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終末世界の開拓記  作者: なづきち
章間四

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223/515

再スタート

「リオン、助かったよ。ありがとう。そして他の皆はようこそアイロ村へ」


 それこそ瞬く間にアイロ村へと移動を果たし、驚きにざわめく村人たちをカミルさんが出迎えて挨拶をした。人間ヒューマンとの遭遇に身構えてしまうヒトも多数居たけれど、おいおい慣れてほしいものである。離れ離れになっていたアイロ村襲撃部隊のヒトたちと無事に再会出来たことで、罠ではないと一応は信じてくれたようだ。


「彼らの住居は既にあるのですか?」

「すまない、まだ場所を選定して資材を用意しただけだよ。帰りはともかく、行きもここまで早いとは思ってなかったんだ」


 ……そりゃまぁ、ウルゾリの速さなんて想像も付かないよね。


「手伝います」

「うん、ありがとう。お願いするよ」


 カミルさんの建築方法は独特で、わたしにとっても勉強になった。

 わたしの場合は一つずつ石材なり木材なりの建築素材ブロックを積んでいくのだけど、カミルさんの場合はまず設計図を用意して、設計通りの素材と一緒に作成メイキングスキルを発動することで一軒の家が完成したのだ。同じ家を建てるならこっちの方がずっと効率が良い。この辺りはさすが先輩神子と言うべきか。ちなみにこの方法は急ぎの時のみで、普段は村人たち自身の手で建てているらしい。

 逆にわたしの建築で、ブロックがくっ付いたことに目を丸くされたけど……あれ、これひょっとしてゲーム独自の仕様でわたしが無意識に再現しているものだった……? まぁデメリットはないのでいいか。多分。おそらく。

 生活に必要な内装も作成していき、消耗品の類はカミルさんのアイテムボックスから取り出し、移住者たちが住む環境もあっという間に整えられていくのであった。神子二人だと作業スピードも早いね。

 ……友だちとのマルチプレイをふと思い出して、少しばかり懐かしい気分になったりもした。



 夕方前になり、村の広場で移住者たちを歓迎する宴が開かれることになった。

 アイロ村の人口は千人越えと多いので、そのうちの一部である百人ほどが参加している。それでも全部合わせると二百人近くなるので結構な人数だ。わたしとウルは特等席?でカミルさんのすぐ側、高台で食事することになっているので大人数を見渡すことが出来た。


「僕に対する恨みもあるだろう。それを水に流してくれとは言わない。全力で汚名返上に努めよう。……僕にその機会を与えてくれた君たちに感謝を」


 カミルさんが皆の前で挨拶をし、改めて移住者たちに向けて歓迎と謝罪、今後の抱負のようなものを述べた。パラパラと拍手は起きるが、全体的なムードは暗いままだ。

 うーん、どうにも先行きが不安になる。これ以上の手助けは出来ないし、しない方がいいと思うけれども……と思案したところで、一つだけ思いついた。


「カミルさん、応援を呼んでくるので十五分ほど席を外しますね。ウルは残ってて、すぐ戻るから」

「え? 行ってらっしゃい……?」

「ふむ? そうか」


 そうして姿を消し、戻って来て。


「と言うことで、何か景気の良い一言をお願いします。地神様」

「何が『と言うことで』なんだい……?」


 わたしと一緒に現れた地神に、ウルを除いて全員が凍り付いたように無言になった。

 ……あ、あれ。


「……リオン、こう言うことはきちんと事前に根回しをしな」


 内心で冷や汗をかくわたしに胡乱な目線を向けながら溜息を吐いた地神は数歩前に出る。カツカツと靴音が響いたことで時が動いていることを思い出した皆が次々と跪き始めた。この世界のヒトたちは神気に敏感のようで、しっかりと目の前の女性が神であると感じ取ったらしい。


