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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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偽神子騒動

 神子が本物かどうかを示すのはかなり簡単である。

 何故なら、作成メイキングスキルは神子特有の技能だからだ。他のヒトにはスキル一つでモノを変化させることなど出来やしない。

 だから、作成メイキングを行えばそれで済む……と思ったのだが……。


「創造神様の像でも作成すればよいでしょうか?」

「待て、それは認めん」


 と、即否定されてしまった。えぇー……。


「えぇと……では、どう証明すればよいでしょうか……?」


 創造神に姿でも現わしてもらえれば一発なんだろうけど、あのひとめっちゃ忙しいからお祈りしたからって来てくれるとは限らないんだよね。あー、それともここに像を立てて拠点うちに戻って、地神にでも来てもらうか?

 どうしてもこのヒトたちの信用を得なければいけないわけでもないけど、信用を得て協力してもらうに越したことはない。ちょっと面倒だけれども一度拠点に戻るか……と考えたところで、あちらから妙な提案をされる。


「そうだべな……今ここに、オラたちが採ってきた石炭がある。これで神子の能力を使用してブレスレットでも作ってもらおうかい」

「え? 石炭でブレスレット? 何か特別な効果でもあるんですか?」

「ないからこそ言っているんだべ。それとも……事前準備・・・・でもしてなければ作れないってか?」

「作れないってことはないですけども……」


 ゲームでは石炭でアクセサリを作成することは出来なかったけど、現実アステリアならばそんな制限はない。ただ制限はないからと言って、全ての作成アイテムに何らかの効果が発生するわけでもない。実はわたしの知らない効果があるのかと思えばそうでもなかったようで……謎である。

 何処か引っかかるモノを感じて首を傾げながらも、わたしは渡された石炭を受け取ってスキルを発動する。


作成メイキング石炭の(コール)ブレスレット」


 スキルが発動しない、なんてこともなく、石炭が光に包まれてぐにゃぐにゃと形を変え、ブレスレットへと成った。

 摘まんで眺めてみるも、特殊効果は何もない。ただ石炭が素材であると言うだけのブレスレットで重要そうと言うわけでも全くない。


「……これでいいですか?」


 わたしが差し出したブレスレットを全員が矯めつ眇めつ、些細な見落としをしてなるものかとばかりにチェックしていく。

 しかしやがて納得したのか、フスーッと大きく鼻息を鳴らしてからずっと険しくしていた表情を緩めてくれた。


「どうやらおめぇさんが神子だってのは間違いなさそうだべな。……疑ってすまんかったな」

「いえ……それよりも、わたしは何で疑われたのでしょうか?」


 神子だと名乗ってからここまで疑われたことは一度もない。見た目がただの人間ヒューマンの小娘だったからと言うわけでもなさそうだし、参考までに何で疑ったのか聞いておきたかった。いやまぁ『神子のオーラがない』とでも言われたらどうしようもないけどさ。

 わたしの問いにドワーフの男性はあごをさすり髭をジョリジョリ鳴らしながら答える。


「……去年の話だべ」


 話をざっとまとめるとこのような感じになる。


 この地に住む人々は年々増えて行くモンスターに苦慮しつつも、協力し合って生きて来た。

 幸いにして鉱山がある地だ。ドワーフたちが武器防具を作成し、エルフたちがエンチャントを掛け強化し、獣人ビーストたちが教練をし。各々が得意分野で力を発揮しつつ、そうでないヒトたちも生活面を支え、迫りくるモンスターたちを倒し防衛していた。

