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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第五章:炎山の弄られた揺り籠

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新たな騒動の幕開け

「……リッちゃん、どうかしたの?」

「はい? どう、とは?」


 いつもの日課でお祈りをするべく祭壇まで来たわたしは水神と遭遇する。

 そして出会い頭にこのようなことを言われ、何のことかサッパリ心当たりがないわたしは首を傾げた。


「いえ……何と言えばいいのかしら……昨夜か今朝に何かあった?」

「? 特に何もないはずですけれども」


 今朝はウルに脳天エルボーを喰らったけど、さすがにそれは報告するべき内容でもないはずだ。

 昨夜はアイロ村での宴会だけれども……もしかして地神に何か変化でもあったのだろうか?


「レーちゃん? ご機嫌で帰って来たくらいで何もなかったわよ。あぁ、その件では感謝するわぁ」

「どういたしまして? ……じゃあ一体何の話なのでしょう?」

「……ごめんなさい、私の気のせいだったみたい」

「?? そうですか」


 そんな要領を得ない会話を交わした後にお祈りをして聖水を作成する。

 邪魔をする気はないのか黙って待っていた水神に、作業が終わってから尋ねる。真っ先に聞いておくべきだったけど直前のやり取りで頭から抜けてしまっていた。


「体の調子はどうですか?」

「おかげ様で徐々にだけど良くはなっているわぁ。完治にはまだまだ時間が掛かりそうだけどね」

「何か他に欲しい物があったり、して欲しいことがあったら遠慮なく言ってくださいね。わたしに出来る範囲で対応しますので」


 加護をもらえるのはまだ先になりそうかな、とは言わずに心の中にだけ留めておく。

 魚介類に関する知識は切実に欲しいけど、メインで欲しいのは自然回復力と水系アイテム作成の知識に関してである。特に水中呼吸の手段は早めに入手しておくに越したことはない。

 根拠があるわけではないけど、風神の領域に地神が、地神の領域に水神が封印されていたように、水神の領域に火神が封印されているのでは?と言う予感があるのだ。

 水神の領域は地神の領域(さばく)より更に北東にあると聞いた。小さな島がたくさんあるけれど大半が海らしく、海中に何かしらあると考えても然程間違いではないだろう。そのためにも水中呼吸アイテムは必須だ。

 ……まぁ、出来ればこれから先は冬で寒くなるので北の方、それも水中は勘弁してほしいところではあるのでそこまで急ぎと言うわけでもない。水神も領域浄化の順番にこだわりはないとのことなので、先に風神、光神、闇神が封印されていそうな場所を探してみようかなと思っている。そうでなくても探索出来てない場所はたくさんあって、あちこち行ってみたい気持ちもあるしね。ただし廃棄大陸は除く。あそこはまだ怖いの……。


「水神さm……ネフティー姉さん、他の神様の領域ってどの辺りになりますか?」

「ん? えっと……ファイくんがここから西、ディーくんが私の領域より更に北、アイちゃんが空ね」

「……」


 一瞬『誰?』ってなったけど……ファイくんが火神ヘファイスト、ディーくんが闇神ハディス、アイちゃんが光神アイティ……かな?


「ちなみに、風神様はどう呼んでるんです?」

「メルくん」


 風神メルキュリスはメルくん、と。男性はくん付け、女性はちゃん付けって法則があるのね。なるほど。創造神すらちゃん付けする水神に怖いモノ(?)なんてないか。

 しかし……闇神の領域はもっと北とか、先に水神の領域を何とかする必要があるので必然的に後回しになるし、光神の領域に至っては空とか移動手段がゼファーくらいしかない。最低限ジェットブーツ、出来ればスカイウイングを確保しておきたいので風神の解放後だなぁ。

 となると、目指すは風神の封印……火神の領域である西を探索してみるのがよさそうだ。

 うん……? 火神の領域ってことは……火山がありそう? あれ、火山がなんだっけ……? うっ、頭が……。


「ところで、廃棄大陸……ここから南って、誰の領域になるんです?」


 南側は誰の領域とも言わなかった。風神か火神の領域に含まれているのかな? それとも誰も担当していない領域とかあったりするのかな?

