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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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地下遺跡ダンジョンへ

 思わず顔をしかめてしまいそうになるのを抑えながら(眉根が寄ってしまったけど、それくらいは勘弁してほしい)、カミルさんの説明を聞いていく。


「僕自身は村からあまり離れられなくてね。代わりに調査隊を何度も送ってはいるのだけれども、原因が掴めずに難航しているんだ」

「調査隊ではわからなくても、神子であるわたしなら何か気付くかも、と」

「あぁ。戦力的にも不安はないしね」

「……戦力?」


 いや、瘴気で汚染されているんだし、瘴気モンスターが居ることも大いに予想出来る。戦力はどうしたって必要になってくるか。

 と考えたのだけれども、少々違う事情も混じっているようだった。


「実はこの水路の先、ダンジョンになっていてね」

「えっ」


 ダンジョン? え? 何で潰してないの?

 危険とか危険じゃないとか以前に、大地の恵みを消費するから神子としては残してはおけないはずのものなんだけど?

 わたしの疑問がありありと顔に出ていたのか、そこもカミルさんは説明をしてくれる。


「皆の訓練のためにあえて残しているんだ。創造神様に許可は取っているよ」

「……なるほど?」


 確かに、村人の数が多いと自然発生するモンスターだけでは足りなくて戦力が保てないかもしれない。もしもの時のために力はいくらあっても困らないのだから、適切な量が沸いてくるダンジョンなら残しておくのもあり、なのか? ……そもそも創造神が許可を出している時点でわたしがどうこう言うものでもないか。

 あ、そう言えば、アイロ村に来る道中でやたらモンスターが村のある方向から来るなぁと思ってたけど、多分このダンジョンから漏れていたんだな。ダンジョンの出入口は一ヶ所とは限らないからね。


「だから、モンスターが普通に出現するから気を付けてね、と言うのと、ダンジョン核を見かけてもそのままでよろしく」

「……わかりました」


 訓練用ダンジョンは別の位置から入るようだ。浄水装置のある部屋を出て――カミルさんがきっちりと施錠をし直して――、先ほど見かけたもう一つの扉の前へと移動する。


「ダンジョンはここから入ってくれ。出来るだけ早いうちに取り掛かってくれるとありがたいな」

「それは構いませんけど……」


 わたしとしても瘴気の問題は一刻も早く解決しておきたいので今からでも構わないくらいだ。

 けれども、戦力と言う意味では少し問題がある。


「わたしのところの最大戦力があのリザードの子なんですけど……連れて来ちゃダメです?」


 瘴気モンスターが出没するかもしれないところにウルが居ないのは不安だ。フリッカの聖属性魔法もあると非常にありがたい。レグルスとリーゼに不満があるわけではないけれども、どうしても対応の幅が大きく変わってくる。

 しかし、わたしの願いは受理されなかった。


「……申し訳ないが、村の命である水源にリザードを近付けるのは無理だ」

「ですよねー……」


 はぁ。警戒を密にして、ヤバそうな時はとっとと逃げるか。

 などと脳内で算段を立てているところに横から手合いが入る。


「カミル様。代わりに自分たちが神子様のお供をします」


 ここに来て護衛の人が初めて声を出したのだ。

 普通に考えれば戦力が増えるのはありがたい。

 ありがたいのだけれども……この人たちの実力がわからないのと、連携が取れなさそうで逆に邪魔にならないかが不安なんだよなぁ。

 ひとまず試しと言うことで同行を断ろうとしたのだが……一歩遅かったようだ。


「あぁ、お前たちなら大丈夫だろう。リオンを護ってくれ」

「……ハッ!」


 ……こうしてわたしたちは、アイロ村の人たちを引き連れてダンジョン探索を行うことになった。



 一度外に戻り、少し早い昼食を摂ってから再度ダンジョンの前へ。

 この間にお供の人が増えた。全部で五人が付いて来ることになる。ダンジョンの通路の広さがどれくらいなのかわからないけれど……カミルさんが許可を出したから問題のない人数なのだろう。

