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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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唐突な宴会とトラブル

「……どうしてこうなった」


 挨拶の後、他の皆の前でも作成メイキングスキルを披露してあれこれ要望されたアイテムをその場で作ってみせたことで、本物の神子だと信用を得ることが出来た。

 それは良かったのだが……その後に交わした会話がいけなかった。


 ――神子様、ひょっとして酒とか作れたりしねぇ?

 ――もちろん作れますよ。




「おうおぅ、神子サマよう! せっかくの宴会だぞう、もっと飲めや!」

「や、十分に飲んでますんで……」


 赤ら顔でジョッキを片手に持ったドワーフさんに迫られ、ジョッキを掲げることでやんわりと押し返す。ドワーフさんは「そうかそうか! ガッハッハ!」と笑いながら別のヒトに絡みに行った。

 そう……わたしが酒を作るや否や、あっと言う間に村中のメンバーがこの集会所に集められ、神子の歓迎会と称した酒宴へと発展してしまったのだ。酒好きドワーフに請われるがままにお酒を作ってしまったのが運の尽きだった。地神で鍛えられていた(?)から軽く作ってしまったのもまずかった。

 集会所にたくさんの大きなローテーブルが運び込まれ、敷物が敷かれていく。敷物は動物の毛皮で出来ておりフカフカだった。床が床だけにそうじゃないと痛くて座ってられないからか。

 早速運び込まれる料理はチーズにソーセージ、ハム、サラミ、そしてフライドポテト。単品でも食べられるけど酒のつまみだらけである。あと何となくドイツ料理っぽい雰囲気がある。

 ガンガンお酒を飲み陽気に騒ぐヒト(主にドワーフだ)、料理をもりもりと食べるヒト、歌って踊る子どもたち、その合間をすり抜ける給仕のヒト。……ひょっとしたらこの村のヒトたち、突発的宴会が当たり前のように開かれてるのかしら……給仕さんたちの動きがやたらこなれており、まるで川を泳ぐ魚のようにスイスイと淀みがないのだ。

 とは言え余計な仕事を増やしてしまって申し訳ない気分になったので、わたしの方からも料理を提供しようかな。と手っ取り早く作成メイキングスキルで作成したら特に子どもたちが大はしゃぎで、味の面でも好評でしたウフフ。まぁね、料理スキルはそれなりに磨いてますからね? ……その後すぐに酒を集られたんですけどね。ちょっとは自重してくれませんかねぇ大人ドワーフたち!

 まぁきっかけは何であれ、わたしの作った料理モノで喜んでもらえるのは嬉しいことである。こんな狭い場所で暮らしていたら、何かしらの手段で発散することも必要だろうしね。


 思い出し苦笑いを零しながら、隣でご飯を食べているウルに声を掛ける。


「ウル、大丈夫?」

「うむ……まだ食える……」

「……そうじゃなくて」


 辺りに漂う酒気でぶっ倒れないかって心配だったんだけど……あ、いや、顔が赤いし、もしかしてすでに前後不覚になってて適当に答えてる……? まぁ村の中だから大丈夫だと思うけど。これが酒乱で暴れまくるならともかく、寝こけるだけなら可愛いものだ。

 なお、酒狂いドワーフとて子どもにお酒を勧めない分別はあるようで、「ウルはまだ子どもだから絶対にお酒を勧めないでね」と最初に釘を刺している。「勧めたら二度とお酒を作りませんから」と笑顔じゃない笑顔で付け足せば真剣に頷いてたので安心……どんだけお酒に執念燃やしてんだろ。さすが地神を崇める種族、やることなすこと地神とかぶりますわぁ。

 ……将来的に解放した火神ものんべぇだったらどうしよう。単純計算で二倍だけど、相乗効果で十倍くらいは面倒になりそうな予感がしてきた。今から頭が痛くなってきたぞう。

 ウルもウルで子ども扱いに怒るかと思ったけど普通に受け入れてた。わたしの方便と気付いたのか子どもなのが事実だからなのか……それ以上にお酒を飲みたくないのか。最後のが理由だとしたら巻き込んでごめんよぅ。


「フリッカは?」

「……えぇ、問題ありません」


 逆隣のフリッカもやや頬が赤いけれど、こちらは意識がしっかりしているみたいだ。……まぁ、その、トロンとして少し潤んだ目のせいで何時もより色っぽく見えてる気がするので、見つめられるとちょっと気恥ずかしい。

 宴会が始まった当初、若い男性たちが一緒に飲もうと寄ってきたけれど、フリッカの「既婚者ですので」の一言で背中に哀愁を漂わせてすごすごと去って行った。それでも一部まとわりつくヒトも居たけど……近くに居たドワーフさんに目配せをしたら引きずって行ってくれたので大きな問題にはならなかった。お酒(わいろ)が効いてますねフフフ……。引きずられた彼らは始めは暴れていたけれども途中でプツリと声が途絶えた。どうなったかは知らないし知る必要もない。


