火山を目指して
「で、これがその結果と言うわけか」
戦闘を終えた後に創造神の像を設置。拠点に帰還してゼファーを休ませて、わたしも一晩休んでからウルとフリッカを連れて戻ってきた。
先日の間にゼファーとの移動中に何が起こったかを軽く説明しておいたのだけれども、戦闘跡を実際に目にしたウルの第一声がこれであった。何だか心なしか呆れられている気がする。
所々に焼け焦げた跡があり。氷はさすがに溶けてなくなっているけれど地面に穴が空いていたり、逆に隆起していたり。モンスターの死骸はわたしがアイテムを回収してからは喰われないようにさっさと燃やしたので残っていない。魔石はきっちり回収済なので、魔石以外を食べてモンスターが強くなるかどうかは不明だけど念の為だ。
「大地が溶けているように見えますが……」
「それは砂が高温で溶けただけだと思う。ガラスは砂から作るってのは知ってるよね?」
「……そうですね。透明度が高い物はリオン様のところに来て初めて見ましたけれども」
そもそもガラス自体をあまり見てなかったかな。火力が足りないのか技術が足りないのか……どっちなんだろ? どちらも魔法で何とかなりそうな気配はあるのにね?
火属性は効き辛かったけれども、火と風のアイテムを同時に使うとどうなるかとか、風以外でも別のアイテムと組み合わせて使うとどうなるかとか色々試していた。わざわざ温風魔法を使うよりそよ風と着火を組み合わせた方がコストが低かったドライヤーの件のように、わざわざ一つのアイテムとして作成するよりも、複数種作成して同時に使う方が良いパターンもありそうな気がしてね。結果としては、やはり火と風の組み合わせが一番コスパが増したよ。毒と風もそれなりに良かったけど、あれは使用後に逆風が吹くと怖いからね……。
「……まぁ、大した怪我もなかったようであるし、リオンの為になったのなら良い……のか?」
「良いのではないでしょうか?」
特にお咎めなしだったようでホッとする。いや、悪いことは何もしてないはずなんだけどね……。
「ところでリオン、集まっていたモンスターの中にキマイラのようなモノは居たかの?」
「そう言えば……居なかったかも。まぁ喰われた側に居ないとは言い切れないのだけども、そこまではわからないかな」
わたしがグロッソ村で遭遇したキマイラも、手が増えた(そのままの意味で)だけで能力的には大して上がってなかった記憶がある。手数が増えるのは脅威かもしれないけれど、それが効果的に使われなければ、連携も何もなくてんでバラバラに動くだけなら烏合の衆と何ら変わりはない。モンスターたちに襲い掛かられたところで返り討ちに出来るとも限らないし、ひょっとしたら小回りが利かなくなる分不利になるのでは?感がある。
ただそれは逆に言えば、わたしが複数のアイテムを使用してシナジーを生み出したように、カッチリとハマる混ぜ方をされればものすごく強力なモンスターになりうると言うことでもあるので、今後どう転ぶかはわからない。
……つまり、時間を掛ければ掛けるほど、危険度が増す……?
うん、今回も急いだ方がいいかもしれない。
わたしはふと、西の方に小さく見える――煙を吹き、活動中であることを示している火山に視線を向けた。
何処でキマイラが生まれているのかは不明なままだ。しかし、妙に『火山』と言うキーワードが頭に残っている。
急ぎではあってもどのみち手掛かりがない状態ならどちらに向かっても同じだろう。途中に怪しいモノを見付けたり何らかの情報を仕入れたりした時に進路変更すればよい。
まずは火山を目指してみようと言うわたしの提案に、二人は異を挟むことなく頷いた。
「しかしまだ日が出ていると言うのに、この地はやたらモンスターが多いのであるな」
「ものすごく強いと言うわけではないのが幸いですが……」
「でもだからこそ、『何で動き回っているの?』って疑問も沸いてくるんだよね」
雑談を挟みつつ火山方面へと向かうわたしたちに、モンスターが断続的に現れては襲撃をしてきた。
フレイムゴブリン、レッドエイプ、ヒートボアなど色々な種類のモンスターが現れている。移動は基本的に昼間しかせず、本来であればモンスターとの遭遇率はとても低いのだけれども、大河を渡ってからはそうではなくなった。なおキマイラは今のところ遭遇していない。
そして昼間に行動出来るモンスター=強いと言う図式が成り立つのだけれども……思ったほどには強くない。強くあってほしいわけではないんだけども。
うーん、何か理由があるのだろうか? 火に耐性があると日にも耐性があるとか? いやこの二つは似て非なるものだ。太陽は火だとか光だとかを連想するけれども、アステリアにおいては聖属性でもある。昼間に行動するには火とはまた異なる耐性が必要になるのだ。
では単純に聖属性耐性がある……? 普通のモンスターが?
