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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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葬送

 アイテムを作り終え村へ戻る。しばらくすると、葬式の準備が整ったとの連絡が来た。

 村の中央の広場へと案内されて向かうと、燃やすための藁の上に、四体の遺体が安置されている。

 遺体は布でぐるぐると包まれていた。『なるほど、これがマミーの元かな?』などと少々場違いな感想を抱きつつ、遺体が見えない状態になっているので内心ホッとしていた。先日より持ち直しているとは言え、また素材に見えてしまったらメンタルが酷いことになっていただろう。

 しかしこの布ボロボロだなぁ。砂漠だと物資も手に入れにくいだろうし、後から補充しておくかな。


 全員が集まり、葬式が開始される。日本のもだけど、アステリアの葬式のやり方などさっぱり知らないので、進行は司祭さんにお任せした。ざっくりと記憶はしておくけど……今後この知識を使うような事態にはならないでほしいものである。

 湿っぽい声で祭詞が唱えられ、村人たちの列からすすり泣きが聞こえてくる。わたしはそれを場違い感を抱えながら聞き、ウルとフリッカと一緒に端の方で待機をしていた。や、さすがに知らない人の葬式に感情移入はできないから、薄情だなんて思わないでほしい。


「では……神子さま、後はよろしくお願いします」

「はい」


 全ての工程が終わり、残るは火葬だけになったところでわたしが呼ばれる。

 特に手順やら決まりやらはないらしいので、とにかく聖属性を重ねるように決めた。わたしの失敗が原因でアンデッドが発生したら目も当てられない。


 まず手始めに、いつもの聖水による聖域作成。遺体を中心にぐるっと円を描くように撒いていった。一周撒き終わったら聖水のしみ込んだ跡からうっすらと光のラインが浮かび上がり、聖域化が間違いなく行われているな、と頷く。

 次に、遺体が燃えやすいように油を振り掛けた。ただの油ではなく、聖属性を帯びた植物から抽出した油である。聖なる灯りや供物となる食事を作る時に使えそうだな、と構想だけしていたアイテムだ。つい先ほど作成したもので、失敗するイメージはなかったけれど無事に成功して良かった。

 最後に……わたしの血で魔法陣を描いて行く。これはウルにもフリッカにも事前相談の時点で怒られたのだけれども、強行させてもらった。なお、村人たちの前でリストカットなどはせず、村に戻る前に瓶に詰めておいたのでそれを使用している。そこそこの量の血を抜いたので今現在微妙に貧血気味だったりするけど、まぁ大丈夫でしょう。


 仕込みは整った。

 魔法陣の中心にしゃがみ込み、皆からは見えないように手の平に切り込みを入れて血を滴らせてから、魔石を押し付けるように地面に手を当てた。補助用に着火イグニッションの魔法を篭めておいたが、着火の魔法には不釣り合いな大きさの魔石であり、容量にまだ空きがある。これはつい先日入手したアンフィスバエナの魔石だ。こいつらが攻めて来たせいで死んでしまった彼らの魂を少しでも慰めるために、ここで使う方が良い気がした。

 今からこの魔石にもう一つ(・・・・)魔法を篭める。

 聖火の魔法を今回選ばなかったのは、単純に威力が強すぎるからだ。送り火には向かないと思ったのだ。もっとふんわりとした、温かいものであるべきじゃないかと、漠然とした気持ちがあった。

