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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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破壊された神殿

 山をくり抜いて作られた火神の神殿は打ち壊されていた。

 屋外に作成されていた入口部分は、屋根は崩れ、柱も折れ、石畳も割れ。

 わたしがその建物を火神の神殿と判断したのは、火神の記号が刻まれた石柱が残っていたからである。その記号も爪のような何かで大きく傷を付けられており、辛うじて読むことが出来たが、逆にどうしようもなく征服されてしまったのだと痛々しい気分になる。

 明かりを手に中に入ってみようとすると、ウルに止められる。


「中にモンスターらしき気配がいくつかする。気を付けよ」


 ……そりゃそうか、こんな状態であればモンスターが巣食っている可能性だってあるよね。

 武器を手にそろりと中を覗くと、体にチロチロと炎をまとった熊、フレイムベアが数匹寝そべっていた。あいつらのせいで火事が発生しないかと不安になったけど、火神の神殿だけあって耐火製かそもそも不燃の物質で作成されているのだろう、焦げた匂いは漂ってこない。


「フリッカ、ユアンさん、入口から一斉に攻撃しましょう」

「わかりました」

「はい」


 小声で打合せをして、わたしの合図と共に攻撃を開始。先手が取れたのも幸いして、わたしの弓、フリッカとユアンさんの水属性魔法でサクッと撃退出来た。

 掃討が終わり、改めて見渡してみた内部も外同様にひどいものだった。

 入ってすぐは正面に祭壇があり、祭壇に向けてたくさんの椅子が設置してあった。しかし椅子のほとんどが砕かれ(わたしたちの攻撃で壊れてしまった物もあるけれど)、焼け焦げ、血のような黒ずんだモノが付着している。わずかにだけど骨も残っていたので後で供養するために拾っておく。

 祭壇に向かって進む。何もないなぁと思いながら回り込むと足元の何かに躓き、下に目を向ける。


「あー……」


 そこには、おそらく火神と思われる像の足元だけ残っていた。丈が低すぎて祭壇に隠れて見えなかったのだ。

 『おそらく』と付けたのは、ふくらはぎから上の部分が存在していなかったからだ。でも火神の神殿なのだから、火神の像しか選択肢はないだろう。

 パーツすら残っておらず、念入りに処分されたのか、何らかの原因で消失したのか……。


「火神様……」


 三人衆が辛そうに見ているが、わたしには彼らに掛ける言葉はない。それなりに信仰心はあっても、心に根ざしているとは言えないからだ。目の前で壊されている途中ならともかく、とっくに壊れてしまった物に対して悲しみは沸いてこない。神子がこんな薄情だと知られてしまったら問題かもしれない。

 溜息を零してから視線を上げる。火神の像の後ろには炉があったのだが、それも一見して炉とはわからないほどに破損していた。わたしが炉だとわかったのはゲームでその位置にあったのを見たことがあるからだ。


「……空っぽか」


 残骸を移動させて炉の中を覗いてみるが、当然の如く何もなかった。精々が焼け残った木屑くらいだ。

 これもゲームの話であるが、火神を解放した後にとあるクエストを行うと【火神の火種】というアイテムが入手出来た。鍛冶や料理などで使用するとアイテムがパワーアップする代物だ。アステリアでも入手出来るのだろうか。その前に火神の封印を探さなければいけないのだけれども。

 そう言えば、シリーズアイテムである【地神の土壌】と【水神の水珠】はどうなってるのだろう。前者は農業で、後者は農業や料理などで使用する。

 後日に聞いて知ったことであるけど、地神は拠点うちの畑や果樹園、花壇の土に既に混ぜ込んでいたらしい。わたしが外に出ている間にやってくれたようだ。……気付かないわたしも鈍いなぁ。


 祭壇横の目立たない位置に扉があったので、入ってみる。

 細長い通路と、左右にいくつか設置された扉。一番手前の扉を開けてみると八畳くらいの小さな部屋だった。休憩所か何かだったのだろうけれど、布は切り裂かれ、一つとして無事な調度品はなく、乾燥しきって触れば粉になりそうな茶葉だけが残っていた。

 この先をチェックして行ったとしても似たような光景が繰り返されるだけだろう。それでもわたしたちは言葉少なに一つ一つ見て行った。談話室、仮眠室、調理室、倉庫……全てが壊されていたわけではなかったけれど、およそヒトが住めるような状態ではなかった。十年は放置されていたのだからそんなものか。あと、声を大にしては言えないけど、めぼしい素材も残っていたりはしなかった。


