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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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トラップの一種?

 原因を考える間は与えられず、モンスターがまたも襲いかかってくる。

 今度のモンスターは肉の塊に獣の四肢が生えたようなキマイラだった。獣と言っても一種ではなく、熊のようなモノ、鹿のようなモノ、豚のようなモノと様々だ。

 ……まるで手当たり次第にくっ付くかとりあえず試してみたかのようだ。

 肉の塊に手足が生えているなんて気持ち悪くて仕方ないのだが、良くも悪くも見慣れてしまった今となってはシュールにしか見えない。


「フンッ!」

「せいやっ!」


 肉キマイラは見た目がぶよぶよの肉なだけあって非常に防御力が低くばっさばさ(正確にはべっちゃべちゃ……)と斬れる。代わりに衝撃吸収で打撃に強そうな感じがしなくもないのだけれど、ムキムキ筋肉なわけでもないのでウルの剛力に耐えられるはずもなく弾け飛んでいく。

 ……とは言え、感触がよろしくないのかウルは嫌そうな顔をしていたりする。まともな装備が用意出来ない、不甲斐ない神子でごめんよう。わたしも出来れば素手では触りたくないレベルだ。今使用している武器もこの戦いが終わったら破棄したいくらいだったりする。勿体ないからやらないけど。


「ファイアアロー!」


 身を守る物がないむき出しの肉は、当然魔法もよく効いた。特に火魔法は覿面で、よく燃えるゴミとは言いえて妙である。……この肉、脂肪分が多いのかしらん。

 それにしても、火山地帯に生息しているのに火に弱いなんてよくわからないな。普通は耐性があるものじゃないだろうか。いやそもそもこんな馬鹿の極みみたいな生き物にそのようなことを考えても無駄かな。


 しかし……困った。

 数は多いけれど、弱点がはっきりしているので相対的にめちゃくちゃ弱く感じる。倒すことは何ら問題はない。

 倒すことは問題がない、のだが……別の問題が発生している。


「うぬぅ……何故なのだ……」


 ウルはわたしよりよほど鼻が良いから顕著に感じてしまっているのだろう。

 耐えるように顔をしかめ、歯を食いしばっている。

 一体ウルは、そしてわたしは、何に耐えているのか。

 それは。


「何でこいつら……こんなに、美味しそうなにおいがするんだよぅ……!」


 最初はとてつもなく臭く、吐き気すらする酷い悪臭だったと言うのに。

 いつの間にか、食欲をいたく刺激する、美味しそうな匂いに変化していたのだ。

 フリッカが火魔法で焼くものだから、いい感じの焼肉になっているようにすら感じる。タレを掛けてかぶりついてしまいたい。

 ただ、相手が醜悪なモンスターだから、と言う以前に手が伸びない理由はある。


「……今回ばかりは、お二人の言うことであっても信じられません……!」


 臭い。良い匂いだなんてありえない。

 フリッカが涙目で何度もそう訴えてくるからだ。思わず涙が出るほどの刺激臭なのか。……わたしたち二人の言動に嘆いているってのもありそう。

 これのおかげでわたしたちは最後の理性を奪われずに済んでいる。食べたら最後、フリッカに口を聞いてもらえなくなりそう……じゃなく、破滅に陥りそうであるから非常に助かっている。


『食った奴が弱ければ汚染され、強い奴でも狂わせらレル』


 思い出されるのはヘリオスの警告。

 あの時は『そんなの食べるわけないじゃないか』と楽観的であったけれども……。

 まさか『食べさせにくる』方向で来るなんて思わなかったよ!

 汚染させるもしくは狂わせるために美味しそうな匂いを発するなんて、あえて食われるために行動するモンスターなんて居ると思うわけないじゃないか……!

