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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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経緯を聞く

 奥から感じ取れる気配から察するにあまり猶予はないようなのだけれども、皆休憩が必要な状態であったので小休止することに。

 皆にいつも通りおやつを配り、比較的……と言うか身体的にはめっちゃ余裕のあったウルからこれまでの経緯を聞く。


 どうやってここに来たかについては、他にもダンジョンの出入口があったからのようだ。まぁそうだろうねと思いつつ、何でそれがアイロ村の人たちに認知されていなかったのか疑問を抱いていたら、何と砂で埋まっている部分は掘り進めて来たからだそうな。……マジかー。神子わたしみたいに作業がササっと済むわけでもないのに、根気良くやるものだね。

 ついでに言えば、道中にはトラップも満載であったらしい。落ちて来る天井はウルが拳で破壊して、壁から吹き出す毒針も射出前に穴をウルが破壊して、落とし穴になる床も引っ掛かる前に開閉機構をウルが破壊して……ってさすがウルさんですね……わたしですら乾いた笑いがこみ上げてくるよ。トラップを作った人(?)もそんな力技と勘だけで突破されるとは思ってなかっただろう。ご愁傷様。

 わたしたちのルートに罠がなかったのは運が良かったのではなくカシム氏の手下が解除していたんだろうね。そうでなきゃ彼ら自身もおちおち移動出来なかろう。

 しかしそんなウルとてモンスターハウスのトラップには対応しきれなかった。物量云々は問題ではなく、物理が効かないモンスターが相手であってはウルには如何ともしがたい。他三名は途中で聞こえてきた絶叫で恐怖状態に陥って動けなくなり援護も期待出来なかったし、フリッカ一人ならともかく三人抱えて逃げ出すのはさすがに難しかった。二進も三進も行かず焦っていたところにわたしたちが来て渡りに船だったとか。


「フリッカ、大丈夫?」

「……えぇ、何とか」


 差し出したホットミルクをちびちびと飲むことで血の気は戻ってきているが、まだ全然疲弊しているように見える。LPとかMPとかを回復させるポーションはあっても、消耗した精神を回復させるアイテムはないからなぁ。こればかりは時間の経過を待つしかない。


「わたしはまだ用があるから探索を続けるけど、あんまり辛いようなら先に拠点うちに帰る?」

「……私が居るのと居ないのとで、どちらがリオン様の為になるのでしょうか」

「……アンデッド山盛りだから居てくれる方が助かるけども……」


 魔法が使えると言う点で純粋に手数が増えるのでありがたい。とは言え、無理をしてほしくはないのが正直な感想だ。


「でしたら、付いて行きます」

「……さっきみたいな目に遭っても?」

「それは大丈夫です」


 出来る限りの対策はしていくけれども、確実に防げるだなんて言えない。それなのに何でそんな言い切れるのだろう?

 そんな疑問を口に出さずとも伝わったのか、フリッカは至極真面目な顔で理由を言い放つ。


「貴女を見ていればいいのでしょう?」

「……そう、だね?」


 うん、言ったけど、言ったけど……。

 いやでも、それで心が強く保てるならあり得ることなのかな……?

 妙に気恥しくなって、わたしは話題を逸らすようにウルに水を向ける。


「ところで、ウルは平気だったの? わたしたちが来た時にはすでに一人だけ立ってたけど」

「ぬ? やかましいなぁ、と思ったくらいだの」


 あっはい。さすが鉄壁ウルさん、見事に抵抗レジストしてますね……。

 過去のトラウマ以前に引っ掛からなかったか、そうだったかぁ……。そのおかげで皆助かったからいいんだけどね。


 皆、と言えば……ここでわたしはちらりとウルたちと一緒にここまで来たリザード二人に目を向ける。

 とっくに拠点に帰っていると思っていたウルたちがこんなところまで来た理由。

 彼らはアイロ村――正確には村長派――の被害者であった。

 偶然発見したアイロ村の方へと続く地下ダンジョンを捜索し、アイロ村に潜入して捕まっている人たちを助けられないかと考えた。実際にこうしてアイロ村の中にある出入口から入ったわたしたちとダンジョン内で会ったので、完全に見当外れでもなかった。

 同情してしまうのも無理はないし、手伝ってあげたいと思うのもそう不思議ではない。わたしの場合、村長派の悪行を知った後なので尚更である。リザードたちが暴れることで険悪になったと言う話であったけれども……今となっては『薬のせいでは?』と思えてくるのだ。

