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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間五

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282/515

名も無き村のその後

「そうか……風神様の封印を解いてくれたのか……」

「こちらも現在療養中です。そのうちカミルさんとも顔合わせ出来るように頼みますね」

「あぁ、ありがとう」


 拠点拡張の合間にわたしはウルとフリッカを連れてアイロ村へと訪れた。風神についての報告をして(もちろんあのヒトのおかしな性格については話さない)、アイロ村側の状況が聞きたかったからだ。アイロ村は拠点うちと違って砂漠だから物資が不足することもあるかもしれないと思ったからね。


「気遣いありがとう、リオン。随分と落ち着いてきたし大丈夫だよ。でももし困ったことがあれば頼らせてもらうよ」


 とはカミルさんの言。村の運営に深く関わっていたカシム氏一派がほぼ亡くなったことで滞っている部分もあるけれど立て直しは進んでいる。逆に膿が出きったこともあり、一部の格差が是正されているのだとか。不幸中の幸いと言っていいのだろうか。

 村の外への物資の調達もランガさんが率先して手伝っているため、そちらも何とかなっているとのこと。ランガさんたち新しい住人とも馴染んできたようだ。小さなトラブルはあってもそれくらいはどこであろうと日常茶飯事。大きなトラブルに発展することもなくおおむね順調にやっているらしい。

 まぁ、周辺は過酷な砂漠地帯であっても、彼らはずっとここで暮らしてきたのだからノウハウだって溜まっているか。この分なら突発的な災害でも起こらない限りは大丈夫そうかな。


 ここまではプラスの話であるけれども、マイナスの話も少々ある。

 それは、結局カシム氏が暴走した原因がわからなかったことだ。思考回路もおかしかったし、何よりモンスターの卵の件がある。本人も喰い破られていたしカシム氏が思いついたことであるはずがない。

 しかし関係者が前述の通りほぼ亡くなっている。偶然わたしの祝福パフォーマンスを受けたことで助かったヒトも数名居るけれども、そのヒトたちはカシム氏一派の中でも下の方であり、詳しいことは知らなかった。

 ヒトに聞くことも出来ない。家探しをしても記録が……暴走の原因の記録はないけれど悪事の記録が発見されてカミルさんは盛大に頭を抱えた。なんでそんな物を保管しておくんだと言う疑問が沸いたけれども、カシム氏はそれでもって一部の住人を共犯者として脅していたようだ。救えないなぁ。

 わたしが教えたダンジョンの隠し通路の先を徹底的に捜索したら他にも小部屋があり、凄惨な人体実験の記録が隠されていた。様々な経過の痕跡も発見された。未だ爪跡は大きい。カミルさんが少しずつ浄化を進めているけれど、数年、下手すると十数年は掛かるんじゃないだろうか。わたしはあまり手伝えないので頑張ってほしい。

 けれど、そこにあったのは実験のことのみであり、きっかけとなる情報はどこにもなかった。八方塞がりだ。……アイロ村で真相を判明させることは出来ないのだろうな。それこそ『元凶』に遭遇でもしない限り。

 溜息を吐くわたしにカミルさんは申し訳なさそうにしてから、ふと「思い出した」と手を叩く。


「これは悪い情報ではないけど」

「何でしょう?」

「ランガが、とあるオアシスの村を発見したのだけれども――」



「……どうしてこうなった?」

ぬし自身がやったことであろう?」

「こうなるとわかってやったのではなかったのですか?」


 やって来たのはランガさんが発見したと言うオアシスの村。そこはわたしがアイロ村の前に訪れた名も無き村であったのだが……想定外の事態になっており、呆然とそれ(・・)を目にして呟くわたしに、二人からはさも自業自得と言うような答えが返ってきた。

 いやいやいや、こんなこと(・・・・・)になるなんて想像してるわけないじゃん!?

 そう、わたしの視線の先には――


「神子様! どうですかこれは!」

「神子様のおかげで非常に多くの実りが得られました!」

「農地を増やして、神子様の作った装置も拡張してみました!」

「神子様――」


 誰も彼も満面の笑みでわたしを称え、山のような作物を見せつけてくる光景が広がっていた。


 いや、確かにね? この名も無き村を出る時に農地の手入れをしたけどね? 実験と称してエンチャント付きの種をたくさん植えたけどね?

 だからって! ここまで劇的に効果が出てくるとは思ってもなかったよ! どうして乾燥耐性を付けただけで量が増えるの!?

