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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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アンダーワールド

「――フッ」


 ギッ――


 呼気と共に長剣を横に一閃、モンスター(ハンドレッド)の首を掻き斬る。ハンドレッドは聖属性を帯びた武器で急所を斬られたことで断末魔の叫びを上げることなく倒れ伏した。念の為、頭に刃を突き刺すけれど反応はない。

 ちゃんと死んでいることに、わたしは大きく安堵の溜息を吐いた。

 

 ハンドレッドは『一匹見たら百匹居ると思え』のゴキ的な感じの鬼系モンスターだ。一匹一匹の能力は大したことないが、LPライフポイントが四分の一以下になると大音量の雄叫びを上げて周辺に居る仲間を呼び寄せるとても厄介なモンスターである。なので、あえておびき寄せて大量狩りしたい場合でもない限り、きっちりLP管理をするかいっそ一撃で倒すかしなければならない。

 わたしは先日まさにそのポカをやらかして――ハンドレッドが死んだフリをしてわたしが気を抜いた瞬間に叫ばれ、延々と追い掛け回されて死ぬ思いをしたばかりだ。以来こいつと相対する時は多大な緊張を強いられてしまう。

 戦わずに逃げればよい、って? 冥界アンダーワールドはひたすら逃げるだけで済むような場所ではない。単純にモンスター量が多く、戦闘を避け続けたせいで周辺がモンスターだらけになり、気付けば囲まれているなんてこともよくある。悪即斬の勢いで速攻する方が結果的に楽になる場面が多いのだ。

 わたし独り(ソロ)であるし、今回ばかりは神子の仕事は戦うことではなく作ることだ、なんて言ってられない。殺らねば殺られる。


「まぁ、おかげでモンスター素材と魔石は溜まるんだけどね……っと」


 ハンドレッドの角と魔石を回収しながら独りごちる。ポジティブに考えなければ気が滅入るばかりだし、素材が増えるのが嬉しいのは事実であるからして。……素材を回収せずにはいられない性はこんなことで消えはしないのである。


「ちゃんと訓練しておいて良かったなぁ。確実に体力が付いてるし、戦闘時の動きも良くなってるし」


 コキコキと首を鳴らし立ち上がる。危険地帯の単独行動でメンタル面の消耗はあっても戦闘でのフィジカル面の消耗は思ったよりずっと少ない。

 こうして考えると、火山で謎の男性に出会ったのはある意味幸運だったのかもしれない。あの危機感があればこそ戦闘訓練に一層身を入れるようになったのだし。出来れば二度と遭遇したくないけどね!


「……その前に何とかここを脱出しなきゃ、皆にも二度と会えないわけだけど……」


 辺りをざっと見渡す。昼も夜もないので時間感覚がおかしくなっているけど、体感でもう五日は彷徨っているのに景色に代り映えがない。

 冥界であるが、空がないので太陽も月もないものの真っ暗と言うわけではない。頭上の雲?では時折雷光が走っているし、場所によっては溶岩溜まりもある。そして、そこらの地面にもヒカリゴケやヒカリタケなど発光するアイテムがちらほら存在している。中にはチョウチンアンコウのように発光器官を持つモンスターだって居る。光でおびき寄せてバクっと捕食するタイプなので、ちょいちょいモンスターが喰われていたりする。もちろんそいつ自身が喰われることもある。

 しかし暗いものは暗いので暗視ゴーグルを装着している。光の届かない深海用に作ったアイテムだけど思わぬところで役に立った。


 基本的には枯れた大地であるけれども、コケやキノコが存在出来るように水だって存在する。毒やら何やらで汚染されていることが多いけど、稀に清水だって流れているのだ。なので水分はそんなに心配していない。そもそもアイテムボックスに大量に入ってる。

 食料も前述のキノコは食べられるし、ちょいちょいうろついてるアカトカゲとかアンダーコックなどもまんまトカゲにニワトリなので食べられる。ただしこいつらも毒を摂取していることがあるので、そこは気を付けなければいけない。こうして鬼やアンデッド以外の生き物が少ないながらも存在していることからも、冥界は死後の国ではないことがわかるだろう。

