二柱目の神様
200話目です。ここまで付き合ってくださっている読者の方々には感謝を。
自分でもよく続いたなぁと言う感想です。
これからもよろしくお願いします。
「ところでリオン……手は大丈夫なのかの……?」
「いやあんまり大丈夫じゃないね」
「ゆっくりしておる場合か!?」
封神石を聖水で軽く洗って泥は落としたけれども、長期間――一体どれくらい前からだろう……?――汚染水に浸されていた影響で依然として瘴気に侵されたままだ。そしてそれを握っているわたしの手とて無事で済むはずもなくじわじわと焼かれている状態なのだ。ホーリーブラッドミストの効果がまだ続いているのに防御を貫通してきて厄介すぎる。ちなみに、アイテムボックスに仕舞おうかと思ったけれど仕舞えなかった。瘴気が原因だろうけれども、汚染水は可能だったのに基準がよくわからない。
この中身――神様はどうなっているのだろうか。想像するだに恐ろしいし、想像している暇があればさっさとやらなければ。
えぇと、今回は何に変換するか……と考えている暇もないな。前回と同じように適当に済ませよう。
「作――いつっ!?」
作成スキルを発動させようとしたら、バヂッ!!と瘴気が拒絶するように蠢いて弾き返されてしまった。
思わぬ事態と痛みに封神石を取り落とす。
「リオン!?」
「だ、大丈夫。ちょっと痛かっただけだから」
LPポーションと聖水を振り掛けて回復し、少し躊躇してから落としてしまった封神石をちょんっと指で突いても弾かれることはなかった。……ふぅ、悪化はしてなさそうだ。
「一度浄化してからじゃないと無理ってことかな。ここだと残留瘴気が濃すぎてやりにくいから少し戻ろう。ウルはその子を連れてってくれる?」
「それくらい容易いが、リオンは抱えなくてよいのか?」
「あんまりこれに近付かない方がいいかも。ウルならともかく、その子は危ないと思う」
わたしの手のひらが見えるように封神石を掲げると、ウルは顔をしかめてから頷いた。
「でもどうやって池を渡るのだ?」
「さっきはレギオンレイスが邪魔だっただけだからね」
わたしはいつもの石ブロックを取り出し、池が渡れるように簡易的な橋を作成する。見栄えさえ気にしなければ秒で出来るのだ。
それを渡って向こう側に帰るとフリッカが駆け寄って来たので慌てて手で押し留める。
「フリッカ、これの浄化が終わるまで近付いちゃダメだよ。皆もね」
「……リオン様、それは……?」
「あぁ、フリッカはあの時に居なかったね。これは封神石と言って……神様が封印されている石だよ」
「「「「!!?」」」」
わたしの言葉にレグルス以外の皆が絶句して目を剥いた。レグルスもレグルスで「うへぇ」って顔をしている。
特にリザードさんたちにはショックが大きかったらしい。わなわなと体を震えさせ、掠れた声でランガさんが呟く。
「よもや……カシムらは神を封印していたと……!?」
「んー……それは違う……はず、です」
わたしも少し疑ったけれども、さすがにヒトの手で神様を封印出来るわけがない。
その上、封神石は設置位置からズレてて池の中に転がっていたし、存在すら知らなかった可能性もある。
だからあの場を別の儀式場のようなものだと思っていたか偶々不運が重なっただけで、意図的に封神石の汚染を加速させようとしていたわけではない、と思いたい。
「まぁ……知ってて穢れた血肉を捧げていたのだとしたら、絶対に、許せないけれど」
元々色々な悪行が積み重なりすぎて許せないのだけれども……もしも、もしも神様に手を出していたのならば――
「……リオン様、落ち着いてください」
「……おっと」
わたしは相当に酷い顔をしていたようだ。ウルとフリッカを除く皆が一歩引いてしまっている。
怒りを募らせている場合じゃない、と眉根を揉んで深呼吸をする。
「……神様を解放するために移動します」
そうして一つ手前の小部屋まで戻り、前準備を行う。
本当なら拠点に帰って行いたかったけれども、これだけ瘴気が濃いと帰還石に干渉してしまう。この場でやるしかなかった。
……アイテムが足りなかったら詰むな。どうか足りますように……!
