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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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アンダーワールド・青

「さむい……」


 赤壁が途切れてしばらくした後、一転して青っぽい、今度はやたら寒い場所に辿り着いた。水中用に耐寒アクセも用意しておいたので問題はないけれど、マフラーの奥でついついぼやいてしまう。静かに移動するべきなのに、独り言が増えてしょうがない。

 吐く息が白く、気を付けないと地面を踏む度にシャリシャリと音が鳴る。霜が降りているのと、冥砂と言うガラスに近い材質の青みがかった砂に覆われているからだろう。大量に吸い込んだら肺に悪そうだし、転んだだけであちこちスパっと切れそうなので注意しないとな。

 空は相変わらず謎の雲に覆われている。ただこの場では雨雲?なのか色が暗く、ポタリポタリとそこかしこに冥砂交じりの雫を垂らしている。おかげで地面は先ほどの岩とはまた違う石筍が雨後のタケノコのように生えていた。

 材質のせいか光を反射しやすく、ヒカリゴケのわずかな明かりですら方々で照り返して乱舞している。いっそ幻想的にすら見える光景に、わたしはこの場に独りであることをひどくもったいないと思った。


「皆にも見せてあげたいなぁ……」


 まぁ、場所が場所なので来たいとは思わないヒトの方が多いだろうけど、と苦笑を零す。でもウルとフリッカなら絶対に来てくれるはず。

 ……寂しさに、寒さが増した気がした。

 わたしは胸の空虚さを誤魔化すように手に息を吹きかけ、こすり合わせて熱を発生させる。大丈夫、生きている。

 力強く足を踏み出し――ザクリと大きな音を立ててしまったことで慌てて首を竦める。

 今わたしは独りだけれども、他に生き物が全くいないわけではない。どこからともなく足?音が聞こえてくるし、時折パタパタと羽音もする。静かなようで、賑やかな。

 つまりは。


 キキッ――


 モンスターも居るわけで。

 運悪くすぐ傍に居たディザスターラットが三匹わたしに向かって襲い掛かってきた。体長が五十センチくらいとモンスターにしては小さいがその分こうして身を隠しやすく、すばしっこい。


「くっ!」


 石筍をジャンプ台代わりにわたしの顔目掛けて飛び掛かる。小盾を出して弾き返し、短剣で斬り裂く。長剣は障害物が多くわたしの腕では振り回せないが、このサイズなら短剣でも十分に通用した。

 その間に背後に回り込むディザスターラットが居たがローブを翻して絡め取り、ローブ越しに刺し殺す。修繕素材はあるから穴が空いても大丈夫だけど、血が付いて口をへの字にすることは我慢出来なかった。


「ぐっ……この!」


 足元を這うようにやってきたディザスターラットに防具を付けていない太もも部分に噛みつかれた。防御力のある素材で作ったボトムスだけれども、冥界アンダーワールドのモンスターだけあって防ぎきれなかったのだ。

 噛みついたまま離れないディザスターラットを上から刺し、無理矢理に引き剥がすように横に振る。体を分断されたディザスターラットはさすがに力を失うが、衝撃で傷口が抉れて痛みに声を上げそうになる。ここで叫んでは周囲のモンスターを呼び寄せそうなので必死に堪えつつポーションと万能薬を振りかける。名前の通りに災厄ディザスターを運ぶネズミであるので、ランダムで状態異常が発生するからだ。

 これで終わりと休むことなく、手早くディザスターラットたちの素材を回収、可及的速やかにかつ音を立てないよう細心の注意を払ってその場を移動した。


「はぁ……あっぶな」


 先ほどの戦闘位置から十分に離れてから大きく息を吐く。

 後方からはギャアギャアと騒がしい声と、争うような音が響いていた。わたしとディザスターラットたちの戦闘音を聞きつけて、鉢合わせたモンスターたちが戦い始めたのだろう。冥界のモンスターは出来るだけ倒して進んだ方が安全であっても、あの数相手に突っ込みたくない。攻撃アイテムぶっぱすれば倒せるけれど、そんなことをしてしまえば攻撃音でエンドレスになりそうだし。

 しばらく待って数が減ったところを叩こうかな?なんて頭を過ったけれども、それはすぐに却下することになる。何故ならば。


 グオオオオオオオォッ!!


「うげっ。またウェルシュ!?」


 雲海から赤い影が飛び出してモンスターたちの群れの真っ只中に突っ込んだかと思えば、それはずっと前に見た赤鷲竜ウェルシュだった。違う方向に来たはずなのにまた遭遇するなんて……!

 グズグズしてたらわたしも狙われてしまう。何も余計なことを考えず再度逃走するしかなかった。

 ……まさかあいつ、神子わたしの気配を感じて追いかけてきてる、とかじゃないよね……?

