表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/515

汚泥の底にあるモノ

「ふぅ……終わったかぁ……」


 無事にレギオンレイスを倒せたことで安堵の深呼吸をする。

 ざっと周囲を見回してみると他の取り巻きもほぼ掃討が終わっているようだ。レグルスが大きく手を振っているのでこちらも軽く振り返す。

 しかしまだやるべきことは残っているのでゆっくりと体を休めるわけにはいかない。

 亡霊さんたちが言っていた「助けてくれ」と言うのも気になるけど、対象者を聞けぬままに彼らは消えてしまった。申し訳ないけどこれに関しては後で考えることにしよう。

 モンスターが居なくなったことで、改めてあちこちに視線を飛ばす。あっちでもない、こっちでもない――


「リオン、キョロキョロしてどうしたのだ?」

「いや、ちょっと探し物を……」


 神殿の後ろ側かな? あっちは全然見てなかったよね。後は屋根の上とか、地下とか……うぅむ、探すべきところは色々あるな。

 探し回ろうと一歩踏み出したところでウルに止められる。


「……さっきから疑問だったのだが、わかっていて後回しにしているのか?」

「え、何の話?」


 わたしが素でわからなくて首を傾げると、ウルは黙って床を指した。

 そこは子どもが繋がれていた場所で…………。


「あっ……!?」

「……気付いてなかったのか……リオンにしては珍しいのであるな。疲れているのかの?」


 ひえええ、本当に何で気付かなかったんだろう……!

 子どもが上に乗っていた状態で全容が見えてなかったから? いやでも確かに『どこかで見たなぁ?』って違和感を覚えてはいたけど、指摘されるまで気付かないなんてどれだけ頭が回ってないんだ。


 中央には丸い窪み。

 そして窪みを中心として放射状に刻まれた溝。


 そう、そこには……あのゼピュロス戦の後の隠し地下室と同じものがあったのだ。

 あの時と違って中央には何も設置されていないけれども……これは、もしかしなくても、ある。


 封神石が、何処かに。


 くそ、アラートの原因はこれか! そりゃガンガン鳴るわけだ!

 ひょっとしなくても、助けてほしいヒト(神だけど)もこれのことなのだろう。さすがに他に住人が生きているとは思えない。


「急がなきゃ……!」


 わたしは慌てて溝が繋がっている先を確認する。

 が、何処に向かっているかなど実は確認するまでもない。

 わたしは、もっと前から、それを見ていたのだから。


「……こ、この、池の中かぁ……」


 わたしは池の縁に立ち、唇の端を引き攣らせた。

 血と肉で赤を通り越して真っ黒になっている池。底……は見えないけれども、見える範囲にも大量に骨やら何やらが埋もれ、腐肉からガスでも発生しているのかポコポコと沸き出るような音がしている。そして当然の如く瘴気も。

 この池の中に入ると言うことは、汚水処理をされていない下水に素潜りするような嫌悪感とでも言えば多少なりとも伝わるだろうか。あれはあれで衛生面で危険であるけれども、こっちはもっと深刻でダイレクトに命に関わってくる。対策なしにこの池の水を浴びれば即重度の汚染状態に陥るだろう。

 試しとばかりに聖水を投げ込んでみたけれど、あっという間に呑まれて効果が発揮されているようには到底見えない。……ひとまずこの場での浄化は諦めよう。これは一朝一夕では手に負えない。

 ここから浚えないか魚採り用の網を入れてみても数秒で溶け落ちてしまった。まぁわかっていたけれども。


「……リオン? まさか、この池に飛び込んだりはせぬよな? ぬしが行くくらいなら我が行くぞ?」

「さすがにそんな危険なことはしないし、させる気もないよ」


 しゃがみこみ、真剣に池を見つめるわたしに何か不安なものでも感じたのか、ウルがガシっとわたしの肩に手を当てて動けないように固定してくる。

 確かに普通の人であれば飛び込んで、池の何処に沈んでいるかもわからないのに視界すらもままならないまま、体を焼かれながら、手探りで封神石を探すくらいしかないかもしれない。

