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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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意外な接点

 ごうごうと唸る風が耳元を通り過ぎていく。

 早朝のせいか身を切る風はやや冷えているが、暖かいモノに包まれていることもあって丁度よい塩梅となっている。


 わたしたちは今、ヘリオスに運ばれて空を駆けていた。

 正確には、わたしがヘリオスの右手、フリッカが左手に掴まれ、ウルが背の上に乗っている。

 どうしてそうなったかと言うと……目的地までヘリオスが乗せてくれることになったものの、ヘリオスの体格に合う鞍がなかったのだ。やっと一人乗れる大きさのゼファーとは違いヘリオスの背はせっかく三人くらいなら乗れそうだったと言うのに、その体の大きさゆえにゼファー用の鞍が使用出来なかったと言う悲しみ。地を走る馬ならともかく、さすがに空を飛ぶのに鞍なしで乗ることは出来ず――ウルのみがバランス感覚に優れていて可能とした――わたしとフリッカはそれぞれ手で掴まれて運ばれることとなった次第である。

 傍から見ると、捕獲されて雛の待つ巣に連れ込まれて食べられる哀れな犠牲者みたいな絵面になっているかもしれない。まぁ目撃者は居ないのだけども。


 拠点うちで準備を終えた翌朝。

 帰還石を使いバーグベルグ村に戻って来たのだが、祭壇周りには誰一人として居らず静かなものだった。……これまでは朝早くとも何人かは居たと言うのに、明らかに避けられていて何とも言えない気分になった。それともヘリオスに攻撃を加えるなどの邪魔をするヒトが居なかっただけマシと思うべきだろうか。

 思い出して憂鬱になり小さく溜息を零す。それは風に紛れてフリッカはもちろん耳の良いウルにも届かなかった。


 なお、フリッカは先ほどからずっと青白い顔で俯いており、一言もしゃべらない。……ダメかもしんない。

 ヘリオスがわたしたちを掴む指は太く安定感があり、落ちないと頭ではわかってはいても慣れがなければ辛いだろう。まぁ普通のヒトは空を飛ぶ経験なんて早々にないのでむべなるかな。わたしはゲーム時代の経験とついこの前ゼファーに乗ったばかりだったので比較的大丈夫だけれど……ゼファーの時より速度が出ているのでちょっと怖かったりする。

 背に乗っているウルは逆に元気なものだ。体を支えるものが何もない状態であると言うのに興味深くあちこちを見回している。……正直見ているこっちがいつか落ちやしないかとハラハラしてくる。


 特に上空でモンスターに襲われることもなく――強者であるドラゴンに挑むモノは滅多に居ないだろうね――お昼になる頃には火神の神殿跡まで到達することが出来た。前回は数日掛かったのに、障害物もなく直線で行けると早くていいね。


「……フリッカ、大丈夫?」

「…………少し休ませてください」


 蚊の鳴くような声で懇願され、神殿前で小休止となった。お昼ご飯の時間だったのでウルにはしっかりと用意する。

 ふと視線を巡らすと、いつものように「うまうま」と食べるウルを物珍し気にじっと見ているヘリオスが目に入った。


「えぇと……ヘリオスも食べる?」


 モンスターが創造神の神子(わたし)の作ったご飯を食べて大丈夫かな、と頭を過ったけれども、ゼファーなんてむしろわたしのご飯を好んで食べているのだし今更だ。ダメだったら口にしないだろうし。

 ヘリオスは一瞬何を言われたのか理解出来なかったのかもしれない。数秒フリーズして、何度か瞬きをして、わたしを見て、差し出された料理にくを見て。


「リオンには何の含みもない。食うがよかろう」

『…………ソウカ』


 ウルからそう言われて、ヘリオスはやっと口を開いた。……毒餌とでも思われていたのかしらん。

 ヘリオスは恐る恐ると言った体で肉に齧りつき……カッと目を見開いた。

 わたしがその反応にビクりとしたのも目にくれず、ガツガツと食い尽くしていく。


「うむうむ、リオンの料理は美味いであろう」


 どうやら気に入ってくれたらしい。何故か得意そうにしているウルに苦笑を返しつつ料理を追加していく。ヘリオスの食べる速度がウルより早かったからだ。体も口も大きいからね。

 ……ウル、ご飯はたっぷりあるから張り合うように急いで食べなくてもいいんだよ?



