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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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幻影に負けてなるものか

 『何でこんなところに居るの?』とか『どうやって来たの?』とか『その剣は一体?』とか色々聞きたいことが溢れてきたけれども、どうやらそんな悠長なことをしている場合ではないようだ。

 ウルは剣を振っているが、レイスには物理無効と言う非常に厄介な性質がある。最強の肉体を持っていても魔法が使えないウルにはある意味瘴気モンスター以上に天敵かもしれない。周辺にレイスばかり残っているのもそのせいだろう。

 ともあれ、アンデッドモンスターはもちろん聖属性が弱点であり、次点で火属性がよく効く。わたしはウルが立ち向かっているレイス目掛けて思いっ切り聖水を投擲した。


「喰らえっ!」


 ギャアアアアアアアッ!


 レイスは聖水がヒットするや否や甲高い悲鳴を上げて消滅した。唯一の痕跡として魔石がカツリと落ちる乾いた音がする。

 ウルにしては珍しく他に注意が回っていなかったのか、そこで初めてわたしの存在に気付いた。


「リオン!?」

「ウル、状況説明! わたしたちはどうすればいい!?」


 まずはこのモンスターハウスな状況を何とかしなければならない。

 わたしの肩が届く範囲のレイスにポイポイと聖水を投げ付けながらウルに大声で尋ねる。


「すまぬ、何らかのトラップを踏んだようだ! 実体があるのはどうとでもなるが霊体がどうにも出来ぬ! この剣もリオンの聖水を塗布しているが追い払うだけで精一杯だ!」


 なるほど、剣に簡易的な聖属性を付与したのか。しかし神子わたしが使用者じゃないせいかそこまで効果が出なかった、と。ウルには今後属性付与アイテムを持たせるようにしておかないとな。聖属性でもない限り効果に大差は出ないだろう。


「けど我のことは後回しでいい! 後ろを、フリッカを頼む!」

「は、フリッカ!?」


 何でここに……いやそれもそうか。ウルはフリッカと一緒に行動をしていた。ウルがここに居るならば、フリッカも居るのは何もおかしくない。拠点近辺ならともかく、こんな地で単独行動などするはずもない。そのトラップとやらで分断されていなくてよかった。

 しかしフリッカが居るならば聖属性魔法も火属性魔法も使えるはずだ。消費が激しくて休んでいるのだろうか? それにしてはわたしの声に反応しないのも違和感が……もしや負傷してしまったのだろうか? などと思いながらウルの後ろを見てみると。

 フリッカ……と見知らぬリザード二人が頭を抱えて蹲っている様子が目に映った。


「フリッカ!」

「モンスターの変な叫び声を聞いてからずっとそんな状態なのだ……! 我が付いていながらすまぬ……」


 叫び声ってことはアレか。わたしたちも喰らった幻影による恐怖の喚起か……!

 そのような状態では魔法も何もない。見知らぬヒトたちも頭を抱えているからめっちゃハマっているようだし、むしろよくぞウル一人でここまで持ちこたえてくれた。


「レグルス、リーゼ! わたしは治療をしてくるから二人は殲滅よろしく!」

「おうよ!」

「うん!」


 わたしはレグルスとリーゼの武器に聖水を振り掛けて送り出した。ざっと見回したところ強そうな個体は居ないし、属性さえ何とかなれば彼らで対処出来るはずだ。ウルの武器にも振り掛けつつ、彼女には最終防壁代わりとして近くに待機してもらう。

 えーっと……まずは落ち着いて治療が出来るように聖域化をしよう。グルっと蹲っている三人を囲うように聖水を撒いて、聖石も設置して強化していく。効果の発露として光が沸きあがった途端に近くまで迫っていたレイスたちが蜘蛛の子を散らすように引いていった。

 それにしても近くに居るのは弱そうなのばっかりだな。遠くに居たわたしたちすら幻影の影響下においたレイス?はどこに居るんだろう。


「ウル、ここに来るまでにひっどい声聞こえてきたんだけど、その元凶の個体はどこ?」

「……いや、そやつとは遭遇していないな。もっと奥だ」


 ウルがチラと視線を向けた方に通路……と言ってもいいのだろうか、石壁が途切れ土が露わになっている空間があった。瘴気がかなり濃く先が見通せない。このダンジョンのボスモンスターでも居るのかもしれないな。

