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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第四章:熱砂の蹂躙された眠り

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刺さる棘

 わたしはしばしの逡巡の後、歯を食いしばり胃からせり上げてくるモノをこらえながら、少年を再度の絶望に落とす言葉を吐かねばならなかった。


「……ごめん、無理だよ。その人は……治せない」

「何で!?」

「……死人を蘇らせるのは、不可能だから」


 無慈悲な通告に少年は目を見開き、幾筋もの涙を流しながらのろのろと己の兄だった者に目を向ける。

 ポタリ、ポタリと少年から零れ落ちた雫が青年の体を叩くけれども、二度と反応することもなく。

 現実を理解した、してしまった少年はくしゃりと顔を歪め、嗚咽を漏らす。


「何で、どうして……兄ちゃんが……っ」


 見ていられず目を逸らすようにそろりと周囲を見回すと、ポーションを振り撒いたのに一切動きがない村人が他にも数名居た。この青年ほどわかりやすい傷ではなかったけれども、すでに死んでしまっていたのだろう。家族か、友人か、少年と同じように傍らに膝を突いて泣いている人たちが視界に映る。

 ……あぁ……イヤだな……。

 沈む空気の中、鉛を飲み込んだようなお腹を押さえながら、中途半端な治療になってしまっている村人を何とかするために足を動かそうとしたら、ガシリと、地の底から生えた手に足を掴まれたような錯覚をしそうになる言葉がわたしの耳に届いた。


「……アンタたちがもっと早く来てくれれば……!」

「――」


 家族を目の前で亡くしてしまっては恨み言の一つも言いたくなるだろう。

 そしてそれは事実……呪いとなってわたしの身に降りかかり、刺さっていく。

 背に重たいモノを乗せられたように、足が動かなくなった。

 鎖へと変化をし、わたしの体が縛り付けられそうになる。


 鋼の冷たさに心すら凍りつかせられる……その寸前に、すくい上げられる。

 フリッカがわたしの背にそっと手を添えてくれた。

 ウルがわたしを守るように立ちはだかってくれた。


「何を言うか。自分たちの力で村を、人を守れずして、ぬしらはこの世界でどう生きて行くつもりだったのだ」

「なっ……!?」


 思わぬ反撃に少年の言葉が詰まる。

 だがウルは返答を待つこともなく(そもそもまともな答えを期待していなかったのかもしれない)続けていく。


「我らは通りすがりで村の護衛兵ではないのだぞ? 主らを助ける義務……リオンは神子なのであるのかもしれぬが、救えなかったからと言って責められる謂われなどないわ」

「み、神子……? だったら尚更じゃ――」

「この村が襲われるかどうかなど我らにはわからぬことである。今この時、ここへ来たのだってただの偶然でしかないわ。まさか未来予知でもしろと言うのか? それとも他の場所は放置して、この村を守るためだけに常駐しろとでも?」


 わたしが強力なポーションを持っていたのに神子と結びつかなかったのか、今更ながらに驚く少年。

 しかし、神子であるならば余計に人を助けるべきだと主張をしかけて、即座にウルに言葉で叩き伏せられている。

 言い返せなくなったのか口をパクパクと開け閉めしている少年に向け、くちを緩めることなくウルは畳みかける。


「だいたい、身を守れぬのであれば、リオンにではなく元よりこの地に住む神子に守護を願えばいいものを、何故そうしない? 主らの怠慢をリオンに押し付けるのであれば、我は容赦せぬぞ」


 それは確かに疑問ではある。

 わたしたちがこれだけ動き回って接触がないと言うことは、神子はやはりこの村には住んではいないのだろう。

 しかし創造神の言葉によると、この村からそう遠くない位置に住んでいるものと思われる。

 クアラ村やグロッソ村のように、最近になって唐突に神子わたしが沸いて出て存在すら知らないパターンでもないはずだ。近場に神子が居るのだし、モンスターが強力であるのなら尚のこと神子に助けを求めて防御を強化してもらうとか、いっそ移住するべきなのでは?

 それとも……何か出来ない理由がある?

