ラーヴァゴーレム戦
ラーヴァゴーレムは名前の通り、全身が溶岩(と岩石)で覆われているゴーレムである。
つまり、だ。
「……ウル、言うまでもないだろうけれど、殴りかかっちゃだめだよ?」
「うむ……」
いつかのように「燃やされる前に倒せば問題ない!」とはさすがに言い出さなかったようだ。
見ただけで火の温度がわかるわけではないが、それでもサラマンダーもどきよりはラーヴァゴーレムの方がずっと温度が高そうであるし、前者は曲がりなりにも肉体があるのに対し後者は半流体だ。物理で殴りかかったところで奇跡的に核に当たらない限りはダメージが入らないと思った方がいい。スライムに似ているけどスライムのように半透明で核の位置がわかるわけでもなく、ずっと厄介な相手だ。
ゴアアアアアッ!
どこに口があるのか、そもそも口があるのかどうかもさっぱりわからないが、雄叫びのような重低音と共にその身にまとった岩石……つまり超高温に熱せられた砲弾が勢いよく射出される。
「たとえ殴れなくとも!」
しかしそれはウルの投石の前にあっけなく相殺された。
勢いに乗ってもう一投、ラーヴァゴーレムに向けて氷弾の投げ槍を投てきする。それは狙い違わずラーヴァゴーレムの頭?に刺さるが粘性の溶岩に絡め取られ、ダメージを与えることなく焼失する。あの勢いなら貫通するかと思ったけどアイテムの方が耐えられなかった。ぐぬぬ。
「……う、うぬぅ……」
「……ウルはさっきみたいに飛んでくるやつを叩き落とすのと、他のモンスターが近寄って来た時の対処をお願いするよ」
「……そうだの……」
大きく口をへの字に曲げるウル。手が出ないのが相当に悔しいらしい。わたしのアイテムが役に立ってないのも悔しい。
「フリッカはとにかく水系の魔法で攻撃を。状況にもよるけど貫通系優先でお願い」
「わかりま――」
――ぺちゃり
フリッカの返事が途中で切れた。電源の切れたロボットのように動きも止まる。
……こ、この音、まさか……。
ラーヴァゴーレムから意識を外さないようにしながらそろりと視線を少し下に向けると。
そこには、マグマから這い出てくる大量のフレイムスライムがうごめいていた。わ、わたしがさっきスライムのことを連想したせいですかね……?
「――――――――――ッ!!?」
声にならない悲鳴を上げるフリッカ。
その顔はヘリオスにブレスを吐きかけられた時と同じように蒼白になっていた。
……うん、きみのトラウマだからね……仕方ないね……。
ブオオオオオン――
群がられてもMPが持っていかれる以上に火傷ダメージで困るので優先して倒したいところであるが、ラーヴァゴーレムがそうはさせてくれない。仕方ないからってモンスターは決して待ってくれないのだ。
「わたしがラーヴァゴーレムを受け持つからフリッカはスライム優先で。……ウル、フリッカのサポートを重点的にお願い」
「 」
「……う、うむ」
フリッカは声もなく小さく頷くだけだけど大丈夫だろうか。以前の時と違って天井があるから上空に逃げることが出来ないからね……。まぁウルを信じよう。スライム程度ならどうとでもなる。……サラマンダーもどきの時みたいに、集まって合体してクイーンになったりしないよね? いや考えるのはやめよう。またフラグになってしまいそうだ。
ウルが手当たり(足当たり?)次第にフリッカに近いスライムからべっちゃべっちゃと踏みつぶしていく。わたしは意識を切り替えて、ラーヴァゴーレムに向けてフリージングブラストボールを投げつけた。
バキバキバキバキ!
フリージングブラストボールが当たるや否や、着弾点を起点にラーヴァゴーレムの体が凍り付いていった。広範囲の攻撃アイテムだけあって、あっという間に上半身?を呑み込み――
バギンッ!!