 ……チッ、お返し(・・・)はまた後になるな……いやいやそれどころじゃないんだってば。

 鎮静ポーションをフリッカと、おまけで見知らぬヒトたちに振り掛けていく。


「ウル、そっちの二人をお願い。あんまり目が覚めないようなら物理ショックを……つまり殴って」

「わ、わかったのだ」


 わたしは未だ意識が戻ってこないフリッカの前に向き合うようにしゃがみこむ。

 顔色が青を通り越して土気色だ。自分を強く掻き抱き、恐怖に必死に耐えているようにも見えるが……光のない虚ろな目を見開いてポロポロと涙を零している。

 レグルスとリーゼの時よりも深く浸食されているようだ。位置が近いせいで威力が高かったのかもしれない。


「フリッカ、目を覚まして!」


 肩に手を当てて呼び掛ける。……反応がない。

 涙を拭ってやりながら頬をペチペチと叩いてみる。……やっぱり反応がない。拳骨? さすがにフリッカにはやり辛い。


「……リ、オン、さ、ま」

「フリッカ、気が付いて――」


 いや違う、正面に居るわたしと全然目が合わない。うわ言か。

 ペチペチと少し強めに叩いてみるがうわ言が止まらない。それどころか。


「……やめ……さい……! なんて、こと……リオ…………ま……!」


 ……お、おのれ……幻のわたしが酷いことをしているのか!

 いくら幻の話とは言え、わたしがフリッカを辛い目に合わせているのかと思うと腹が立ってきたぞ……! 逆にわたしだからこそ余計に憎い! 付け加えると幻に負けて声が届かないのも何か腹立つ!

 現実でもしてるかもしれないのが耳に痛い話であるけれども、そこの反省はまた今度で!


 少し申し訳ないが……肩をがっしりと掴み、スゥと大きく息を吸い、頭を後ろに逸らし勢いを付けて。

 ゴツン!と、頭突きをするように額を合わせて訴える。


「フリッカ! 幻影ニセモノのわたしなんかより! 現実めのまえの! わたしを見ろ!!」

「――……っ」


 フリッカの体がビクンと大きく跳ねた。

 ひょっとしたら勢いを付けすぎたかもだけど、それは不可抗力です。

 手ごたえはあったのでもう少しで戻ってこれそうだ。わたしは続けて、視線を無理矢理合わせるように額をぐりぐりさせながら叫ぶ。


「それは幻影だ! わたしじゃない! 前を! こっちのわたしを見るんだ!!」


 そうして何度目かの呼び掛けで。


「……リオン、さま……?」

「うん、そうだよ」


 ゆるゆるとだが目に意思が復活し、フリッカはやっとわたしと目を合わせてくれた。

 ふぅ、これで恐怖状態が解除出来たか……と心の中で額の汗を拭っていたら。


「リオンさま……!」

「おわっ!?」


 フリッカが突然飛び付いてきたので、危うく後ろに倒れるところだった。

 なけなしの腹筋を総動員して上体を維持するように努めていると、耳にすすり泣きがダイレクトに響く。


「よか……っ、良かっ……た……っ。生きてる……!」

「……あー、うん、わたしはこの通りピンピンしているよ」


 どうやらわたしが酷いことをしているのではなく、わたしが酷いことをされている幻影を見せられていたようだ。

 生きてる、とわざわざ言うってことは死んだもしくは死ぬような目に遭わされていたことになるので、詳細を聞くのがこれはこれで怖い。

 「大丈夫、大丈夫だから」と何度も繰り返し、安心させるように頭や背を撫でてあげる。


「……リオンさまの体温と匂い……」

「……そ、そうだね」


 どちらも幻影にはないものですね……未だに匂い発言されるのは恥ずかしいけど我慢なのである……。


 しばらくしてフリッカが落ち着きを取り戻す頃には、レグルスとリーゼの手によりモンスターがほぼ駆逐されていたのだった。

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[一言] >どうやらわたしが酷いことをしているのではなく、わたしが酷いことをされている幻影を見せられていたようだ。 ん? どうやらわたしが酷いこと(意味深)をしているのではなく、わたしが酷いことをさ…
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