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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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曲げられない意志

「どうしたんだい、そんなシケた顔をして」

「あらあら、お疲れね?」


 どんよりとした気持ちを払拭するためにアイテム補充に没頭しようかと思っていたけれど、朝に帰還したせいでいつもの如く祭壇に地神と水神が居てそのように声を掛けられてしまった。

 いくらわたしとて神様を無視することは出来ない。朝ごはんを食べてないことも思い出したし、食べながら話すことにした。


「……モノ作りの間はかなり無視されている記憶があるんだがねぇ?」


 あっはい、すみません。



 今朝はフリッカが準備を申し出てくれたので素直に甘えることにした。ただ食卓でぐてっとしているだけで出来立ての食事が出てくるありがたい環境だ。

 なお、わたしたちが居ない時はわたしとフリッカが出発前に作り置きしておいた料理を食べるか、フィンとイージャが頑張って簡単な料理を作っていたりする。地神と水神? 作りませんね。


「ほ、ほら、私はまだ本調子じゃないし?」


 水神の言うことには一理ある。未だ瘴気に蝕まれた体でモノ作りなど行ってはアイテムに悪影響が出るからね。

 ただ……目が泳いでますね? 別の理由がありません?

 じとーっと水神と地神を見ていると、観念したように地神が溜息を吐きながら言う。


「実は、アタシたち六神の中で料理が出来るのは火神だけさね……」

「えぇ……料理が出来ないって……それで生きていけるんです?」

「……封印前はいつも信徒が作ってくれていたからねぇ……」

「一応言っておくが、アタシたちは恒常的に食料を必要としないからね? これはアンタたちに合わせてるってのもあるのさ…………リオンの作る料理は美味いし」


 ぼそっと最後に小声で付け足されたのは嬉しいことである。まぁ更に『お酒が』と心の中で付け足されているような気がしないでもないけど。

 しかしなるほど、二重の意味で作る必要がなかった、と。信徒からすれば神様へと捧げることが出来たのだから誉れであっただろうし、Win-Winの関係だったと思われる。

 火神だけ作ることが出来る理由は、火神の加護で料理知識がもらえることからも彼自身にスキルがあるのだろう。……見た目細マッチョで豪快な性格をしていたと言うのに……意外と言えば意外である。

 しかし今は以前とは状況が異なっているのだ。この拠点には数人しか住んでいない。わたしは頻繁に外に出るし、残る人手はフィンとイージャだけ。……神だからって大の大人が何もせず子どもに作らせるのは絵面的にどうなの?


「あ、あの、ボクは、料理作るの、楽しいですよ?」

「……イージャ、きみはいい子だねぇ……」


 ホロリと涙を浮かべ、思わず立ち上がりイージャの頭をわしゃわしゃと撫でる。褒められるのが慣れてないのか、戸惑いながらも照れを見せるのがなんだか可愛くて更に撫でていると、横からどこか拗ねたような声が届く。


「わ、ワタシだって、頑張ってるし」

「うんうん、フィンにも感謝しているよ」


 もう片方の手でフィンの頭を撫でる。顔をしかめ口を尖らせながらも静かに受け入れている辺りツンデレの素質があるのでは?

 などと邪念が浮かんだのが伝わったのか頭を撫でている手をペシっと叩かれてしまった。ウフフ、そう言うところも可愛いね!


「……ハッ」


 気付けば、湯気を立てる料理の皿を手に、微笑ましさ八割、羨ましさ二割の視線を向けてくるフリッカが傍に居た。

 わたしは何かを誤魔化すようにへらっと笑ってから配膳の手伝いくらいはするよと申し出る。



 料理が並び、食事を開始したところでこの数日の間に何が起こったかを順繰りに報告していく。

 三人衆と一緒に調査を開始したこと。融合する気色悪いキマイラと遭遇したことに渋い顔をされ。火神の神殿を発見し、中がボロボロだったところで痛ましそうな顔をされて。フレイムアントからのヘリオスと肉ゴーレムとの戦い。そして、バーグベルグ村でヘリオスと取引をし……それを村人たちに咎められたこと。

 わたしとしては、最後の件は地神と水神にもいい顔をされないかと覚悟していたけれど、実際の反応はあっさりしたものだった。


「そう」

「え。……『そう』って……ネフティー姉さんは怒ったりしないんですか?」

「怒る? リッちゃんは何か悪いことをしたのかしら?」

「……してないです」


 でもそれはあくまで個人的にそう思っているだけだ。現にバーグベルグ村のヒトたちには受け入れられなかった。

 しかし……わざわざそう聞くってことは……もしかして、神様の感覚では悪い話ではなかった、と……?