「リオン、これが普通の光景さね」


 一糸乱れず、とまではいかないけれども、ウル以外の全員、小さな子どもまでが頭を垂れていた。

 これだけの人数が同じ格好をしていると、壮観……以前に、少し、微妙な気持ちになってくる。それはきっと、地神の声に張りがなかったのもあるだろう。

 地神はフランクで堅苦しいことを望まないタイプだ。封印前もこんな感じで跪かれて、気安いコミュニケーションが取れなかったことが寂しかったのかもしれない。

 軽い気持ちだったけれども、余計なことを仕出かしてしまったのでは、と後悔しかけて……やめた。

 過去は変えられなくても、未来これからは変えられる。

 わたしはあえてオーバーリアクション気味に肩をすくめ、苦笑しながら言う。


「地神様、わたしも『普通』に接した方が良かったですか?」

「……アンタはもうちょっと敬いを見せてもいいんじゃないか?」

「やだなぁ、これでも十分に――痛い痛いギブギブ!?」


 わたしの意図、堅いのが嫌なら崩してしまおう作戦(安直)に乗っかってくれたのはいいけれど、アイアンクローはやめてください地神様!

 唐突に始まったバカみたいな応酬に呆気に取られ、地面を見つめていた人々が顔を上げて困惑している。平常運転なのは見慣れているウルだけだ。


「ったく……このアホリオンは放っておいて。神子カミルと言ったか」

「……はい。この度は地神様にお目に掛かれて光栄です」

「創造神から既に話は聞いているか?」

「……? 申し訳ありません、何のことでしょうか?」


 カミルさんは畏まりながらも答える。たまに創造神とは会っているから耐性は付いているのだろう、緊張はあっても話せないほどではなかった。

 しかしこの返答からすると、あれ以降創造神はまだカミルさんのところに姿を現わしていない、と。忙しそうだから仕方ないか。


「そのうち創造神からも話があると思うが、アタシの方からも話しておこう。此度の件、アンタの行いへの咎めは無しとなった」

「――それ、は……」

「正確には、今後神子としてきっちりと働いて行動で返せ、と言うことになるか」

「――」


 カミルさんが言葉に詰まる。代わりに村人たちのざわめきが上がり始めた。

 喜んでいるのか、不満を持っているのか、ここからはわからない。けれど神の決定に対して異を挟む者は居ない。

 カミルさんが視線だけでわたしの方を見てくるが、わたしはそっと目を逸らした。危うく余計な罰を与えられそうだったなんて言えない。いや本当ごめんなさいと声に出さず謝罪する。

 そんなわたしの態度をどう捉えたのか、カミルさんは俯いた。そこにすかさず地神が言葉を連ねる。


「神子カミル、顔を上げろ」

「……ですが……」

「少なくともこのリオン(アホ)よりはアンタはよっぽど真っ当な神子だ。シャンとしな」

「何でここでわたしを下げるんですか地神様あいたっ!?」


 抗議をしたら『黙ってろ』とばかりに頭をスパンと叩かれた。ぐぬぬ。

 地神は恨めし気に見上げるわたしをスルーして、広場の面々へと向けて声を張り上げる。


「皆も聞け! アタシも創造神も、他のどの神であろうと、アンタたちがいがみ合うことは良しとしない。……いや、アンタたちをこのような状況に追い込んでしまった、不甲斐ない神が言うことではないかもしれんが……それでも、願うのはこの世界の、地に住まう者たちの平和なんだ。だからどうか……協力してほしい」


 神からの謝罪と懇願に、広間はシンとなった。

 しかし、当初のような畏れを含んだ静寂ではない。しっかりと顔を上げ、まえを見つめている。


「この神子カミルは確かに失敗をしてしまったかもしれない。しかし創造神プロメーティアはこの者が神子を続けることを願っている。もちろんそこには人手不足と言う側面もあるが……まず第一にこの者が積み上げてきた実績と誠実さが評価されているからだ。そもそも神ですら間違えることがあるのに、神子に完璧を求めるなんて厚顔無恥なことは出来るはずがない」


 ここで何人かが気まずそうにしているのが見えた。

 神子なら何でも出来て当然!みたいな思考のヒトが少なからず居るのだろうね。

 そんな何でも出来るなんてことはあるはずがない。わたしを見ればわかるように、出来ないことだってめちゃくちゃ多い。

 けれど、わたしに出来ないことをウルが、フリッカがやってくれる。レグルスやリーゼ、フィンにゼファーも手伝ってくれる。これからはそこにイージャも加わってくれるだろう。

