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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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それぞれの戦い・上

リオンが悠長に解説(?)している場合ではないので三人称チャレンジ。

 xxxxx



「おりゃあああっ!」


 バキャッ!


 裂帛の気合と共にレグルスが拳を繰り出すと、スケルトンの鎖骨が砕け散った。

 スケルトンは骨だけのモンスターだ。槍や弓などの刺突武器では相性が悪く、逆に拳や鈍器などの打撃系武器が非常に良く効く。なのでレグルスは槍を仕舞い、己の拳でモンスターに立ち向かっていた。


「フッ……!」


 スケルトンの中には武器――大半が骨製であるが、稀に落ちている物でも取得しているのか石製や鉄製もある――を持ち振り回してくる者も居たが、普段の訓練相手であるリーゼの槍に比べれば全然遅い。冷静に半身をずらして避け、カウンターを魔石が埋まっていた肋骨へとぶち込む。

 そしてそのまま体を回転させ、勢いを乗せてまた別のスケルトンに裏拳を放つ。グシャリと音を立てて頭蓋骨が飛んで行った。

 いつものレグルスであればここで油断したかもしれないが、彼とて成長はするのだ。アンデッドは早々に動きは止めないことをしっかりと記憶しており、大腿骨にあった魔石を踏み砕いて完全に活動停止へと追い込む。


「スケルトンは脆いし魔石の位置がわかりやすくて楽だな、っと!」


 レグルスは獰猛な笑みを浮かべながら、次のターゲットを選定して殴りかかった。


 ガキィッ!


「あ、ありゃ?」


 しかしそのスケルトンは、ただのスケルトンではなかった。

 形状は明らかに人ではなく、四つ足で動き回り角らしき突起や尻尾もある。骨だけなので判別は出来ないが、何らかのモンスターのスケルトンだろう。

 モンスターによっては骨は武器素材にもなる。……つまり、とても硬い骨もあるのだ。

 容易く砕けると思った骨から硬質な感触が返ってきたことにレグルスは戸惑いを覚えた。スケルトンの尻尾が動き、攻撃を加えてこようとしているのにも気付かない。


「もう! すぐに調子に乗るんだから!」


 ガッ!!


 呆れた声と共に一閃。

 声の主――リーゼの槍で正確に魔石が穿たれ、スケルトンは力を失い崩れていった。

 スケルトンは隙間だらけなので前述の通り槍では攻撃には向かない。しかしスケルトンは肉がないゆえにほぼ魔石が剥き出しである。リーゼのように正確無比に魔石を突く技量があれば十分に立ち向かえるモンスターであるのだ。


「お、おぉ……すまねぇ、助かった」

「どういたしまして。次行こうっ」

「あぁ!」


 モンスターはまだまだ存在しているのだ、ぐずぐずしていられない。

 次の一団はゾンビとマミーが多数だったのでレグルスは槍を装備し直す。さすがにアレを殴りつけるのは嫌悪感が強すぎた。

 しかしこいつらもまた刺突武器は向かない。剣や斧などの長い刃を持つ斬撃で斬り払うのが最適(もっと言えばアンデッド全般は火か聖魔法が最適)なのだが、生憎彼らは剣技を習得していなかった。

 が、リーゼの手に掛かれば剣がなくともどうとでもなる。


「はあああっ!」


 パァン!


 リーゼの槍でゾンビの膝が貫かれ――弾けた。突きの鋭さにただ穴が空くだけでなく、衝撃で破壊されたのだ。唐突に支えを失ったゾンビは倒れるしかない。

 それでも腕で這ってこようとするのだが、リーゼは素早く槍を二回突き出し、同じように両腕をもぎ取った。これでゾンビに為す術はなくなった。

 モンスターの数が多すぎるので魔石が分離されるまで攻撃を続けるよりも単に行動不能にさせる方が手っ取り早い。同様の手段でどんどんとゾンビ、マミーたちを積み上げて行った。

 なお、ウルであればただの投石でモンスターの体に穴を空け活動停止に追い込むことが出来る。比較してはいけない。


「くぅ……オレも……!」


 レグルスも負けじとばかりに槍を突き出す。

 ゾブリとマミーの膝に刺さるが、同じような現象は引き起こされなかった。多少なりともダメージを与えてはいるが、痛みをもたないアンデッドには劇的な効果はない。

 何度も同じ位置を突き刺したり穂先で斬り払うことによってやっと膝下が分断された。


「くっそ……えぇいめんどくせぇ!」


 えいや!っとレグルスはマミーの胴体ど真ん中を刺す。当然それでマミーが活動停止するわけではない、のだが。


「うおおおおおおおおっ!!」


 レグルスはマミーが突き刺さったままの槍を持ち上げ……横薙ぎに振り払った。即席のハンマーのような状態となり、アンデッドたちはたまらず薙ぎ払われる。

 それで全てが活動停止させられたわけではないが、運良く(運悪く?)魔石に当たった者、手足が潰された者も発生したので決して無駄ではない。


「……そんなことばっかりやってると槍が壊れるよ……?」


 リーゼはそんな無茶苦茶なレグルスの行動に苦笑しつつ、苦言も呈する。

 通常であれば壊れたところでリオンが予備を出してくれるのだが、リオンは少し離れた場所に居るしレギオンレイス相手に忙しそうにしている。出来れば邪魔をせずに立ち回りたいし、早く掃討を終わらせて加勢したい――あのようなモンスター相手に何が出来るか不明なのだが、それでもだ。

 そうチラりとリオンとレギオンレイスに目を向けたのが、失策であった。


「リーゼ!!」

「えっ――」


 ヒヤリと、背中に氷が押し付けられたような感覚がした。

 レイスだ。

 他のモンスターであれば足音なり空気の流れで動きが察知出来て近寄らせなかったのだが……レイスにはそれがなかった。


(これじゃ、レグルス兄のこと何も言えない……!)