 いや、わたしとウルはもうとっくに狂っているのかもしれない。

 アレを、変わらず気持ち悪いと思い続けているものの、食べたくて仕方がないと思っているのだから――


「えぇい、こんちくしょう!!」


 わたしは壁面に思いっきり額を打ち付けた。

 ゴッ! と予想より大きな音が響く。

 加えて壁は固い岩でデコボコとしており、額から血が流れてくるのがわかった。


「リオン様……ついに気が触れて――」

「ないよ! むしろ正気を保つためにやったんだよぅ!」


 痛すぎて食欲はわずかに引っ込んだけれども、漂う匂いに変わりはない。

 つまりこれは幻覚……幻臭……?と言うわけではなく、一時的にはどうかなっても根本を断たないと解決出来ないか。

 ここで疑問なのが、今になってもフリッカ一人だけ嗅覚が正常なことだ。涙を浮かべるほどの悪臭なので正常なのが嬉しいかどうかは不明だけれども。

 種族的なもの? 魔法適性? それさえわかれば対応策を講じることも出来るかもしれなけれど、理由が本当にわからない。検証しようにもモンスターが多すぎてそれどころじゃない。ヘリオスも食うなとしか言ってないから、きっと理由や対応策まではわからないだろう。

 であればここはもう……気合で切り抜けるしかない……!


「ウル! この件が解決したら、こんなの目じゃないくらいのごちそうを作るから頑張って耐えて!」

「……うむ……耐えるのである……!」

「フリッカにも、こんな悪臭忘れるくらい良い匂いのを作るからね!」

「……楽しみではありますが、今、食べ物の話はちょっと……」


 あっはい、すみません。



「うぅ、ひどい目に遭ったのである……」

「モンスターは全滅させたけど……まだ匂いが残ってるねぇ……」

「私はもう何も臭いがわからないくらいに鼻が麻痺しています……」


 どうにかこうにか、わらわらと沸いてくる肉キマイラたちを倒し切った。消滅せずに残った肉を燃やしつくして消し炭にして、物理的に食べられない処理まできっちりとした。通常の肉であれば素材だ!と喜んでアイテムボックスに収納するのだが、それすらも嫌だった。


「ヘリオスめが助けを求めてくるほどなので多いとは思っていたが……想像以上でありそうだの」

「そうだねぇ……」


 この時点ですでにげんなりとしているけど、多分、本番・・はまだだろうから、考えるだけでも憂鬱さが増してくる。よもやこんなアホみたいな理由で戦いたくないモンスターが出てくるとは……。

 いつもであればここで回復がてらジュースの一杯でも飲むのだが、わたしとウルは食欲の復活が怖くて、フリッカは食欲が減退しすぎて、それぞれ別の理由でそんな気にならない。代わりにポーションを使用する。飲食しなくていいのがここまでメリットになる日が来るなんてね。


「さて……そろそろ先に進もうか。わたしはさっさとこんな場所から抜け出したいよ」


 ウルもフリッカも深い同意を示す頷きを返しつつ立ち上がった。



「……この肉キマイラたち、肉を食べて変異してしまったモンスターの成れの果てなのかな……」


 良匂(?)に耐えながらモンスターを倒していたのだが、ふとそんなことを思いついて零す。

 最初はモンスターがうごめく肉に呑み込まれてしまったのかと思っていたけれど、逆だったのかもしれない。ヘリオスも汚染されると言っていたし。……肉に呑み込まれると言う意味では同じか。


「さて、真実がどうあれ試す気は起きぬな」

「まぁね……」


 自分で食べるのは以ての外、通常のモンスターが食べるのを見学しようにも現在は全然見かけなくなってしまった。

 まぁどのみちそんな検証をしたところで何がどうなるわけでもないだろう。世の中知らなくていいこともきっとあるさ。


「……この先のモンスターはずっとこのキマイラだけなのでしょうか……」

「んー……こいつらの天敵のようなモンスターが居れば別だろうけど、ほぼそうだと思った方がいいだろうね」

「む? 天敵とは、例えば?」

「ヘリオスみたいに炎を纏っていれば生きていけるんじゃない? 実際に彼は無事なんだし」

「ふむ、それもそうかの」


 ……この会話がフラグだったのだろうか。

 わたしたちはまさにその、炎を纏ったモンスターと遭遇することになるのだった。

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