 などと不安が沸きあがったけれどもどうやらそんなことはなかったようで、わたしは無事に逃げおおせるのだった。



「うん? 柱……か、これは」


 石筍にしてはやたら真っ直ぐに立っているな?と思ったけれども、よく見たら柱だった。半ばから崩れ去り穴ボコだらけであるが、明らかに自然には出来上がらない模様が刻まれていたのだ。材質は同じなので石筍を削りだして作ったのかもしれないな。

 しかし……柱か。ゲーム時代は冥界に遺跡があっても『そう言う物』と受け入れていたけれど、現実アステリアでは不可解な代物だ。何せ冥界には住人がおらず、しかしモンスターがモノ作りをすることはないからだ。あいつらは破壊しかしない、創造なんて以ての外。


「まぁ、実際には過去に誰か住んでいた可能性も捨てきれないけれども……」


 一番あり得るのは過去の神子が冥界にやって来た折に作った、だろう。次点で、冥界にも住人が暮らしていた時期があった、とか? 環境は最悪だけど住もうと思えば住めるからね。水も食料も各種素材もある。ただし日光がないので創造神の力に頼れないのはもちろん、作物の生育も悪い。……人間ヒューマンよりずっと基礎能力が高い種族なら生きていけるかな? この分だとわたしが知らない種族が居てもおかしくない。


「……おや」


 足元に真っ直ぐな溝がある。これも人工物か?

 冥砂をザッと蹴り払ってみると、一メートル四方くらいの溝が浮かび上がった。……もしかしなくても地下への入口だろう。

 取っ手がなかったので溝にシャベルの刃先を引っかけてテコの原理で持ち上げる。鍵は掛かっておらず、ギッと軋んでから扉が取り払われた。

 真っ暗闇が口を開けている……ではなかった。ヒカリゴケが浸食していてぼんやりと階段が浮かび上がっていたのだ。階段に降り積もった冥砂は均一で、足跡がない――つまり誰かが出入りした形跡もない。

 とは言え内部に穴が開いてモンスターが棲んでいる線も考えられる。わたしは音を立てないよう慎重に階段を降りて行く。危険かもしれないと言う警戒心より好奇心が遥かに勝った。


 二階分くらい降りた先に、十メートルほどの真っ直ぐな通路と左右と正面に設置された扉が現れた。

 右手側の扉に耳をそばだてて、中にモンスターが居なさそうなのを確認してからそっと開ける。空気が動いたことで砂が舞い、反射的にマフラーに覆われた口元を抑えた。

 中は六畳ほどの空間で、保管庫……だったのだろうか。元は同じ規格と思われる箱が経年劣化で壊れ散らばっていた。しかし、極一部の中身は無事だった。わたしはそれらを拾い上げて目を丸くする。


紫水晶アメジスト闇水晶モリオンだけならともかく……ディメンションストーンまで?」


 紫水晶は水属性の触媒、闇水晶は闇属性の触媒であり、ディメンションストーンは……まさにトランスポーターを作成するために必要な素材の一つだ。

 何故こんなところにある……のはまぁつまり、この建物を作成したのが神子で、その神子がトランスポーターも作成していたと言うことなのだろう。ここは冥界で素材集めするための拠点だったのかもしれない。


「これだけボロボロってことはもう神子は居ないってことだよね……ありがたく使わせてもらいますよ、先輩」


 数は全然足りてないけれど、冥界では貴重なアイテムなので少量でもありがたい。遠慮なくいただいていこう。それに、ひょっとしたら近くにトランスポーターがあるかもしれない。上手くいけば修理するだけで使えるようになるだろう。……期待しすぎるのも外した時にしんどいからほどほどにしないとな。

 左手側の小部屋も似たような造りだったが、こちらには使えそうな素材は残っていなかった。残念。

 そして、正面の部屋は――


「……小神殿?」


 こちらはやや広く十二畳ほどの広さで、等間隔で柱が建てられ、中央には台座と神像と思しき物が鎮座していた。思しき物、と付けたのは火神の神殿の時のように像が足首から先しかなかったからだ。まぁ超シンプルだけど十中八九神殿に準ずる物だろう。


「どの神様を祭っていたんだろう……?」


 残った部分だけでは判別できない。でも冥界なら闇神かな? 一番、と言うか唯一御利益がありそうな神様だし。

 台座に文字……古代文字?が刻んであるけれども、こちらも損傷が激しくてよくわからない。でも何となく、わたしが見たことのない文字な気がした。

 ……うーん……まぁ悩んでも答えは出ないだろう。せめて台座回りを綺麗に掃き清めて、聖花を一輪お供えしてからわたしは地上へと戻るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「どの神様を祭っていたんだろう……?」 フリッカ「リオン様です」(真顔)  いまリオン様は神になる為の修行をしていると、拠点の神様方が仰っていましたので。 神's『………………』(目逸…
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