表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/515

もう一つの代償

「地神様、ただいま戻りました。水神様はどうですか?」


 拠点うちに帰還して、いの一番に水神の容体を確認しに行くわたしたち。皆には解散を伝えたけれども神様のことだけに気になってしまうのだろう、一人も欠けることなく一緒に来ていた。


「お帰り。まだ目覚めてはないが少しずつ良くなって……って、その腕はどうしたんだい」

「えーっと……この腕は何と説明したものでしょうか……壊れた(・・・)みたいです」

「……はぁ?」


 わたしの曖昧な説明に地神が眉を顰める。バッドステータスの名称が【破壊】なのだから壊れたとしか言いようがないんです……。むしろ詳しいことを知っていたりしませんかね……?

 などと問いの視線を向けてみたけれども、地神は解答をくれるどころか追い払うように手を振ってきた。


「……せめてもう一段階治るまではこっちに来なくてよいさね」

「はぁ、すみません。ちゃんと治してきますね……。聖水などの補給は必要ではないですか? あとせめてお顔を見ておきたいんですけども」

「今は要らんし……近付かれちゃ困る(・・・・・・・・)


 あれ? わたしの怪我を心配して治療を優先しろって意味合いかと思ったけど……そうじゃない感じ?


「治るまで来てはいけないし、アイテム作りも控えるんだよ」


 同じことを繰り返され、地神の屋敷の扉が締められてしまった。

 ……あ、あれ? これは、まさか……?


「……神子なのに出禁を喰らうとは……その、気にするでないぞ?」


 ウルさん、フォローのつもりかもしれないけれど……わたしがあえて言わなかったことを言ってくれちゃって……!


「子どものことも聞いておきたかったのに……」

「それは後で私が聞いておきます。とりあえず……お休みしましょう……?」

「……お願いするよ……」


 わたしはトボトボと家へと向かうしかなかった。

 なお、わたしは地神のこの対応の理由を、翌日すぐに知ることになる。




 パリンッ! と、聞き慣れない……いや、聞いたことがない音が響いた。


「えっ……失敗(・・)、した?」


 わたしは呆然と目の前を見詰める。

 割れた瓶と、割れたことにより零れた中身の水。

 場所は……創造神の像の目の前。

 つまり。


 聖水作りに、失敗した。


 聖水は――創造神の像の設置と言う大前提が必要だけれども――水と容器さえあれば必ず(・・)作成出来る、スキルレベルも何も関係ないアイテム。

 失敗したことなんて……ゲーム時代を含めて一度たりともない。


「は? 何で……? って、あぁ、これ(・・)もそうなのか……」


 三角巾で吊られたままの右腕。火傷は治ったけど破壊はレベル二のままだ。肌も黒っぽいままなのだけど……これ火傷じゃなく破壊の症状なのかな?

 思い返してみれば、腕が痛かったのとフリッカに止められていて、怪我をしてからずっと、わたしにしてはものすごく珍しく丸一日以上モノ作りをしていなかった。昨夜のご飯もフリッカが作っていたし、今日のこれが初作成だった。

 昔のわたしならもっと取り乱していたかもしれない。汚染の時の経験が生きていたな、うん。……二度としたくない経験だったけどさ……ハハ。


「んー、破壊された部位が動かせないことに加えて、モノ作りが失敗する……作成アイテムが破壊されるってところなのかな?」


 成功率百パーの聖水作成が失敗するとはそう言うことなのだろう。

 ……地神がモノ作りを控えろと忠告するわけだよ。でもわかってたならあの時に言っておいてほしかったなぁ。

 破壊部位が腕だから失敗したのかな? 足とかだったらどうなるんだろう? さすがにこれは検証出来ないしなぁ……ウルに『わたしの足を壊して』なーんて頼んだらめちゃくちゃ怒られそうだし気が触れたと思われてしまいそうだ。そもそも普通に攻撃してダメージだけではなく【破壊】のバッドステータスが付与されるのって何の要素が合わさっているんだろう? 解明出来れば強敵相手に有利に進められるかもしれないな? あとこれを治すには時間経過は除くとして何のアイテムを使用すればいいのかな? あああああでも何も作れないんだって! 作れるようになったら治ってるってことだから検証出来ないしジレンマが……あ、いやでも『やるな』じゃなく『控えろ』ってことは、強制失敗じゃなく失敗確率が増えるだけってことなのかもしれないな? 何度か作っていればその検証も出来て「痛いっ!?」


