再びアイロ村へ
わたしたちは帰還石を使用しアイロ村の創造神像の前へと出現した。転移のことについてバレたくないと警戒している場合ではない。
人目に付きにくい夜に行動することも考えないでもなかったけど、こそこそと闇討ちまがいのことをしたら『疚しいことをしているから口封じをしたんだろう?』と敵対する確率が上がってしまいそうなので辞めた。その方が確かに楽かもしれないけれどもね。結局のところ、わたしが神子であることをアピールしつつ、こちらに理があると堂々と胸を張って行動した方が良いと判断したのだ。
昼に近い朝の時間……であるのだけれども砂漠には珍しく曇り空が広がっており太陽は見えなかった。砂漠であっても全く雨が降らない場所はほとんどないらしいので、丁度その時にぶち当たったかな。
曇りであろうと礼拝する人はそこそこ居て、わたしたちが唐突に光と共に出現したことにざわめきが広がっていた。空を見上げる人も居るけど、陽の光が差し込んだわけでもないよ。
先日カミルさんにアイロ村を案内してもらったとは言え、全ての村人と顔合わせをしたわけではないし積極的に神子だと喧伝してもいない。それでも一部は事情を知っていたようで「だ、誰だ!?」と言う声に混じり「神子様……一体どうやって?」と戸惑ったように上がる声もあった。
わたしはすかさず、わたしを知っている人に歩み寄り笑みと共に尋ねる。悠長にしてウルたちに気付かれて、捕まえようとされてはたまらないので手早く行かなきゃ。『堂々とは?』と自分でも思わないでもないけどそれはそれ、これはこれ。
「こんにちは。依頼された調査を報告をするためにカミルさんかカシム村長に会いたいのですが、何処に居るかご存じですか?」
「は、はいっ。……こ、この時間は会議中でお二人共集会所に居るはず、です」
「ありがとうございます」
わたしはその場で創造神像に祈って聖水を作成し、恐縮しながらも教えてくれた村人さんにお礼として手渡しをする。目を白黒させているけどまぁこれも神子アピールの一環です。帰還石再作成のカモフラージュが一番の理由だけど。
追加として。
「熱心にお祈りをしていただいて創造神様も安心することでしょう。敬虔なあなたたちにわたし、神子リオンから少しばかりの祝福を」
と聖花の花びらにMPを籠めてライスシャワーの如く辺り一面に降らせた。ぶっちゃけインパクト重視の即興なのであまり効果は高くないし短時間だけだけれど、聖属性が付与されたりする。
ん……? 何か花びらがぼんやり光ってるな……何でだろ? まぁいいか。害はないし村人さんたちが舞い散る光に気を取られている内に目的地へと進もう。
えぇと、集会所は中央の、泊まらせてもらった屋敷の手前にあったはず。ここからそう遠くはないな。
「……花が光るとはまた珍妙なことを……」
すぐ後ろに付いているウルから呆れた呟きが聞こえたけどスルーです。いやほら、目くらまし状態になっているし結果オーライでは……? 違うか。
そうして祭壇は咎められることなく通過出来たけれどそんな幸運がずっと続くとは思っていない。中央に近付くに連れて人が増え「何でリザードが居るんだ!?」と騒ぎが起き始めた。
「おい! おまえら何で――」
「すみません、彼らは全員わたしの連れなので」
「ツレ!? って言うかおまえ誰だよ!」
「神子です」
わたしたちを怪しんで立ち塞がり、止めようと手を伸ばして来た男性の手をやんわりと払いながら端的に説明をする。
「み、神子ぉ……!?」と面を喰らっている内に横をすり抜けた。
しかし武器防具を纏った警備兵らしき人たちが走り寄って来たことでこのやり口はすぐに打ち止めとなった。ちっ、集会所は目の前だって言うのに……いや、集会所近辺だからこそ待機していたのか。
警備兵はわたしたちを取り囲み、各々の武器を抜いて今にも斬りかかって来そうな勢いで威嚇を飛ばす。モンスターに比べれば全然怖くないと思うなんて、わたしも図太くなったものだな。
「止まれ! それ以上近付いたら容赦はしないぞ!」
「武器を収めてもらえませんか? あなたたちと争う意図はありません」
