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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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隠れ家

「ここだ」


 我らが砂漠を歩き出して、一時間は越えた頃だろうか。それでも思ったよりずっと近い場所でリザード顔の男――此奴はランガ、もう一人の男はヨークと言う名らしい――が足を止めた。

 しかし……『ここ』には砂以外には何も見当たらない。


「ふむ?」

「……どう言うことでしょうか……」


 よもや人目の付かない場所におびき出して始末するつもりであったか、と言った感想は抱かない。元々周辺には誰の目もないし、我らを始末するメリットがないからの。自分たちの存在を知られたくなかったのであれば、最初から姿など見せずに放置しておれば良かったのだ。

 とは言え謎は謎だ。首を傾げる我らにヨークが何やら得意気に答える。


「へへっ、わかんねぇだろ? だからこそ隠れ家の入口に相応しいんだけどな」

「隠れ家?」

「あぁ、実際に住んでる村はもっと遠い……遠いからこそあいつらの魔の手を逃れられてるんだけどよ」


 それは確かに。迫害されているのが事実であれば、すぐ近くに村があった日には蹂躙されてとっくに終わっているであろう。蹂躙された後の残存勢力と言うわけでもないようであるな。

 しかし……入口は何処にあるのか、サッパリわからぬのぅ。

 改めて見回しても視界内には何もなく、すり鉢状になっている地面が緩やかに中央に向かって流れているだけだった。

 ……ふむぅ、何かが引っかかるな?


「クイックサンドイーターの棲み家でしょうか?」


 フリッカも記憶を掘り起こしているようだ。レグルスが転げ落ちたあれなどドンピシャな見た目であろう。

 だが、我が引っかかったのはそれではなく――そのようなものを案内するとは思えない――流砂をキーワードに過去に遡り……思い出して手を打つ。


「……そうか。ダンジョンの入口か」


 リオンが以前にサラっとだが語っていた。流砂の先にダンジョンが存在していることがあると。

 正解だったのだろう、ランガとヨークが答える前に気付いた我にピクリと反応を示し、緊張感を漲らせる。


「待て、何故そのことを知っている」

「リオンが知っていたからの」

「……神子にとっては周知の事実なのか?」


 ふむ。リオンが、ではなく、アイロ村の神子が知っていたら死活問題に関わるか。それならば警戒するのも頷けるな。


「アイロ村の神子が知っているかどうかなど我にはわからぬ。ただリオンは『そこにダンジョンがあると確定していない限りそんな危険な捜索はしたくない』といった感じのことを言っておったのぅ」

「じゃ、じゃあ今はまだ大丈夫なんだな?」

「さて……どうであろうな?」


 ヨークがホッと息を吐いたが、その判断は尚早だ。

 アイロ村の神子の腕前がどの程度なのかわからぬものの、経験年数から察するにリオンと同等以上であると考えるべきであろう。リオンが危険と判断したことであっても、彼奴であれば安全に行えるかもしれないし、それ以前にダンジョンの入口がここ一つと決まったわけではない。

 そして神子であればダンジョンの大体の位置は察知出来るのだ。すでに核を浄化したダンジョン跡であれば放置されるであろうが、そうでなければ捜索される可能性は十分にある。ここまで近場であればとっくに浄化している、とは思うが……さてはて真相は如何に。


