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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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ウルの正体

 わたしが行き当たった物は、未だに加工が出来なくて素のままアイテムボックスに残り続けている素材――【ウルの鱗】だ。

 取り出し、ウェルグスさんに渡してみる。


「これとか加工出来ます?」

「ん? …………んん?」


 鱗を手にしたウェルグスさんは首を傾げて鱗を矯めつ眇めつ眺める。目に近付けてみたり、逆に遠ざけてみたり。くるくる回してみたり。

 やがて「誰かわかる奴居るか?」と隣の人に渡す。……うん?

 受け取ったヒトは皆同じように首を傾げたり、目を細めて凝視したり。最終的には首を横に振って隣のヒトにバトンタッチをして。結局はグルっと一周して、誰一人として答えを出すことなくウェルグスさんの元へと鱗が戻る。……うん??


「神子様よぅ……これ、何だ(・・)?」

「何って……見た通りの――」

「いや、オラたちには何も見えねぇ(・・・・・・)んだべ」

「……はい?」


 見えないって、え? そんなことあるの?

 アイテムを手に取ることでアイテム名や説明がわかるのは神子特有の能力ではない。そこはすぐに判明した。

 とは言え、地神から加護として知識をもらった時に説明文が増えたアイテムもあるので、知識量によって差が出てくることはあるのだろう。

 しかし……何も見えないと言うのは、初めて聞いた。しかも素材には詳しそうなドワーフさんであるのに。単純に武器防具用の素材ではないから細かい部分がわからないのだとしても、そんなことがあり得るのだろうか? ……あるから今こうなってるのか。


「で、これは一体何だべ?」

「えーっと……わたしがこれまで遭遇してきた中で一番強い生き物の鱗です。落ちてたのを拾いました」


 改めて問われたところで、何故か『それはウルの鱗です』とバカ正直に答えるのが躊躇われて咄嗟に誤魔化した。事実なので嘘は言っていない。


「……っ?」


 少しばかり頭がズキリとして黒い影が見えた気がしたけれど、痛みと共に一瞬で消えた。何だろう、疲れているのかな?


「ふむ……よくわかんねぇが、まずは溶かしてみるかぁ」


 ウェルグスさんはあご髭をさすりながら呟き、炉に鱗を放り込む。

 すると。


「……溶けねぇなあ」

「……ですねぇ」


 鱗はいつまで経っても溶解することなく原型を留めていた。わたしが以前試した時と同じだ。火力が足りないのだろうか?

 仕方なくそのまま取り出してハンマーで叩いてみるも割れるどころか欠けもしない。むしろ力負けして跳ね返されているような様子すら見られる。

 その他、穴を開けようとしてみたり、薬品を掛けてみたり、熱して冷やしてを繰り返してみたりしたけれど、鱗が形を変えることはなかった。なお、ウルは複雑な心境だったのか口がへの字になっていた。……何かごめん。


「ぜぇはぁ……神子様、すまねぇな。職人として忸怩たるものがあるが、これはオラたちの手には負えねぇ代物だ」

「いえ、わたしも加工出来ませんでしたし、謝る必要はありませんよ」


 わたしは返却された鱗を手のひらに載せて、やっぱ駄目だったかぁと内心で溜息を吐きながら再度眺める。



■ウルの鱗

 本来の力は失われているが、

 物理、魔法共に 高い耐性を持ち、扱うには資格を要し、得てもなお困難を極める。



 んー……何となく武器防具用に加工出来ると思ったんだけど……ドワーフさんたちに判別出来ないのならそれ以外の用途にしか使えないのかなぁ?

 ……あれ? さっきは気付かなかったけど、以前見た時と微妙に文言が異なるような……?

 他のヒトたちに聞かれないようにこそっとウルに耳打ちする。


「資格が必要らしいんだけど……どゆこと? スキルレベル足りてない?」

「……さぁ? 我はリオンが使うなら好きにせよ、とは思っているが?」

「……わたし以外が加工しようとするのやっぱダメだった?」

「ダメと言うことはないが……」


 元が自分の鱗なのだから、目の前であれこれされるのは微妙な気分なのだろう。わたしだって抜け毛とか切った爪とかで何かされたら鳥肌が立ちそうである。……や、ホントごめん。次からはウルの見てないところで、わたし一人でやるよ……。