「リオン様はどうですか」

「わたしも大丈夫だよ。自分でも知らなかったけど結構強いみたいだね」


 フリッカにまとわりつこうとする男性は排除出来てもわたしに笑顔でお酒を勧めてくるドワーフさんたちはなかなか断れない。ので、何杯か飲まされてしまっている。最近やたらとお酒に縁があるなぁ。わたしの作ったお酒じゃなくこの村で作られたお酒は比較して酒精が強いので飲まされすぎるのも困るんだけど。……後で地神のお土産用にいくつかもらっておこうかな。

 でもこれまで何度か飲まされてきて、胃の容量の問題を除いて飲みすぎで吐きそうになったことはないし、二日酔いになったこともない。今もそんな気配はなくちょっと思考が緩くはなってるけど、意識だってはっきりしている。創造神お手製の体だからなのか、たまたまなのか。不都合はないからいいんだけどね。

 しかしそんなわたしの回答にフリッカは何故か不満顔になり、小さく呟く。


「……吐かないレベルで、いっそ理性を失ってくださってもよかったのに」

「ブフッ!? な、何を言ってるのきみは!?」


 酔ってる? 実はめちゃくちゃ酔ってる??

 問い詰めようとした矢先にまた別の声が掛けられてそれどころではなくなった。まさかさっきの聞かれてた?と焦ったけれども、聞かれていたのはその部分ではなかった。

 小さな酒樽をいくつも持ったドワーフさんたちに取り囲まれる。


「神子様酒に強いんだって? だったら一緒にもっと飲もうぜ!」

「え、ちょ」

「いやぁ、見た目細っこい娘さんなのに大したもんだべ! さぁさぁ!」


 「待って!?」と言っても彼らは聞く耳を持たず、わたしの持つジョッキになみなみとお酒を溢れるくらいに注いで、飲め飲めと囃し立ててくる。

 わたしは彼らの放つ圧に押され、半ば無理やり飲まされそうになり。

 ――その直前、唐突に圧が弱まった。

 正確には、前方からは弱まったけど、代わりに横から思わず寒気がするような何かが滲み出ていた。


「や、そ、そうだな、無理強いはよくねぇな」

「ヒトにはペースってもんがあるわな、自分が飲みたいように飲むべきだよな」


 などと言いながらドワーフさんたちは慌てて離れていく。

 わたしはしばし唖然としてから、そろりそろりと横に視線を向け。


「……フリッカさん?」

「はい、何でしょう?」

「いえ……ナンデモアリマセン」


 わたしにはとても良い笑顔を見せるフリッカであったが……うん、深くは突っ込まない方がいいよね……。

 あの日、わたしがしこたまお酒を飲まされて(満腹による)吐き気で彼女を受け入れられなかったせいか、わたしの飲みすぎには反応してしまうようになったんだよね……その割には理性が飛ぶくらいに酔っぱらってほしいみたいだけど。これも一種の複雑な乙女心なのだろうか……?

 いつか埋め合わせ……………………いつだろうね……?


「みこさまみこさま、なにかおいしいのつくって!」

「あまいのない??」


 大人ドワーフたちが居なくなったかと思えば今度は子どもたちがやって来た。こう言うのは和むからドンと来いって感じである。

 んー、甘くて美味しい食べ物……デザート系がいいかな? 勝手にドイツ繋がりってことでバウムクーヘンでも作ってみようか。材料を取り出して……っと。


作成メイキング、バウムクーヘン……あっ」

「「あっ?」」


 作成メイキングの途中、腕に妙な刺激が走ったかと思えば……ポフンと音がして失敗してしまった。バウムクーヘンとは似ても似つかない、焼け焦げたような黒い物体が出来上がる。

 わたしの周辺が一瞬静寂に包まれ、いくつもの視線が突き刺さる。

 『違うんだ、わたしは決してメシマズ神子ではないんだ!』と脳内でアホみたいな言い訳を思い浮かべながら、へらっと笑って何でもないことのように努めて明るく振る舞う。


「ご、ごめんね。酔ってるから失敗しちゃったみたい」

「そうなの?」

「おさけののみすぎはだめって、おかーさんいってたよ?」


 流れ弾を食らったドワーフたちがギクリとする様を目の端に収めつつ、再度の作成メイキングでは無事にバウムクーヘンが出来上がって事なきを得るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「……吐かないレベルで、いっそ理性を失ってくださってもよかったのに」  これに強引な追加。 「だったらいっそのこと、隠し芸大会に持ち込んで、夫婦で子作りしますと逃げられない状況に追い込む…
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