ウルの武器を求めて
鍛冶の一通りの流れを見せてもらった後で、色々と気になった点を質問してみた。
例えば、炉を燃やす際に聖火で火を点けたらどうなるのか、聖油をかけたり、炭自体を聖属性の木で作ってみたらどうなるのか。この辺りは自分でも検証出来たはずなので、今まで如何に鍛冶に手を抜いていたかがわかってちょっと恥ずかしい。
原石を精錬する際に複数種類の原石を入れる、いわゆる合金の作成はさすがにやっていた。ただ原石だけでなく魔石や魔物素材を一緒に入れたらどうなるのだろうか。前者を思いついたのはインゴットに魔力が籠められるから、後者は魔物の牙や歯からも武器が作れるからだ。
他にも叩くハンマーや金床に属性を付与したらどうなるのか、鍛造中の剣身を冷やす水に聖水を使用したら――などなど多岐に渡る。
半分くらいは答えが返ってきたけれど、コストが高すぎて実行出来なかったものもあれば、そもそも想像したことすらない突拍子もない内容もあったようで(良くも悪くもわたしは初心者だった)侃々諤々と意見が交わされ、素材提供者が居るのをよいことにひたすら検証をすることとなった。
ウルの「お腹が空いたのだ……」と力ない呟きによりお昼をとっくに回っていたことに気付き、遅い昼食休憩に入ることに。
「……あれ? フリッカは?」
気付けば近くに居たのはウルだけでフリッカの姿が見当たらなかった。移動したのが全くわからなかったくらいには熱中してしまっていたらしい。
え? よくあること? アッハイ。
「フリッカならこの人垣の向こうに居るぞ。あちらはあちらで何かしているようであるの」
首を動かして隙間から覗いてみると、作業台の前で女性ドワーフさんと何事か会話をしている様が目に入った。手元に素材と道具を持って……細工を教わっているのかな? うんうん、モノ作りに熱心なのは嬉しくなるね。
昼食で合流して何をしていたか尋ねたら予想通り細工を教わっていたようで、ご飯後もわたしたちはまだ作業が続きそうだと伝えると、フリッカも引き続き教わることにしたらしい。ぜひとも頑張ってほしいものである。
食事を終え、検証を再開しようとして……ふとウルを見る。彼女は残念ながらまだモノ作りが出来ないのでこの件では何も出来ることがない。拠点の時のようにわたしを放置して誰かを引き連れて狩りに行くことも出来ず、大人しく見学をしていた。文句は口にしないけれど、どうにも退屈そうだ。
……あ、そうだ。
「ウェルグスさん。質問……と言うかお願いがあるのですが」
「ん? なんだべ?」
「この子の力に耐えうる武器や道具を作ることって出来ますかね?」
急に話題を振られ、ドワーフさんたちの視線が一斉に向いたことに「……な、何なのだ?」とウルはたじろいで半歩下がる。
「強い武器なら素材があれば打てるが……娘っ子の力に耐えうるってどう言うことだべ」
「……口で説明する前に実際に見てもらった方が理解が早いかもですね」
ウルみたいな少女が超怪力なんです、と言っても伝わり辛いだろう。ウェルグスさん始めあの時助けた人たちは力の一端を知っているはずだけど……その彼らをしても想像を絶するようなレベルであるからね。
わたしたちは鍛冶場の隣に併設してある、武器の試し切り用の部屋へと移動をした。剣を振り回しても天井に引っかからないように高く、広く、そして標的用の木人形がいくつか置いてある部屋だ。端っこにはたくさんの武器が立てかけられ、棚にはややボロボロになった防具が所狭しと詰め込まれている。
そしてわたしはアイテムボックスから未使用の剣を取り出す。このランクの武器にしては高い耐久値はMAXで、更にこの場で耐久プラスの簡易エンチャント――すぐに効果が剥がれるエンチャント――を掛ける。その剣の状態をウェルグスさんたちに確認してもらってからウルに渡す。
「じゃあウル、よろしく」
「……あまり無駄に壊したくないのだが」
ウルは受け取りつつも渋い顔をした。まぁ今まで散々壊しまくったのだ、忌避感の一つもあるのかもしれない。
でも昔ならいざ知らず、今なら問題ない。素材に余裕があると言うのもあるけど、他にも理由はある。
「大丈夫だよ。消滅しない限りは壊れてもリサイクル出来るから」
「ぬ?」
ゲーム時代の武器を始めとした各種アイテムは壊れたら消滅してしまう仕様だった。それゆえ貴重な素材で作ったアイテムは壊れる前の修理が必須となる。まぁ修理にも貴重な素材を必要とするので、消費量的には壊れるよりはマシって言う程度だったのだけれども。
しかしこの世界では残骸が残るので、それらを回収してスキルで変化させるなり鋳潰すなりで再利用することが可能だ。そのことに気付いてからは作って溶かしてを繰り返して鍛冶スキルレベルを上げていた。まぁ溶かす際に量が少し目減りしてしまうのと、燃料の問題で無限ループとはいかなかったのだけれども。
効率の上がるマグマ燃料が採取出来ればなぁ……火山だからついでに取り放題、は無理である。特殊な容器でなければ保管が出来ず、まだ用意が出来ていない。
わたしの説明に「そう言うことなら……」とウルは木人形の前まで歩む。
そして、ゆっくり振り上げて……大して力を入れているようにも見えないのに、目にも止まらぬ速さで振り下ろす。
「フンッ」
バッキイイイン!!
