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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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空を往く

「んじゃゼファー、よろしくね」

「キュー」


 大河前の話し合いの後に一時帰還、ゼファーを連れて再度グロッソ村まで帰還石で移動し――ゼファーの姿にはしゃぐちびっ子たちを何とか宥め――てからの再出発だ。

 騎乗のために伏せてくれているゼファーのツルりとした鱗を撫でながら背に括りつけた鞍に乗る。しっかりとベルトで括りつけ、ちょっとやそっとでは落ちないことを確認してからゼファーに合図をする。

 ゼファーは一啼きしてからゆっくりと翼をはためかせる。徐々に高度が上がり、ゼファーの足が地から離れ――空へと繰り出した。


「うっはぁ……! これが空か……!!」


 わたしは初めての空に身も心も舞い上がり、興奮しきった声を出さずにはいられなかった。

 ゲームでなら空を飛んだことがある。しかし、作り物の世界(ゲーム)本物の世界(アステリア)が同じなわけがない。

 視界に遥か先まで映る大地の情報量は半端なく。ごうごうと唸り、ゴーグルと風避けローブ越しに叩きつけてくる風。ほんのりと湿った空気の匂い。初めてアステリアの大地に降り立ったあの瞬間に並ぶほどの感動が湧き上がった。

 ん? 湿った空気?


「おっと、空模様を確認しなきゃ。雷雲は……なさそうだね。ゼファーも何か気付いたことがあったら言って(ないて)ね」

「キュウ」


 北の方に雲が多いけれども、わたしたちが今飛んでいる位置と目的の方向である西は晴天だ。これならアルタイルと遭遇することもあるまい。

 わたし自身も何かないか探す……と言うのもあるけど、興味の赴くままにあちこちを見る。フィンの情報では飛行時間の問題もあってグロッソ村より西のものはないからね。先日歩いたばかりなので全部新鮮と言うわけではないけれども、当然ながら空からでは大きく異なる情報が飛び込んでくる。

 ふむふむ、こちら側は大体草原なんだな。一部が森、一部が丘で岩がボコボコとしている。あの辺りは何か鉱石がありそうだなぁ、時間が出来たら行ってみたい。

 ただ良い意味で興味を引かれるモノだけでもなく、破壊された村の跡もあったりした。さすがにそれは少し立ち寄って間近で見てみたけど、見るからに古そうで血の跡すら残ってなかったのがまだマシだったと言うべきか。

 あと、ダンジョンは見つからなかった。見つかったら潰したくなっただろうから、やや急ぎの今回は見つからなくてよかった。

 そうこうして飛ぶこと四時間ほどで、先日の大河前へと辿り着く。徒歩に比べて段違いに早く、癖になってしまいそうだな……まぁゼファーに負担が掛かりすぎるので、ゴーレム車の開発を早めておきたい。腕の良いドワーフさんとか居ないかなぁ。


 大河を渡る前に休憩を兼ねた昼食タイムを経て、再び空へと戻る。

 ゼファーの体力も心配だったけどまだまだ元気そうだ。小さかろうとドラゴンゆえ体力が高いのもあるだろうけど、ひょっとしたら風の竜だから生まれつき飛ぶのが得意とか補助が掛かってるとかあるのかもしれない。


「うへぇ……空から見ても酷いもんだねぇ……」

「ウキュ……」


 上空から見る大河の濁流具合は先日と然程変わらず、むしろ見れば見るほど『これはしばらく無理そうだ……』と言う感想しか出てこない。

 でもこのおかげでモンスターも河を渡れないし、水棲モンスターもろくに動けないと思うのでこの間はグロッソ村側は平和だろう。クラーケンなんかは嵐を起こす側だけど……河には居ないはずだし、たとえ居てもわたしたちは空なのだから大丈夫、だと思いたい。


 陸と海のモンスターはひとまず心配しなくてよい。しかし……空まではそうは行かなかった。


「キュー!」


 ゼファーが鋭い鳴き声でわたしに警告をする。

 西へ向かって飛びながら首を左の方へ向けていた。そちらに何があるのだろうと目を凝らすと、豆粒のようだった何かがあっと言う間に大きくなり、その姿をわたしに見せつけてくる。


「ゲイルイーグルか!」


 イーグル系モンスターの中でも特に風魔法を得意とする種だ。それが四匹も迫って来ているが危機的状況と言うほどでもない。わたしは交戦を選択した。


「シッ!」

「ギュエエエエエエエッ!?」


 一番近付いてきたゲイルイーグルAに矢を放つと、運良く頭に刺さり墜落していった。

 ……や、正直当たると思ってなかった。ゲーム内で空中戦をしたことはあるけれど、さすがにゲームで風まではシミュレーションされていなかったのだ。しかし今は上空に吹く風だけでなくゼファーの飛行によって巻き起こる風で矢を中てるのは至難の技だ。……ウルの剛力であればモノともせずに槍とかブッ刺さるんだろうな。