「アタシたちは基本的にはリオンの判断を支持するさね」

「それはありがたいことですが……この判断は明らかに異質ですよね……?」

「……そうさね」


 わたしの懸念にも地神はあっさりと肯定した。

 けれどそれは……異質であっても構わないと言う示唆でもあって。


「と言うかだね、アンタの場合はゼファーと言う前例があるのに今更そこを気にするのかい?」

「……ごもっともな話ではありますが」


 ゼファーに関しては創造神のお墨付きだ。ではやはり、そもそもモンスターとのやりとりは禁忌ではないのだろう。

 しかしそれはそれとして、だったら何故他の住人たちにその考えが浸透していないのだろうか、と別の疑問が頭をもたげてくる。

 先ほど地神は異質であると肯定した。異質ではあるけれども、禁忌ではない。そこに何か意味があるのだろうか……?


「ねぇリッちゃん。例えば今ここで私たちがダメと言ったら、貴女は納得して辞めるのかしら?」

「……」


 水神の質問に、考えるまでもなくわたしの答えは決まっていた。

 ……辞めないだろう、と。

 結局のところ、わたしの言葉にバーグベルグ村のヒトたちが納得しなかったように、わたしも神様の言葉ですら納得しないのだ。これでは彼らのことを責められないな。まぁそうであっても今後彼らに手を貸すかどうかは彼らの態度次第にはなるだろうけど。


「リッちゃん、貴女は確かにメーちゃんの神造人間ドールではあるけれど、メーちゃんのお人形さんではないのよ。貴女の人生と思考は貴女のもので、貴女がきちんと考えて出した答えであるのならば、致命的なものでもない限りは私たちはそれを見守っているわ。だからあまり深く思い悩まないでね」

「……はい」


 水神の声は柔らかく、慈愛に満ちていて。わたしはそれをすんなりと受け入れることが出来た。

 しかしその直後。


「……まぁ、きちんと考えたからって悪さばかりしていたら、私たちが貴女に何をするかはわからないけどね?」

「ヒェッ……き、肝に銘じておきます……!」


 ほっこりしていたわたしにしっかりと釘を刺してきて。

 水神は優しいようでいてその実地神よりもずっと恐ろしい存在だと再認識したよ……。



 朝食後、アイテム補充のために作業棟に移動する。

 ウルは特にやれることがないからフィンたちを構ってくると言って、フリッカは出来る範囲で手伝うと言ってくれて。

 まぁつまり、二人きりと言うことで。

 わたしは、意を決して(?)フリッカと相対し、徐にその頭を撫でた。唐突なわたしの行動にフリッカは目をぱちくりとさせる。


「……リオン様?」

「や、なんかその、さっき羨ましそうにしてたし……?」

「……そう、ですね。たまにはこう言うのもよいですね」


 フフ、と嬉しそうに笑みを零す。

 うーん……この程度で喜んでくれるなんて、わたしは根本的にスキンシップが足りていないようだ。反省しなければ。

 そんな風にうむむ、と唸っていたら。


「リオン様も、本日はお疲れ様でした」

「わぷっ」


 視界が塞がれた。

 耳元で囁かれる声と感じる温もりからして胸元に抱きしめられたようだ。

 その姿勢のまま今度はフリッカがわたしの頭を撫でてくる。


「水神様も仰っていましたが、あまり思いつめないでください。私は……私たちは、貴女に何処までも着いて行きますので」


 降り注ぐ声が、伝わる体温が気持ちよくて。

 ただただ甘えるだけになってしまいそうな……一歩手前で、踏みとどまる。


「もし、わたしが間違っていたら……ちゃんと怒ってね?」

「……それはウルさんの役目ですね。私には無理です」

「えぇ……」


 ひょっとしてまだあの時のことを根に持っていたりするのだろうか……? 尋ねるのはなんか怖い。

 うぅ、ホント色々と精進せねば……。

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