 意味不明さに頭を抱えそうになるわたしに、見覚えのある少年が声を掛けてくる。


「神子様!」

「あー……っと、キリクくん、だっけ?」

「覚えていてくださったのですね! 感激です……!」


 終始わたしに対して刺々しい態度を取っていたあのキリク少年ですら目がキラキラしている。本当に何があったのだ……!

 長老さんに事情を尋ねようにも、実のところ彼が一番興奮している。しかも以前は見すぼらしい外見だったのが、今は服装はきっちりと、そして体は肉を取り戻すどころかやたら肌がツヤツヤと若返ったようにすら見える。食事事情が解決されただけでここまで変わるぅ……?


 とにもかくにも宥めすかして、何がどうしてこうなったのかをキリク少年から聞き出していくと……まぁ全部わたしのせいでした。

 ザっと見た感じオアシスが綺麗に浄化されていたから司祭さんが頑張ってくれたのかな?と思ったのだけれども、実際にはわたしの作った聖域がめちゃくちゃ効果を発揮したらしい。それと土の入れ替え。あの時点で土に地神の加護の影響が出ていたのも大きな原因の一つだろう。

 聖域内で、水も土も改善され、種も砂漠で育つように改良されており、神子わたしが直接手を掛け。質の良い作物が育たない要因がどこにもない。

 よくよく確認してみれば、単位面積あたりの収穫量は拠点うちの収穫量とたいして変わりがない。しかし、いくら拠点が自動化しているからって所詮は少人数。この村みたいに作物が実った喜びに村人総出で農業をすればこうなる……と言うことか。

 更に、この村とわずかながら交流のあった村のヒトたちも引っ越してきて人手が増えて、住居と衣服にも手を回すことが出来るようになった。もはや痛んだ穴あきの家はどこにも見当たらない。


「オレ……神子様の奇跡を目にして、深く深く反省しました。兄ちゃんが死んだことはものすごく悲しかったけれども、神子様がオレたちのために残してくれたモノをきちんと育てていけるように、って。オレだけじゃなく皆で毎日創造神様にお祈りして、畑の手入れをして、装置の勉強をして――」

「……そっか」


 ここまで褒めちぎられると背中が痒くなってくるけれども、彼が、彼らがモノ作りに熱心になってくれたのはとても嬉しい。それがひとところに留まらずに広がってくれるなら尚更だ。わたしが蒔いた種が育つ様は、わたしの行動が無駄ではなかったのだと強く実感させてくれる。

 思わぬ結果に胸が熱くなり、ジーンとして目に涙が浮かびかけた……のだが、次の言葉で一瞬にして引っ込む。


「そのような感じで、このリオーネ村が復活したのは神子様のおかげです!」

「…………はい? なに村?」


 この村には名前が付いてなかったはずだけど……? しかもなんだか響きが…………?


「あっ、住人が増えていつまでも名無しでは困るだろう、と新たに村の名前が付けられました。満場一致で神子様の名前にちなんで――」

「やっぱりかああああっ!?」


 思わぬ結果に天を仰いで叫んでしまったのは仕方のないことだろう。……だよね?

 まさか村の名前の由来になるなんて恥ずかしいことこの上ない! 村の名前そのままでなかったのがせめてもの幸いだけれども! しかしいくら恥ずかしいからって、今更名前を変えろなんてさすがに言えない……!


「だから大変な事態になると言ったのだ」

「うぐっ」


 悶えるわたしの横で、ウルがボソっと呟くのだった。

 ……言ってたね……そうですね……。

 しょんぼりとするわたしにフリッカが追い打ちをかけてくる。


「リオン様もそろそろ耐性を付けてはいかがでしょうか」

「耐性!?」

「貴女の神子としての力は神様方からもお褒めの言葉をいただける程です。このような事態はこれからも起こりうるのでは? いつまでも驕らずにいるのは美点ですが、謙遜が過ぎるのもよろしくないかと」

「む、むむ……」


 なる、ほど。いちいちテンパってたら身が持たないと言うのはわかる。


「……まぁ、本音を言わせていただければ、そのように慌てる貴女も大変可愛らしいのでこれはこれでアリかもしれませんが」

「ちょっとぉ!?」



 そんなこんなの、名も無き村、もといリオーネ村での一幕でした。

 最後に付け加えると、アイロ村とはランガさんを通じてすでに交流開始しているらしい。諸悪の根源であったカシム氏一派が消えたことと、ランガさんもわたしに助けられたことでシンパシーを感じたからだとさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >しょんぼりとするわたしにフリッカが追い打ちをかけてくる。 >「リオン様もそろそろ耐性を付けてはいかがでしょうか」 >「耐性!?」 フリッカ「リオン様もそろそろ覚悟を決めてはいかがでしょう…
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