 そして、魔導台であらかじめ作成せずわざわざ血のり魔法陣を構築している理由は、対象の目の前で作った方が効果が高くなる気がしたからである。

 フゥ、と一つ深呼吸をして「作成開始メイキングスタート」と小声で呟いてから詠唱を行う。


「聖炎よ」


 手の平にMPを送る。着火の魔法が反応し、小さな火が手の平の下で放たれる。

 不思議と、熱いという感触はしなかった。

 傍目には手を焼かれているようにしか見えない状態のまま、詠唱を続けていく。


「邪なるモノを近付けぬ浄化の力よ。アルノルト、エリック、ダミアン、レナール……死した彼らの魂に、安らぎを与え包む聖なる炎を」


 今度はわたしの血が反応し、わずかに魔法陣から光が浮かび上がる。血の赤ではなく、聖属性を示す青白い色だ。

 中身がどうであれ、わたしの体を構成する物は変わらず聖属性であるらしい。複雑な気持ちがないでもないけど、頭の隅に追いやって最後の仕上げを行う。


「宿れ、そして燃え上がれ。葬送の聖炎(フューネラルフレイム)


 魔石が作成されると同時に発動させる。

 ブワリと、青い炎がわたしの手を起点に猛烈な勢いで吹き出した。

 前方――遺体の方へと向かい、あっという間に飲み込み焼いていく。わたしは全然焼けていないのが、自分でやっておきながら何とも奇妙な光景に見えた。


「……っ」


 聖炎であっても臭いはどうにもならなかったのか、わたしの作り方が甘かったのか、ヒトの焼ける臭いが漂ってきた。

 間近で嗅いでしまいえずきそうになったので、慌てて口呼吸に切り替える。こんなところで吐いたらいくら何でも失礼すぎるだろう。


 火葬時間は結構かかると思っていたのだけれども、聖炎の威力が強かったのか、ものの十分ほどで遺体は灰へと変化した。


「ぐっ……」


 ……ダメだ。灰が……アイテムに見えてしまった。

 目をきつく閉じ、歯を食いしばって再度の吐き気を堪える。

 何度も、何度も深呼吸をして、あれはアイテムではない、と言い聞かせてから目を開いて立ち上がる。風に飛ばされる前に灰を掻き集めなければならないのだ。


 小さなシャベルを取り出して、残されたわずかな灰を用意してもらった壺に収めていく。ついさっきまで燃えていたのにこれも熱さを感じないな。

 聖水で清めるのを忘れずに行い、栓をして、さらにこれも聖属性の篭ったシールをペトリと貼り付けた。

 ここまでやればアンデッド化しないでしょうよ。……しないよね? まぁ失敗はしていないはずなのでこれでアンデッドになってしまったら、わたしの能力ではどうしようもなかったということで……。


「さて、これで終わりです。墓に納めてください」


 わたしが壺を手に後ろを振り向いたら……村人たちが皆固まっていた。

 目を見開いている者、涙の跡はあるものの流してはおらず口をほけっと開けている者、種類は様々だけれども、わずかな身じろぎもなく。

 ゆっくり視線をずらすと、ウルとフリッカだけがある意味いつもの如く苦笑しているのが見えた。


 ……おやぁ?



「ですから、そこまでしなくても良いと言ったのです」

「リオンのやること為すこと、どれも大袈裟すぎる気がするぞ……」

「あっはい……すみませんでした……」


 結論として、わたしはやりすぎたらしい。

 二人がわたしの血を使うことに難を示していたのは、わたしの健康状態もだけど、そもそも不要だろうと思われていたらしくて。

 少しでも罪悪感を減らしたい魂胆が心の隅にあったのだろう、『わたしに出来る最大限のことを』と意固地になっていたみたいだ。それが間違ってるわけでもないけど……精神が正常でない時ほど、耳を傾けるようにしないといけないのになぁ。

 今回の場合は、下手にランクを落としてアンデッド化されるよりは過剰なくらいの方がマシ、と言うことで大して問題にはならない。しかし今後においては、貴重な素材を無駄遣いした、何てことにならないようにきちんと見極めを出来るようになりたいところである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 灰で素材だと、自分は吸血鬼の灰ですかねぇ。 他にも骨粉だと家畜(今だと養殖魚の)飼料。 木の根本に骨の粉をまく樹木葬。 あれも木に肥料をまいている様な物。 死が現代よりも身近な世界なら…
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