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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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前哨戦

 うぅん、困った。

 レギオンレイス(ボス)に集中したいのだけれども、さっきからめちゃくちゃ雑魚モンスター(取り巻き)がポコポコ沸いてきて集中出来ないでいる。取り巻きが強くないのがせめてもの幸いだ。


 ギュアアアアッ!


 そして取り巻きの対応で目を離していると、レギオンレイスが魔法を使ってくるのだ。やりにくいったらありゃしない。


「させるわけがなかろうっ」


 フリッカだけでなくわたしも守ってくれているウルがただの石を、レギオンレイスが放ったウォーターボールに向かって投げつけて相殺させていく。……ナイスコントロール。

 冷静に考えれば「???」って感想だけど、ウルのことなので考えるだけ無駄である。きっと投石の運動エネルギーが魔法の運動エネルギーを打ち消しているんでしょう。石壁とかでも魔法は防げるしね。ただ視界が塞がれることになるので投石で済むならその方がありがたい。


「地面の浄化が出来れば取り巻きのポップが防げるんだろうけども……」


 聖水を撒いてもダメだった。なら土を入れ替えてみるか?と少し掘ってみたけれども、結構深いところまで汚染されていたので諦めた。

 ……あ、石畳を敷けば出て来にくくなるか?


「ウル、前に居るモンスターを出来るだけぶっ飛ばせる?」

「任せるがよい」


 言葉と共にウルがモンスターの群れへと突っ込み、その拳で吹き飛ばしていく。一体だけかと思えば後ろに居たモンスターまでボウリングのように倒していくので、ここまで来ると見てて面白くなってくるな。

 ウルがもう一歩踏み込もうとしたところでレギオンレイスから不可視の魔法……風系の何かかな、それを向けられて後ろに大きく跳躍、わたしたちの方へと戻ってくる。お帰り。


「よいしょ、っと……!」


 わたしは弓からシャベルに持ち替え、前方の届く範囲の土を掘ってアイテムボックスに収納していく。あ、ゾンビが穴に落ちた。けど、わたしはそのまま押し潰すように石ブロックを敷いていった。

 潰されながらも藻掻いているのかグラグラと石が揺れるけど、下から這い出てくる様子はない。これはやったか……?

 などとフラグを立てたのがいけなかったらしい。石ブロックを透過してレイスが沸いてくるようになった。ぐぬぅ!

 また弓に持ち替え、沸いてきたレイスに火の矢を放つその前にフリッカが撃ち抜いていく。……お手数をお掛けします。


「埒が明かないですね……」

「……そうだね」


 MPポーションを飲みながら呟くフリッカに同意する。

 ただのモンスターハウスならどうとでもなっただろうけど、次から次へと新しいモンスターが沸いてくるのだ。さすがにずっと戦っていればモンスターの残弾も尽きるとしてもそれがいつのことかはわからないし、先が見えない戦いを続けるのも精神的に辛い。

 何とか打開策を……と無い知恵を絞っているのだが浮かんでこないジレンマ。


「そもそも何でこんなに沸いてくるんだ……すぐ近くにダンジョン核があるのかな?」


 ダンジョン核の反応はあると言えばあるのだけれども、この空間に入ってから瘴気が濃すぎるのかどうにも方向が曖昧である。

 普通に考えればレギオンレイスの背後なのだろうけれども……神殿の中かな? 池の中央になければ強行突破もありだったのにな。池の汚染具合が酷すぎて飛び込むわけにもいかないし、悠長に橋を作らせてくれるとも思えないし、そこそこ大きいので飛び越えるのはウルくらいしか出来ないだろう。でもウルだと浄化が出来ない。抱えて飛んでもらおうにもわたしの浄化作業中にウルがレギオンレイスの対応が出来ない。『出来ない』だらけだおのれぇ……!


「ウルさん、背後からもモンスターが迫ってきます!」

「ぬぅ……」


 フリッカの警告にウルが苦虫を嚙み潰したような顔をして倒しに向かう。ホント虫のように沸いてきて困る。


 アアアアアアッ!!


 って、あ、ヤバ――


 ウルが居なくなったと見るや、すかさずレギオンレイスがわたしに向かってウォーターウィップの魔法を使用したようだ。

 レギオンレイスの足元――足はないけど――の汚染池から水柱が何本も立ち、鞭のようにしなりわたしへと迫ってくる。避け……たらフリッカに当たる!