 一人ではどうしようもなくても、ヒトが集まれば、出来ることは増える。


「だからどうか……神子カミルに協力してやってほしい。この者が困っている時には助け、間違えた時には叱り飛ばしてほしい。そして神子カミルもその能力で皆を守り、導き、この地を豊かにし、創造の力で満たしてほしい」


 地神の演説が終わりしばしの沈黙が流れたが、それはすぐに破られる。

 村人たちの歓声によって。

 気付けば、広場に居る人数が増えていた。騒ぎに釣られてやって来ていたのだろう。その誰もが、明るく、やる気のある顔をしていた。


「任せてください地神様!」

「うちの神子様は最高だって、すぐに教えて差し上げますよ!」

「よぅし、目一杯モノ作りをするぞー!」


 ちょっとした手助けになるといいな、程度の気持ちで地神を連れて来たのだけども、随分しっかりと火を付けてしまったらしい。まぁ結果オーライと言うことで。

 地神の言葉も皆を発奮させる大きな一因となっただろうけど、カミルさんがこれまで神子として頑張ったからこその盛り上がりと思われる。元々火種はあったのだ。

 ……うん、この調子なら、アイロ村はやっていけるでしょう。


「――」


 アイロ村の村人と、ランガさんの村の村人が肩を叩き合っている様子が見えて、カミルさんが泣き笑いのような顔をしていた。

 その表情のまま、ゆるゆるとわたしと地神の方へと首を巡らせる。


「まぁ……なんだ、ずっと封印されていて何もしてやれなかったんだ。その間頑張ってきた神子にこれくらいはしてやるさ」

「……ありがとうございます、地神様。……しかし、リオンは何故地神様を連れて来ることが出来たんだい?」

「あぁ、言ってませんでしたっけ。わたしが封印を解いたので、わたしのところで療養してるんです。あ、水神様も療養中です。元気なので心配しないでください」


 正確には地神の療養はとっくに終わってるけど、お酒目当てで居座ってるとも言えないので誤魔化しておいた。うっかり口にしたら本気のアイアンクローが繰り出されそうだ。

 わたしの軽い回答とは対照的に、カミルさんは大きく目を見開く。


「神を二柱も……そうか、リオンはすごいんだな……。それに比べて僕は――」

「あまり自分を卑下しないでください。わたしの場合は千人も村人の面倒を見れませんし、得意分野が異なるだけですよ」


 わたしは安全地帯ゲームで死の危険が一切ない状態でひたすらモノ作りに励むことが出来た。現実アステリアといくらか差異はあれど知識と経験は重要だ。

 あとは帰還石が作れると言う点も大きいだろう。一部除いて何処に居ても一瞬で行き来が出来るのは旅をする上で巨大なメリットだ。もしも放浪生活だったら安定して素材が得られないしスキルレベル上げも出来ないので、攻略速度はガクっと落ちたはずだ。まぁ、わたしの特殊な環境と異世界人と言うことまではさすがに説明しないけど。

 細かいことはさておき、放っておくとカミルさんはまた落ち込んでしまいそうだ。とっとと話題を逸らす……元に戻すことにしよう。


「それよりもせっかくの歓迎の宴なんですから、ご飯食べましょうご飯! あ、地神様も座ってください。お酒出しますよ」

「あぁ、いただこうか」


 戸惑うカミルさんを無理矢理座らせ、クッションを追加して地神も座らせ、お酒を注ぐ。地神はお酒を飲ませておけば上機嫌になるのでチョロげふんげふん。黙って経過を見守っていたウルに料理を勧めるのも忘れない。

 さてさて、こういうのは勢いに乗るに限る。

 わたしははしゃぐ村人たちに負けない大きな声で宣言をした。


「さぁ皆さん、地神様と触れ合えるチャンスですよ! お酌をするもよし、お話をするもよし、興味のあるヒトはどんどん来てくださいね! 地神様は大らかな神様なので、多少の無礼では怒られませんのでご安心を!」

