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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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グリムリーパー

 グリムリーパー。プレイヤー間の通称は死神。

 神の文字が付いているけれども、もちろんモンスターであり神ではない。

 が、その力は絶大で、ゲームにおいては終盤・・のダンジョンボスとしてプレイヤーたちの行く手に立ち塞がった。

 ……あいつは冥界に出現するモンスターではないのに、なんで冥界の王と関係した月蝕に出現するんだ……! いくらゲームと現実アステリアは違うからって、これはないでしょう……!


 ムリだ……現状でアイツを相手取るのはムリだ……!

 グリムリーパーは終盤のボスだけあってアンデッド系モンスターの中でも最強格の一体。

 大鎌は非常に攻撃力が高く、終盤ですらまともに喰らうと馬鹿にならないダメージを負う。大きな武器だからモーションが大きかったり動作が遅かったりするデメリット――なんてものはない。音もなく忍び寄っては的確に素早く首を狙ってくる暗殺者も真っ青な性能だ。しかも首を斬られると確率で即死判定付きで――むしろ現実になった今なら確定じゃなかろうか……?――、掠るだけでも呪いのデバフを付与してくる。

 大鎌による攻撃以外にもデバフ効果のある特殊攻撃が多い。対策なく金切り声を聞くと恐怖になり、近付くと衰弱し、斬った時に噴き出す血のようなものを浴びると毒か痺れ状態になる。

 防御力も高い。ただのボロに見える黒い衣。あれは闇が濃縮された衣であり、光神の加護を得てアンデッドに対する攻撃力がプラスされた状態でなければ防御を貫くことが出来ない。そして闇の衣は攻撃手段でもあり、発するオーラは闇神の加護を得て闇属性に対する防御力がプラスされた状態でなければ絶えずスリップダメージを喰らってしまう。

 つまりどちらの加護もない現状で勝ち目なんてあるわけがない……!


 ……い、いや、落ち着けわたし。

 おそらくだけれども、グリムリーパーを倒す必要はない。

 視界の端に映る月が元に戻りかけている。ようやく月蝕が終わろうとしているのだ。

 月の光さえ復活すれば、創造神と神子わたしの力の影響が大きいこの地では存在出来ないはずだ……!


 それでもカチカチと歯が鳴ってしまう。全身の震えが止まらない。先ほど声を聞いてしまったし、恐怖のデバフにでも掛かってしまったのだろうか。

 グリムリーパーの強さもだけれども、存在感そのものが、振り撒かれている『死の気配』が怖くて怖くてたまらない。今にも圧に押しつぶされてしまいそうだ。

 わたしの恐怖が連動したのか、ゼファー自身も脅威を感じているのか、飛び方がぎこちなくなっている。

 ……落ち着け、落ち着くんだ。深呼吸だ。

 正直な話、今すぐにでもゼファーに『なりふり構わず逃げよう』と言いたい。

 けれどもそれだけは絶対にダメだ。

 わたしが真っ先に逃げ出しては、わたしが冷静さを失っては、ここに居る皆が死んでしまいかねない。

 地上を見渡す。皆グリムリーパーのオーラにあてられてしまい、恐怖に呑まれ、ただただ呆然と見上げている。雑魚モンスターたちもグリムリーパーに怯えて動きが止まっているので攻撃されてもいないのが唯一の幸いか。

 わたしはなけなしの気力を総動員して恐怖を抑え込み、腹に力を入れて一喝する。ひょっとしたら少しばかり震えていたかもしれない。


「総員! 身を固めつつ最終防衛ラインまで後退して防衛! 決してグリムリーパーには手を出さないこと!!」

「「「……っ」」


 絶対にグリムリーパーに近付けさせるわけにはいかない。撤退して距離を取ってもらうしかない。もし追いかけられるようなら……わたし(とゼファー)で足止めするしかない。

 皆はビクリと体を震わせ、時が流れていることを思い出したようにサッと行動を開始した。一拍遅れてモンスターたちも動きだしたけど遅い。ティガーさんを始めとした獣人ビーストたちはそのわずかな間に抜け目なく攻撃を仕掛け、それでいて深追いせずに、周囲の皆をフォローしながら撤退をする。

 その中で一人、撤退をしなかった人物が居た。


「――ウル!」


 撤退を補助するよう、動きの鈍いモンスターたちを薙ぎ倒していくウル。しかしその小さな体は拠点に向かうことなく、グリムリーパーを睨みつける。わたしのように怯えず、確かな意志と、強烈なまでの戦意を持って。

 しかしウルは武器を持たないので上空のグリムリーパーを相手にするのは不利だ。そこらのモンスターをむんずと捕まえてはグリムリーパーに凄まじい勢いで投てきするけれども、哀れ砲丸代わりにされたモンスターは悲鳴のような鳴き声を響かせ、闇の衣のオーラに蝕まれて塵となるだけだった。