甲高い音を立てて氷が割れた。黒曜石化した部分が弾け飛び、内側から新しい肉――もとい溶岩が溢れ出て体を修復していく。くっ……それなりにダメージを与えられると思っていたのに、こんな方法で対策をされるとは。この動きは、ただダメージを与えるだけだったゲーム時代とは大違いだ。
……もしこの周辺のマグマ全部がラーヴァゴーレムの体に流用出来るのだとしたら、その回復力は無限とも言える。貫通系のアイテムで偶然に期待して核を狙うか?
後は……引っ張ってマグマから全身を引き剥がして回復力を奪うとか? けれどこの大きな空間の至る所にマグマがある。これはこれで難しい。
……もしもの時は、何とかして動きを止めて、その間に横を走り抜けるしかないかな。とにもかくにも、フレイムスライムが居る間はどうにもならないだろう。幸いにしてウルはいくらか余裕はあるようで炎の砲弾は打ち落としてくれる。フレイムスライムを全滅させてくれるまで耐えよう。
『アレを倒してしまっても構わんのだろう?』とか言ってみたかった、なんて。
「シッ!」
氷の矢を数本続けてラーヴァゴーレムに射る。頭、胴体、腕、曲射で脳天、それぞれの場所に向かって矢は飛んでいく。
何本かは逆に炎の砲弾で打ち落とされ、何本かは刺さり。しかしラーヴァゴーレムは何の痛痒も見せず(そもそも痛覚とかあるのかな……?)、燃え尽きるだけだった。
ラーヴァゴーレムが庇った場所に核があったりするかな? と再度矢を射るが、当該箇所に刺さっても特に動きに変わりはなく。ランダムで防御してるだけなのだろうか。
……あぁ、核の位置を動かしている可能性だってないとも言い切れないか。通常のモンスターと違い肉体がないのだ、動かすくらいは出来るかもしれない。最悪、核は下半身――マグマの海にある可能性だってある。ラーヴァゴーレムに知能があるのかわからないけど、わたしだったら安易に晒すことはせず、マグマにうずめて安全を確保する。
あまり悲観的に考えて気持ちを萎えさせたくもないけど、何も考えずにただ適当に攻撃するだけはもっと愚策だ。
観察しろ。考えろ。想像/創造は、わたしの最大の武器なのだから……!
とにもかくにも、核の位置の炙りだしと並行して突破口を考えないと。
そうして何度も矢やアイテムを放っているうちに、ラーヴァゴーレムの行動に法則性のようなものがあることに気付いた。
ラーヴァゴーレムの体にいくつもある岩石。そのうちの一つをかばうように流動させていたのだ。おそらくそれが核なのだと思われる。
しかし事前に狙いを定めようにもシャッフルされてしまうのでどれが目標だったかすぐに見失ってしまう。どれも似たような見た目だし……マグマの海に隠されてないだけマシではあるか。
どうやって対処したものだろうかと思案していると、後方から騒ぎ声が聞こえてくる。
まだフレイムスライムたちを殲滅出来ていないようだ。強くて手こずっているのではなく、数が多いだけだろう。さっきからたまにわたしの足元にもウルの投石が飛んできてはフレイムスライムの破裂音が響いていた。
「フリッカ、落ち着くがよい!」
「~~~~~っ!」
「動揺で核が狙えないのならば、狙わなくて済むように大きい魔法を放つとか出来ないかのぅ!?」
直後、マグマの海に挟まれていながら冷気を感じ、グチャ!と粘着質な音がする。……スライムが氷塊で潰された音……かな。
しかし……うん、それだ。
ラーヴァゴーレムの核がどれなのかわからないなら、体全体を潰してしまえばいいのだ。
「せいやっ!」
わたしはまず、フリージングブラストボールをラーヴァゴーレムに……ではなく、その左右と後ろを狙って投げる。
バキガキゴキ!! とマグマの海を黒曜石化させて、体が削れた時の補充かつ逃亡を防ぐ。下が塞げないのは妥協するしかないし、いくらなんでも連続での急速再生は、マグマの粘性で動きが遅いので出来ない、と思いたい。
お次はラーヴァゴーレム全体を潰すだけの大質量の氷。わたしは寒い地域にはまだ行ったことがないので氷塊を持っていないし、そんな大きな氷を作る魔法だって知らない。
けれど……無いなら作る。それが神子だ。




