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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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託されたモノ

 封神石。それは名前の通りに神様が封印してある石のことである。

 あるといいね?くらいの薄味期待はあったけれども……まさか本当に見つかるなんて。それもベヒーモスの体の中から出てくるなんて想像だにしてなかった。まぁベヒーモスの存在自体が想像の埒外だったのだけれども。

 あり得るとすれば、封神石に封印されている神様の力を利用したかった、とかだろうか…………?


『何をボケっとしてイル! 隠セ!』

「――っ!?」


 封神石を手に呆然としていたら、ヘリオスが焦りを籠めて叫ぶように囁いてきた。

 か、隠す? それに何でそんなに焦って――


『この場をあいつ(・・・)が監視しているかもシレナイ! それが見られたら厄介なことにナルゾ!!』

「えっ? えっ??」


 ワケがわからなかったけれども、ひとまずわたしは封神石をアイテムボックスに仕舞い込んだ。ボックス内のアイテムを外から検知する術はない……はず。

 それにこの封神石は地神、水神の時と違い瘴気で汚染されてはいない。多少解放が遅れたところで中に居る神様に大きな影響はないので、安全地帯うちに帰ってから解放する方が良いか。

 あいつとは先ほどまでこの場に居た素性不明の男性のことだろう。けれど、見られたら厄介なことになる、とは一体どう言うことなのだろうか……? 嘘塗れのヒトではあっても創造神の味方であることだけは真実だ。封神石を見たら真っ先に解放を試みるのでは……?


『お前、あいつがそんなまともなことをやる奴だと思っているノカ……?』

「…………そうだね、ごめん」


 胡乱な目で――ドラゴンなのに如実にわかるくらいに顕著に――言われて納得する。そうだ、あの男性の思考回路は尋常ではない。たとえ神様の力であろうと有効に使う方法があれば、それがどんな非道なことであろうと躊躇なく行うだろう。

 と言うかそもそも、ベヒーモスがこんな醜い肉塊に成り果てたのはあの男性が何かをしたからだ。そして肉塊の中に封神石が埋まっていれば、埋めたのは自然とあの男性と言うことに…………ん?

 いやそうだとしたら、ヘリオスが隠せと言う理由がわからない。埋め込んだ本人であれば、ここにあることはわかっているはずだ。そして、ベヒーモスを倒せば神子わたしは必ず回収することも容易に想像が付く。散々子どもだと侮られていたし、倒せると思ってなかったのだろうか……?


『それはあいつが埋めた物ではないハズダ。存在を知っていたならもっとゴミみたいなことに使うダロウヨ』


 なるほど、これも納得出来る話だ。わたしがあの男性と相対したのはほんの少しだけれども、受けた印象はヘリオスのものと大差がないようだ。

 それはさておき、どうしてベヒーモスの体に埋まってたんだろう? ベヒーモスはゼピュロスのように番人役で、増殖の時に巻き込んだとか……?

 視線を巡らせ、目を閉じたまま動かないベヒーモスを見る。ダンジョン核(エネルギーげん)を取り出したことで、命は風前の灯である。むしろ生きているのが不思議だ。

 現に、ぼんやりとしていたわたしの頭に聞こえていた声が今は……って、あれ、わたし何でぼんやりしてたんだっけ……? えぇと、確か……ああああそうだ、あの肉を無理矢理口に詰め込まれて食べちゃったんだ……!

 今更ながらにお腹を抑える。……ちょっと熱い気はするけど、痛みとか吐き気はないな……? 消化吸収しちゃったのかな……うえぇ……。


「ところでリオン、調子は戻ったのか?」

「うん?」

「先刻まで……その、様子がおかしかったので……」


 ウルとフリッカから不安そうに話し掛けられる。

 お腹がおかしかったのは確かだけど……痛みでジタバタのたうち回っていたわけでもなさそうだね。


「おかしかった、ってどう言う感じに……?」

「……どう、と聞かれても説明しにくいのであるが、リオンらしからぬ無茶を……いや、無茶はいつもであるな?」

「呆としていたかと思えば、普段より冷静な行動を……いえ、それはよいことですね?」

「……」


 よくわからないけれど、二人とも『どこかいつものわたしとは違った』と感じたようだ。

 わたし自身、熱に浮かされたように頭が霞がかって、それからベヒーモスの声が頭の中に聞こえてきて…………もしや、肉を食べたことで一時的にわたしの体がベヒーモスに乗っ取られていた……? お腹の痛みもないし、運良く狂わずにもしくは本体が死に掛けで効果が切れたとか?