 彼らは仲間を失い涙を飲む日がありつつも、少しずつモンスターに対し優勢になっていった。


 そこにある日、とある青年がやって来た。穏やかな物腰で常に微笑みを浮かべ、どこか超然とした、不思議な雰囲気を纏った青年だった。

 その青年は……神子を名乗った。


 確か現在活動中の神子はわたしを入れて三人居ると聞いた記憶がある。

 わたしがまだ会ったことのない三人目がこの地を訪れたのだろうか。それともすでに力を返上していたり亡くなっていたりで数には入らない神子なのだろうか。

 ひとまず疑問は脳内にしまいこみつつ、話の続きを聞く。


 神子の青年は「この地はモンスターが多すぎる。原因の調査、解決のために協力してくれないか?」と提案を持ち掛けてきた。

 苦境の中に待望の神子が現れただけでなく、住人たちにとって願ってもない提案もされて、乗らないはずもなかろう。

 すぐさま精鋭十名を引き連れて火山――わたしたちも目指していたあの場所――へと向かって行った。


 そして……誰一人、帰って来なかった。


 神子が原因で。


「えっと……誰も戻って来なかったのだとしたら、神子関係なく、単に神子も含めて全滅したのでは……?」

「オラたちも最初はそう思ったべ。けんど……そうじゃあなかった。……むしろ、その方がマシだったとすら言えるかもしんねぇ」


 神子ですら駄目だったのか、と村は暗澹たる気持ちに包まれる。

 そんな中……更なる苦難が訪れた。


 キマイラが、彼らの村を襲ったのだ。


 ――送り出した十名をパーツとした、キマイラが。


 彼らは慟哭しながらも、手を出せなかった何人もの仲間が殺されながらも、かつての仲間(キマイラ)を倒したという。

 グロッソ村と同じ悲劇がここでも起こっていたことに、わたしはあの時のレグルスとリーゼを脳裏に浮かべ、胸に痛みを覚えた。


「アレは……あの偽神子がやったに違いねぇ……!」


 ドワーフさんは目に憎しみの炎を滾らせ、血が出そうなほどに拳を握りしめ、呪いすら吐きそうな様子で言葉を絞り出す。

 他の四人も似たようなものだ。相当に腹に据えかねたのだろうし、それが事実であれば当然のことでもある。

 ただ、少し疑問は残る。


「水を差すようで申し訳ないですけれども……その偽神子がやったと言う根拠は?」

「……そいつだけキマイラのパーツになってなかったからな」


 うーん……根拠としては弱い。単に混じっている(・・・・・・)ことに気付いてなかったとか、パーツにされる前に死んだとか、他の理由も考えられる状態だからだ。

 『どうだ、面白い趣向だろう?』と高笑いでもしながら再び現れていれば全然話は別なのだけれども、そうでもないみたいで。

 わたしは疑問を呑み込みつつ、別の疑問をぶつけることにした。


「その青年を神子だと信じてしまった理由は……?」

「……オラたちの目の前で創造神様の像を作ったんだべ。でもきっとそいつは事前に用意をしていて、魔法か何かで目くらましをしてオラたちを騙したにちげぇねぇだ」


 あぁ……だからわたしがいの一番に創造神の像を作成するかと聞いた時に否定してきたのか。そして、事前準備していないだろうアイテムの作成を指定してきた、と。なるほど。


「そいつはやたら熱心に創造神様の像に祈りを捧げていた。……あの熱の入りっぷりは演技には全く見えなかったんだがなぁ……クソッ」

「……」


 その言葉を聞いて、嫌な想像がわたしの脳裏を過った。


 ……偽神子ではなく、本物の神子だったのでは? と。


 もし本当にその人物がキマイラを作り出したのだとしたら、の話だけども、神子がアイテムを作り出す能力で、生き物を素材にして新たな生き物……のような何かを作り出そうとしたのでは?

 それで出来上がったモノがキマイラだと言うのは悪趣味としか言いようがないが、創作の世界では『死んでしまった恋人を蘇らせたかった』などで非道な生命実験を行う例はたくさんある。

 神子には死者を蘇らせる能力も、命を生み出す能力もない。それでも足掻いた結果なのだとしたら……やるせないな。

 そうでなくても、神子の能力をモンスター側に利用されてしまった可能性もありうる。あれがボスなら(・・・・・・・)、大いにありそうで――


「……ん……?」

「む? どうかしたか、リオン」

「リオン様?」

「……いや、何でもない、よ」


 はて、わたしは今何を思い浮かべたんだろ……?

 まぁすぐに忘れるくらいなら大事なことでもないし、本当に大事なことならそのうち思い出すでしょう。

 あ、次に創造神に会った時に神子のことを尋ねて、本物だったのか偽物だったのかハッキリさせておけば真実を明らかにする一助になるかもしれない。明らかになったところで犠牲者は戻らないけど、神子が悪堕ちしたのかなりすましだったのかで対応は変わってきそうだしね。そもそもキマイラすらも関係してるとは限らないし、現時点では謎だらけである。


「おっと、こうしちゃいられねぇ。日が暮れる前に村に戻んねぇとな。……あんたらも一緒に来るべか? 神子とそのツレなら歓迎するでよ」

「あ、はい。ご一緒させていただきます」


 ドワーフさんのお誘いに、元々村に行く予定だったわたしたちは一も二もなく頷いた。

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