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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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西の地へ向か……おうとしたら

「オレたちは一緒に行っちゃダメって何でなんだよっ?」


 出立前に一悶着起こった。

 わたしがレグルスとリーゼには留守番しててほしいと言ったからだ。これにはちゃんとした理由がある。


「だってモンスターが増えてるってわかってるんだし……わたしたちがあっちに行ってる間にグロッソ村にいっぱい攻めて来たらどうするの?」

「――むぐっ」


 自動聖水散布装置はそれなりの耐久性は持たせているけれども絶対ではない。かつてのキマイラ級の強力なモンスターが相手なら壊されてしまうし、そもそも強いモンスターは聖域化しても乗り込んで来る。

 そしてそのキマイラ戦のせいでグロッソ村の大人たちは大半が亡くなってしまっている。子どもたちは獣人ビーストなので身体能力は高いしライザさんも日々皆を鍛えていると聞いてるけども、それで安心出来るかと聞かれればNOだ。


「帰って来た時には何もかも失われていた、何て事態はわたしだって見たくないよ」

「それは……そう、だね」


 わたしの説明に二人は防衛戦力として残ることに納得してくれた。

 それでも「大河までは一緒に行く」となったけど、それくらいなら大丈夫でしょう。



 一度グロッソ村に帰還石で移動し、久々のモフモフちびっ子たちに後ろ髪を引かれつつ、西へと向かう。

 あー、その内イージャもグロッソ村に連れてきた方がいいかな。同じような年代の友だちは多い方が良いだろうし。まだまだ引っ込み思案の彼からすると元気過ぎる子どもたちの相手は刺激が強すぎないか不安だけども、ちびっ子たちに悪い子は居ない――度の過ぎるイタズラはライザさんに鉄拳制裁される――からね。

 無理に社交的になってほしいわけでもないけど、活動場所がヒトの少ないわたしの拠点うちだけってのはどうしても視野が狭くなってしまいそうだから……。あぁフィン共々、大きくなったら旅に連れて行くのもありか。その時が来るのが楽しみだし、その時には平和になっているようにしておきたいな。


 レグルスとリーゼの先導の元、時折出現する(普通の)モンスターを倒しつつ進むこと大体一日半。

 以前に北へ、バートル村方面へと向かった時と同じように、目の前に大河が現れた。


「うわぁ……これは酷い」

「……であるな」

「……マジかぁ」


 目に映る大河の様相に揃って呆然とするが、モンスターの大群が見えていた……とかではない。


「この前来た時はこんなんじゃなかったんだけどね……」

「最近上流で大雨でも降ったのでしょうか……?」


 水の色が濁り、流れがものすごく早く、それに加えて木の枝や幹、蔦など大量に流れてきているのだ。フリッカの言う通り上流で雨が降って流れ込んでいるのだろう。

 それでも水流が詰まらない程度に、向こう岸が見えない程度に河は幅広い。この地点で水害が発生することはないだろうけど、逆に言えば渡り切るのも辛いと言うことだ。


「さすがにこの状態の河を舟で渡るのは自殺行為かな……」

「ぬぅ……モンスターなら蹴散らしてやるのだが、ここまでゴミが多いと我とて無理があるの」


 この河に舟を浮かべたら、舟にあれこれガンガンぶつかってあっという間に耐久値が削られ壊れてしまうだろう。激流に放り出されたらどうなるかなんて考えるまでもない。たとえ水中呼吸アイテムがあったとしても舟同様に今度は直接体にガンガンぶつかって次こそLPライフポイントが減って……がくぶる。帰還石があっても冷静に使えるとは限らないしね。


「ってことは、出立は延期するのか?」

「うーん……」


 レグルスから問い掛けられた。順当に考えればそうなるね。

 ……のだけれども……わたしたちがこちらで移動しあぐねている内に、向こう岸でモンスターが集っていたとしたら……? と言う最悪の考えが頭に浮かんでくる。

 陸で遭遇するならともかく、船上で遭遇したらウルとて対処しきれるのだろうか。河だと地上だけでなく、下からの攻撃にも気を配らなければいけない。付け加えると逃げるスペースだって限られているので、集中砲火を喰らってしまうのでは?

