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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第六章:死海の傲慢なる災禍

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準備と前兆

「ここをこうして……いや、こうすれば良くなるか……?」


 作業棟にて。わたしはいつものことながらモノ作りに励んでいた。

 むしろ何も作ってない日はケガをした時――正確には大ケガをしてモノ作り禁止令を出された時を除いてまずない。禁止令を出されても作って怒られてるだろ、って? それはアレです、毎日のルーチンだと無意識にやってしまうでしょう……? 幸いにして年明けから大きなトラブルもなく禁止されるようなケガも負っていない。平和っていいね。

 今日はドワーフ夫婦はお酒作りの研究を進めており、作業棟に居るのはわたしとフリッカだけだ。フリッカは何が楽しいのか、暇さえあればわたしの作業工程を微笑みながら眺めている。見てることで学べることもあるけどね。もちろん彼女自身何かしら作っていることもあり、今は単に休憩中だ。フリッカ曰く、わたしみたいにぶっ続けでモノ作り出来るほどの体力も集中力もないとのことで。慣れればいけるよ?

 フリッカはただ眺めているだけで、声を掛けてくることも触れてくることもほぼない。しばらくはわたしの作業音と独り言だけが響くのだった。


「リオン様、今日は何を作っているのですか?」


 わたしの作業が一段落したと見るや、問いを投げかけてくる。冷たい飲み物まで用意してくれていて気が利くね。初夏になりジリジリと暑さを増しつつある中の冷えたジュースが喉に、体に心地良く、頭を使った後の糖分はよく染みわたる。

 拠点うちは冬は雪があまり降らない――某雪まつりみたいに色々作ってみたかったけど多くて数センチしか積もらなかったくらいの気候であるが、その代わりとばかりに夏が暑くなる。とは言え日本みたいにコンクリートジャングルではないので熱も籠もらない。海が近いだけあって湿気はあるけど、拠点の建物は風神監修の元で風通しが良くなるよう改修したので過ごしやすい方だろう。

 カップ半分のジュースを飲んで一息吐いてから、わたしはフリッカの質問に答える。


「もうすぐ夏だから、そろそろ水神様ネフティーねえさんの領域に向かうって話はしたよね?」

「はい。ここから北東にある地神様の領域である砂漠の、更に北東が目的地でしたよね」

「そうそう。で、そこは島は点在するけど周辺は海だし海中探索もする予定だから、水中移動と水中呼吸のエンチャントがかかったアイテムが必須なんだよね」


 水中移動は、水中において当然の如く体にまとわりつく水の圧力を弱めて動きやすくするエンチャントで、水中呼吸はそのまま水中でも呼吸が出来るようになるエンチャントだ。


「それもお聞きしましたけど……すでに作っていますよね? 私も当のアクセサリをいただきましたし」

「そうだね。でも性能を上げれば上げるほど生存確率が上がるから、ギリギリまで試行錯誤をしようかと思って」


 何せ水の中ではどちらも対策を怠れば即命取りに繋がる。

 水中にだってもちろんモンスターは居るし、むしろ地上と違って日の光が届き辛く、水面近くを除けば昼夜関係なくモンスターが襲ってくる。そして水中に居るモンスターは当然ながら水中を得意とし、わたしたちの地上での行動のように……いや立体的であるのでそれ以上に自在に動く。つまり、対策を取らねば機動力に大きな差が出てしまい、雑魚モンスターだろうと強敵になりかねない。強いモンスターならなおさらだ。

 水中呼吸に関しては言わずもがな。生物のようでも非生物――ゴーレムであるアステリオスならともかく、皆は呼吸が出来なければ死んでしまう。これはさすがの最強ウルさんも例外ではない。

 なお水神はデフォルトでどちらの能力も備わっているらしく、対策は不要らしい。さすが水の神様。ちなみに、風神は風の神様らしく短時間なら飛べる。地神は特に聞いてないけど何かしらあるかもね。

 付け加えると、水神の加護ちしきによるとマーマンやマーメイドを始めとした水棲種族は、身体構造的に最初から水中呼吸出来るようになっている種族と、水神のように能力が備わっている種族とで二パターンあるらしい。生命って不思議ね。