 けれどもわたしは曲がりなりにも神子である。浄化を諦めただけで、封神石の発掘だけなら工夫次第でどうとでもなる。


「まぁ思いついたことがあるからちょっと見ててよ。あ、アイテムを出すから少し離れてくれる?」

「……無茶をしないのならば良いが」


 疑わしいような目を向けながらウルはわたしから手を離して距離を取る。……よっぽどわたしは信用がないのだろうか。自業自得か。

 でも今回は本当に何の危険もない。そんなに時間も掛からないし、上手く行けば無傷で済む。この池の中に封神石があるなら、と言う前提の話だけど……わたしの勘に引っ掛からないのだから、逆説的に汚染度が高すぎるここしかないと思うのだ。

 そして汚染度が高すぎて浄化が出来ないのならば、そのまんまの状態で取り除けばいい。


「さて、まずは容器の作成からだね。アイテムボックスにある木ブロックをドーン」


 一瞬にしてわたしの周囲に大量の木ブロックが積みあがった。そして置くスペースがないからこれが全部と言うわけではない。ボックスにはまだまだ大量に在庫がある。

 Q.何でそんなにあるの? A.神子の嗜みです。

 木材は汎用性が高いから常にストックしているものなのです。


作成メイキング、【木樽(特大)】――を作成出来るだけ! ……うぐっ」


 大してMPを消費しない木樽とは言え一度に大量に作りすぎた。MPが急激に削れたのが原因か、貧血に似た感覚がして頭がふらつく。スキルレベル上げの時にたまに味わっているけれど、いつまで経っても慣れないな。MPの最大値が上がっているから一度に使用出来るMPの量も増えてるはずだと思うんだけどなぁ。

 この時のわたしの様子がウルに見られていたら「それ見たことか!」と怒られそうだけれども、木樽に囲まれているのでバレてないバレてない。それにMPポーション使えば回復するんだし、無茶でも何でもナイヨー?


「んでもって、木樽で【汚染水】を採取! アイテムボックスに即収納!」


 木樽(特大)のサイズは酒蔵によくある大人がスッポリ入れそうなとても大きなヤツである。確か一樽で五百リットルだったかな。一人用のお風呂が約二百リットルと聞いたことがあるので二杯半くらいの容量だね。

 しかし一掬い程度では当然池の水位は全く変わらない。木樽を作成して汚染水を採取して収納、ひたすらこれの繰り返しをすることになる。

 えんやこらと無心で作業を続け、汚染水入り木樽が一スタック(九九九個)を越えていい加減ダルくなってきた頃、ようやく目的の物が見えてきた。


「あった! 封神石……!」


 泥の他に色々と形容しがたい物で汚れているが見間違いない。あってよかったような、こんな酷い場所にあってほしくなかったような複雑な気分ではあるけれども。

 ともあれ、ここまで来たら後は取りに行くだけだ。

 元池だった部分に一歩踏み出してから、ズルっとした感触がして足を咄嗟に止める。わたしはウルほどに運動神経が優れていないのだ。こんなベットベトの汚染泥の上で滑って転んだら大変なことになってしまう。


「石ブロックで階段を作って、っと……」


 コツコツと靴で足場を少し強めに叩いてみる。うん、しっかりと歩ける状態になったね。

 それでも慎重な足取りで進み……そろりと、封神石を手に取った。

 はぁ、と大きく息を吐く。無事に……あ、いやまだだ。早く神様を解放しなきゃ……!

 でもこんな場所ではやってられない、と踵を返して階段を上ろうとしたら、目の端にキラリと光る物が映った。


「ん? 随分と大きな魔石……あぁ、さっきのレギオンレイスのかな」


 そう言えば池の上で倒したのでドロップを確認してなかった。ついでに取れてラッキーだね。

 わたしが何とか事を成し遂げて神殿まで戻ったらウルが出迎えてくれた。ただし、ものすごく呆れたような目で。


「……ウル? 何かあった?」

「いや……リオンの非常識っぷりにちょっと思考が追い付かないでいるだけだ」

「えぇ……??」


 どゆことですかね……?

一人で数分で「池の〇ぜんぶ抜く」(いや全部は抜いてないけど)をやられてしまえば唖然としたくもなるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして楽しく拝見させて頂いてます。 一気にここまで読んでしまいました。 読みやすく楽しく、時々 あるある…あるかぁ!と思いながら…でもそうですよね。木材と石材のストックは嗜みですよねw…
[一言] 某地の女神「お? 神の誰かを助けたか。 どうせ弱っているし、力を取り戻すためにまた酒が要るんだろ? よし、酒盛りだ!!」  とか言い訳して、飲酒量をふやしたがるに違いない(白目)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