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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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火山への道中にて

 仮目的地としている火山は近いようでいて実際には遠かった。火山が大きくて見間違えたと言うのもあるけれども、一つの山ではなくいくつもの山が連なっており、何度も上り下りをしなければいけないのでその点でも距離が伸びているからだ。空を飛べればすぐなのだろうけれど、ここにゼファーは居ないし居たとしても全員は乗れないので土台無理な話だ。

 二日ほどかけて進んだのは行程の半分弱といったところだろうか。そろそろ一旦拠点うちに帰りたくなってきたけれども、同行者三人に知られたくない以前に直線距離だとバーグベルグ村とそこまで離れていないので帰還石が作成出来ないだろう。おのれぇ。


「あん? 神子様はあの火山を目指してたんだべか?」

「……あれ、言ってませんでしたっけ?」


 何度目かの即席横穴(採掘跡)での休憩中。特に手掛かりのような物は見つからず、「これからどっちに向かうべ?」と水を向けられて答えた時の反応がこれだ。

 どうやら伝えていなかったらしい。わたしの回答にウェルグスさんたちは顔をしかめた。偽神子に引き連れられて行った地なので嫌悪感があるのだろう。


「……帰ります?」

「……付いて行くと言ったのはオラたちだべ。でも何であそこを目指しているんだ?」


 ……こちらのキマイラ騒動についてもまだ話してなかったな。数日前の時は後回しにしたけど、この後突然キマイラに遭遇して戦闘中にパニックに陥られるよりも、事前に話をして心の準備をしてもらった方がいいだろう。それで前言撤回して帰るなら帰るでも別にわたしたちの方は構わないし。

 キマイラの発生原因の調査に来たと説明をすると、やはりウェルグスさんたちはそろって目を見開き、ユアンさんなんかはわかりやすく顔を青ざめさせた。


「キマイラがまた出た……だと……? おい、おめぇら知ってたか?」

「いや……聞いたことはねぇな」

「知られていたら村中が大混乱だったと思うよ……」


 怒り、戸惑い、恐怖、様々な感情が彼らの中で渦巻いている。思ったよりは取り乱していないが、実際にキマイラに遭遇したらどうなるのだろうか。

 わたしは再度、彼らに意思を問う。


「……やっぱり帰ります?」

「……いや、行く」

「仲間がキマイラにされたのは偽神子のせいではなく、彼の地に問題があるという可能性も残ってますよ?」

「それでも、だべ。もしそうなのだとしたら、なおさらそこをぶっ潰して仲間たちに報いてやらなきゃいけねぇ」


 脅すような予想を口にしても、ウェルグスさんは目に炎を灯し、力強く答える。膝に置かれた手は握りしめられており、今にも溢れ出しそうな激情が押さえつけられている。

 ビットさんとユアンさんにも視線で問いかけてみると、静かに頷かれた。彼らの意思は固いようだ。よっぽどのことがない限り翻すことはないだろう。

 わたしは静かに息を吐き「わかりました」と、これ以上の言葉を連ねるのは止めておくことにした。


「しかし火山か……ふむ」

「他に何かあるんですか?」


 別に偽神子騒動とか関係なしに直感で選んだ目的地である。この反応なら、ひょっとしなくてもあそこに何かあるのかもしれない。


「オラは行ったことがねぇが、中腹辺りに火神様の神殿があると聞いたことあるべ」

「えっ」


 火神の神殿だって? そんな不便そうな位置に? それとも火山だからあえて、なのかな……。

 理由は何にせよめっちゃ気になる。ぜひとも見ておきたいので可能であれば寄ることにしよう。

 しかしドワーフなんて真っ先に崇めそうなのに行ったことがないとは、それほどまでにモンスターの発生数が多いのだろうか。


「それもあるがそれだけじゃねぇな」

「十年くらい前に道中の道が崩れて通れなくなったとか聞いたぞ」

「僕はでっかいサラマンダーが棲みついたって聞いたけど?」


 まぁ、色々な要因が重なって行けなくなったらしい。

 モンスターが多い中、道を切り拓くのは並大抵のことではないだろうし、そこに強力なモンスターがプラスされるならかなり厳しいことになるだろう。


「皆さん伝聞なんですね。実際に目にしたことはないので……?」

「十年前は俺はガキだったし行かせてもらえんかったな。今は今で忙しくて、こんな機会でもなきゃ行くことはなかったろうぜ」

「……え、ガキって……ビットさん、失礼ですがおいくつで……?」

「うん? 二十二だな」


 な、なんだって……?