 いやいや、乗っ取られたのだとしたら、自分ベヒーモスを殺すように動くのもおかしい気はする。死にたかったのなら「助けてくれ」なんて言わないだろうし。

 ……あ。


「…………まさか……」


 ここで一つ、別の答えが頭に浮かんできた。

 「助けてくれ」の言葉の意味を。

 それは、自分のことではなく――


「……神様を……助けてほしかった……?」


 この封神石はあの男性が埋め込んだ物ではない。存在すら知らなかったし、知っていたなら酷いことに利用する可能性が高い。

 同じ立ち位置であるジズーは風神のことを気にしていた。モンスターであっても神様と敵対していなかった。

 このことから考えると。


 ベヒーモスは、封神石かみさまをその身の内に隠して守っていた……?


 わたしがその答えを得たと同時に、残っていたベヒーモスのにくがドロリと溶け始めた。

 ……どうやら、遂にその命を終えたようだ。死んだモンスターは特定部位ドロップアイテムを除いて消滅することがほとんだ。ベヒーモスも例に漏れなかったのだろう。

 複雑な思いを抱えながら消滅する様を見守っていると、やたら敵愾心を見せていたはずのヘリオスも神妙な顔で大人しく見詰めていることに気付いた。


「……ヘリオスの敵じゃなかったの?」

『……違ウ。俺の敵は、こいつの体も魂も貪っていた塵共のコトダ』

「…………そっか」


 ベヒーモスは、ヘリオスにも、わたしにも助けられなかった。

 ……死が、唯一の救済だったのだ。

 生きながら無限に喰われ続けるよりも、その方がずっとマシだ。

 わたしが勝手にそう決めつけるのは傲慢かもしれない。そう思った方がわたしの気が楽になると言う逃避なのかもしれない。


「……リオン、どうしようもなかったことまで背負うようなことはよせ。この結末はぬしの責任ではない」

「……うん、わかってる」


 ウルの言葉は優しく、フリッカもそっと手を握ってくれた。またぞろ心配を掛けているようなのでもっとしっかりしないとな。


「……ん?」


 しばらくして全ての肉が溶け、蒸発するように消えた。

 その跡に、大きな角と、小さな石が遺されていたのだ。角は陸王の角だとして、石はベヒーモスの魔石にしては小さすぎるな。何だろう?

 拾って調べてみると……その正体に、わたしは思わず目を見開いた。



●陸王の魂

 陸の王・ベヒーモスの魂。

 しかし度重なる酷使により大部分が擦り切れ、残るは僅かである。

 待ち続けた者は、最期に希望を託す。

 【不壊属性】【神子のみ加工可能】



「……希望か……重いなぁ……」


 どうやらベヒーモスは怒ってないみたいだ、なんてホッとして、現金だなぁと少しばかり自嘲がこみ上げてくる。

 これも念の為にササッとアイテムボックスにしまっておく。ほぼ中身が無いも同然なので最早利用価値はないはずだけれども、万が一奪いに来られたら困る。

 ベヒーモスが何をもしくは誰を待っていたのかも、わたしに託したモノが何なのかもわからないけれど、最期を看取り、これを受け取った者として、精々頑張らないとね。


「さてと、ダンジョン核は回収したし、キマイラ発生の原因も突き止めた。後はモンスター大量発生の原因探しかな?」

『それは単にあの肉の匂いに引き寄せられて集まったからダロウ。狂った後は犠牲者なかまを増やすために散らばるシナ……』

「……そ、そうなんだ」


 図らずも目的が全部達成されたようだ。

 バーグベルグ村に報告くらいはしなきゃいけないし、ウェルグスさんとの話もあるし、戻る必要はあるけれど……あの村に顔を出すのは今の精神状態だとしんどい。封神石の件もあるし、拠点うちに帰って休んでからにしよう、そうしよう。




 xxxxx




 リオンたちの居る火山から離れた場所にて。

 男はゆったりと歩んでいた足を止めて振り返り、当の火山を見上げる。その目つきは鋭く、忌々し気に大きく舌打ちを鳴らした。


「クソが。倒されるのは想定内だけど……あいつの気配が思ったよりも強かったな」


 男が脳裏に浮かべるのは己の天敵。そして勝手に連想しておきながら、勝手に苛立ちを募らせる。


「別に放っておいても脅威じゃねぇが……あ、そうだ、丁度いいイベント(・・・・)がもうすぐ発生するな。あれに巻き込んでやるか。ハハハ、下僕があの場所に落とされる(・・・・)なんて、あいつと対照的で何とも面白い話になるじゃないか」


 素晴らしい案を思いついたことで不機嫌が一転し、喜色満面になる。笑いがこみ上げてきて抑えられない。


 その笑みは……非常に、非情で、飽くなき、悪に塗れ。

 病みに病んだ、闇であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「呆としていたかと思えば、普段より冷静な行動を……いえ、それはよいことですね?」 フリッカ「冷静さよりむしろ、情熱を持ってリオン様が押し倒して下さる方が、もっと良いのですが」(目がハート…
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