「……おい、リオン……」


 地神が呆れた声を出すけど聞かなかったフリである。本当に嫌だったらはっきりと怒るし、遠巻きにされると居心地が悪いと感じるタイプであるのはさっきのことでわかっている。だから垣根を取っ払った場を設けるのは決して悪いことではない、はず。

 村人たちも最初は顔を見合わせていたけれど、地神が否定をしなかったこともあり、勇気を出した子どもたちがやって来てからはひっきりなしだった。

 握手をしたり、話を聞いたり、一緒にお酒を飲んだり。苦笑も混じっていたけれど、楽しんでもらえたようで何よりです、地神様。




「お帰りなさ――……やけに匂いますね。また飲まされてしまったのでしょうか?」

「あれ、起きてたんだ。ただいま。今回は無理矢理じゃないから大丈夫だよ」


 夜更け、寝こけたウルを背負い部屋に戻ったらまだ起きていたフリッカが出迎えてくれたのだが、わたしから漂うお酒の匂いがきつかったのか眉を顰められてしまう。わざわざ待っていてくれてたのならこんな状態で申し訳ない。

 あの後、地神だけでなくわたしと話をしたいと言うヒトもちょこちょこ居たのだ。付き合いでお酒を何杯か飲んだのに加えて、側で地神がパカパカ杯を空けていたので匂いが染み付いてしまったのだろう。ウルなんか一滴も飲んでないのに酔っ払い、最後の方は半分寝ながら食べてたのでちょっと面白かった。

 この前のようにウルをベッドに寝かせ、わたしはソファに座る。フリッカも隣に座ったので、アイロ村での顛末を話していく。


「……そうですか」

「……あ、あの、フリッカさん、怒ってます……?」


 どうにも声が固いと言うか、不満そうな色が混じっている。どこか気に入らない点でもあった……?


「いえ、随分と楽しい場だったのですね、と。……怒っているのではなく……少々、寂しい気がしてしまって」


 フリッカは俯きがちでボソボソと恥ずかしそうに理由を述べる。

 ……なんだろう、夫が取引先との打ち合わせと称しつつ飲み会をして帰ってくるとこんな気分になるのだろうか……。いや、地神を呼ぶ時に誘いはしたのだけど「何も手伝ってないですから」と固辞されたのよね。決して仲間外れにしたわけじゃないんですよ?

 妙な罪悪感が湧いてきて。……でもそれと同時に、そんな仕草を見せるなんて可愛いなぁ、なんて気持ちがこみ上げてきて。うん、酔ってるな、これは。

 わたしは衝動のままにフリッカを抱き締めた。


「……リオン様?」

「ねぇフリッカ。カミルさんは、アイロ村の人たちにとても愛されていたよ」


 誰も彼も、カミルさんへの協力を惜しまないと言う気持ちに溢れていた。

 それが羨ましいような、そうでもないような。後者の気持ちを抱くことに、自分の他者への隔意を自覚してしまう。

 でも、そんなわたしであっても。


「わたしは、ここに住む皆くらいには好かれたいし……きみに愛されたいと願うよ」


 村にも至らない、小さな小さなわたしの箱庭。

 大切にしたい。ここに住む皆も含めて、全部。


「……今更な話ですね」


 わたしの囁きに、フリッカは苦笑混じりの、如何にも『仕方ないなぁ』といったトーンで言い。


「大丈夫です、皆リオン様のことが好きですよ。もちろん私も含みます」


 わたしの背に手を回し、そっと抱き締め返してくれた。

 じんわりと伝わる熱は。


「ご希望なら何度でも言います。愛してます、リオン様」

「……うん、ありがとう。わたしもきみを愛しているよ、フリッカ」


 泣きそうなくらいに、優しかった。

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[一言] >「大丈夫です、皆リオン様のことが好きですよ。もちろん私も含みます」 フリッカ「……むしろリオン様に私との子どもを産ませたいと思うほどに」(小声) リオン「何か言った?」 フリッカ「…
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