 髭もじゃで、低くて渋い声をしているビットさんが二十二歳だって……? わたしとほぼ変わらない……?

 更にウェルグスさんとユアンさんも同い年らしい。成人してからは落ち着いたけど、子どもの頃は悪ガキ三人衆――正確には悪ガキ二人プラス振り回されるユアンさん――として村では悪名を轟かせていたとか。そ、そうなんすか……ドワーフの年齢マジわからん……。

 なお、わたしがもうすぐ二十一と聞いて逆の意味で驚かれた。神子は不老だからもっと年を取っていると思われていたらしい。神様たちみたいに子ども扱いされるのも複雑だけど、若作り(正確には作ってないので違うのだが)されてると思われるのも複雑だなぁ。いや自分でもせめてどっちかにしろって感じだけど。


「成人と言えば、アイツが成人する誕生日がもうすぐだっけか。希望出してた武器作ってやらんとな」

「おぉ、そうだったな。目出度いもんだ」

「はは……こんなご時世だと生きて育ってくれるだけでめでたいよね」


 三人衆はそのまま村の誰かの誕生日の話で盛り上がりだした。

 その様子が、家族で誕生日について話し合っていた情景とかぶるところがあって。


 ……ほんの少し、胸に痛みが過った。


 けれども、何をどう頑張ったところでどうしようもないものだ。

 わたしが両親に出会うことは二度とない。それどころかあの世界に戻れることが二度とない。

 とうに理解して、納得して呑み込んだことではあるのだけれども……時折、ふと思い出して郷愁に駆られてしまう。


「……っ」


 わたしの痛みを察知したのか、フリッカがそっと手を重ねてきた。……本当によく見てるなぁ。

 ウルも背中をポンポンと叩いてくる。手から、背中から伝わる熱がじんわりと染みて暖かい。

 ……うん、過去はどうしようもないけど、未来は作れるのだから。

 彼女たちと生きていくと、決めたのだから。

 わたしは痛みを振り払うように、大丈夫だよと示すように、へらっと二人に笑みを向けた。


「ふふ、リオン様の誕生日が来たらお祝いしないといけませんね」

「そうだのう」

「あはは、期待しているよ」


 しかしアステリアでも誕生日を祝う習慣があるんだね。カレンダーがなくてすっかり抜け落ちてたわたしも悪いけど、拠点うちに居る皆の誕生日を聞いておかないとな。

 そこでウルが少し悲しそうな顔をする。


「……我、自分の誕生日など覚えていないのだが……」


 記憶喪失だからね、誕生日どころか名前以外全部忘れてるのだから仕方ないよね……。で済ませるのも何だか寂しい。

 何かよい方法はないかなぁと首をひねると、ふとアイデアが閃いてポンと手を叩く。


「じゃあ、ウルが思い出すまでの間はわたしときみが出会った日にしておく? 正確にはわからないから春の半ば、くらいしか決められないけど」

「……うむ、それはよいな」


 ウルは少し照れたような笑みを見せるのだった。

 納得してくれたようで何よりである。まだ先の話だけど、その時にはごちそうを用意しておこう。

 フリッカは春の始め、わたしたちと出会う前に終えていたらしい。今年は祝えなくて残念だけど、来年にはね!

 ……んー、クリスマスやお盆は当然ないとして、確か新年のお祝いはあるんだっけ? 他にも何かお祝いごととかあるのかな? モノ作りも大事だけど、こういうこともちゃんとやっておきたいな。あぁ、暦や慣習だけでなく勝手に自分たちで記念日作って騒ぐのもいいね。考えておこう。



 などと平和なひと時を送っていたが、トラブルはすぐにやってくることになる。

 ついにわたしたちの前に現れたのだ。


 ――キマイラが。

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