まぁその可能性もないとは断言出来ないけど……今度は何故そんな耐性を持っているんだろう?と言う話になる。
判断材料が少ない状態で考えても埒が明かない。とりあえず進むしかない。
「……地面が揺れている気がするのですが」
「気のせいじゃないよフリッカ。多分、あの火山が内部で活動してるからじゃないかな」
「リオン様は平気なのですか?」
「まぁ……慣れかな」
「慣れるようなものなのですか……」
転ぶほどでもないけれど地面が揺れているのを何度も感じ取り、フリッカがしきりに不安そうにしている。
今にして思い返せば、アステリアに来てから一度も地震を経験していないな。元の世界のあの国が地震大国と呼ばれているくらいに多すぎるだけなんだろうけれども。確実にその影響でこの程度の揺れでは動じなくなっている。震度五くらいになってやっと慌てそうだ。
後は台風も経験してないね。……嵐ならあったけどさ。
「……よもや噴火するのではあるまいな?」
「それはわたしには何とも……噴火したらいくらウルでもどうしようもないから帰還石で退避するしかないねぇ」
さすがに噴火は発生してからでも逃げる時間はあるから、そこまで怯えなくても大丈夫、だと思う。
……どうか逃げる時間すらないような火口に今回の原因があったりしませんように。噴火すればぶっ壊れるだろうしそもそも危険だからそんな場所にはない……と思いたいけど……マグマから出現するモンスターも居るくらいだから、これもあり得ないとは言い切れないんだよなぁ……。
悪い想像ばかり膨らんでげんなりしてきたので、明るいことでも考えたい。
「しかし、火山……火山か。温泉とか湧いてたりするのかな?」
わたしはアステリアに転移後に早期にお風呂を作って、拠点に滞在している間は毎日欠かさず入るくらいには好きである。やや引きこもり気味のゲーマーだったので温泉旅行とかは行ってないけど興味自体は持っていた。
……温泉旅行、一度くらいは経験しておきたかったな。アステリアは大自然はいっぱい……と言うかむしろ自然しかない。趣のある旅館で美味しい料理に舌鼓を打ちながらゆったりと過ごす、と言うのが出来ないのよね。
まぁ料理は自分で作れるしフリッカの料理も美味しいので、旅館っぽい建物を建てればいけるか……? やっぱり何か違う気がするな?
「今回の件が落ち着いたら温泉を探してみるのもよいかもなぁ」
「我は主ほど風呂好きではないのだが……」
「温泉はただのお風呂とは違うからね。入ってみればウルも案外ハマるかもよ?」
「……そう言うものなのか」
わたしのちょっとした願望にウルは微妙に渋い顔を見せるのに対し、フリッカは笑顔で言う。
「私は楽しみにしておきます」
「う、うん」
大丈夫、フリッカと一緒にお風呂に入るのも慣れた。多分。きっと。
それに野外だし、ウルも居れば早々にアレな空気にもならない、はず。
いやいい加減わたしは覚悟を決めろって話なんだけどもさ。あの時に機会を逃して以来どうにもまた踏み出せなく……うぬぅ。
「リオン様?」
「な、何でもないよ」
挙動不審で声を掛けられるくらいには覚悟が決まってないようだ。
ヘタレでごめんなさい……。