 遠い目をしながら鱗を仕舞い込むわたしにウルが何だか疲れたように言ってくる。


「そもそも我に武器など必要ないぞ? 道具は……まぁ、いずれは、とは思うが」

「いや、今はまだいいかもしれないけど、やっぱり武器って重要だと思うよ?」


 確かに今のところウルは自分の肉体のみで戦っているし、それだけでも敵は十分に倒せる。空を飛んでいる敵だって投石で対応出来る。

 しかし、今後ずっとそれが通用するとは限らない。

 例えば今居る火山地帯で言えばラーヴァゴーレムが代表的だろうか。ラーヴァゴーレムとは名前の通り体が溶岩で出来ているゴーレムであり、素手で殴ろうものなら大火傷間違いなしだ。投石しても焼け落ちてしまいそうである。使い捨ての投槍とか使うのはアリだと思うけど……正直毎回消滅するかと思うと、強い武器が必要になればなるほど出費が辛くなるので出来ることなら使い捨ては避けたい。必要なシーンになれば惜しみなく使うけどね。

 あとは前回のゴースト系もそうか。敵に実体がなくなると途端にウルは対応手段がなくなってしまう。万が一わたしとはぐれた時にピンチに陥ってしまいそうなので武器――特に属性の掛かった物は使えた方がよいだろう。


「むぅ……そう言うものなのか」

「そう言うものなのだよ」


 どうしても性に合わない、装備することで逆に動きが悪くなるとかなら無理強いはしないけれど、それだってまずは使えるようになってみなければわからないことだしね。

 わたしたちがそうコソコソ話をしている間に、ウェルグスさんたちも何やら話をしていたようだ。


「いやはや、俺たちの腕もまだまだだな」

「サラマンダーと戦った時もめちゃくちゃ硬かったけどあれは攻撃を重ねりゃ割れたし、それ以上に硬い鱗なんてあるところにはあるんだなぁ」

「いや、これは硬いと言うか……何やら拒絶されてるような感じだったべ。元のモンスターが反射の魔法でも使ってたんじゃねぇか? なぁ神子様、そこんトコどうなんだ?」

「えっ?」

「? 強ぇ生き物だとさっき言ってたし、実際に見たことあるんだよな?」


 唐突に話を振られたことに加え、尋ねられた内容に引っ掛かって咄嗟に答えられず、詰まってしまう。

 とりあえずわたしは嘘にならない程度に言葉をこねくり回す。


「えぇと、他のモンスターを一撃でぶっ飛ばすスゴイのでしたからねぇ。魔法に関してはその場では見てないので何とも……」

「ふむ、一体どんなモンスターなんだべな。気になってきたわ」

「……強いモンスターと遭遇したら身の危険があるのでは?」

「それもそうか。どうせ扱えねぇんだし、危うきに近寄らず、だべな」


 『目の前に居ますよ』とは言えず、心の中で冷や汗を流しながら適当に答えるしかなかった。何とか興味を外せたようでホッとする。

 しかしわたしにはまだ気になるワードがあった。


 『拒絶されているような』


 一体どう言うことなのだろう。ウルは反射の魔法どころか、一つとして魔法を使ったところを見たことがないので魔法の線はないはず。

 単に防御力の高さからそう感じたのか……それとも、先ほどの資格云々が関係しているのか。

 わたしは改めてウルを見る。


 皮膚を覆う黒い鱗。側頭部に赤い角。


 本当は、もっとずっと前から、彼女がただのリザードでないことは気付いていた。

 攻撃力も、防御力も、飛び抜けていた。抜けすぎていた。

 それでも、あえて正体を掴むまでもない、そう思ってスルーし続けた。

 いい加減わたしは……その認識を改めるべきなのだろうか?


「……リオン?」


 再び脳裏を過る、黒い影。

 それは――


「……いや、何でもないよ」


 大丈夫。問題はない。

 ウルの無垢な金の瞳には敵意も悪意も何一つない。ただわたしへの信頼がある。

 少なくとも今現在、突き詰めなければならないような話でもない。まぁそれ以前にウル自身に記憶がなくてどうしようもないのだけれども。

 それにウルが何者であれ、わたしは受け入れる。否定しない。後悔しない。

 最早そんなことが出来るほどに浅い仲ではない、大切な存在なのだから。



 わたしは、無意識に右腕をさすっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >再び脳裏を過る、黒い影。 >それは――  全身タイツでパンツマンで毛深くて、鉄の爪とか言いながらもっと硬い伸縮自在な自前の骨を武器とする、ナイスガイ。  その名も“ウル”ヴァリ○! …
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