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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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アンダーワールド・アウトブレイク

 冥界の汚泥からは、小手調べとばかりにゾンビ、スケルトンがわらわらと沸いて出てきた。

 ゾンビ、スケルトンと言っても種類は様々だ。人型のものから四足獣型、鳥型などなど、ありとあらゆる死体をかき集めたかの様相だ。スケルトンの場合は武器として剣を持っていたり槍を持っていたり、さらにバラエティに富む。

 モンスターたちはバラけることなく、わたしたちの方に向かって殺到する。この数の多さには閉口してしまうけれど、周辺の被害を気にしなくてもいいのは気楽だと前向きに考えることにしよう。


「絶対に一人で突っ込まないで! とにかく囲まれないように連携を取ること!」


 ただしウルは除く。彼女の場合は下手に連携を取らせるよりも一人で突っ込んでもらった方がうっかり味方を巻き込まないで済むだろう。

 残念ながらわたしは兵法についての知識はなく細かい指示が出来ない。各々の判断で動いてもらうことになる。ネトゲでレイドバトルのリーダーでも経験していれば結果は変わってきたのだろうか、などと思ったところでどうしようもない。

 ついでに言えば、モンスターたちは連携を取っているようには全く見えず、ただただ獲物わたしたち目掛けて怒涛の勢いで押し寄せて来ている。指揮官を探すのも無意味で、リーダー格を倒したところでモンスターたちの意志が瓦解して逃げていくなんてのも期待出来ないだろう。強敵は優先して倒すべきだろうけれど、とにかく殲滅するしかない。

 ウルには真正面――一番モンスターが多い場所に突っ込んで薙ぎ倒しつつ強敵を優先してもらい、レグルス、リーゼ、ウェルグスさん、バートル村とアイロ村の面々でウルの左右に別れてもらって数を減らしてもらう。

 とは言えモンスターの数が多すぎる。現時点でモンスターの数は軽く百体を超えており、汚泥モンスターは溢れ続けており、どうしたって取りこぼしは出てくる。それらを殲滅するのが固定砲台のフリッカ、フィン、イージャの役目だ。聖水を撒いて聖域化し、トラップを仕掛け、護衛として警備ゴーレムも配置してある。

 そしてわたしはゼファーに乗って全体の監視と遊撃である。わたしも攻撃アイテムの範囲が広くて周囲を巻き込んでしまうからね。


「フンッ!!」


 真っ先に接敵したウルがその拳の一撃で一度に大量のモンスターを吹き飛ばした。まるでドミノ倒しのように連鎖していくがアンデッドゆえにしぶとく、倒れはしても活動停止しにはしない。しかしこの勢いの中で倒れてしまえば後続に踏みつぶされるだけなので放っておいてもいいだろう。

 ウルはモンスターに埋もれながらも気配を察しているのか、強敵が近付けばすぐさま進路を微調整して倒しに行く。


「うおりゃっ!」

「せいっ!」

「ぬおおおおおおっ!!」


 レグルスはスケルトンは拳で砕き、ゾンビは槍で斬り払い、器用に武器を持ち替えながら着実にモンスターを倒している。アイテムボックスがあるからこそ出来る芸当だ。

 リーゼは槍一本だけれども相変わらず早く、上手く、モンスターの弱点ませきを的確に破壊していく。見るたびに彼女の槍は研ぎ澄まされおり、成長が著しい。

 ウェルグスさんなんかは豪快に、斧を横に一閃してはスケルトンを上下に分割し、縦に一閃してはゾンビを左右に分割している。さすがにあれではアンデッドとて動けなくなる。

 バートル村の戦士たちも普段から戦っているだけあって手際が良く、またきっちりと連携をして決して背中を取られないように立ち回っていた。レグルスとリーゼも訓練に加わることが増えた影響か動きがわかるようで、スムーズにフォローしあっていた。

 アイロ村の戦士たちは個々の腕前は普通だけれども、アンデッド多めのダンジョンで訓練をしているからか対応に手慣れている感がある。いいね。


 ――グギャギャギャッ

 ――アアアアッ


 かなりの数のモンスターが前線を抜け出してくるが、知能がないゆえにどんどんトラップに引っ掛かる。落とし穴と槍に始まり、火攻め聖水攻め埋め立てと色々設置してみたけれど、どれもよく効いている。

 ……ただ、あまりに引っ掛かりすぎてどんどんトラップが壊れていく。ここは改良の余地ありか。


「フレイムフィールド!」

「ふぁ、ファイアアロー!」

「ファイアアロー……っ」


 トラップ地帯を通過したモンスターたちをフリッカが範囲攻撃魔法でまとめて焼いていく。フレイムフィールドはMP消費がそこそこ大きいので三人の中ではフリッカしか使えないのだが、焼ききれなかったモンスターをフィンとイージャが個別撃破していくことで上手く回している。

