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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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溝を掘るのか埋めるのか

「はぁ……気が重い……」


 本当に気が重い。それでも、バーグベルグ村に行かなければならない。

 いくら良い印象を持っていないのだとしても、最低限の義理ほうこくくらい果たさないのは個人的にナシなのだ。後、終わったら顔を出すと約束してしまったしね……。


「あの、リオン様。やはり私もついて……」

「ごめんね、今回は留守番してて」


 ついて行けないことに不満、と言うよりはわたしに対する心配を滲ませるフリッカを留める。

 今回は連れて行かないことにした理由は念の為、である。まさかこのご時世に神子わたしに敵対したがる住人なんてほとんど居ないだろうけれども、不審感を抱かれてしまったのは確かなので何かおかしなことをしでかしてこないとも限らない。そもそも報告だけならフリッカが居なくても事足りるし、悪意に晒されるかもしれないのに連れて行きたいとも思えない。

 まぁ全て杞憂の可能性だって全然あるし、ヘリオスと協力して解決したことで態度が軟化する可能性だってある。


「……ウルさん、私の分までよろしくお願いしますね」

「うむ、任せよ」


 フリッカは連れて行かないけれどウルは万が一のトラブル対策に一緒に来てもらう。最強ウルさんなのでね。

 ……わたし単独での行動が許可されないってのもあるけどさ。今後のためにも戦闘訓練に本腰入れないとなぁ……。


「それじゃ、行ってきます」


 わたしとウルは皆の見送りを受けながら、帰還石を使用してバーグベルグ村へと移動をした。



「それで……モンスターの大量発生も、キマイラの出現もない、と?」

「発生源は潰してきたので新規発生はしません。まだ何処かに残っているモンスターは居るかもしれませんが……山は広いのでさすがに漏らすことなく全て探し出すことは無理ですね」


 わたしとウルが祭壇に出現したことはすぐさま村中に伝わり、主だったヒトたちが集められての報告会である。

 ヘリオスに案内されて火山のダンジョンに侵入したこと、ダンジョンの奥で偽神子が用意したと思わしきモンスター(キマイラ)発生源を発見し、それを潰してダンジョン核も回収してきたことをサックリと説明していった。もちろんベヒーモスのことについては話さないし、話す気もない。彼らにとっては重要でも何でもないだろうし。ついでに偽神子と思わしき謎の男性と遭遇したことも話が拗れるだけだから話さない。

 事態の終息に安堵の息を吐くヒトも居れば……疑惑の目を向けてくるヒトも居るわけで、当然と言うか失礼と言うか、こんな声も上がってくる。


「それを証明するものはあるんですかい?」

「ダンジョン核ならここに」


 ダンジョン核をアイテムボックスから取り出して皆に見えるように掲げるが、もとよりそれしか見せられる物がない。

 現場に行ったところで痕跡は何も残っていない。証拠と言われても困る。陸王の魂を見せる気にもならないし、見せたところで証明にはならないだろう。時間を掛けて実感してもらうしかないのだ。

 ……時間を掛けたら掛けたであの男性がまたぞろトラブルを起こすのではないか、と言う不安はあるけれども、神出鬼没なことに加えて遥か格上なので事前に察知して止める方法がない。悔しいけど現時点のわたしの能力ではどうしようもないのである。


「……わかりました。神子様の言うことを信用しましょう」


 しばし睨み合いのようなヒリつく時間が流れたが、幸いにして暴発することなく収めてくれたようだ。まとめ役の老ドワーフのその一言で部屋の空気が弛緩する。一部不満が残っているヒトも居るようだけれども、後で闇討ちされないことを祈ろう。わたしの身の心配ではなく、ウルに返り討ちに遭うヒトのために。


「わたしからも一つ質問なのですが、件の偽神子はどのような容貌をしていたのでしょうか? もしも他所で出会った時に捕まえられるように、と思いまして」

「……それは是非ともお願いしたいところでありますな。奴は若い人間ヒューマンの男で、灰髪、黒瞳をしておりました」


 わたしたちが遭遇したあの男性と同じ特徴が返ってきた。どうやら変装も何もしていない姿でバーグベルグ村のヒトたちと会ったらしい。二度と姿を現す予定がなかったのか、隠す必要もないと思っていたのか。

 ……だとすれば、貴方たちはあの濁った目のヤバイヤツを神子と信じたのですか? その方が信じられないんですけど……? 声だけは良かったし、よっぽど上手く取り入ったのかなぁ。いやでも悪意駄々洩れじゃなかったですか……?

