立て直し、からの
帰還石を使用し、わたしたちはバーグベルグ村へと帰還した。いやはや、あの場が瘴気に侵されてなくて助かったよ。
突然視界が光に包まれ元に戻ったかと思えば、炎渦巻く戦場から見慣れた村の祭壇に瞬時に移動していたことに三人衆は驚愕に目を見開いていた。祭壇の方も無人ではなく目撃者がおり、同じくびっくりしている。……さすがに簡易でも説明はしておいた方がいいよなぁ。
「神子様、こりゃ一体……?」
「えーと……創造神様の像の元まで戻ってこれるアイテムがあるんです。色々と制限があるので自由自在に使用出来るわけではありませんが」
「……ほぅほぅ?」
今は驚きが勝っているようで素直に感心しているだけに留まっているようだけども、『これはものすごく便利なのでは?』と思われてあれこれとせがまれてしまうと非常に面倒なことになってしまう。わたししか生産出来ない、一か所につき一つずつしか作れないせいで、わたし自身ですら運用が手間なのだ。一度や二度ならともかく、味を占めて馬車馬のようにこき使われたらプッツンしてしまう自信があるよ。
平和になった暁にはヒトの移動や物の運搬が便利になるよう道の整備や道具の開発をしたいとは思っているけれど、現状そこまで暇はないのよね……よく行くグロッソ村すら未だに道が開通していないのだし。まぁさせてないのは別の理由もあるけれども、
「とりあえず、今日はこれでお休みにしませんか? さすがに疲れました……」
「……そうだな。いい加減酒も飲みてぇし」
更なる追及よりもお酒への欲求が上回ったらしい。ここまで来るといっそ笑えてくる。
反省は後日と言うことで、わたしたちは三人衆と別れて客室へと向かう。周囲で何事か聞きたそうにしてたヒトたちも今日のところは遠慮してくれて話しかけられることはなかった。
「ああああああー……」
疲れていたのは嘘でも何でもなく、変な声を出しながらベッドにダイブするように倒れ込む。きっと浜に打ち上げられたアザラシのような光景だろう。
うつ伏せで視界が布団でいっぱいだったわたしの体に、柔らかな振動が二つ伝わってくる。ウルとフリッカも座ったのかな。
「お疲れ様でした」
「うむ……全員無事に帰ることが出来て何よりだな」
「そう、皆無事で……って、いやいやいや」
わたしは慌てて身を起こしてウルを見る。彼女の服はボロボロのままだった。幸いにしてデリケートな部分はギリギリ見えていなかったのでホッとして……ってそこじゃなくて。
「……あれ、治ってる?」
「む? ポーションを使ったと言ったであろう?」
ウルの怪我はポーションで治る程度のものだったようで、今度こそホッと大きく息を吐いた。とは言え当然そのままじゃいけない。本人は無頓着そうだけどそんな恰好のままは許しません、と言うことで着替えを取り出して着替えてもらう。
むーん、裁縫スキルレベルも素材の質も足りてなくて、服の防御力はウルのお肌以下……。防具として意味を成してないからこれも頑張らないとな。ウルの場合は鎧の類を身に着けると邪魔になるらしくてね……鎧でも防御力が敵わない気がするけどそれはさておき。
「フリッカは大丈夫? 実は火傷してたとかそんなことない?」
「えぇ、問題ありません。……さすがにあのブレスは肝が冷える思いをしましたが」
「だよねぇ……」
ゲーム時代は即死さえしなければ回復アイテムでどうとでもなったけど、現実ではたとえ生きていても痛みでのたうち回って何も行動が出来なくなってしまいそうだし、腕や足などを焼失してしまっても一巻の終わりだ。……イージャの翼の件もあるし、部位再生アイテムの研究は進めないとな。
あのレベルのブレスの対策となると、高レベルの水属性防具か魔法が必要になってくる。現時点では水神の加護も期待出来ないし、軽減くらいは可能だけど無効化までは無理だ。まともに喰らわないよう回避することを考えなければ。あ、ウルが居ればブレスを吐かせる余裕もないかな? 互角に戦っていたみたいだし、気を引いてもらっている間に高威力の水属性攻撃をブッパすれば……って、思い出した。
「ところでウル、火竜……ヘリオスの味方をしたのは何故?」
帰る直前のウルとのやり取り。
オーダーは肉ゴーレムたちを倒してほしい、であったけど、あの状況ではヘリオスに利するだけの行為だった。
ウルが肉ゴーレムに対し猛烈な嫌悪を感じていて存在を許すことが出来なかった、という感じでもなかった。わたしとしてもあれは気持ち悪いし、存在しない方が良いものであるとは思っているけれど……。
わたしの問いに、ウルは難しい顔をして腕を組んだ。
「何故、と聞かれると、何とも答え辛いのであるが……」
「気分的な意味で? それとも自分でも答えが出ていない?」
「後者であるの。今まとめてるからちょっと待つのだ」
ウルのことだから直感で行動してしまったのだろう。けれどウルの直感は決して疎かには出来ないので、理由が言語化出来るなら聞いておきたい。……拳を交えあったから友情が芽生えた、とかではないよね……?
