほんと、まるで母親みたいな挨拶ですね創造神様……ちょっと恥ずかしいですヨわたし。
「ふふ、ではもう少し親のようなことをしてみましょうか」
と、創造神が口にしたかと思えば……わたしの頭にそっと手を置いた。そのまま、ゆっくりと撫でてくる。
実体がないのか感触はない。それでも、わずかながら熱が伝わってくるような気がして。
わたしは脈絡のないその行動に抵抗することもできず、されるがままになっていた。
「あの、これは……」
「……あなたの魂が、少し曇っているようでしたので」
告げられた内容に、すーっと血の気が引くような感覚がした。
「本当に、あなたには迷惑を掛けています。申し訳ありません。全ては、勤めをしっかりと果たせていない私の責です。あなたが負い目を感じる必要はありません」
「どこまで……知って……」
心の奥底に、仕舞い込まれていた小さな傷。
ヒトの命を、奪ってしまったこと。
……では、なくて。
ヒトの命を奪っておきながらそんなにショックを受けていないことに、ショックを受けて。
獣人たちを解放できたことよりも、あの存在が消え失せたことに安堵していて。
直接関わったヒトたちではなかったし、モンスター化してたとはいえ、『自分はこんなに冷たい人間だったのか?』という思いに苛まされる。
「……リオン、あなたは真面目過ぎますね。もう少し緩く考えてもいいのですよ……?」
「その通りだな」
困ったような創造神の言葉に続き、それまで黙って聞いていたウルも参加してくる。
「会話すらしたことのない者たち相手に憐憫を抱けなかったところでなにが問題か。むしろ我などトドメを刺したが後悔などしておらぬぞ」
腕を組んで胸を張っている。胸を張るようなことなのかはなんとも言えないけれど、後悔をしていないのは確かなようだ。
「主が冷たいだと? はっ、主ほどお人好しの者など早々居ないだろうて。会って間もない者の頼みに命を懸けるなど、どれだけの者にできようか」
「さ、さぁ?」
「普通は無理だ、無理! 我もやらん!」
耳を引っ張って耳元で怒鳴ってくる。
「痛いです!」と訴えたら「痛くしてるのだ!」と返しつつも離してくれた。ふえぇ。
「それに真意がどうであれ、あやつらは救われたのだ。もっと『感謝しろ!』と言っても良いくらいだぞ」
「そ、それはさすがに……」
「そして、たとえ主がどのような者であれ、我も主に救われた一人だ。……それだけは忘れてくれるな」
苦笑し、そこまでは図太くなれないなぁと思ったところに、さらに畳みかけられて。
込められた感情に、わたしはそれ以上反論せずに口を噤んだ。
「付け加えると、私もあなたに救われています」
「……?」
創造神が救われているって……なんで?と顔を上げると、神意を纏い厳かでありながらも、どこか人間味のある穏やかな笑顔を浮かべていて。
「平原の歪みを正してくださって、地に生きる住人を救い上げてくださって、ありがとうございます。
アステリアの代表として、この私、創造神たるプロメーティアは、あなたに深く感謝を申し上げます」
あは……は……そりゃ、確かに、あなたは代表を名乗っても、なんの問題もありませんよね……随分とスケールの大きい感謝だなぁ……。
深い慈しみの籠った声は、じわりとわたしの心に沁み込んで。
それに押し出されるように、一滴、涙が零れた。
創造神はなにを言うでもなく静かにわたしの頭を撫で続け、ウルもわたしの背中をポンポンと叩くのであった。
「リオン、あなたにまた一つお願いがあります」
「はい、なんでしょう?」
なんでも聞きますよ? ……すみませんただのノリです、なんでもは無理です。
「この地より東北東にある森の奥地にて、新たな異変が発生しています。過程は問いません。『あなたなりの方法で』構わないので、解決をしていただきたいです」
東北東かぁ。レグルスたちの村とは反対の方向だな。あっちの方にはまだそんなに遠くまで行ってないから、なにがあるかわからないんだよね。
でも、過程は問わない、って……どういうことだろう。
聞いてみるも、創造神は首を横に振って詳細を答えてはくれなかった。ゲーム時代からはっきりとした神託はしない人ではあったけれどもさ。
「あなたの選択を狭める恐れがあるので、今ここで述べることはいたしません。ただ、これだけは覚えていてください。
たとえあなたがどのような選択を取ろうとも、私はあなたの意志を支持します、と」
