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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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炎山の弄られた揺り籠

「…………………………は?」


 辿り着いた先は大きな空洞となっていた。

 マグマの滝がそこかしこの天井から流れ落ちてきている。おそらく、ヘリオスの言っていた火口からマグマを潜り抜けた先がここなのだろう。

 滝は途切れず流れ、しかし小さなマグマの池は溢れず。このことからわざわざ循環でもさせて……つまりこの場所にそう易々と辿り着けないように隠していることになる。

 でも、わたしが思わず絶句したのはこの大がかりなギミックに対してではない。これくらい(実際の仕組みはどうあれ)ゲームでは十分に溢れている光景だったからだ。

 では何に対してなのかと言うと。

 この大きな空洞の、中央に鎮座する山。


 ――超巨大な、肉塊。


 全身が鼓動を打つように脈動をしている。時折、大きな脈動に合わせて血管が破れて血が噴き出し、折れた骨も飛び出すが、周辺の肉が覆い隠すように蠢いて塞いでいく。

 肉の表面が水が沸騰するかのようにボコりと弾けては、噴き出す血骨と共にモンスター……?が生まれてくる。疑問符が付いたのはそれがあまりに歪で、何のモンスターなのか判断が付かなかったからだ。


 肉もある、骨もある。しかし……生物の形とは、思えないナニカ。

 まるで子どもが、色々な生き物を一緒くたに、骨ごと肉を潰してハンバーグにしたかのような。

 あるいはフィギュアの手足を折っては粘土に適当に突き刺したかのような。もちろん手足が二本ずつとは限らない。


 何物でもない。何者でもない。何の意味もありはしない。

 創造の欠片もない。破壊とすらも呼びたくない。

 世界の全てに喧嘩を売る、あまりにも冒涜的な。

 わたしが、ことあるごとにキマイラに対して感じていた嫌悪感を濃縮させたモノ。


 つまり、この肉塊が……キマイラ生産装置と言うことだ。


 道中で出会った肉キマイラに比べてしっかりとした(?)形がないのは、きっとわたしたちに遭遇する前に適当なモンスターを食べて(食べられて)変化した姿なのだろう。見た目は肉スライムや肉ゴーレムに近い。全部気持ち悪いのはさておき。

 とは言え、キマイラ発生(とモンスターの大量発生)の原因を探していたのだからそれに遭遇することは何らおかしくない。むしろ空振りに終わらなくて良かったくらいだ。

 だから他にも大きな、目を疑いたくなるような理由がある。

 それは――


「……何、なのだ? この大きな生き物……生き物であるよな?」

「モンスターを生む、モンスター……ですか?」


 巨大な肉塊には、手が生えていた。足が生えていた。これらはくっ付けられたものではなく、自前・・のものだと何故だか察せられた。

 頭も……あった。

 象のような、牛のような、カバのような、不思議な造形。そして、どことなく愛嬌のある顔に反しての雄々しい角。

 わたしは……それを、知っている。ゲーム内で見たわけではなく、書物テキストで読んだだけの伝承ちしきだけれども。


「……陸の王……ベヒーモス……?」


 超大型の四足獣『ベヒーモス』。通称『陸の王』。

 獣の王にして陸の王。

 その力の強さは随一で、彼をひとたび怒らせるだけで足踏みで地割れが出来て谷となり、隆起して山となる。

 しかし性格は温厚で、陸の獣たちからは神の如く崇拝されていた。

 巨体で世界を壊すのがわかっているがゆえに彼は一つ所に留まり、ただただ寝そべって過ごしている……ように見えるが、実は何かを待っているのかもしれない。


 一字一句覚えているわけではないけれど、大雑把にはそのような内容だった。

 ベヒーモスもジズーと同じくゲーム中では出現せず、地底深くまで続くダンジョンの奥に『陸王の角』と言うアイテムがあるだけだった。

 陸王の角は地と鉄を示す、赤と黒のグラデーションをしている。

 そう……ちょうど正に、目の前に横たわる肉塊の頭部に生えているような。


「そんな伝説の生き物が、何でこんなところで、こんな……キマイラ発生装置にされているんだ……?」


 いや確か伝承の一つに、『レヴァイアサンと対をなし、全てのモンスターの祖とされている』と言った記述もあったけれども……アステリアでは破壊神だけじゃなくベヒーモスもモンスター発生装置だったと言うことなのか?