「……そうか。あまり長居はしない方がよさそうだな。ともかく、入るぞ」


 足早にランガがすり鉢の底に向かい、ヨークも慌てて追従する。

 少しずつ体が埋まっていくが抵抗もせずされるがまま、間もなく全身が見えなくなった。


「……下にダンジョンがあるとわかっていても、砂に飲み込まれていく様を見ると怖いものがありますね……」


 腕をさすりつつフリッカが呟く。

 一般人であればそう思っても仕方ないであろうが、我らの場合はそうも深刻な話でもないはずだ。


「万が一があっても帰還石を使えばよかろう」

「それはそうですが……っ?」

「待たせるのも悪いのでとっとと行くぞ」


 尻込みするフリッカを抱える。……放っておくと時間がかかるとかではなく、侵入した時にうっかり足を挫きそうな未来が見えたのでな。

 「きちんと掴まっておるがよい」と忠告をし、返事を待たずに後を追った。

 なお、流砂の出口は大き目の空間で少々の落下を伴った挙句に積もった砂で足場が悪かったので、我の行動は正しかったものと思われる。



 ダンジョンは地下遺跡のような……ような、ではなく正にその通りなのであろう、予想より遥かにしっかりとした作りになっていた。今までに訪れたことのある天然の洞窟型ダンジョンとは大違いである。

 見える範囲での前後左右は石レンガで、下は石畳、上は梁が通っており誰がどう見ても人工的に作られた物なのだとわかる。落ちてきた場所のように壊れている部分は何か所もあるが、状態はそこまで悪くはない。これなら我が多少暴れたところで早々に崩れたりは……いや、どうであろうな……。

 何故我がそのようなことを考えたかと言うと……我らが十数人に取り囲まれているからだ。我らが来たのはイレギュラーであり警戒すべきことなのであろうが……先にランガとヨークが降りてきた時点で引いてほしい、と思うのは贅沢であるか。


「リザードだけではなく、スネーク、マーマンまで居ますね……鱗人スケイル大集合と言ったところでしょうか」

「スネークはともかく、マーマンがこのような乾いた場所に居て大丈夫なのかの?」

「さぁ……?」


 ランガが経緯を説明をしているので悪い事態にはならないであろう、と言うことで後ろで砂を落としながら暢気な会話を交わしていた。小声であってもさすがにすぐ側に居るヨークには聞こえており、呆れたような視線を向けられているがあえて気付かない振りである。しかし砂だけあって服の内側に入ってしまうのはどうしようもないな。ジャリジャリと不快な感覚がするが……脱ぐわけにもいくまいて。

 しかめっ面でパタパタしている間に説明は終わっており、最終的に我の鱗を見て得心したのであろう、集まっていた者たちは何某かの作業に戻って行くのであった。ひょっとしたら間抜けな行動に警戒する気が失せたのかもしれぬが、まぁどうでもよい。


「待たせたな。移動して疲れただろう、座って休みながら話すとしよう」

「その前に聞いておきたいのだが、外にはどうやって出るのだ?」


 もしもの時の脱出手段は第一に把握しておくべきだ。出口がわかりません、では困る。現に此奴らが外に出ておったので出られないと言うことはないであろう。


「風魔法が得意な者が居る。そいつに跳んでもらって先程落ちてきた場所から出てロープを垂らしている」

「なるほどのぅ?」


 単純な話であった。

 フリッカに目配せしたら「出るだけならともかく、ウルさんを引っ張り上げる力はないです」と返されてしまった。……我はジャンプで頑張るしかないかの?



 連れられた先は小さな部屋であった。休憩所として使われているのであろう、竈と机代わりの大きな石が設置されていた。小さい石に布が敷かれているのは椅子代わりか。布が薄すぎてクッションには程遠いが無いよりはマシだ。


「すまんが水は少ないのでな、あまり量は出せない」

「いや、我らの持ち合わせている分を提供しよう」

「……そうか、助かる」


 我もフリッカも、いつリオンとはぐれても大丈夫なように、水と食料、ポーションの類は常にアイテムボックスギリギリまで詰め込まれている。もちろん危険な時は躊躇せず帰還石を使えと口酸っぱく言われているが、一時的にはぐれただけですぐに帰っては効率が悪いのでな。道中で得た素材は全てリオンが回収しているので問題はない。……テントなどもリオンが持っているので泊まってまで滞在するには向かないのだが。


 冷たい水を飲み一息吐いてから、これまでに何があったのか語られる運びとなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から主人公1人に全部を任せない物語性や、序盤から謎を残していくことで、いつこの謎が解き明かされるのだろうという期待感を煽ってくる感じも引き込まれました。 あとは個人的な意見ですが、文章…
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