 ズバリ燃石と言う燃える石もあるから燃料になるし、砂や岩石は鉱石を含んでいるので武器類もそんなに心配はない、のだけれども。


「聖水ばかりはなぁ……」


 頭上を見上げ、今日も今日とてチカチカと瞬いているのを恨めし気に見ながら零す。

 何せ太陽がないため創造神の像を設置しても聖水が作成出来ないのだ。これも大量にストックがあるけれど場所柄消費しやすいアイテムであるし、補充が叶わないのはどうしたって心理的負担になる。もしも切れる前に帰還出来なければ……と考えるのはよそう。

 それはそれとして……あの雲のようなものは気になるなぁ。ゲームにおいては高さ制限があり、雲海に入ることは出来ても――雷対策必須――上に抜けることは出来なかった。現実だとどうなっているのだろう? ……ただまぁ現実だからこそ、怖くてとてもじゃないけど確認出来やしない。


「どのみち空を飛ぶ手段はまだだし……これ(・・)があってまだマシだったな」


 聖水が作成出来ない状況なら当然帰還石も作成出来ず、現世に戻ることだけでなく冥界間の移動も出来ない。ゴーレム車は目立ちすぎて敵を集めかねないし、ひたすら徒歩で移動せざるをえない。世の中の普通の人々の気持ちを今になって味わう羽目になっている。

 が、ジェットブーツの代替品として出来上がったライトブーツと言うアイテムがある。今わたしの履いている靴だ。その名の通りライトで(かるくて)移動が少し早く楽になる。後、副次的に足音が小さくなるのも地味にありがたい。暗いゆえに音で反応するタイプのモンスターも居るからだ。

 ……加えてハイディングローブを着てモンスターに発見されにくくなっているとは言え、二重の意味でブツブツ独り言してる場合じゃなかったな。お口チャックして先へ進もう。


 先と言っても目的地があるわけではない。なにせ目印になる物がない。適当に方角を決めて進んでいるだけだ。

 冥界そのものがダンジョンのような場所だけど、冥界にもダンジョンはあるし、建造物だってある。後者はほぼボロボロな遺跡だけれども……誰が作ったんだろうね?

 ともあれ、そう言った場所に素材があることが多いので、足を使って探すしかない。一番は過去の神子が作ったトランスポーターを探し当てることだろうけど……全く期待が出来ないので素材探しからしないとね。


「……っ」


 バサッと頭上から音がして、慌ててせり出した岩の陰に身を潜める。決して乗り出しすぎないように留意しながら、ソロソロと確認をする。

 冥界に空――空はないけどもう面倒なので空と呼称する。冥界にだって空を飛ぶモンスターは当然ながら存在する。その中でも特に危険なのが――


「……ウェルシュ――」


 羽ばたき音に紛れさせて、ぼそりと震える声で呟いた。

 ウェルシュは言うなればアルタイルの色違いだ。体毛が赤銅色の鷲竜で、同じく雷を操る。なので赤雷迸る冥界の空でも悠々と飛ぶことが出来る。

 アルタイル同様しっかり対策すれば勝てない相手ではないけれども、そもそもアルタイルの備えすら出来ていないのだから敵うはずがない。こればかりは隠れる一択だ。備えてあったとしてもそんな危険すぎる橋は渡れないし、ウェルシュの素材がトランスポーターに必要なわけでもないので渡る必要もない。

 翼を持つモンスターは他にも色々居ると言うのに、この広い広い冥界でよりにもよってウェルシュに遭遇するなんて幸先が悪いにもほどがある。逆にここで悪運を使い切った、レアモンスターと遭遇するなんて幸運だ、などと楽天的になりたいけど、冥界でそんな考えは命取りだ。

 わたしはバレないように祈りながらひたすらウェルシュが去るのを待つ。バヂィ!と近くで落雷音がして体がビクリと跳ねたけれど、モンスターの悲鳴が聞こえたので狙われたのはそちらだろう。身代わりありがとうと心の中で黙祷した。


 バサリバサリと羽音は小さくなり、聞こえなくなり。

 その日もわたしは無事に生き延びた。

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[気になる点] >先と言っても目的地があるわけではない。なにせ目印になる物がない。適当に方角を決めて進んでいるだけだ。  とは言ってるけど、自分が来た方向とかここを通ったとして、自身で目印になるよう…
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