 いやいや、だとしても、何でただのモンスターじゃなくキマイラ化した状態で生まれてくるんだ? 祖であるならばなおさら原形プリミティブを維持しているものであって、ごちゃごちゃと混ざっているのはおかしい。

 いくらベヒーモス自身の見た目が複数種の特徴を持ち合わせているからって、こんな、ありえない造形になるだなんて。


 一体、誰に弄られたんだ・・・・・・・・――?


 ボボボボボボボッ!!


 そんなわたしの思考は、前方で立ち上った炎の柱に遮られる。


『ボケっとしてないで、来たなら手伝エ!!』


 ヘリオスだ。ここまで来ておきながらわたしたちが全然行動をしないから業を煮やしたのだろう。

 わたしがのんきに呆然としていられたのもヘリオスがヘイトを稼いでいたからだろうね。彼は多くのキマイラに囲まれており、倒しても倒してもベヒーモス(にくかい)揺り籠(なえどこ)としたキマイラが次々と誕生はっせいして補充されてしまっている。


「……っ、ごめんヘリオス! ウルはわたしと本体を、フリッカは雑魚からお願い!」

「うむ、殴れる相手は任せよ!」

「わかりました!」


 考えるのは後だ。ともかくこいつを何とかしないと!

 わたしとフリッカが火の矢を放つと共に、矢以上の速さでウルが肉塊に向けて飛び出していった。


 ――わたしはこの時、ベヒーモスの閉じられた瞼がわずかに開き、わたしの方に瞳を向けたことに気付かなかった。



 幸いにして、この肉塊は物理耐性はもちろん、先ほどのラーヴァゴーレムの核を吸収したキマイラのように完全火耐性を持っているわけでもなかった。面白いように拳が、火が効く。

 ……まぁ欠点として、美味しそうな匂いも再発しており、焼けるたびに食欲と――フリッカは強烈な悪臭と――戦うことになっているのだけれども。この肉塊から生まれるキマイラが……と言うより、この肉塊自体に状態異常を誘発させる仕掛けがあるのだろう。


「むんっ!!」


 ウルの拳が肉塊の一部をぶっ飛ばす。

 しかし非常に再生能力が高く、残った肉塊がうぞうぞと動いて塞ぎ、抉れた部分が盛り上がり、何事もなかったかのように戻る。こいつを倒したければもっと広範囲、下手すると全身を損壊させるくらいの攻撃が必要となのかもしれない。

 それでもウルの攻撃は無駄ではない。肉塊の至る所からキマイラが発生しているのだが、攻撃を受けた部分は再生に専念するせいかその部分からはしばらくキマイラが発生しなくなるのだ。単純に物量が減ることとフリッカの援護によりヘリオスに余裕が生まれ始めて、肉塊へのブレスが行われるようになる。

 そうして同じことを繰り返していくと、やがてエネルギーが尽きたのか再生をしなくなり、キマイラも発生しなくなっていく。全身損壊とまではいかないまでも、全身焼けていればそれで済んだようだ。もっと厳しい戦いになるかと思ったけど、ウルの攻撃が効く相手なら早いね。今回はヘリオスという超強い助っ竜(すけっと)もいたし。

 最後のキマイラに矢を放ち動かなくなるのを確認してから、ヘリオスにふと疑問を投げかける。


「ねぇヘリオス、こいつ何でこんなに美味しそうな匂いがするの?」

「そんなこと、俺が知りたいくらイダ」


 期待はしてなかったけどやはりわからないようだ。あとヘリオスも美味しそうな匂いだと思っているらしい。悪臭と感じるのはフリッカだけか。

 うーん、ベヒーモスが素体であることに何か関係しているのだろうか?

 ……そう言えば、ジズーと会った時も何故か『私を食う気なのか?』とか尋ねてきた記憶があるな。

 ひょっとして終末の獣たちは、わたしからすればゾッとする、肉を食べられたい願望でも持っているのか……?

 いやでもジズーからは美味しそうな匂いはしなかったしなぁ。それとも焼けばこんな匂いがするのだろうか。焼きたくないけど。

 あー、今思い出したけど地神からもジズーの肉は『食べたら呑まれる』と言われたっけ。ヘリオスの警告と一致する。


「まぁ考察は後にして、今は――」


 こいつを全身灰にしてしまおう、そう口にする前に。

 唐突に、頭上から、答えが降ってきた。


「それは君たちが化け物だからさ」

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