「ぐあっ!!」


 咄嗟に石ブロックでガードしたけれど、石ブロックを迂回してきた二本の水鞭がわたしの体を打ち付ける。

 一本は腕を掠っただけだが、もう一本はわたしの脇腹を抉っていった。


「リオン!?」

「リオン様!」


 痛い、めちゃくちゃ痛い。しかも汚染水なので痛いだけでなく蝕まれているような感覚もする。

 出血を抑えるように脇腹に手を当てながらポーションを取り出そうとして――


「リオン様、すぐに手当を――」

「ま、待って、フリッカ」


 動きが止まってしまったわたしの代わりにフリッカがポーションを使用しようとしてくれたのだがストップをかける。

 『何故?』と驚愕の目を向けてくるけど……ごめん、と心の中で謝りつつあえて理由は口にしない。

 今まで何度も注意されているのは知っている。きっとこれも後で怒られるだろう。けれども、今は手段を選んでいる場合じゃないんだ。


「リ、リオン様……?」

「リオン、何をしているのだ!?」

「……ウル、フリッカ、わたしは大丈夫だから、モンスターに集中して……」


 わたしは痛みに泣きそうになりながらも、『……涙も聖水になったりするのかな?』などと場違いなことを思いながら、わたしの血を小瓶で回収していく。

 何をしているのかに気付いた二人は目を見開くが、辛そうな顔をするだけでわたしを止めることはせず、モンスター掃討に戻ってくれた。


「セイクリッドフレイムランス!」

「この……近付くでないわ!」


 わたしが攻撃されたことに腹でも立てたのか、フリッカがレギオンレイスに魔法を放っていた。顔がいくつか消滅するけれどもまだまだ元気?そうに見えることに顔をしかめている。

 ウルもウルで機嫌が悪そうに周囲のモンスターを殴り蹴り石を投げ、と暴れ回っていた。……ご、ごめんて。これは何か埋め合わせをするべきだろうか……。

 痛みが理由ではない冷や汗を流しながら限界まで血を回収する。目が眩み、これ以上は戦闘に支障が出て危険と判断したところでポーションで傷を塞ぎ、作っておいた造血剤も併せて使用した。

 さて……採れたのは小瓶で五本か……。血液はストックし辛くて在庫が貯められないのが困る。無駄使いは出来ない。


「フリッカ。この魔石にフレイムフィールドを籠めてもらえる?」

「わかりました」


 フレイムフィールドはスパークフィールドの火属性バージョンのようなものだ。広範囲が炎の海となり、その範囲内に居続けると炎によるスリップダメージを与え続け、そして当然ながら火傷の状態異常も付与出来る。アンデッドに火は効果的なので最初から使えばよかったのでは?と思うだろうけど、地を行くゾンビたちには効いても肝心のレイスが中空を漂っていて効果がないし、何より敵味方の識別が出来ないから狭い場所では使いにくいのだ。

 以上の理由でこのままでは使用出来ない。だから手を加える。大丈夫、葬式の時のアレと似たようなことをやるだけだ。

 フリッカから魔石を受け取り、慣れて来た(と言うと怒られそうだけど)血のり魔法陣を作成。わたしの血を聖属性の触媒として魔石に垂らし、作成メイキングを開始する。


 願うのは、死者モンスターを許さぬ裁きの炎。死者ぎせいしゃを眠らせる安息の炎。

 燎原の火の如く、この穢れてしまった地を燃やし浄化する清浄なる炎。


「宿れ、そして展開せよ。浄化の聖領域ピュリフィケーションフィールド


 最後の言葉と共に、青い炎が魔石を起点にわたしの前方に扇状に広がっていく。

 範囲内に存在していたゾンビ、スケルトン、マミーなどのアンデッドはもちろん、浮遊していたレイスも立ち上る聖炎に絡め取られて消滅していった。

 地に染み付いた瘴気は濃すぎるせいか完全に浄化は出来なかったけど、モンスターのポップはある程度抑制されるのではなかろうか。


「お、おぉ?」

「熱く……ないですね」


 ウルが目を丸くし、フリッカも手をかざしては熱を感じられないことに不思議そうにしている。

 上手く行ってよかった。失敗する気は起きなかったけれども、これで味方まで炎に巻き込んでしまっていたら大惨事だったからね。


 オオオオオオオオ……――


「……むぅ、さすがにそう簡単には行かないか」


 聖炎は池まで広がっていったけれどもそこまでだった。池の汚染度が高すぎるのと、火と最悪に相性が悪いからだろう。

 よってレギオンレイスにも然程影響がない。光に多少なりとも焼かれたのか呻き声を上げて顔が少し減っているけど、まだまだ健在だ。


「まぁ取り巻きが減ってボスまでの道が拓けたのは十分に――」

「リオン! 前を……でかいレイスの後ろを見ろ!」


 効果があった、と言い切る前にウルから鋭い声が走る。

 レギオンレイスの後ろ? 神殿があるのはわかるけど……聖炎が燃えてて多少明るくなっているとは言え、まだ全然灯りが足りないしそもそもちょっと距離あってよく見えないんだけどな。

 額に手で庇を作り、目を細めてじっと見つめてみるけどやっぱりよく見えない。んー、こんもりしてるから何か置いてある……?

 そんなわたしに業を煮やしたのか、ウルが答えを口にする。


「誰かが倒れているぞ……!」

「……えっ」


 意外すぎる内容に、わたしは間抜けにぽかんと口を空け、間抜けな声を漏らした。

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