わたしは創造神の言葉に息を呑んだ。
だって、それは、あまりにも――
「……ずいぶんと、わたしを信用してくださっているんですね……? もしわたしが、とんでもなく『悪いこと』をしたらどうするんですか?」
「ふふ、わざわざそのようなことを言う人は悪さなんてしませんよ?」
いやそうかもしれないけれど、そういうことが聞きたかったわけではなく……と、反論する前に、わかってしまった。
創造神が、本当にわたしを信用していることに。
ふわふわとした笑顔を浮かべながらも、その瞳は揺るぎなくわたしを真っ直ぐと見ていたのだから。
「……なんと言いますか、その信用がものすごく重いですね?」
意識的に悪いことをするつもりはないけれども、結果的に悪いことになってしまうというのはあるかもしれない。
果たしてわたしの選んだ道がこの人の期待に副うことができるのかどうか……不安がにょろにょろと沸いて出てきて胃が痛くなりそうだ。
「あら、プレッシャーをかける気は毛頭なかったのですが……申し訳ないですわ」
この人、天然で言ってるんだろうなぁ……。
デキる美女、しかしてその実態はゆるふわ系とか、ヤダもうそれだけで許せちゃう……わたしの単純思考が憎いよ……。
などとわたしがアホなことを思っているうちに、創造神はウルと会話を続けていた。
「ウル、リオンが潰されそうになってしまったら、どうか支えてあげてください」
「言われずともそのつもりである。と言うか、潰されそうでなくとも助けるのである」
「それは頼もしいですね。よろしくお願いいたします」
そうして、最後にこうアドバイスのようなものを告げてから創造神は消え去った。
――リオン、思考の枷を外してください。あなたが思っている以上に、あなたにできることは多いのですから――
あぁ……聞きたいことが色々あったのになにも聞けず終いだったなぁ……もうちょっと長く話せるように頑張って活動しよう……。
最後のは……えーと……つまり、まだ『ゲーム時代の常識』に縛られてるってことかな?
ゲームのレシピになかったモノが作れることはすでにわかっている。
キマイラ戦でもアイテムの効果が少し違ってきていた。
わたしにできることは確実に増えているし、わたしの考えが及ばないだけでもっと色々できるということなのだろう。
かと言って、なんでもかんでもできるようになったわけではない。
草を石に変化させるようなことはできないし、無から有を作り出すこともできないままだ。
それができたら、「素材がない!」とか悩む必要はなくなるんだけども、現実はそこまで甘くはなく。
うーんうーん……。
「枷を外す、か……。ねぇウル、なにか思いついたりしない?」
「さぁ? むしろ我からすれば、リオンは突飛なことをしていることが多いと思うぞ?」
「えぇー……」
そんなバカな……。
わたしは常識人……と自分で言うのもおかしいかもだけれども、そこまでやらかしてることはない、はず。
錬金実験として適当な組み合わせで作成してみて爆発するとかは結構あるけど、あれはある意味お約束ですし……。
それとも、細工スキル経験値を得るために、ウルの木彫り人形を作ってみようとしたあげく失敗したのがお気に召さなかったかな……? しかしあれは難易度が高かったな。もっと手軽に動物とかから始めるべきだった。
「まぁ一朝一夕でどうにかなるものでもなかろう。思いついたら試す、くらいで良いのではないか?」
「……それもそうかな」
時間が経てばアイデアが浮かぶかもしれないし、外からの刺激であっさりなんてこともあるかもしれない。おいおい考えることにしよう。
「さーって……次の旅の準備をしますかー」
「うむ。我にもできることがあったら遠慮なく言うがよい」
森の奥って言ってたよなぁ。
あー、ダンジョンの中でちょっとだけ鉄が拾えたんだよね。フライパンと鍋と包丁に化けたけどまだ残ってたはずだから、魔石と組み合わせてまずはコンパスを作ろう。
あとは虫よけも地味に大事だし、毒消し類はこの前のが余ってるからいいとして――
こうして思いつく限りの準備をして、わたしたちは森へと向けて旅立つのであった。
第一章終了です。ここまで読んでいただきありがとうございました。
少し閑話を挟んでから二章に入る予定ですが、以降は毎日更新ではなくなります…。
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