「まずは空間の浄化……っと」
聖水を円状に撒きつつ聖石を設置して聖域化をさせ、更にはわたしの血で強化をする。ついでにホーリーミストも使用して、とにかくこの空間の聖属性値を上げて行く。
邪魔をしないようになのか、ウルが小部屋の壁にへばりつくように離れて行くのがチラリと目に入った。それに倣い他の皆も端へと場所を移している。爆発とかしないからそこまで離れなくて大丈夫だけども……まぁいいか。
さて、前準備はこれで終わり。次からが浄化の本番だ。
聖域の中心に聖杯を取り出して置く。聖杯は聖属性を付与した杯・器の総称で瘴気に侵されたモノを浄化するための補助アイテムであり、奪い合いで戦争が起こるような超貴重アイテムではない。作成するにあたり使用した素材によってランクが異なる。これは銀製で、素材自体のランクはそこまで高くないのだけれども現時点では貴重な物だ。その中に浄化対象である封神石を入れる。
そして聖杯と言えば神の血を模したブドウ酒。聖属性値が高いほど効果が増す。ゲーム中ではそうやって使用していたけれども……。
「リオンっ」
「リオン様!?」
手首を神のナイフでざっくりと切って、神子の血を聖杯へと垂らした。血を模したブドウ酒よりも実際の血の方が属性値が高い……以前に結構質の良いお酒を作ったけど地神にあの手この手で奪われたんですよあんにゃろう。
ウルとフリッカが心配そうに声を上げるけれども我慢してもらうしかない。レギオンレイス戦の最中で採取したわたしの血の瓶は使い切ってしまったのだから、こうするしかないのだ。
さしたる間もなく聖杯がわたしの血で満たされてゆらゆらと光を放ち始めるけれども……これだと浄化速度が足りないな。
わたしは手首から流れたままの血で周囲に魔法陣を描き、先ほど入手したばかりのレギオンレイスの魔石を掲げる。呪われてそうな気がしなくもないけれど、これが手持ちで一番大きな魔石なのである。そしてもう一つ、黄水晶を取り出した。これも現時点では貴重な光属性の触媒だ。
二度目の大量出血なので頭がフラフラしてきた。意識を保つように気合いを入れて詠唱を始める。
「聖光よ。穢れを打ち払う清らかなる浄化の力よ。傷つきし者を包み癒す聖なる光を。
宿れ、そして照らせ。浄化の光」
発動と共に手の中の魔石から光が溢れた。
浄化の光は聖属性と光属性の複合属性魔法だ。魔法そのものの難易度やらMP消費量やらは高くないけれども、触媒が用意出来ないせいで初期は使えない魔法である。攻撃力は一切ない代わりに浄化に特化している。その光はふわりと優しく対象を包みゆっくりと浄化を進めていく……はず、なのだが。
ボアッ!
「うひえっ!?」
わたしの血がおかしいのか魔法を重ねて使用したのが影響したのか、浄化の光が聖杯と相乗効果?を発揮して火柱ならぬ光柱が立ち上がった。浄化対象だけでなくすぐ側に居たわたしまで巻き込んで咄嗟に変な声を出してしまう。爆発とかしない、なんて思ったのがフラグだったんですかねぇ!?
目を焼きそうなほどの強い光。しかし実際に焼くことはなく、封神石を持ち運ぶ際に瘴気で爛れかけていたわたしの手のひらの傷と、手首の切り傷を癒していく。……効果範囲が広がっただけ、かな?
どこかぬるま湯に浸かっているような感覚の中、ピシリと小さな音が走った。
ひょっとして聖杯が壊れかけてる!? と焦ったけれどもそうではなくホっとする。なお、聖杯には耐久値があって全て削れると壊れるが普通は一回では壊れないし、壊れる前に修復することがほとんどだ。銀の安定入手が出来ない状態なので今壊れるのはとても困る。
では何の音だったかと言うと……封神石にヒビが入っていた。封印エネルギーも不浄なモノとして剝がされているのだろうか。別のアイテムに変換する手間が省けて楽だからいいんだけど。
ヒビの入る音が断続的に響き、一際大きな音がして『あ、壊れたな』と思うと同時に光柱の高さが段々と低くなり、やがて収まった。
光の中――封神石から出てきたのは、流水のような青い髪を持つ少女で――
「……水神様……!!」