 せめてフリッカを連れて来たかったけど……常に人目があったので抜け出せなかったし、唐突に連れて来ても『どうやって?』と疑問に思われてしまう。残念だけどまた今度にしよう。

 陣形は前に二人、わたしたちを挟んで後ろに三人。後ろの方が人が多いのは、神子わたしが居るからか。

 わたしたちはいつもであればレグルスとリーゼが二人で前を、わたし一人が後ろに居ることになるのだけれども、今回はリーゼがわたしの横を選んだのでレグルス一人が前、わたしとリーゼで並んで歩いている。

 砂っぽい通路を無駄話することもなく黙々と歩みを進める。カミルさんは気さくに話しかけてくれたのに、お供の人たちはどうしてこうも真面目一徹なのか。正直、緊迫したシーンでもない限り適当に駄弁りながら移動することが多かったので微妙に居心地が悪い。

 内心で溜息を吐きながら前へと向き直る。まだ一本道なので迷うこともないし、入ったばかりなせいかモンスターも出てこないので退屈だ。不謹慎ながらこれほどモンスターが出てほしいと思ったのは初めてかもしれない。


「おっと……水路沿いはここまでか」


 歩いた時間はほんの数分程だったけれども、随分と息が詰まった気がする。はぁ。

 水路は前方に続いているのだが、その先に人の入れる隙間がない。完全に水中に浸かって泳いで行けば辿れるけれども……水中呼吸アイテムがないので今は辞めておこう。他を探しても原因が見つからなかったら、最終手段として壁を掘りながらの移動をすることになる。

 全員に足を止めてもらい、出発間際にもらったダンジョンのマップの写しを広げて眺める。


「えーっと……現在地は……っと」


 ここは砂漠フィールドによくある、地下遺跡型ダンジョンのようだ。天然型と違い、ほとんどの場所がきっちりと壁で区切られている。

 このマップに記されている範囲では探索済みらしい。ダンジョン核が載ってないのは、単に載せてないのか、見つかってないのかどっちだろう。どっちだとしても触れないんだけども。ダンジョン核が原因で汚染されているのだとしたら浄化するしかないけれども、切羽詰まってない限りはカミルさんに報告してからの実行になるだろう。


 ……ただ、なーんか嫌な予感がするんだよね……。

 その『切羽詰まってる』事態が、起こっているような、そんな予感。

 少しずつ、ほんの少しずつだけれども、肌をチクチクと刺してくるような『何か』。

 以前にも似たようなのを感じたことがある気もするんだけれども……何だったかな。まだ違和感が小さすぎて上手く言語化出来ない。

 単に瘴気のせいだろうか。

 わたしが居心地の悪さを感じているのはこれのせいもあるのかもしれない。


「入口がここで、水路に沿って来ただけで、T字路で……現在地はここか」


 声出しと指差しで確認をしながら地図を辿って行く。


「右側は……進んだ先が……行き止まり?」

「はい。通路が埋まっています」


 ずっと黙っていたお供の一人が答えてくれた。回答があるとは思ってなかったから内心少しびっくりしたけどおくびにも出さない。

 それよりも通路が『終わり』じゃなく『埋まっている』と言う表現が気になった。


「埋まっている? 開通させようとは思わなかったんですか?」

「完全に土砂で埋まってましたので……そこで遺跡が途切れているものと……」

「なるほど」


 わたしも如何にもな遺跡からただの地中になっていたら、そこで終わりと思ってやめちゃうか。よくあるんだよね。

 取り立てて右側に行く理由もないか、と今度は左側を辿って行く。こっちはかなり奥まで進んでいるみたいだな。迷路みたいになっている部分もあるし、しらみ潰しに調べることになったら大変そうだ。

 ともあれ、今回は水の汚染の理由を探す目的なのでまずは水路に関係しそうなところから攻めて……いや、調査隊が原因を見付けられなかったって話なんだよなぁ。別の方面から考えるべきか……?

 マップを見たところ隅々まで探索してあるようだけれども……ふむ? このダンジョンの形のパターンはゲーム内で見覚えがあるな。となると……。


「ひとまず、左側に進みましょう」


 わたしはとある記憶を掘り起こしながらも皆を促し、先へと進む。

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