 己の失態を悔みながら背後のレイスが居ると思しき場所へと槍を突き出すが、刺した感触が全くない。

 当たってはいるのだろうけれども、リオンの聖水を塗布した槍であるとは言え効き目が薄いようだ。ひょっとしたらこれまで何体ものモンスターを倒してきたことで効果が薄れているのかもしれない。


「リーゼ、動くなよ!」


 レグルスもリーゼに取り憑くレイス目掛けて何度も槍を繰り出す。わずかに苦悶に揺らめいているが、離れる様子はない。


「くっ……ぅ……」


 寒気が、怖気がリーゼの全身を這いまわる。

 レイスのドレイン攻撃だ。直接的な外傷はないが、LPとMPを吸い取った上に自身も回復させる攻撃手段である。攻撃でダメージは与えているが微々たる量であるのと、この回復のせいで倒すまでには至らなかった。

 生命が、精気が奪われている。

 リーゼの手から少しずつ力が失われ、槍を持っているのも辛くなってきた。立っているのも覚束なくなってきた。


(あ、あたし……死んじゃう……?)


 歯の根が震えてガチガチと音を立てる。寒さからか、死への恐怖からか。

 視界が霞み、暗闇に飲まれていく。

 意識が失われる。

 その直前。


「リーゼから離れろ! この白坊主!!」


 レグルスが怒声を張り上げながら殴りかかり。


 バッチイイインッ!!


 拳から、紫電が走った。


「うおっ!?」

「……っ!?」


 雷――魔法攻撃を受けたことによりレイスが大きなダメージを受け、引きはがされて悶える。

 この結果には助けられたリーゼだけでなく、魔法かみなりを放った当人であるレグルスですら驚愕していた。

 それも仕方ないかもしれない。レグルスに魔法を使おうとした意志は全くなく(むしろこれまでの鍛錬でほぼ発動しなかったので意識にすら上らなかった)、ただの偶然だったのだから。

 さて置き、レイスは引きはがされただけでまだ活動して(うごいて)いる。『もう一度使えるか?』と拳を構えたところで。


 バシュッ!


 と横から飛んできたファイアアローであっさりと消滅して、拍子抜けするのであった。

 首を発射元の方へ巡らせると、下手人であるフリッカは謝るようなジェスチャーをしてからまた別のレイスへと魔法を飛ばしていた。フォローが遅れたことを謝っているのだろう。先ほどのもレイスがリーゼから離れたのを挽回の好機と見てすかさず撃ったものか。

 レグルスは大きく息を吐いてから、倒れてしまっていたリーゼを慌てて抱き起こした。


「おいリーゼ! しっかりしろ!」

「レグ…………あたし……死――」

「ぬわけあるか、バカ!!」


 息も絶え絶えに呟くリーゼの言葉を最後まで言わせず、レグルスはポーションと聖水をパシャリと掛けた。

 すると、落ちかけていたリーゼの意識がスッと戻って来て、目をぱちくりとさせる。


「あ、あれ……?」


 後ほどリオンより聞かされる話であるが、元々瀕死でもない限りレイスのドレイン攻撃で死ぬことは早々にない。気絶するくらいだ。

 しかしそのようなことを知らぬリーゼにとっては死の淵に立たされたようなものと変わりはなく。

 命が助かったことへの安堵と味わったばかりの恐怖に頭が混乱してしまった。

 堪えることが出来ず、目の前に居たレグルスに縋りつくように服を掴む。……抱き着けなかったあたり、理性が働いているのやらいないのやら。

 リーゼの行動に目を丸くするレグルスであったが、鈍感な彼にしては珍しくリーゼの手が震えていることに気付き、周囲を警戒しながらも大人しく縋りつかれている。


「……何つーか……リーゼに頼られるのって何年ぶりかなぁ」

「……どうだろう」


 別にリーゼがレグルスを頼りないと思っているわけではない。ただ単にリーゼより先にレグルスがやらかす(・・・・)ので機会がなかっただけである。

 だからこんな風にくっ付くのは、それこそ小さな子どもの時以来で――


「……っ?!?」

「な、何だ、またモンスターか!?」


 自分の状態しゅうたいに気付き、リーゼが目にも止まらぬ速さで立ち上がる。そしてそれを敵襲と勘違いする辺りレグルスがレグルスたる所以である。


「ご、ごめんレグルス兄、もう大丈夫だから」

「ん? そうか、なら良かった」


 ここが地下遺跡ダンジョンで、薄暗くて良かったとリーゼは心の底から思った。頬が赤くなっているところを見られずに済んだのだから。

 ……見られたところで、何も気付かれないのがまた彼女にとって悲しいところなのだが。


「一度リオンのところに戻ろう。聖水を掛け直してもらわないと」

「そ、そうだね」


 リーゼはピシャリと自分の頬を叩いて気を取り直し、レグルスの背に付いて走り出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] リオンがブロックを各地に積み上げて敵がくる方向とかを制限して、レギオンもついでに行動制限して安全地帯を作ってチクチクしないんスかね? んで、こう(ボス戦に)なると穴掘って溶岩ブロックを置…
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