 警備ゴーレム付きとは言え後衛しか居ないのが少々不安だけど、人手に余裕がないので頑張ってもらうしかない。


「キュウッ」


 ゼファーの一鳴きと共に、風の魔法が放たれた。モンスターの飛び散り様からしてウインドカッターだろう。密集地帯に放ったとは言え数匹まとめて屠っており、なかなかの威力だ。


「わたしも負けてられないな。これならどうだ!」


 わたしは雑魚モンスターが群れている場所には聖水を投げつける。普段地上に出てこれない冥界産モンスターだけあって聖属性、それも神子わたしが使用すると面白いくらいに効果があり、聖水が掛かったモンスターの大半が一瞬で灰になった。

 もちろん強い個体にはそこまで劇的な効果は見込めず、そう言った手合いには聖火の矢で打ち抜いていく。


「でも……キリがないな」

「キュー……」


 味方が居ない場所に石を落としたり、ブラストボールを投げたりして、多くのモンスターを倒していっている。しかし倒した先から新たなモンスターが沸いてくるので、押されるほどでもないけれど、押し切ることも出来ないでいた。

 空を見上げて月の現在位置を確認する。やっと残り半分と言ったところか。

 これまでの戦いでは問題がなかったからと言って、これからも同じように問題がなく終わるわけがない。スタミナは無尽蔵ではないのだ。フリッカたち、レグルスたちもさすがに疲労が濃くなってきている。アイテムで回復は出来ても全回復するには休憩するしかない。元気なのはゼファーに乗っているわたしとウルくらいか。


 その時、後ろ――拠点の方からワッと声が響いた。

 まさか――背後に沸いた!?

 慌てて振り向くと、そこには。


「神子様! 遅くなってすまない!」

「ティガーさん!」


 バートル村の戦士を更に二十名ほど引き連れたティガーさんが居たのだ。

 なんでも折り悪く夜間訓練中で、先ほど駐在員さんたちが呼びに行った時は村に居なかったらしい。しかし幸運は見放さず。伝令が彼らを素早く探しだし、事情を知って飛んできてくれたのだとか。ありがたい……!


「ティガーさん、交代をお願いします! 皆はその間に休憩!」

「任された! 行くぞおまえたち!」


 オォ!と野太い咆哮を上げながらバートル村の戦士たちが駆けてゆく。

 入れ替わりにウルを含めて戦い詰めだった皆がフリッカたちの居る位置まで戻ってくる。ウルは体力は残っていてもおなかがもたなかったそうだ。


「モンスターは弱い奴らばかりであるが、数が減らないのぅ……」


 もぐもぐとバフ付きご飯を食べながらウルが愚痴を零す。基本的に範囲攻撃系を持たないウルからすれば数で押されるのは強敵一体よりも厄介なのかもしれない。それでもこの中で最も元気なのだけれども。前衛組も同意するようにこくこく頷きながらご飯をかきこんでいる。これはこれで元気そうだ。

 逆に後衛組はかなりしんどそうだ。フリッカはわたしの旅に同行することでそれなりに体力も付いてきたようだけれども、ほぼ拠点待機のフィンとイージャは慣れない戦闘プラス普段ならとっくに寝てる深夜と言うのも相まって、ご飯が喉を通らないくらい疲れ果てている。


「フィン、イージャ。拠点うちまで戻って休んでもいいよ?」


 促しても二人は首を横に振るばかりだ。仕方なく「ここに居てもいいけど、疲れが取れるまでは魔法を使用しないように」と釘を刺しておいた。このまま強制的に帰しても不安でゆっくり出来なさそうだしね……。


「……む。何やら空気が変わった気がする」

「えっ?」


 ウルが呟き、本来なら満月があった夜空へと目線をやる。

 月は未だ闇に喰われたままであり、汚泥も溢れたままだ。一体何が変わったのだろう……?

 ……って、あぁ、そういうことか。


「……出現するモンスターの種類が増えているね……」

「そのようであるな」


 これまではほぼゾンビ、スケルトン、たまにレイスという具合だったのだけれども、鬼系が混じり始めていたのだ。こいつらはイベント時を除いて冥界でのみ出現するモンスターで、冥界自体が中盤以降に訪れるフィールドだけあって基本性能がゾンビたちより高い個体が多いのである。

 冥界と繋がっているならこいつらが出てくるのも当然と言えば当然ではある。負荷が増えたことでわたしの背に冷や汗が流れるのだった。


「はは……夜はまだまだ長いね……」

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