火神の神殿へ
「しかしこやつら、何でくっ付いたのかのう?」
「んー……予想でしか言えないけど、一体一体だと敵わないと気付いて融合して強くなろうとしたから、かなぁ……? 結果的に無駄でしかなかったけどね」
モンスターを全滅させて事後処理――要はアイテム拾い――をしている最中、ウルからされた疑問に曖昧に答えた。一応そのような回答をひねり出した理由はある。
それは……今わたしが摘まみ上げているこの魔石。
戦闘跡に残されたモンスターの魔石、サラマンダーのパーツだったモンスターのものは小さかったのに、肉スライム状になったモンスターの魔石はそれより明確に大きくなっていたのだ。
「……そんなこと、出来るのか?」
「モンスター同士で争って勝者が戦闘経験を得たり魔石を喰ったりで強くなることがあるのは知ってるけど、この方法はわたしも初見だねぇ……」
いやしかし、この件は見方を変えれば、お互いに魔石を喰いあって一つになったと言える……のか?
ともあれ、もし魔石が融合出来るのだとしたらわたしのモノ作りにも使えそうである。例えば、小さい魔石だと出力が足りなくて魔道具が動かせない、でも大きな魔石がないと言うような状態であっても、小さい魔石同士を融合させて大きい魔石にすることが出来れば解決する。気分はめちゃくちゃ悪くなったけど、得るモノはあったか。
「……リオン様、顔色が少々悪いですね」
「……まぁ、神子としては色々と思うところがあってね」
怒りに支配されて、やってはいけないことをやろうとしてしまった反省で胃が重たい。
そしてそうなった切っ掛けとして、いくらモンスターとは言え、あまりにも惨い命の使われ方をしたのを見てしまったからだ。
『毎日のようにモンスターを倒しているのに何を言ってるんだ?』とか『そもそも死んだら魔石になるモンスターが命を持っていると言えるのか?』とか色々と頭を過るけれども……それでもわたしがそう思ってしまうのは、ゼファーのような存在を知っているからだ。
同じくゼファーを知っているウルとフリッカは理解してくれるだろうけれど、普通に考えればモンスター相手にこのような憐みの気持ちを抱くのは異端だろう。場合によっては異常者扱いされるかもしれない。だからわたしたちだけではないこの場では細かく口には出さず濁しておくに留める。
……わたしとしても『モンスター相手に戦えなくなった』なんてことにならないよう線引きをしておかないとな。
「しかしサラマンダーか……。火神の神殿で目撃されたやつと関係してたりするのかな?」
「さすがにあの程度のサイズであれば、子どもはともかく大人たちが討伐出来ないとは思えません。別個体であるか、もしくは別要因があるかと」
「……どちらにせよ、神殿に行ってみなければわかりませんね」
あの程度と言えるなんてバーグベルグ村の皆は強いんだなと思いつつ、意見を述べるユアンさんに頷きを返す。
わたしたちは小休止の後、歩みを再開した。
「……道、塞がってますね」
「噂の一つは正しかったってことだべな」
しばらく歩くと、山道の途中がたくさんの大きな岩で塞がれていた。ちょうど谷間の隘路で、先が見通せないくらいには長きに渡って塞がれている。ここを乗り越えるのは厳しく、迂回しようにも他のルートはモンスターのせいで開拓されていないらしい。
「ここを進むのは骨だべな……どうする、神子様よう?」
ウェルグスさんは腕を組み、上空を睨みながらわたしに意見を求めてくる。彼が見ているのはそこらを飛び回っている鳥系モンスターだ。ここを無理に通ろうとすればすかさず襲い掛かってくる目論見だろう。
ウルに投石で倒してもらってもいいけど……どちらにせよここを渡るのは不安がある。足を滑らせようものなら大惨事だ。
しかしそれは、このままならば、の話だ。わたしは手を挙げて「ちょっと待ってくださいねー」と言いおいてから巨石の前に立ち、手で触れる。
んー、大きすぎてこのままじゃアイテムボックスに入らないか。
であれば。
「ウル。手頃な大きさに砕ける?」
「む? それくらいなら任せるがよい」
大きくてダメなら小さくしろ、ってね。
わたしのピッケルでも砕くことは出来るけど、触った感じ固めの石で時間が掛かりそうだ。可能であればウルに頼む方が早い。
都合のよいことに問題なかったようでウルは快諾してくれた。わたしは巨石の前を譲る。
ウルは空手の正拳突きのような構えをしてから、掛け声と共にまっすぐに拳を打ち付ける。
「せいっ!」
バゴンッ!!!
巨石が、ウルの拳が刺さった(言葉通りにマジで刺さったんです……)場所を起点に横に大きく一筋のヒビが入り、上下に割れた。そしてサイズが半減したことでアイテムボックスに入るようになったので収納をする。うん、思った通りこれならいけるね。
「んじゃ、この要領で進めていこうか。フリッカは上からモンスターが襲ってこないか監視をお願いするよ」
「うむ」
「わかりました」
わたしは三人衆が目も口も大きく開いて唖然としていることに気付いていたがあえてスルーして、開通作業を進めていった。
横槍が入らなかったこともあり、一時間ほどでこの作業は終了した。フリッカ曰く、「モンスターも驚愕しているように見えましたね……」だそうだ。だから襲ってこなかったのかな……?
なお、開通終了したところで真顔のドワーフさん二人に「この力を是非とも採掘に活かしてくれ!」と熱烈勧誘されたけど、ウルはあげませんからね。
「む、あれじゃないかの?」
「どれどれ?」
更に一日と少し進みやっと目的の山に差し掛かったところ、ウルが上の方を指しながら言う。わたしも指に従って見上げてみるけれど……わからなかった。まぁウルの言うことなので何かがあるのは確かだろう。
「まったく、モンスターの奴ら多すぎだべ!」
「それに加えてあっちいな!!」
「火山に近づいたからねぇ……!」
相次ぐモンスターの襲撃と、地熱も加えて気温が上がったことにより彼らの鬱屈が溜まってきている……かと思えば、逆にテンションが上がっている。ドワーフは常日頃鍛冶で炎を浴びているので火への耐性が強く、暑く(熱く?)なればなるほど燃えるらしい。近くに居るだけで気温が上がりそうな錯覚がした。ちなみにわたしたちは耐火アクセサリを装備しているので今はまだそこまで熱くない。マグマが近くなればどうなるかわからないけど。
キマイラも混じっていることがあるが、今のところただの強敵と言う範疇に収まっており、ウルが対処してくれるので問題にはならなかった。ただそのどれもが嫌悪感を掻き立てるような奇怪な見た目をしており、皆の気分が悪くなったくらいである。
わたしは火山の山頂を見据える。
変わらず煙を吹き上げているが……近くなったことで、どこか、違和があるように感じられた。煙に、何か、変なモノが混じっている……ような。
気温は上がっているはずなのに……寒気すら、感じるような。
視線を下げて今度は足元を見る。これまでずっと見てきた山道だが……じっとしていると、わずかに振動が伝わってくる。
わたしにつられて下を見たフリッカが眉をひそめた。
「地鳴り……ですよね」
「そうだね」
これは地震――プレートの移動によるものではなく火山活動によるものだろう。
しかしわたしは、この振動に嫌なモノを感じ取っていた。
……噴火とかしたり……しない、よね? いやでも、なーんかそんなモノでも、ないような……あるような……うぅん……?
まぁここで考え込んだところでわかるはずもない。先に進もう。
モンスターの襲撃を蹴散らしながら、休み(採掘)を挟みながら進むこと四半日。
わたしたちの前に、石造りの建物が現れるのだった。