軽いお茶をしながら待っていると、ウルがやっと口を開き始める。
「ヘリオスとやらは肉塊たちと明確に敵対していたであろう?」
「そうだね。ウルの相手よりもあっちを倒すことを優先していたね」
「その行為が、あるいは感情が、他のモンスターたちとは一線を画していたように見えてな」
「……」
基本的にモンスターはわたしたちと敵対しており、認識され次第襲い掛かってくる。
明らかに勝てないと判断して逃げることもあるが、彼我の戦力差を考えずに突っ込んでくるのが大半だ。
何故なら……彼らは生物とは違う。いわゆる生存本能がないのだ。ただただ破壊への衝動がある。
そもそも生まれだって違う。そこらで発生するモノであり生殖行為をして生まれるわけじゃないのだから、種の保存とかも頭にはないだろう。モンスターの卵はあるけれど、あれは『そういう形で発生したモンスター』もしくは『モンスター発生装置』だし。
……であれば、知能のあるモンスターって一体何なんだろう……?
特殊な発生条件がある? 後から何らかの方法で知識を植え付けられる?
ゼファーなんかはまさに特殊な発生条件、だとは思うけど……うーん。
「って……感情があるって、ゼファーみたいな……?」
「あぁ、腑に落ちた。まさにそのゼファーを彷彿とさせたのだ」
わたしの半ば呆然としたした呟きにウルが「それだ!」と手をポンと打ち合わせた。
や、確かに、ヘリオスは肉ゴーレムに対する悪感情が見えていたし、最後に目が合った時、何かの意志が籠められている感じではあった。なおフリッカに聞いてみると「動きがおかしいとは思いましたが、感情までは……」と判断が付かなかったらしい。まぁドラゴンだしね。ゼファーがわかりやすすぎるだけなんだよ。
「つまり……ヘリオスとは意思疎通出来る、と?」
「味方に出来るとまでは言えぬが、交渉次第で少なくとも共通の敵がおる間は共闘、せめて不干渉に出来るのではないかと……思ったのだが……」
「ふむん……」
わたしたちはヘリオスを倒さなければいけないわけではない。……これを他のヒトに聞かれれば「モンスターを倒さないとは何事だ!」とか怒られそうであるけれどそれはさておき。
ともかく、わたしたちはヘリオスより優先すべき事案として、キマイラ(プラスモンスターの大量発生)の調査があるのだ。関係していそうな肉ゴーレムたちと敵対しているヘリオスであれば、実は発生原因だったと言うこともないだろう。
しょっぱなのブレスで殺されかけた身としては複雑な思いもあるが、強敵と戦わずに済むならそれに越したことはない。
「まぁそもそも交渉出来るか不明だけど……考えておくよ」
そうして話を終えて、食事と入浴の後に就寝する。
明日は色々アイテム作らなきゃな……と眠りに落ちる間際に考えていたのだけれども、事態はわたしに間を与えずに先へ先へと進んでいくのであった。
「リオン、起きろ! 彼奴の……ヘリオスの気配が急速接近しておる!」
「うえぇ!?」