 例えばわたしの場合、拠点うちに住人を増やさないのは何だかんだでヒトを信用しきれてないと言うのが大きい。この地の神子も似たようなタイプなのだろうか。まぁわたしはそれでも村の防御強化くらいは手伝うけど。

 ……もしやこの村、神子の不興でも買って援助がしてもらえないとか……?


「神子様、ウチの者が粗相をしでかしたようで申し訳ありませぬ」


 ウルと少年が睨み合い……と言うか少年が蛇に睨まれた蛙状態になり涙と一緒に冷や汗も流し始めた頃に、また別の村人から声が掛けられた。

 振り向くとそれなりに素材のランクが高そうな――ただし血で汚れている――服を着た、初老の男性だ。

 男性を目に捉え、少年は困ったように眉を下げる。


「……そ、村長……」

「キリク、エリックが死んで悲しいのはわかる。しかしそれを神子様に当たるのはお門違いであるのがわからぬか?」

「……っ」


 叱責でもあるのだろう低い声に、キリク少年は唇を噛みしめながら俯いた。握りしめた手が震えている。頭では理解出来ても感情が追い付かないのだと思われる。

 ……まぁ、子ども相手に(大人であっても)家族が死んですぐに冷静でいろと言うのも酷な話である。八つ当たりされた身としては溜まったものではないけれど、わたしが同じ立場に立った時に怒りをぶつけないでいられる自信がないので、文句くらいは返しても罰を与える気にまではならない。今回はウルが代弁してくれたのでわたしからこれ以上重ねることもない。

 黙り込んでしまった少年に対し村長さんは小さく溜息を吐いてから、改めてわたしに向き直る。


「神子様も随分とお疲れの御様子、後のことは村の者たちに任せて一先ず我が家でお休みください」


 村長さんにそのようなことを言われ自分の頬に手を添える。顔に出てしまっているのだろうか。

 フリッカに視線を向けて問いかけてみると、小さな声で「真っ青ですよ」と返ってきた。

 ……身体的な疲れはあまりないのだけれども、どうやら死体を見てしまったことでかなり精神的にキているものがあるようだ。ずっと胃の辺りが気持ち悪い感覚もある。これは素直に従った方がいいかな。


「……わかりました。でも休む前に物資を渡しますね」


 わたしは近くに居た村人を呼び寄せて各種ポーションや聖水、ついでに大量の食糧や水も差し出した。おなかが減ってると余計に気分も塞ぎ込むからね。

 目の前に山のように積まれたアイテムに村人が目を白黒とさせている。


「は? え? こ、こんなに、よいのですか……?」

「スキルレベル上げのために作ったものの全然消費しきれてないんですよね。他にも色々あるので、足りないものがあったら言ってくださいね」


 まだたくさんあるから遠慮せずに使ってね、と言う意図をこめて言ったのだけれども……彼ら基準では多すぎたらしい。村長さんとキリク少年含め、わたしのセリフが聞こえていた村人が皆固まってしまった。ウルとフリッカは苦笑している。

 神子なんてアイテムを貯めてなんぼでは……?



 村長さんの家に行く道すがら、壊れかけの創造神像と小さな教会を見かけたので直していく。

 ……そう言えば帰還石を作れるのはわたしだけなんだっけ? 何だか無用な諍いが起きそうだし、今後は不用意に見られない方がいいかな?などと考えながらこっそり帰還石を作る。


 しかしそれにしても、すれ違う村人の様子に気になるところがあるなぁ。

 素直に感謝を述べる人が大半だけれども、過剰な期待を込めた目で見て来る人も居れば(ちょっと怖かったので気付かなかったフリをした)、腫物のように何歩か引いている人も居る。期待はともかく、引かれる理由って何だろ?

 これは神子と何かあった説が強くなってきた……? まぁ村長さんに聞いてみるか。

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― 新着の感想 ―
[一言] お。 やっぱり来たな。 「アンタ達がもっと早く~」 と思ってたら、案外早くバッサリやられててビックリ。 んで、ここ又は近くにいる神子は、またクズ野郎系かな~? とか決めつけようとしたけど…
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