 そして最大の理由としては……『出来るだけ早く』と心の奥底で囁かれているような気がしてならないからだ。わたしにもよくわからないけれども、遅くなればなるほど手に負えないモンスターが発生してしまう、そんな胸騒ぎがしているのだ。


 しかし舟での渡河はどう考えても無理だ。橋を架けるにも遠すぎる。

 であれば取れる方法は――


「ちょっと思いついたことがあるんだけど」

「む? 何なのだ?」


 全員の視線がわたしに集まる中、わたしはそのアイデアを口にする。


「わたしがゼファーに乗せてもらって、向こう岸に創造神の像を設置すればいいんじゃないかなぁ、って」


 ゼファーは随分と大きくなっていた。一人であればフィンみたいに軽くなくても乗れるくらいには。

 だから一旦皆には拠点うちで待機してもらって、わたしが空から移動して向こう岸に創造神の像を設置、その後帰還石で拠点に帰って、新規作成した帰還石を使えば皆で移動することが出来る。

 ただ二人が乗れるほどではないので一人だけになってしまうのが欠点だ。単独行動するならウルが一番安定なのだけども、創造神の像を設置して帰還石を作成出来るのはわたししかいないから選択肢は自ずと限られてくる。

 名案だと思っているのだけれども……真っ先に難を示したのは案の定ウルであった。


「何が起こるかわからない場所にリオン一人でなど行かせられるものか。そのような危険を冒すくらいなら待つべきであろう」


 待たずに一人(+ゼファー)で行く理由を説明しても頷いてはくれなかった。


「リオン様の懸念には頷けるところもありますので……必要だと考えるのであれば」

「オレはまぁいいんじゃね、って思うけど」

「そうだね、リオンさんも決して弱くないからね」


 フリッカは消極的賛成、レグルスとリーゼは普通に賛成してくれる。けれどもウルだけが頑として首を縦に振らない。

 わたしは深呼吸をしてからウルに向き合う。


「ねぇウル。わたしは……そんなに信用がない?」

「……違う、そうではない」


 そう、ウルの言葉通り信用されていないわけではない。……まぁ何を仕出かすかわからない、と言う意味では信用されてないかもしれないけどそれはさて置き。

 単に心配をされているだけなのだ。それが過剰かどうかはわたしには何とも言えないけれども。


「大丈夫だよ、危なくなったらすぐに帰還石を使うし」

「使う前に意識を刈り取られたらどうするのだ」


 ……いつぞやのアルタイル戦で死に掛けたのを、まだ引きずっているのかもしれない。


「……雷雲を見かけたらすぐに帰るよ」

「それだけとは限らないだろう」

「そこまで心配しだしたら、皆で舟で行ってもあまり変わりなくない?」


 死ぬかもしれない、と言う理由は躊躇するには十分な理由だ。

 しかし……わたしの場合は、それで立ち止まることは許されない。

 絶対に無理無茶無謀ってわかってる状況ならともかく、確率の低い『たられば』まで想定していたらわたしは一歩も進めなくなってしまう。それはダメだ。

 まぁ何にせよ、今回はわたし一人と言うわけでもないのだ。


「ウル、別にわたし一人じゃなくゼファーも居るよ。いざと言う時はゼファーだって助けてくれるって」


 ゼファーはドラゴンだけあって小さくても力が強いし、風の魔法だって使える。更にゼファーの場合は賢さがあるので、いちいちわたしが指示せずとも的確な行動を取ってくれる。その辺りはフィンの報告で知っているのだ。


「それに、ゼファーを巻き込んだ無茶なんて出来ないし? きみと一緒なら大きな壁も乗り越えられる自信はあるけど、きみが居ないなら慎重に行動せざるを得ないからね」

「む……」


 一人で死ぬならともかく(神子の損失は大きいけどそれは別にして)、する必要のない無茶をした挙句に他者を巻き込んで死ぬなんて馬鹿なことはしない。連れ出したならちゃんと拠点うちに帰らせるまでがわたしの持つべき責任だ。

 そうしてジッとウルを見詰めていると、やがて折れたのかウルは大きく息を吐く。


「……ちゃんと一緒に帰ってくるのだぞ」

「うん、約束する」



 なお、ここまで言っておきながらもゼファーに話を通してなかったので首を横に降られたら全部台無しだったのだが、幸いにしてゼファーは引き受けてくれたとさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >であれば取れる方法は―― >「ちょっと思いついたことがあるんだけど」  自分ならなにも考えず、橋を架ける力業にでるかなぁ。  取り敢えずブロックを持てるだけもって、2~5人(保有ブロ…
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