 などと思ったことは言わない。実際の状況なんてわからないのだし、余計なトラブルにしかならないからね……! 色々呑み込んで「わかりました。情報提供ありがとうございます」と感謝を述べるだけに留める。

 これでもう他に言うべきこと、聞くべきこともない。報告会も終わろうと立ち上がろうとした時、老ドワーフの低い声が静かな部屋に響き渡る。


「斯様な事態を解決してくださった神子様には感謝しております。ですが……モンスターと協力したことだけは、決して、納得いたしませぬ」

「前者に関しては素直に受け取っておきます。後者に関しては……別に貴方たちに納得してもらう必要はありません」


 眼光鋭く斬り付ける言葉を放つ老ドワーフに、わたしは一歩も退かず、目を逸らすことなくキッパリと答えた。

 ケンカを売っているとも受け取られかねない言い方に、苛立ちも露わに立ち上がろうとするヒトが居た。

 わたしはそれを遮るように続ける。


「納得してもらう必要はありませんが……貴方たちはヘリオスに守られてきたことだけは理解してほしいですね」

「「「なっ……!?」」」


 ヘリオスはキマイラを憎んでいた。ひたすらに燃やしてきた。

 それはつまり、バーグベルグ村のヒトたちに牙を剥くキマイラの数を減らしていたと言うことだ。ヘリオスに『住人のために!』なんて意識はなかっただろうけど、結果的にはそうなっているのだ。

 それに……このままではヘリオスが可哀相だ。彼の手助けもあってベヒーモスを眠らせることが出来て、風神を助けることが出来た。痛痒は一切感じないのだとしても……火神を待ち続けているあのドラゴンのために、少しぐらい風遠しを良くしてあげたかった。


「付け加えると、あのヘリオスは火神様が友と認めたドラゴンです。昨今の事情を鑑みて、明らかなモンスターである彼と仲良くしろとまでは言いませんが、ことさら邪険にするといつの日か復活した火神様から怒られるかもしれませんよ?」

「「「!!??」」」


 村人たち全員が驚愕の表情へと変化した。さもありなん。『神とモンスターが友である』なんて、彼らからすれば青天の霹靂だ。

 だからこそ、余計に理解が出来ないヒトも居るわけで。


「馬鹿な!! そ、それこそ証拠はあるのか!?」

「ありませんよ。でも、そんな嘘を吐いてわたしに何のメリットがあると思うのですか? 他の誰でもない、創造神の神子であるわたしが、徒に敵を利するようなことをわざわざ言うとでも?」

「ぐ……」


 神子はただ創造の力を与えられただけの存在ではない。能力に伴い義務はもちろん、大きな責任が発生する。神子が住人たちを陥れることは許されない。

 ……まぁ塩対応になることくらいはあるけど。わたしはそこまで人が好いわけじゃないからね……。

 重苦しい雰囲気の中、苦悩の表情を浮かべる老ドワーフが絞り出すようにわたしに問いかけてくる。


「……神子様、貴女は一体誰の味方なのですか……?」

「貴方たちの敵になった覚えはとんとありませんが、神様方の味方であることは確実ですね」

「……」


 イラっとはしててもあえて悪いようにしたいわけじゃないし、誰にどのように疑われようと神様たちのために動いている。そこはブレることはない。

 ……一瞬、創造神の味方を自称するあの男性と被って、少しだけ複雑な気分になったりした。案外わたしと似たところがあるのかもしれない。すごく嫌だけど。



 今度こそ報告会は解散となったので、もう一つの目的であるウェルグスさんと場所を改めて会うことにした。

 ……あれ? ウェルグスさん一人じゃないな。見覚えのあるドワーフの女の子?女性?と小さな子も一緒だ。誰だろ? と内心で疑問符を浮かべつつ話を切り出す。


「さて、ウェルグスさん。何かわたしに話したいことがあったんですよね? 何ですか?」

「話ってぇのは他でもねぇべ。オラたちを神子様んトコに連れてってくれ」

「…………はい?」

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