 唐突に頭に衝撃が走り、脳内で巡っていたあれこれが強制的に中断されてしまった。


「控えろ、って言っただろう。こんの馬鹿神子が」

「ち、地神様……オハヨウゴザイマス」


 いつの間にかすぐ側に拳を握り締めている――どう考えてもこの拳骨が落とされたのだろう――呆れ顔の地神が立っていた。思考に没頭していたせいか接近に全く気付いてなかったよ。

 テヘペロなノリで挨拶をしつつ、軽く抗議をしておく。


「知ってたなら教えてくださいよぅ」

「……悪かったね。アンタが神に面と向かって言われたことすら守れないモノ作りジャンキーだってことを失念していたんだよ」


 あっはい。それは何だかスミマセン……。普通に考えるととっても不敬かもしれませんね?


「その、忠告を無視しようとしたわけではなく、つい習慣でですね……?」

「言っておくけど、さっきのは思考しているつもりだったんだろうけど駄々洩れで全部バレてるよ」

「うえっ!?」

「そんなお馬鹿なアンタにしっかりと言い直してやろう。それ(・・)が治るまでモノ作りは『やめろ』」


 確かにさっき連想したばかりだけど、それこそ汚染の時と同じように何も作れないですって……? そんな殺生な……!

 モノ作り禁止令に愕然とするわたしに地神は更に呆れて言い放つ。


「どのみち治るまでは失敗し続けるだけさ。アンタだって素材を無駄にするとわかっててやりたくないだろう?」

「それは……そうですね」

「付け加えると、モノ作りをしようとすればするほど治りが遅くなるよ。何もせずジッとしてるのが一番の近道さね」

「えぇと……地神様? この【破壊】の症状を詳しくご存じですね……?」


 ゲーム知識が全てではないし、神様なのだからわたしより詳しいのは当たり前なのだけれども、つい気になってそのような言い方をしてみれば、地神はどこか迷うような素振りをする。

 頭をガリガリと掻き、視線を上に逸らして、また戻し。溜息と共に零した答えは、要領を得ないものだった。


「……アンタは詳しく知らない方がいい。どうせ嫌でもそのうち知ることになるだろう」

「え? 嫌でも知るならまたなるかもってことですよね……? 対策とか練っておきたいんですけど……モノ作り出来なくなるのは困りますし」


 懇願するように見上げてみたものの、地神はやっぱり答えてくれないようだ。うぬぅ、何故だ。

 知らない方がいいってことは、知ると悪化するようなタイプなのかな……? 一体どう言うことなんだろう……気になるよぅ……。


「……一つだけ、教えてほしいのですが」

「……答えるとは限らないが、何だい」

「水神様の顔を見ることすら許可していただけないのは、この症状が感染するような代物だからでしょうか?」


 もしそうなのだとしたら、わたしは水神に限らず皆からしばらく離れて暮らさないといけなくなる。

 汚染の症状が感染するようなことはなかったけど(破壊よりよっぽど感染しそうな名称なのに)、わざわざ遠ざけられると言うことは――


「それはない、はずだ。……今の水神アイツは弱っているし、念の為、だな」

「『はず』と言うのがちょっと怖いですが……ともあれ了解です。治るまでモノ作りと地神様の屋敷に近付くのはやめておきます」


 はぁ、葬儀の時にカミルさんにアイテムをたくさん提供したから、補充しておかなきゃ落ち着かないってのに……こんちくしょうー!

 ここに居てもモノ作りの出来なさにストレスが溜まるだけになりそうだ。先日と同じようにトボトボと家へと向かうわたしだった。

 そして、地神と別れてしばらくして、ふと気付く。


「……子どものこと聞くの忘れた……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウル「物が作れず壊れて失敗する……つまり仲間入りしたのだな!」(良い笑顔)  はい。 ウルの正体(推測)と“破壊”が合わされば、正解にたどり着けずとも、うっすらとどうなってるのかは予想がで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