 ふと気になり、何気なく聞いてみたら。

 思いの外水神の気配が変わって、笑顔ではあるけれども、どこかしら微妙なものを含んだ表情で答える。


「……破壊神よ」

「えっ、破壊神ってそこに居るんですか?」

「……どうかしら。何処に居る、と言うのは答えられないわ」


 ――この時わたしは、水神が『答えられない』と言ったことに、『知らない』と言わなかったことの意図に気付くことはなかった。



 西行きの旅をウル、フリッカと一緒にぼんやりと計画しつつ、モノ作りに励んでいた午後。

 わたしの次の目的地を決定的とする報告が舞い込んできた。


「リオン! 大変だ!」

「レグルス?」


 グロッソ村に里帰りしていたレグルスが姿を現わすなり、息せき切ってわたしに向かって一直線に駆けて来た。


「だから大変なんだって!」

「ちょ、待――落ち着いt――」


 わたしの肩に手を乗せて前後にガクガク揺らすせいで何も話せない。レグルスは大変と繰り返すばかりで一体何が大変なのかもわからない。

 そんな状況を救ってくれたのが、レグルスの腕を掴み揺さぶりを止めてくれたウルと、いつものようにレグルスと一緒に行動していたリーゼだった。


「はぁ……レグルス、やめよ」

「レグルスにぃ、それじゃ説明になってないしリオンさんも何も答えられないよ!」

「――ハッ!? す、すまねぇ」


 いつもであればお茶でも飲んで宥めるところだけど、リーゼも割と切羽詰まっているような顔だったのでこの場で説明を聞くことにした。

 クラクラする頭を押さえながら、背を撫でてくれるフリッカの手の熱を感じながら、何があったのか説明を促す。


「えっと、リオンさんはあたしたちが一番最初に出会った……その、キマイラのことを覚えているよね?」

「もちろん、忘れることはないよ」


 わたしがこの世界(アステリア)に来てからの初めての強敵。

 ……と言うのもあるけれども……キマイラの素材(・・)がグロッソ村の村人たちだったと言う凄惨な事件、記憶喪失にでもならない限り忘れることはないだろう。


「それがグロッソ村の西の大河を越えてやって来た、ってのも覚えてる?」

「うん」


 もちろんそれも覚えている。

 あの後はモンスターが攻めてきても大丈夫なよう自動聖水散布システムだって設置した。装置が壊れたとか報告は聞いてないけど……それかな?


「ううん、装置は壊れてないよ。でも監視? 偵察? として定期的に大河まで様子を見に行くことにしていたんだけど……」

「今まではモンスターも散発的にしか来てなかったんだけどさ……この前ついにヤツらが姿を現わしたんだ」

「ヤツら、って?」


 ここまで来ればわたしだって彼らが何を問題にしているのか察することは出来る。それでも、わたしはあえて問い質した。

 レグルスは目を伏せがちに……激情を我慢するように、リーゼは頭痛をこらえるように、それぞれが答える。


「……そりゃもちろん、キマイラさ」

「正確には普通のモンスターとは違う、違うパーツが混じり合ったようなモンスター、だね」


 キマイラが現れた。

 その言葉で、わたしの心臓は嫌な音を立てた。


「幸いそんなに強くなくてあたしたちだけで倒せたけど……やっぱり、どうしても気になるよね、って」


 あの、生命を冒涜した生き物……と言うのも烏滸がましい、悍ましい何か。

 それがまた生産されてしまっていることに、怒りが湧いた。

 創造神の神子として、決して許してはならない暴挙なのだ。


 ……まぁ、当時はへっぽこもへっぽこで、怖くて近付きたくない、と後回しにしたわたしにも問題はあるのだけれども。

 いい加減、その大元を解決すべき時が巡って来た……と言うことか。

 決意を固め、フゥと大きく息を吐き、ウルとフリッカに語り掛ける。


「次の目的地が決まったね」

「そうだの。まぁ元より西に行こうと言う話をしてたであろ?」

「モンスター退治が加わるのは……いつものことですね」


 丁度行こうと思っていた先にトラブルが発生する。

 それは偶然なのか運命なのか、それとも……仕組まれた必然なのか。

 妙な感覚が胸中を過り、嫌なモノを握り潰すようにグッと拳を握り締めた。

四章が酷かったので五章はサッパリと行きたいところですが……プロットにないことが発生するのはよくあるので……

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