「リザードを引き連れて何を抜け抜けと……! そもそもどうやって村に侵入したんだ!」
まぁ帰還石について伝えていなかったし、下手をしなくても不法侵入扱いになるよねぇ。
神子と敵対する村はまずないだろうけれど(現時点で武器を向けられているのはさておき)、いくら防壁を固めようと村に侵入出来てしまう方法があるのはあまり褒められたことではないのかもしれない。たとえわたしに悪用する気がなくてもね。
無用な警戒心を抱かれるのも逆に便利に使われるのも面倒なので、やはり今後も必要がなければ明かさない方がいいかな……などと心の片隅で考えながらシレっと答えを述べる。
「創造神様より授かったお力の賜物です」
「……はっ?」
嘘ではなく百パー事実である。神子の技能で作ったのだから。
しかしこの人、昨日見た記憶がある。カミルさんに付いて護衛をしていた人だ。であればわたしが神子だとわかっているはずなのに……うぅん、職務に忠実と褒めるべきか、神子が舐められていると嘆くべきか……。この場合は神子と言うよりわたしが舐められているのか。
「このようなコソ泥にも劣る行為が創造神様のお力だと……? 嘘も大概にしろ! 許可なき侵入者は拘束する!」
「絡繰りも吐いてもらうぞ! リザード共に村の中をウロチョロされては敵わんからな!」
あー……逆効果になったみたいだ。余計に怒りが募り武器を握る力が強くなった。
でも半数くらいは戸惑いを浮かべて武器を降ろし、隣の人と顔を見合わせていたりする。……邪魔な神子を排除したい村長派とそれ以外かな?
前者ならわたしがダンジョン調査に向かったことも知っているはずだ。それが出入口から姿を見せず唐突に他の場所に現れたことで警戒心を高めているのか。一緒に潜ったはずの護衛もどきは閉じ込めたのでまだ帰ってきてないはずだし尚更に。
……もしかすると、『ダンジョンの中での悪事を知られているのでは? バラされてたまるか』と言う気持ちもあったりするのだろう。しきりに「侵入者だ!」「敵を引き込んだ!」と大声で叫び、わたしたちが悪で自分たちの行為は正当であると周辺に集まり始めた村人に訴えている。あえて煩くすることでわたしが神子なのだと聞かせないようにしている、神子だと知っていても罪を犯した罪人なのだと触れ回る面もあるか。
警備の人たちの敵愾心と実際にリザードが居ることもあり、ただ取り巻いているだけだった村人たちも全員ではないものの次第に同調をして行く。わたしたちが何もしていなかろうと、ただここに居るだけで敵意を剥き出しにする。
「……リオン」
「即座に防御出来るようにしててね。でも攻撃は我慢して。最低でも正当防衛って言う名分が必要だからこちらから手を出すのは無し」
唸るウルを宥める。ウルだけでなくフリッカを除く皆がピリピリとしており、武器は構えていないものの今にも吹き出してしまいそうだ。仕方のないことだけど。
わたしとしては、イライラより前にここまで溝が出来上がっていることにやるせない気持ちが沸いてくる。
リザードさんたちの言い分が全て正しいとまでは言えないけれども、ほぼアイロ村側――村長派に責任があると状況証拠が語っている。大半の人は裏を知ることなく仕組まれて、意識誘導されて……無自覚な加害者が作り上げられていることが、物悲しい。
わずかな溜息がバレたのか、背中にフリッカの手が添えられた。苦笑を浮かべながら後ろ手に問題ないと伝える。
異様な空気に呑まれ戸惑っていた警備兵さんたちも武器を構え直し、そろそろダメかな……と思い始めた時、わたしが待っていたモノも現れた。別にただオロオロと手をこまねいていたわけではないのだ。
そう、ここは集会所の目の前だ。つまり、これだけ騒ぐと――
「何事だ! 静まれ!!」
集会所内で会議をしていたカミルさんが外に出て来るのは、必然なのである。
新作を書くから更新頻度が落ちると言っておきながら実は新作執筆をしばらくサボっていたのですが、
つい最近になりPC買い替えの際にバックアップミスって全て消し飛んでいたことが判明しました。
サボった天罰でしょうか_(´ཀ`」 ∠)_(ガチ泣き