 最後、左右ではなく突き当たりに設置された、これまでとは違い少しばかり豪華な両開きの扉……だった物が床に転がっている。嫌な臭いと嫌な予感に顔をしかめながら端に避けて転ばないようにしてから部屋に入ると、そこは鍛冶場であった。


「うへぇ……」


 わたしの拠点の作業棟はもちろん、バーグベルグ村の鍛冶場よりも二回りは大きな部屋。しかし立派な鍛冶設備が、とはいかず、ここもやはり壊されていた。しかも再利用出来ないようにあらゆる設備、道具が汚染されてしまっている。試しに落ちてたハンマーを聖水で清めてから手に取ると、ボロボロと崩れてしまった。耐久値が尽きただけではこうはならない。

 どのみち長期間の放置でまともには使えなかったとは思うけれども、ここまで来ると偏執的にすら思えてくる。ここを荒らしたモンスターは――十中八九知能のあるモンスターだろう――火神に相当な恨みでもあったのだろうか? いや、モンスターなら神に恨みがあってもおかしくないけど……。

 たとえ二度と使えない物だとしてもこのままにしておくのは忍びない。わたしは部屋全体の浄化を行った。


「くそぅ、勿体無ぇ……これだけの設備があればオラたちの装備も一段、二段は質が良くなるんだがなぁ」

「今は採取出来ない素材から出来たモンばかりじゃねぇか。修理も出来んのは厳しいな」


 ユアンさんはよくわからなさそうだけど、ドワーフ二人が嘆きに嘆いている。わたしとしてもこれだけの設備が使えなくなるのは勿体無い。現在の拠点うちの設備と比べてもランクが上だったからだ。火神が封印されてからかなり経つだろうに、それでも何とか継承してきた設備が全部無に返ってしまったのは大きな損失だ。

 無念に唸っていると、唐突に叫び声が――


「きゃあっ!?」

「っ、フリッカ!?」


 何か罠でもあった? 浄化しきれてなかった? いくつかのパターンを脳裏に浮かべながら慌てて声のした方を向くと。

 ……膝を付くフリッカと、その手前には石材が砕けてデコボコになった床と。


「す、すみません、躓いただけです」

「……うん、仕方ないね。怪我はない?」


 恥ずかしそうにするフリッカに手を貸そうと近寄り、まさにフリッカが躓いた辺りで、少し違和感を覚えた。

 フリッカを立たせてわたし自身はしゃがみ込み、手でゆっくりと表面をなぞり、コツコツと叩いてみる。


「これはフリッカのお手柄かも。ウルー、この辺り、軽く壊してもらえる? かるーくね、ガッツリはダメだよ」

「え?」

「む? わかったのだ」


 ガゴッ! と軽めの音(当社ウル比)を出して割れた石材をどかしていくと、そこには少し凹んだ収納箱が隠されていたのだった。

 床下収納などではなく、石でしっかりと埋められていた。だから襲撃者は気付かなかったのかな?


「……わ、我が壊してしまったか?」

「いやいや、これくらいなら大丈夫だよ。ありがとうね」


 お礼を伝え、なんだなんだと集まる皆の前で箱を開ける。

 姿を表したのは、赤味を帯びたインゴットが五つ。


「……神鉄……感じた力はこれか」


 神鉄、それは名前の通り神――赤なので火神の力が宿った鉄だ。素材のなかでは最上位ではないけれどかなり高位に位置する。しかも今となっては火神が封印されていて生産出来ないので超貴重な素材となる。……かなり昔の物がよく残ってたなぁ。

 残念ながらスキルレベルが足りず今は扱えないけれども、今後これで何を作ろうか夢が膨らんでくる。

 あれこれ頭の中で考えていたら、背後から圧を感じた。……おっと、ドワーフが居るんだった。


「……えっと、要ります?」


 わたしが恐る恐る提案すると、ドワーフ二人は物凄く難しそうな顔をしてから首を横に振った。え、絶対欲しがると思ったのに意外だ。


「欲しい、喉から手が出るほど欲しいが……」

「俺たちには扱えんからな……神子さんが役立てくれ……」


 なるほど? まぁ要らないのだったら全部いただいておこう。

 完全に無駄足かに思えたけど、最後に良い物が手に入ってよかったよかった。


 内心ほくほくで来た道を戻り、広間に入ったところで。


「……リオン、外にモンスターが集まっている」

「うえっ!?」

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