 そしてわたしの弓を警戒したのか残りのゲイルイーグルたちはその名前の通りに風を纏い始めたので尚更に矢は中らないだろう。


「グワッ!」

「キュ!」


 風を纏うだけじゃなく攻撃として、叫びと共にこちらにビシバシと放ってくる。が、ゼファーの風によって相殺された。おぉ……さすが風の竜。


「ゼファー、飛びながら攻撃は出来るの?」

「……キュウゥ」


 質問してみたら自信なさげに鳴かれた。

 ……と言うか今回はわたしの存在がネックだろう。例えば体をグルンと回されるだけでベルトで固定しているとは言え落ちそうになって怖くなるだろうし、そもそも的が大きくなる、重量がある、ってだけでもハンデになる。足引っ張ってごめんよぅ。


「ギュアアアッ!」


 などと考えている間にすぐ近くにまで迫っていた。……わたしの武器が弓だけだと思ったら大間違いだ!


「ゼファー、すれ違い様に高度を少し下げて!」

「キュ!」


 激突の直前、わたしの指示通りに下にガクンと落ちる。

 その位置は丁度ゲイルイーグルBの腹の下で――


「どっせい!」

「アアアアアアア!!」


 わたしは大剣を取り出し、ゲイルイーグルBの腹をかっ捌いた。よし、上手く行った!

 心の中で快哉を上げたのも束の間、突然別の武器が出てきたことにゲイルイーグルCとDはどう頑張っても刃が届かない位置まで距離を取る。……退いてくれる気はなさそうだ。バンバン風魔法が飛んでくるし、ゼファーがいくら飛んでも追従してきて振り切ることも難しそうである。


「むぅ……何か広範囲に影響を及ぼしそうな、それでいて標的に当たらなくても効果を発揮してくれそうなもの……」


 真っ先に思いついたのは投網だけど、どう考えても風で切り割かれます却下。雷網は残念ながらない。

 風系は無理そう、火系も吹き散らされそう、土系……いつもの如く石ブロックを落とす? ちょい保留。水系は威力があるものが……いや、待てよ?

 今は在庫にアレ(・・)がたっぷりあったな。試してみるか。


「ゼファー、あいつらの上空を取って!」

「キュ?」


 ゼファーは疑問っぽい鳴き声をあげながらも上に向かって飛ぶ。それにより、わたしたちを追いかけるゲイルイーグルC&Dは自然とわたしたちの下に着くことになった。


「ナイスゼファー! これでも喰らえ!」


 わたしは樽を複数取り出し、蓋を開けて下へと投げ付けた。

 樽の中身は当然零れ、広がり、ゲイルイーグルC&Dへとたっぷりと掛かり――


「「ギャアアアアアアアアアッ!!?」」


 中身に触れた途端、ゲイルイーグルたちの体が焼けただれ、腐り、飛行を維持出来ずに落ちていくのだった。

 そう、わたしが振り撒いたのは、アイロ村ダンジョンの地下で採取した超高濃度汚染水だ。……いやうん、全然浄化が進んでなくてね……。

 瘴気モンスターでもないただのゲイルイーグルでは耐えることが出来ず、為す術もない。

 ……まぁその、汚染水を撒いてしまったけれども、下は大河だから他の誰にも影響は出ないし十分に希釈してくれる。だから大丈夫だけど……心情的には下流に住むヒトが居たらごめんなさいと謝っておく。


「とりあえず終了かな……ゼファーもお疲れ様。もうちょっと頑張ってね」

「キューゥ」


 うーん、空の旅は楽そうだと思ってたけど、ちゃんとした戦闘手段を用意して、訓練を重ねて熟すまではおいそれと利用しない方が良さそうだな。

 幸いにして河の上でのモンスターとの遭遇はそれ一回のみで、無事に対岸へ辿り着くことが出来た。

 ……しかし、すぐさま創造神の像を設置することも叶わなかった。


 想像していた通り、対岸に多数のモンスターが集まっていたからだ。

高濃度汚染水を浴びたモンスターがミュータント化して――とかはないです。

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[気になる点] >高濃度汚染水を浴びたモンスターがミュータント化して――とかはないです。  じゃあ、下水道に棲む謎のカラテマスターとそれが飼っている亀達が高濃度汚染水を浴びて、ネズミ人間と亀忍者にミ…
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