「……リオン様」

「ん? ――っと」


 わたしが作業に戻らずダラダラとしていたら、フリッカが抱きついてきた。作業中は何もしてこない分別は持っていても、それ以外は結構な頻度で触れてくるように変化したのだ。……まぁ今までが我慢させすぎていたのかもしれない。我慢しなくていいと伝えてはあったのだけども。あれ以来(・・・・)吹っ切れたのか、わたしが無意識に作っていた柵がなくなったのか……後者な気がする。

 未だにくっつかれると気恥ずかしい思いはある。けれども、このぬくもりと匂いに包まれるのは心地が良いので身を任せる。

 そんな静かでゆったりとした時間は、外部の音で途切れことになる。


「リオン、フリッカ。……えぇと、戻ったのである」


 ウルが作業棟の扉を開けて帰宅を告げてきたからだ。……言い淀んだのはわたしたちの体勢のせいだろう。わたし含めて皆が良くも悪くも慣れつつあるのでスルーされることも増えてきたけどもね。


「ウル。お帰りー……って何で髪がびしょ濡れのままなの!?」


 ウルはレグルスとリーゼを連れて、前述の水中移動、水中呼吸アイテムの動作確認とそれらを使用しての訓練のために、クアラむらに行ってもらっていた。呼吸はともかく移動や戦闘に関しては慣れておかないと地上と勝手が違って大変だからね。今日はモノ作りの日にしていただけでわたしとフリッカもちゃんと訓練してるよ。

 ただエンチャントとて水を完全に弾くようなものはない。……作れるかもしれないけど今はない。だから濡れるのは当然なのだけど、もちろんタオルと着替えを用意してたのに……何で?? フリッカは疑問に思う前に行動に移り、わたしから離れてウルに駆け寄ってタオルでわっしわしと拭き始めた。


「今日は陽気だから平気かと思って――」

「だとしてもきちんと拭かないのはどうかと思うなぁ!」

「海水は水と違ってベタつくので、せっかくの綺麗な髪がゴワゴワになってしまいますよ」

「む、むぅ……」


 ウルはわたしたちに比べて遥かに体が丈夫で風邪なんて引かないんだろうけど、だからって雑すぎる!

 わたしは渋るウルをお風呂に連行することにした。風邪を引かない体だろうと海水を洗い流さないまま布団に潜り込むことは許さないのだ。ガッチリ手を掴んで逃がさない。フリッカもついてくるかと思ったけど「もうすぐ晩御飯の時間ですから」とキッチンへ向かった。集中してて時間感覚が狂っていたけれど、作業棟から出たら太陽は真っ赤な夕日へと変わって西の空に、東の空からは太陽ほどではないが明るく輝く月が昇ってきていた。


「おや、今日は満月だね」

「であるな」


 観念したのか大人しく引き連れられるウルをふと見る。

 夜空のような黒く長い髪。満月のような金の瞳。

 ……彼女には、あまりにもよるが、似合っていて。


「? なんなのだ?」

「……いや、きみの目はお月様みたいだな、と」

「?? そうか?」


 わたしの言葉が唐突すぎて意味不明すぎたのか、目をぱちくりとさせる様子はいっそ月の満ち欠けにすら見えて。

 何となしに、わたしはもう一度空を昇りゆく満月を見上げると――


「あ、れ……?」


 目をこする。月を見る。何も変化はない。


「リオン?」

「……作業しすぎでわたしも疲れちゃったかな。お風呂行くのもちょうどいいか」


 怪訝な顔を向けるウルにわたしはヘラっと笑顔を見せる。

 きっと疲れ目による見間違い、もしくは目にゴミが入ったか、たまたま鳥か何かが通ったかだろう。


 一瞬月が欠けたように見えたなんて、そんなことはない。



 そう、思っていたのに。

 ……とは言え、今回ばかりは前兆に気付いたとて、防ぐことは不可能だっただろう。


 何しろ相手は……天災のようなものなのだから。


 逃げることは出来たかもだけど……きっとその場合は周辺の被害が甚大なものになったと思われる。それは神子としては看過出来ない。失われた自然に対し神子の能力で成長促進は出来ても、失われた命を戻すことも、ヒトを自然と同じように成長促進させるのも不可能なのだから。

 これくらいの被害で済んで、マシだったのだと思っておこう。


 とどのつまり、なるべくしてなった結末なのだ、と。

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[一言] >フリッカは何が楽しいのか、暇さえあればわたしの作業工程を微笑みながら眺めている フリッカ(この指先の訓練が夜に直結する。この指先の訓練が夜に直結する。この指先の訓練が夜に直結する)(目が…
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