 クカカカカッ


 嗤う。

 グリムリーパーが、空を飛ぶ手段を持たないウルを、地を這う虫だと嘲嗤う。

 それでも……髑髏の眼窩の炎が妖し気に揺らめき、頬の肉がないのに口の端が歪んだような錯覚がした。見下しながらも、あの一幕だけでウルの強さを悟ったのかもしれない。

 しっかりとウルの存在を認識した――敵として認識してしまった。

 グリムリーパーは空に漂ったまま大鎌を振り上げ、その場で振り下ろす。

 もちろんそれは意味のない行動などではない。大鎌の振り下ろしによりソニックブームが発生してウルに襲い掛かる。


「当たらぬわ!」


 不可視の風の刃であったが、ウルはタイミング良く斜め前に跳んでモンスターの頭を踏みながら避ける。被害に遭ったのは周囲で慌てふためいていたモンスターだけだ。以前ゼピュロス戦の時も器用に避けていたけれど、あの時と違って瘴気のナビがあるわけじゃないのにどうしてわかるのだろう。野生の勘か。

 お返しとして再度モンスターを投げつけるが同じくオーラに阻まれて届かない。ウルの背から「ぐぬぬ……」とわかりやすい感情が漏れている。

 ともあれウルは大丈夫そうだ。わたしが担当するつもりだったけど、グリムリーパーはしばらくウルに任せよう。わたしは撤退する皆を追うモンスターに矢を射かけていく。フリッカたち魔法組から支援も飛んでいるけど足りていないのだ。


「……でも、モンスターの沸きが劇的に減っているな」


 もともと月蝕が終わりかけで打ち止めなのか、グリムリーパーの登場にリソースでも取られたのか。倒しても倒しても延々と沸き続けていたモンスター、その新規出現数がかなり減っている。ティガーさんの誘導により皆思ったよりずっと冷静に移動しているし、この調子で行けば死者を出すことなく乗り切れるだろう。

 ……などと考えてからそれはフラグのような気がしたけれども、ハプニングが起こることなく皆は無事に最終防衛ラインまで辿り着き、反転して残るモンスターを減らす作業に移行した。


「よし。こっちはもういいかな。……ゼファー、飛べる?」

「……キュ」


 ゼファーは少し躊躇いを見せたけれど頷いてくれた。やはりグリムリーパーが怖いのだろう。それでもアレを相手にするにはゼファーの機動力が必要なのだ。申し訳ないけど付き合ってほしい。

 ウルとグリムリーパーの戦いは膠着している。とは言ってもグリムリーパーは上空からウルをおちょくるように嗤いながら攻撃を仕掛けており、ウルは投てき物(モンスター)が周辺からなくなり手を出せず避けるだけで、とてもじゃないけど戦力が拮抗しているとは言えない。どのみち素手のウルではグリムリーパーに直接攻撃をしようとしても逆にダメージを喰らうだけなので、時間を稼げばいいこちらとしてはありがたいのだけれども。

 空を見る。月が半分ほど戻ってきていた。むしろこのまま下手に手を出さずタイムリミットを待つ方が安パイだろうか?

 ……などと言う考えはさすがに甘すぎた。


 オオオオオオオオォ――


 グリムリーパーとてそろそろ自分が存在出来なくなることはわかっていたのだろう。ここに来て本腰を入れ始めた。

 オーラがブワリと膨れ上がり、離れているわたしたちのところまで圧で空気が震えてビシバシと叩きつけられる。

 眼窩の炎が一際強く輝き出し、靄を吐き出しながら口をカパリと開き――マズい! 範囲魔法攻撃の前振りだ!


「さ……せるかぁ!!」


 今だけ恐怖を忘れ去り、わたしは聖火の矢を番えてグリムリーパーの頭目掛けて放つ。


 カンッ


 わたしの現在の能力からすると攻撃なんてほとんど効きやしない。ほんのちょっとでも気を逸らして詠唱の邪魔が出来ればいい。

 ……くらいの意識だったのだけれども……矢は、オーラを貫いて頭骸骨に当たった。刺さったわけではない。威力が減衰されて小石が当たった程度だろう。

 それでもわたしは、矢がそこまで届いたことに自分が一番驚いていた。

 同時に。


 ――ギョロリ


 と。

 グリムリーパーの虚ろなが、わたしを射貫くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >グリムリーパーは終盤のボス  えー?  ウルなんてエンドこんt(o゜∀゜)=○)´3`)∴ >グリムリーパーが、空を飛ぶ手段を持たないウルを、地を這う虫だと嘲嗤う  ウルは地を這う…
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