 しばらくしてフリッカも回復し全員が一息吐いたところで、わたしはヘリオスに質問を投げかける。


「目的地ってここから近いの?」

『いや、マダダ。洞窟を抜ける必要がアル』

「……もっと近道はない?」

『お前たちがマグマを通り抜けられるなら火口から行けるノダガ』

「……ごめんなさい、無理です」


 現時点での火耐性はそこまで高くないし、たとえ完全火耐性を持っていたとしても現実でマグマダイバーをやる度胸は欠片もない。

 わたしが背筋をゾワゾワとさせていたらヘリオスが思い出したように付け足してくる。


『あぁ、忘れる前に前払いの報酬を渡しておかないトナ。約束の鱗ダ。俺の寝床に落ちてたやつだケドナ』

「おおおおお!」


 パラパラと十数枚の鱗を差し出され、わたしは喜びに打ち震える。

 傷がある物も混じっていたけど、光の具合で虹がかって見えるそれは変わらず美しく見えた。ゲーム時代も手に入れたことはあるけれど、こうして実物を目の当たりにすると溜息すら零れる一品だ。


『……へファイストが、『貴様の体はまるで宝だな』なんて言っていたが、お前からしてもそうなんダナ』

「そうそう、きみの体は…………って、え?」


 ヘファイスト……?

 …………火神!?


「ちょ、待って!? ヘリオスは火神様と繋がりがあったの!?」

『……封印前のことなので、かなり昔の話ダガナ』


 わぁおヘリオスってば長生き……って、いやいやいや、そうじゃなく!


 ――モンスターが、神様と?


 確かに、ゼファーに対して神様たちは割と好意的だった。でもそれはわたしを通してであって、モンスターと神様が直接と言うのは……これが初めてだ。

 その事実に、わたしは先ほどとは別の意味で体が震えた。

 のだが。


『まぁ時折、俺を見る目が素材を見る目になって怖かったンダガ』


 ……ほんわか話だと思えば殺伐ぅ!

 いやまぁ、わたしもあまり……どころかかなりひとのこと言えないんだけどもね!


 話を聞くにどうも、火神は最初からヘリオスとは敵対する意志を見せていなかったらしい。当時のヘリオスは発生した(うまれた)ばかりで今ほど強くなく、倒すのは容易であったのに、だ。

 そこを疑問に思ったヘリオスも理由を尋ねてみたら。


『貴様とは敵ではないからな!』


 などとのたまったそうだ。

 ……モンスターは基本的には敵ではあるが例外も居る、と言う意見はわたしだけではないようだ。

 先日の神様たちの言葉もそうだけど、一体どこで線引きがされているのだろう……?

 はっきりと示されたところで納得するの? と返されてしまえば同じように返答に詰まるのだけれども、気になるものは気になる。

 そして、火神がそうであったのに、バーグベルグ村のヒトたちには受け継がれていないようで……何だか物悲しい。封印は百年以上前なので仕方ないと言えば仕方がないのだが。


『俺の持っている宝も、あいつが鍛冶に使えると言っていたモノばかりだから、神子であるお前にも有用ダロウ』


 ヘリオスは火神のためにあれこれと素材を集めていたらしい。

 しかし火神は封印されてしまう。

 どれだけ待っても火神は現れず。それでもいつかのために集めることを辞められず。


 ……その話を聞くと、受け取り辛いんだけど……?

 火神が認める素材であればわたしだって喉から手が出るほどにほしい。

 でも……それは、ヘリオスが火神の帰りを待ち続けて、火神のために貯めた物だ。わたしが受け取るべき物ではない。


『お前からは別の神の匂いがスル。であれば、お前に渡せばいずれあいつのためにもなるダロウ』

「……わかったよ」


 ヘリオスのためにも、火神の解放を頑張ろう。

 その前にまずは、ここの異変を解決しないとね。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「……フリッカ、大丈夫?」 >「…………少し休ませてください」 フリッカ「ほら、あっちに休憩できる宿(意味深)が見えますし……」(幻覚)  これは拾わねばならん気がした(遠い目)
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