ゴワシャッ!
木人形が剣どころか鈍器でブッ叩かれたように粉砕され。
剣の方は剣身部分はガラスのようにバキバキに砕け、柄部分も圧壊していた。
「「「……は???」」」
この光景を目にしたヒトたちが、信じられないと言うように呆然としていた。無理もない。
木人形を壊す力自慢はこの村であればいくらでも居るだろう。剣を折ったり、鎧を斬ったりする者だって居ることだろう。
けれども……一度に全てを壊すような者は、この様子では居なかったのだろう。
実の所わたしもちょっと驚いた。ウル、強くなってますね……? ウルだって経験を積んでいるのだから当たり前か。将来が楽しみですね?
「……リオン、直してくれ」
「うん、ごめんね。付き合ってくれてありがとう」
結果がわかっていたけれど、それでも壊してしまったことにウルは少しばかりしょぼくれてしまったようだ。後で何か美味しい物を作ってあげようと思いながらそれぞれの破片を回収する。一つ一つ拾うなんてことはせず、意識するだけで一瞬で集まるので楽だ。
木人形を作り直して、潰れた柄は木ブロックに戻し……あ、あれ、圧縮されすぎて戻らない……? ま、まぁ木ならすぐに集められる。とりあえずしまっておこう。
剣身部分はすぐには無理なので後で溶かすことにして……うん、何もなかったかのように掃除完了っと。
「とまぁ、こんな感じなのですが……」
「……お、おう」
わたしの声掛けで我を取り戻すウェルグスさんたち。
その後、この村で一番耐久力の高い斧で試してみたけどやはり一撃で壊れ。午前の検証で出来上がった物の中でもかなり出来の良かった剣も同様に壊れ。
ウェルグスさんたちは腕を組み、唸り声を上げる。
「うーむ……こりゃ素材からキッチリ考えないといけねぇべ……」
「ですよねぇ。何か心当たりあります?」
「……メテオライトとか?」
「世界最硬の鉱石じゃないですか……持ってませんよ……?」
メテオライトはゲームにおける最も硬い鉱石で、隕石の落ちた跡やストーリー終盤のダンジョンで少量発見出来る、超々貴重な素材だ。さすがにメテオライトならウルの剛力にも耐えられることだろう。……耐えられるよね? 壊してしまう未来がほんのり浮かんだけど、考えすぎよね?
そんなモノ持っていたとしたら速攻試す……の前にスキルレベルが足りなくてやっぱり試せないか。
上手いこと配合を考えて合金を作ればいけそうな気がしないでもないのだけど、わたしにその辺の知識はないからなぁ。ドワーフさんたちであれば知ってるかと思ったけど、そこまで硬い物を作ったことはないそうだ。残念。
んー、わたしが持ってる素材の中で、何か使えそうなものはないかなぁ。あれでもないこれでもないと四次元ポケットから道具をポイポイ取り出しては放り投げる光景を幻視しつつアイテムボックスを眺めていると、ある物に行き当たるのだった。