 でもきっとカミルさんが嘘を吐いていたのではなく、本当に裏の事情を知らなかったのだろう。村のトップが何も知らないのは、カシム氏たちの隠蔽が上手だったと思うべきか、カミルさんが間抜けだったと思うべきか悩むところだ。

 しかしそれはそれ、これはこれとして、ウルとフリッカをごたごたに巻き込んだ挙句に危険な目に遭わせたことに関しては、少しばかりイラっとしないでもない。


「リ、リオンよ。協力をすることにしたのは我らの意思だ。あまり此奴らを責めないでやってほしいのだが……。むしろ我ら自身がリオンに黙って行動して悪かったのだ」

「む……」


 少しばかり、と思っていたが、無自覚に怒りを振り撒きかけていたらしい。わたしの視線の先にいるリザードさんたちも肩身が狭そうにしていた。

 恐らく最大の被害者であろうフリッカもウルの意見に追従していたので、これ以上わたしが怒るのも筋違いだろう。彼女らはわたしの部下でも所有物でもなく、意思や行動を制限するつもりは欠片もない。彼女ら自身で決めたことにわたしが茶々を入れるのもおかしい。出来れば瘴気が濃くなって来た時点で引き返してほしかった気持ちはあるし、結果的に危険になったことに心配くらいはするけど。

 眉根をほぐし、深呼吸をして平常心を取り戻すように努める。


「えぇと、ランガさんとヨークさん、でしたっけ」

「あぁ」

「は、はい、神子様」


 わたしが声を掛けたことで、二人は背筋をピンと伸ばした。取って食うわけではないのでそこは安心してください。


「同胞を探している、とのことですが、わたしの力の及ぶ範囲でしたら手伝います」

「おぉ!」


 ヨークさんはわたしの言葉を聞いて嬉しそうな声を上げるが、牽制のために手をかざす。


「ですが、それらは落ち着いてからです。今すぐは無理です」


 喜びが一転して『何で!?』って顔になっていたけれども、わたしが黙って奥の方を指差すと、ランガさんの方は察してくれたようだ。瘴気を睨み付けるように目を細める。


「確かに、相当に酷いな」

「えぇ。アレを放置するなんて、神子であるからこそ出来ません」


 正直、今こうして休んでいる時間が惜しいと思うくらいにはヒシヒシとヤバさを感じる。早く浄化しなければ、と衝動が湧き上がってくる。

 けれど、それを口に出すとフリッカが気に病んでしまいそうだし、キッチリ回復してもらった方が戦力になってもらえそうと言う考えもあるので抑えている。

 ……うん? こうしてみると、ウルとフリッカが加わったのは非常にありがたいな。ここに来る切っ掛けを与えてくれた彼らには感謝するべきか?


「ここは危険になります。捜索は後回しにして……と言いますか後でわたしがカミルさんと話を付けるのでわざわざダンジョンを捜索する必要はないですね。一度あなたたちには帰ってもらって、落ち着いた頃にまたコンタクトを――」

「いや、神子よ。俺たちも手伝おう」

「え?」

「えっ」


 最初の「え?」はわたしで、「えっ」はヨークさんだ。まぁ今決めたことみたいだし、彼にとっても寝耳に水だろうね。


「叫び対策はしていくのだろう? だとしたら露払いくらいなら出来る。……そうだろう、ヨーク?」

「は、はひっ」


 微妙に顔色が悪いので、さっきのことがまだダメージとして残っているのだろうね。半ば声が震えていたことには突っ込まないでいてあげよう。

 うーん、ボスが一体だけとかでもなければ手数はあった方が助かるけど、もしもの時に守れるかどうかの保証が出来ない。どうしたものかな。


「連れて行けばよかろう」

「ウル?」

「そやつらの腕は悪くない。それに……リオンはただ誰かを助けるだけではなく、しっかりと対価を取ることも覚えた方がよい」


 彼らがわたしを助ける。わたしが彼らの仲間を助ける。ギブアンドテイクってことか。

 別にそんな無償の奉仕をしているつもりはなかったんだけれども……素材もらってることもあるし、何よりわたしが手助けした後に皆にモノ作りに励んでもらうことが大事だったからね。


「前者はともかく、後者は創造神の望みであって、ぬしの望みではなかろうに……」


 ウルに呆れられてしまった。うぬぅ。

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[一言] >そやつらの腕は悪くない。それに……リオンはただ誰かを助けるだけではなく、しっかりと対価を取ることも覚えた方がよい フリッカ「…………対価なら、喜んで支払いますよ?」(顔を赤くしてモジモ…
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